TOP > インタビュー一覧 > 【IVS 2024 KYOTO セッションレポート公開】 哲学・思想なきイノベーションはありえない! 日本の起業家が世界で戦ううえで強みとなる、哲学・思想について徹底討論!
IVS 2024 KYOTO セッション
<トピック>
◆VUCAの時代、哲学・思想がより重要になる理由
◆哲学・思想と社会課題との密接な関係とは
◆AIの進化によってうまれた新たな課題
◆テクノロジー社会での分断|思想の対立を統合する方法
3日間の参加者が12,000人を超えたスタートアップ・カンファレンス「IVS 2024 KYOTO」で、京都市都市経営アドバイザー入山 章栄氏がファシリテーターを務めたセッション「哲学・思想なきイノベーションはありえない!起業家がめざすべき思想とは?』が開催された。
ゲストは、京都市長 松井孝治氏、ハーバード大学デザイン大学院で哲学とデザインの理論化に取り組む野村将揮氏、株式会社taliki 代表取締役CEO 中村多伽氏、株式会社ソラコム代表取締役社長CEO 玉川憲氏だ。
これからの時代に求められる哲学・思想について意見交換し、京都こそ現在の世界経済の潮流を変える可能性があるとわかったセッションをレポートする。
このページの目次
入山 章栄氏
京都市都市経営戦略アドバイザー 入山 章栄氏
早稲田大学大学院経営管理研究科早稲田大学ビジネススクール(WBS)教授。慶應義塾大学院経済学研究科修士課程修了後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号を取得し、同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
WBS准教授を経て、2019年に現職へ。「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)等の著書のほか、メディアでも活発な情報発信を行っている。
入山:これからは、今回のセッションのテーマである「思想、哲学、宗教」がさらに重要視されるでしょう。
なぜなら、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)、という"状況が目まぐるしく変転して予測困難な時代"だからです。
AI技術の進化速度が我々の予想よりはるかに早くなる可能性が出てきました。
何十年か後の話ではなく、わずか数年後には、AIにすべてを任せる社会になるかもしれません。
そして、これは私の予想でもありますが、現在20代くらいの人はおそらく120歳まで寿命が延びる可能性もあると思います
例えば、AIを使って正確にタンパク質の構造が解析できる技術がいま急速に進んでいます。もしかしたら、将来はこの技術で癌を克服できるかもしれません。
つまり、未来がどうなるかわからないほど不安定な社会で、長く生きなければいけない時代になります。
そういう時代だからこそ、我々には"心のよりどころ"が大切で、社会に合わせて自分自身をアップデートするためにも今回のテーマである「哲学」や「思想」が必要なのです。
シリコンバレーのスタートアップなど、世界を牽引している人達は、「資本主義や民主主義、人類の思想がAIの登場でどう変わるか?」という話を日常的にしています。
我々も日本人としての思想を捉え直さなければいけませんが、その時に重要な場所になり得るのが京都です。
京都は日本の思想・宗教・哲学の歴史が蓄積された場所。
京都から日本の思想を世界に発信すべきだし、京都は世界の思想家を育てる街になり得るポテンシャルがあると私は思います。
世界が大きく変わる時は、どこかから新しい思想家が出てきて、それがきっかけとなって世界が動きますが、京都なら世界を変える人材を生み出せるでしょう。
そして、すでに京都から日本の思想を世界に発信しているのが、哲学者である野村さんです。
そして、松井京都市長、成功した起業家である玉川さん、インパクト投資家・中村さんも交えて、意見交換していきましょう。
玉川 憲氏
株式会社ソラコム代表取締役社長CEO 玉川 憲氏
日本IBM基礎研究所にてウェアラブルコンピューターの研究開発や開発プラットフォームのコンサルティング、技術営業を経て、2010年にアマゾンデータサービスジャパンにエバンジェリストとして入社。AWSの日本市場立ち上げを技術統括として牽引した後、株式会社ソラコムを共同創業。
東京大学工学系大学院機械情報工学科修了、米国カーネギーメロン大学MBA(経営学修士)修了、同大学MSE(ソフトウェア工学修士)修了
玉川:私は、日本IBM基礎研究所を経て、2010年にAmazon Data Service Japanにエバンジェリストとして入社しました。
AWS日本市場の立ち上げを技術統括として牽引した後、2014年株式会社ソラコムを創業、20017年にKDDIグループに参画した後に上場したので、M&Aも上場も経験している起業家です。
スタートアップにまつわる思想は2010年頃からずっとみてきていて、年々変わってきていると感じています。
松井 孝治氏
京都市長 松井 孝治氏
1960年京都市中京区の旅館の次男として生まれ、旅館の一室で育つ。家業は兄が継ぐため、自身は社会のためになる仕事をすると決意し、洛星中学・高校、東京大学教養学部教養学科を経て、1983年に通商産業省に入省、首相官邸への出向や行財政改革の中枢を担う。2001年に参議院議員選挙(京都府選挙区)に初当選、内閣官房副長官も務めた。2013年に政界を引退後、慶應義塾大学で10年間教鞭に立ち、次代を担う若者の育成に尽力する。2024年2月に京都市長に就任、座右の銘は「義理と人情とやせ我慢」、趣味は、居酒屋・喫茶・バーめぐり、落語、能・狂言、文楽など伝統芸能、古典音楽の観賞。
松井:京都市長の松井です。
経済産業省に入省し、内閣副参事官、通商産業省大臣官房総務課長補佐、行政改革会議(橋本行革)事務局などを歴任しました。
2001年からは、参議院議員を2期務め、2013年から慶應義塾大学総合政策学部教授をしていましたが、2024年2月25日より京都市長を務めております。
残りの人生で自分の生まれ育った町(京都)に恩返しをしなさいと、多くの方に背中を押されて、今に至ります。
落語、居酒屋・喫茶・バー巡りが趣味なんですが、京都では馴染みの喫茶店、バー、居酒屋に行くと必ず知り合いの知り合いがいます。
こういった場所は東京にはないものなので、「人と人がつながれるリアルな場」があるのは京都の強みの1つですね。
中村多伽氏
株式会社taliki 代表取締役CEO 中村 多伽氏
1995年生まれ、京都大学卒。大学在学中に国際協力団体の代表としてカンボジアに2校の学校建設を行う。その後、ニューヨークのビジネススクールへ留学。現地報道局に勤務し、アシスタントプロデューサーとして2016年大統領選や国連総会の取材に携わる。様々な経験を通して「社会課題を解決するプレイヤーの支援」の必要性を感じ、帰国後に株式会社talikiを設立。300以上の社会起業家のインキュベーションや上場企業の事業開発・オープンイノベーション推進を行いながら、2020年には国内最年少の女性代表として社会課題解決VCを設立し投資活動にも従事。
中村:私は京都大学在学中に国際協力団体の代表としてカンボジアで2校の学校建設を行いました。
その後、ニューヨークのビジネススクールへ留学した時に「社会課題を解決するプレイヤーの支援」の必要性を感じたため、帰国後大学4年の時に株式会社talikiを設立しました。
talikiでは社会課題を解決する起業家の育成や投資を行っていますが、社会起業家には「こういう社会であるべき」という強い思想があるからこそ、課題が出てきて事業の柱となります。
今回のIVSもそうですが、現在は世の中の社会課題に関するアンテナが高くなってきたので、思想についてお話できるのが楽しみです。
野村 将揮氏
ハーバード大学デザイン大学院 野村 将揮氏
ハーバード大学ケネディ行政大学院修了(Master in Public Administration取得)、京都大学大学院修了(Master of Philosophy取得、PhD(哲学専修)中途退学)、東京大学卒(文科一類、国家公務員試験(経済)合格を経て、文学部卒)。現在はハーバード大学デザイン大学院で日本の非二元論的哲学とデザイン/建築の理論化に向けて研究するほか、過去にはハーバードビジネススクールのケーススタディを共著し日本企業の経営理念を取り扱う。
経済産業省でヘルスケア産業振興等に従事したのち、医療AIベンチャーAillis, Inc.でCCO(同社はスタートアップW杯世界大会優勝、グッドデザイン賞で大賞に次ぐ経済産業大臣賞受賞)。
任天堂創業家のYamauchi No.10 Family OfficeのExecutive Advisor、京都哲学研究所(代表理事: 京都大学文学部長出口教授およびNTT澤田会長、理事: 日立東原会長および博報堂戸田会長等)のExecutive Advisor 兼 Chief Strategistとして長期戦略・世界戦略を担う。歴27年の剣道家で、昨年京都市で誕生した第一子と武徳殿で剣道できる日を切望中。
野村:今は米国と京都を行ったり来たりする生活を送りつつ、ハーバード大学で日本の哲学の人類社会への応用のあり方について研究しています。
経済産業省を経て医療AIベンチャーAillisに入社し執行役員、その後CCOを務めてきました。なお、Aillisは2023年のスタートアップW杯の世界大会で優勝しました。
また、任天堂の創業家・山内家のファミリーオフィスや京都哲学研究所で、エグゼクティブ・アドバイザーとして長期戦略・世界戦略も担当しています。
野村:いきなり哲学・思想の話と言われても、あまり馴染みがないと思います。まずは何となくどういったお話かのイメージをつかんでいただくために、こちらの資料で事例も挙げながらお話していければと思います。
1つ目ですが、日本の地域社会における町内会やPTAといったローカルなコミュニティは、自分や他人といった様々な境界が曖昧な形で成立しています。
これは、いわゆる欧米圏で主流の「契約で個人や所有物の境界を明確に規定して分けていく」ような社会とは、いわば対極に近いと言えるかと思います。
入山:キリスト教では「人間は神の所有物」という考え方で、いわゆる二元論ですよね。人間と物事を切り離すなど、ハッキリと分離させる思想だからでしょう。
野村:おっしゃるとおりです。
また、実は、こういった絶対的な神や絶対的な何かがあるという規範自体が、人類の思想史全体で見れば、必ずしも普遍ではありません。
たとえば、日本の文化圏では仏教や神道など様々な宗教・思想が混じり合っています。
そもそも、ある特定のなにかが絶対である、と想定するかどうかが、根本の分岐であると言えるのではないかと思います。
2つ目は、京都で鴨川を散歩しながら雄大な北山を望むときなどが好例ですが、日常に自然があふれています。人知を超えた自然が日常に当然に存在しているため、畏敬の念を持ちやすいのではないかと思います。
3つ目は剣道です。僕は歴28年目の剣道家でもあるのですが、先日、ボストンで60代の女性に本気でやって、見事にボロ負けしました。
これは呼吸、間合いといった東洋的な身体性を体現する武道の極致を象徴した事例かと思います。体力や筋力が勝っている30代前半の男性でも、熟達した60代の女性に負けることもある。
世界中の競技でもなかなか見られないこの精神性は、日本の能や歌舞伎、伝統工芸でも通じるものかと思います。
野村:次のページで抽象度を上げたいと思います。そもそも、なにかを部分に分ける思想、「要素還元主義」「二元論」などと言われますが、たとえば、主体と客体、自分と他人、精神と身体、人間と自然といったものを分けて、より小さな部分に分解して考えるのが、ここ数百年のトレンドでした。
水を水分子に分けて、究極的には素粒子にまで分解して理解しようという思想ですね。
入山:欧米的な価値観が主流だったこれまでは、「細部まですべて分解すれば、自然界が解明できるはずだ」という前提でした。
たしかに、分解すれば仕組みがわかりますが、分解したものを足し合わせると動かなかったり、機能しなかったりします。
「素粒子のメカニズムが分かっても自然界が全て説明できるわけではない」となってきた今、二元論の限界がきているのでしょう。
日本の思想はキリスト教と真逆なので、今の課題を解決する糸口があって、日本の思想を世界に広めていくことが我々の役割ですね。
野村:おっしゃるとおりです。いわゆる複雑系という概念が、まさに入山先生のご指摘の点と通じていると言えるでしょう。
他方で、実は、あらゆる思想圏や文化圏はそもそも重層的・多層的です。いわゆる西洋はいわゆる東洋の影響を受けていますし、東洋も西洋の影響を受けています。両者を分けて考えることも二元論的なので、こういった単純化には慎重でありたいと思っています。
中村:社会課題を解決する際は、自分ごととして考えることも必要です。
気候変動の問題を例にすると、昔は「シロクマさんのために電気をこまめに切ろうね」という程度の問題として捉えられていましたが、日本でも酷暑日が観測されるようになって初めて自分ごとだと捉える方が増えたのではないでしょうか。
他人ごとだと思っていたのが間違いで、もっと早く自分ごととして認知して問題意識をもつべきだったのでしょう。
松井:「公私官民の役割分担をどう変えていくのか」という課題でもそれは同じです。
本当は世の中すべての人で考えるべき課題なのに、現在の日本では、政治家に依存して丸投げしてる人と政治家を批判する人に二極化しています。
ここをつなぎ直すことが、私のライフワークです。
官僚や政治家だけでなく、すべての人が社会参画し、その中で自分の利益を追及しながら社会課題を解決することに喜びを感じられる社会をつくりたいんですよね。
入山:今の日本社会は、官民二元論なのでしょうね。
松井:あるべきパブリックの姿は、官や民で線引きするのではなく、いろいろな人や企業がグラデーションのように存在するものです。
入山:インパクトファンドの中村さんは、これまで官でやっていたことを民の力でやろうとしてますよね。
中村:官に依存する方法は、未来永劫続くわけではありません。
人口が減少して税収が減った時には、今まで官が担っていたものができなくなります。
だからこそ、今から民間でできるものは自立型で解決できる仕組みをつくって、どんどんビジネスに権限を委譲していくべきです。
松井:「官から民へ」という流れは80年代から90年代にかけて進んできましたが、マーケットに委ねることで失敗することもあるんですね。それを補うものとしてコミュニティが重要だということがわかりました。
場合によっては、ビジネスパーソンも一人の構成員。官民というセクター分けをせず、1人1人の人間がどう行動するかというコミュニティソリューションが大切です。私はそれを「新しい公共」と呼んでいます。
玉川:スタートアップもコミュニティが重要だと感じていて、『ZERO to ONE』には、ゼロからイチをつくるときには「みんながそうじゃないと思っているけど、自分はそうだと思ってることを見つけられたら、それにかけるべきだ」と書かれています。
100人中99人は「そうじゃない」と思っていても、自分は「これが正しい」と思った場合、自分の思考に賛同してくれる人を集め、コミュニティをつくって一点突破していく世界観です。
入山:萩で吉田松陰だけが「尊王攘夷だ!」と言っていたところから、最後には日本をひっくり返したことと似ていますね。
玉川:私達は、クラウドが出てきた時に「クラウドの上では通信系や金融系などの絶対落ちてはいけない仕組みはつくれない」とみんなが思っていたが、私達のチームはつくれると思いました。
それで仲間を集めて事業を始めたらうまくいきました。
入山:シリコンバレーでトップクラスのテック系の起業家の中には「AIが進化しすぎて今後がヤバい!人類はどうすべきだ?」ということを真剣に議論している人たちもいます。
野村さんは今、ハーバード大学にいらっしゃいますが、思想とかこれからの人類の在り方とか、あるいは資本主義、民主主義の在り方っていうのは、どういう議論をされていますか。
野村:集まっている人たちのバックグラウンドが多様すぎて、「とりあえずみんなの話をお互いに聞こうね」というのが、ここ数年の主流です。
しかしながら、「みんな違って、みんないい」という話はできるのですが、「色々な人が色々なことを言っているけれど、みんなそれぞれ良いところあるよね」といった次元で議論が止まりがちなようにも感じています。
たとえば、これからテクノロジーが人間の意図や想定を超えて、自律的にデータを集めたり、データをつくったりする、ということへの危機感は多くの人が抱いているものの、「具体的にどう危機なのか?」を揃えようとすると究極的には「人間とはなんなのか?」「社会とはなんなのか?」という議論に行き着きます。
ここまで来ると、前提がお互いに異なりすぎていて、なかなか議論が成立しません。異なる文化圏の間でこれらの点を突き合わせていくのはかなり難しいかな、というのが今の僕の感覚です。
入山:具体的な部分にまで落とし込もうとすると文化や思想が違いすぎて意見がまとまらないのでしょう。
なるほど、、、アメリカは思想迷子になってきているんですね。
中村:カンボジアの小学校建設の支援をしている時、学校を建てたり、教科書を届けるようなハードな部分で支援したい派閥と、カンボジアの自立する力を奪わないようハードな支援はしたくない派閥があって、目的は同じでもイデオロギーの対立が起こるんですよね。
対立自体は悪いものではなく、適切にアップデートにつながる対立であれば問題ないのでしょう。
玉川:私は大事な部分だけでも思想を統一しないと、世にも恐ろしいことが起こるのではないかと危惧しています。
スタートアップの話で例えると、成功した企業は揺るがない思想があって、それをどの国のメンバーにも浸透させています。
相互に作用しながらも、統一された思想をもつことも重要なのでしょう。
ソラコムには3つの重要な柱があります。
1つ目はビジョンである「世界中の人とものをつなげて共鳴する社会へ」。
2つ目はミッションである「テクノロジーの民主化」。
3つ目は15のステートメント(「顧客中心に考える」など)から構成されたリーダシップステートメントです。
この3つは、国によって考え方や宗教がどれだけ違っても、ここだけは守ってくださいという軸です。
松井:野村さんに聞きたいのは、人間の寿命が130歳に伸びるのは幸せなのか?という疑問です。
AIがどんどん進歩したら素晴らしい社会に近づいていくという思想は本当なんでしょうか?
野村:進歩史観や進歩主義という考え方があります。今日より明日が良くなっていくし、明後日はもっと良くなる、あるいは、技術の発展が人類を良くしていくということを前提とするような主義・信条です。僕は、京都はこれとは別種の思想や伝統を育んできたと思っています。
剣道や茶道、華道などは、人間一個の生命体が体現しうる究極の極致を志向します。
茶道やお能は時代と共に変化していますが、これらが「進歩」していると言われると、みなさん違和感を抱かれるのではないかと思うんです。
これらの芸道や武道は、その道を創設した最初期の人たちが体現した極致を、いかに現代的に自分たちが体現するかということを考えているのであり、たとえば100年前に対して現在のものが優れているといった感覚や考えではないはずです。
「型」という概念がありますが、われわれは現代に生きながらも、100年・1000年前の型を通じて尊敬や畏敬の念を抱ける。こういった文化圏はかなり珍しいのではないかと思います。
入山:ちなみに、人から聞いた話ですが、史上最高に良い日本刀がつくれたのは鎌倉時代で、それ以降はレベルが下がっているようです。
誰も鎌倉時代の刀を再現できない、まさにそういうことですよね。
玉川:日本の文化というと、京都の任天堂は露骨な死や暴力につながるものは絶対につくりません。
入山:確かに!アメリカでは人を殺傷するゲームが多いので、大きな違いです。
玉川:その一線を越えないよう、人間の幸せためにテクノロジーを使うところが尊敬できますよね。
中村:「今日より明日のほうがベターである」という進歩主義が正しいなら、悲しい人がいない世界になるはずですが、今の社会にはずっと悲しい人がたくさんいます。
悲しい人を減らすためにできることは、思想がしっかりしてる企業を支援することです。
企業が社会にどんなインパクトを与えたいのか、どんな世界をつくりたいのかを、深めれば深めるほどグレードの高いビジネスになります。思想と成長は相関するものだと思います。
任天堂も、ブレない思想があるから成長し続けられるのでしょう。
玉川:テクノロジーが人々の幸せに貢献したのは間違いなくて、飢餓や病気で亡くなる子供の確率が激的に減っているのはテクノロジーや医療のおかげです。
ただ一方で、飢餓や病気は減ったけれど、その次の人間が目指すものは何なのか?という課題が出てきました。
ここ数ヶ月でAIの性能が高校生レベルから社会人レベルに一気に進化したため、あと1〜2年でAI研究者レベルまで成長する予定で、そうなったら、これまでできなかったことが全部できるのではないか?と言われていて、20年〜30年後ではなく数年後にジェネレーティブAIの世界が本当にくるかもしれません。
ダイバーシティ、サスティナビリティなど、色々な思想がありますが、それぞれの思想によって違う方向性のテクノロジーの使い方が許されるようになっているので、「ここだけは超えないでおこう」という共通のルールがないと危険です。
松井:貧困や飢餓、戦争、疾病といった不幸を最小化することが政府の役割です。
しかし「幸せは定義できないから、幸せの領域に政府は入るべきではない」と言われたことがあります。
とっても便利でお金儲けができるのが幸せなのか、あるいは家族や友人など身近な人が喜ぶことが幸せなのか。確かに定義は難しいですが、幸せな社会というのをどう作るかということを真剣に取り組むのが、僕はパブリックの役割だと考えます。
「京都に住んでて良かった!京都にいるとワクワクする!」と住民の方が思えるような街をつくっていきたいですね。
今、京都市では25年先の京都のビジョンを作る作業を始めていて、価値多層化社会の中での行政の在り方、新しいモデルを作れないかなと。新しいコミュニティの在り方、リージョナルコミュニティとテーマコミュニティを組み合わせて、次の25年にどう繋げていくかを考えています。
入山:「テクノ・リバタリアン」という本では、サム・アルトマンやイーロン・マスクなどは「自由がすべてだ」というリバタリアン思想だと書かれていました。
さらに彼らの思想は、次の二派に分かれています。
1つ目は、ブロックチェーンで無政府化した社会を目指す思想。
2つ目は、AIでスーパー功利主義を実現する社会を目指す思想です。
この二派をまとめることが、できるのでしょうか。
野村:「なにか絶対的なもの、絶対的に正しい価値というものがある」というのもひとつの思想・信条です。しかしながら、先ほどお話したように、あらゆる文化圏・思想圏はお互いに影響を与え合いながら成立してきました。
だからこそ、今まで注目されてこなかった思想をグローバルに改めて提示していくことで、人間社会の相互依存性や多層性を深く考える契機になるのではないかと考えています。
たとえば、サステナビリティやダイバーシティは、国連やWHO、ダボス会議などで議論されてきましたが、根強い前提に、先ほど触れた二元論や要素還元主義などがあります。
そんな中で、京都が育んできた思想や文化を紹介しながら、「そもそも別の視点で別の概念的枠組みがあり得るよね」と提示することで、よりよい人類社会の実現に貢献できる可能性があるはずです。
たとえば、「人間が自然を持続させる」というのは、とても二元論的な考え方です。本来的には人間と自然は不可分なはずで、持続させる対象ではなく、ともに共生の主体とも考えられるはずです。
中村:現実問題として、世界には多様な宗教が存在するのに戦争のない社会は実現できるのでしょうか。
野村:解決できるかどうかはわからない、という回答になってしまうのですが、僕が大学生の頃に比べればこの種の危機感の共有可能性が上がっているのではないかと思います。SDGsやESGなど、地球全体の未来を考えようとする運動も増えています。
また、これから人口動態が大きく変化していく点も非常に重要です。
インドやアフリカの思想的なバックグラウンドは、一括りにはできないとは言え、日本とも親和性が高いのではないかと思っています。あくまで一例ですが、先日インドの友人と京都でお能を観賞したのですが、上演が終わった後の舞台空間の余韻をバキューム(真空)と言っていました。
ここでは日本の禅哲学が追求してきた「空」の思想と極めて高い親和性を見出せます。しかも、彼らの母国語ではない英語で親和性が見い出せるという点も大変興味深いです。
玉川:スタートアップでもイデオロギーの対決があるとはいえ、「株式市場」での戦いなのでリアルな戦争とは違います。
事業で失敗しても死なないから戦争に比べたら平和だし、アイディアで戦う起業は人類が培ってきた英知の結集ですね。
入山:なるほど、起業家こそ思想で勝負するべきですね。
より一層、思想に注力しないといけませんね。
これから京都が思想・宗教・哲学の中心になるので、IVSにたくさんの参加者があったことも課題解決につながるでしょう。
本日はありがとうございました。
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