お互いの“プロトコル”を理解し、シナジーの最大化を目指す ATOMicaが三井不動産との協業で目指す  共創の形(後編)

お互いの“プロトコル”を理解し、シナジーの最大化を目指す ATOMicaが三井不動産との協業で目指す 共創の形(後編)

ATOMica

記事更新日: 2024/08/26

執筆: 編集部

スタートアップ企業は大企業とどのような化学反応を生み出せるのか。その問に対して、ATOMicaが推進している三井不動産との取り組みは、本業の強みを活かして大企業の事業の成長に貢献し、そしてそこで得られた様々な経験やノウハウを本業に活かし成長させているという“最適解”のひとつと言えるのではないでしょうか。

ATOMicaの代表取締役Co-CEOである嶋田瑞生氏、三井不動産イノベーション推進本部ベンチャー共創事業部で「THE E.A.S.T.」の運営に携わる太田聖氏、31VENTURES Global Innovation Fundの運営を担当している塩山裕介氏にお話を伺うインタビュー。

協業の内容やそこから生まれた効果について伺った前編に続き、後編ではお互いの強みを活かした協業からシナジーを生み出すためにどのような努力をしているのか、そしてその取り組みからどのような気づきや学びがあったのか。そして投資検討にあたっての舞台裏や今後の取り組みに向けた思いについて伺います。

 

お互いの「プロトコル」を理解することから、真の協業が始まる

――協業を進めるにあたっては、様々な課題やハードルがあったのではないでしょうか?課題に直面した際にどのように乗り越えてきたのかについて教えてください。

嶋田氏:私はよく商習慣、文化、歴史によって醸成された“お約束ごと” を「プロトコル」という単語で表現するのですが、協業する2社というのは、異なる商習慣、文化、歴史を持っています。

特に私たちと三井不動産さんでは社歴の長さは途方もない差があるわけです。その両社で何かをやろうとすると、その相手方、三井不動産さんのプロトコルを理解することが非常に重要です。

例えば、時間感覚も違うでしょうし、意思決定のプロセスも異なる、予算感覚も大きく異なる。課題に対する難易度の判断も異なるわけです。これは三井不動産さんとの協業のみならず、スタートアップ企業が社外の組織と協業していく中で最も重要なことだと思います。

私たちはこれまでも自治体さんや地元の金融機関さんや事業会社さんと事業を進めてきたので、相手のプロトコルを理解することを協業の初期段階でしっかりとやってきました。

もちろん自分たちのスタンスや考えをしっかりと伝えていくことも大事ですが、協業の大前提として三井不動産さんとの協業でもプロトコルを開示してもらい理解していくことを重視していきました。

ただ、今回の出資の話などを見ていると、私たちには順調に見えている裏側で太田さん、塩山さんが相当頑張ってくださっているんだろうなと思っています。だから大きなトラブルなく話が進められたのかなと。

塩山氏:私たちCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の部門は双方のプロトコルを調整して協業が機能していくように後押ししていく役割もあるのだと思います。

現在は協業を通じて様々な施策を試しながらお互いのプロトコルの解像度を高めている段階だと思いますが、これからも新たな壁に直面した際にはサポートしていきたいですね 。

太田氏:31VENTURESのミッションには「新規事業の創造」と「既存事業の強化」という2つの軸があり、「THE E.A.S.T.」で推進している新規事業創造に向けた協業に関しては、お試しで繰り返している実証実験を本格的な事業のレールに乗せていく段階で、今は迎えていない課題に直面するタイミングが来るんだろうと思います。

お試しのステージから脱皮する段階で直面する困難を乗り越えていくことが、この協業のこれからのチャレンジになっていくのではないでしょうか。

“お作法の違う”大企業とスタートアップが連携するために、必要なこととは?

――この協業を通じて得られた気づきや学びについて教えてください。

太田氏:当たり前のことですが、やっぱりスタートアップの皆さまのスピード感と我々のスピード感が圧倒的に違うので、なるべくスタートアップの皆さまのスピード感のブレーキにならないような意思決定をしていく必要があると思います。

しかし、そうではない現実=大企業の理論みたいなものがあるのも事実で、その中で相手方のスピード感でやれるかっていうのは本当に難しく完璧にできているとは言い切れない。これからも意識していく必要があると考えています。

嶋田氏:いやいや、十分に速いと思います。それは組織としての俊敏さという観点もありますが、「WORK STYLING」も「THE E.A.S.T.」も担当される方が早く進めて行こうという明確な意思を持って対応してくれます。

太田氏:「WORK STYLING」については、運営体制の構築が広い範囲で担当者に委ねられていると思います。

そういう意味では、スタートアップと協業する部署や担当者が十分な裁量をもらえるだけの社内からの信頼を構築して、スピード感をもってスタートアップの皆様と協業を進めていくことによってさらに社内の信頼を高めていくという循環を作っていくことが重要だと思います。

――嶋田さんが三井不動産の対応を「十分速い」と感じる背景には、先ほどお話いただいた「プロトコルの理解」があるのではとも思います。改めて協業相手のプロトコルを理解することの意義を教えてください。

嶋田氏:ひとつはシンプルに「協業相手が何を求めていて、どういうことをしたいのか」という点、組織力学を押さえようという話です。

スタートアップ側の人間ではその“大企業の論理”をストレスに感じる人もいるかもしれませんが、大きい企業と大きいことをやろうと思ったら、しっかり相手のプロトコルに合わせないといけないと思います。

相手の様式美に習うところはちゃんと習おうという考え方です。

例えば、どんなに頑張っても1ヶ月という所要時間を短縮できないプロトコルになっている場合、その1ヶ月を2週間に縮めるにはどうするかという議論はする意味がないと思います。

「そういうもんだ」と納得して受け入れてしまえば、2つ目にリソースの使い方が変わってくると思います。私たちスタートアップは、各種リソースが本当に限られています。

そこで1ヶ月という所要時間を短縮できないのであれば、その期間のリソースは別のことに振り向けると判断すべきです。相手のプロトコルを理解することによって、スタートアップ側がリソースアロケーションをしっかりできるようになる。

結果、良いコミュニケーションが生まれ、協業をうまく進めていけるのではないかと思います。

投資を確実なものにするために、三井不動産グループ内に“応援団”を作った

――投資検討のお話もお伺いしたいと思います。2022年春に一度投資検討を行いその結果1度見送りという結果になったと思いますが、今回の投資検討が協業を含めて順調に進んだ背景について教えてください。

塩山氏:2022年の投資検討の際にはビジネスモデルは非常に興味深く、「THE E.A.S.T.」にも入居いただき太田さんのチームとともにこれから色々な挑戦をしていこうというタイミングでした。ただ、そのタイミングではまだ共創型の拠点も少なく事業の評価が非常に難しかったのです。

そのため投資については1度見送りをさせていただきましたが、よく知っている会社だったのが、2回目の投資検討がスムーズに進んだ前提にあります。  

今回の投資検討では、事業の進捗は非常に良好だったのですが、一方で投資を決めるには他の材料も絶対あったほうが良いと思っていました。

そこで、三井不動産グループの中でATOMicaさんと協業できる事業はないかと探していく中で、「WORK STYLING」との協業の話があったり、グループ会社が関心を持ってくれたりして、「グループの中に応援団ができた」「グループの中にATOMicaさんいいよねという声が増えた」という状況を作ることができたのが、投資決定の決め手になったと思います。

投資の目線だけでなく、私たち三井不動産グループと一緒にビジネスを展開することでお互いが成長できるシナリオを作れたことが大きかったと感じています。

――投資検討の観点からも、スタートアップとの協業によって得られた気づきがあればお聞かせください。

塩山氏:投資検討にあたり三井不動産の社内各部署やグループ各社との協業の可能性を探っていく中で、各部門の抱えている課題やニーズ、そしてその背景を理解することができたのは大きいと思います。

当然、前提としてスタートアップ側がやりたいことも、三井不動産側で考えていることも表層的には知っていますが、それぞれの当事者と比べたら深い理解には至っていない場合もあります。

投資検討をきっかけに双方の考えや目指しているものをキャッチアップすることができれば、私たちCVC部門が間に入り三井不動産側の各部門のニーズに合わせて協業できるスタートアップを探索したり、新たな出資先スタートアップ企業の選定基準にもなるのではないでしょうか。

大手企業のアセットをフル活用して、スタートアップ企業の表現力を増やす

――最後に、嶋田さんからはスタートアップ企業が大企業と協業する意義について、そして太田さん、塩山さんからはスタートアップ企業とオープンイノベーションを推進する意義について、今後の協業への期待を含めてお聞かせください。

嶋田氏:スタートアップにおける大企業との協業は、僕はみんな挑戦すべきだと思っています。私たちは誰かと一緒に価値を作り出す協業という営みを信じているので、私たちがその事例を世の中のスタートアップに示していくということも大事だと感じています。

スタートアップ企業は様々な面で虚弱な部分があります。その中で大企業の力を借りることによって、表現の幅は絶対に増えると思います。

一方、大企業の立場で考えても、(三井不動産さんのように)スタートアップ企業と協業したいと考えている人たちがいるわけなので、彼らとしてもスタートアップ企業とのギブアンドテイクの関係をポジティブに作っていけるのではないでしょうか。

企業としての表現力を増やし、目指したい世界を早く実現するために、大企業との協業はぜひ進めたいです。

そして、私たちがこのように良い協業環境を構築できているので、それを世の中にどんどん発信していきたいですね。

大企業とスタートアップ企業の協業は、私たちがコミュニティマネジメントで実践しているマッチングの良い事例のひとつ であり、私たちが事例を発信することでスタートアップ企業にとって大企業との協業が選択肢になったり、スタートアップとの協業がイメージできない大企業にとっても良いヒントになれば。

「頼り、頼られる関係を増やす」というのは私たちのミッションなのですが、大企業とスタートアップ企業の協業はまさにこれなのです。

スタートアップはもっと大企業を頼っていいし、大企業もスタートアップを頼ればいい。私たちが発信することで、そんなメッセージを伝えていきたいと思います。

太田氏:大企業の視点でスタートアップ企業との協業を見たときに、誤解してはならないのは、スタートアップ企業は(大企業のビジネス実現のために)都合よくスピーディーに動いてくれる請負の担い手として組むということではないという点です。

大企業とスタートアップ企業が協業する真の目的は「共創」であり、イノベーティブなビジネスを作り、社会にインパクトを与え、そして事業を成長させること。

そのような“真の協業・共創”を生み出せるように、新しい事業を作っていくという意識を持って共に取り組み、成功事例をもっと作っていきたいと考えています。

塩山氏:ファイナンスの観点からも、太田の言うとおり世の中にとっての新しい価値を一緒に作っていきたいという思いは強く持っています。

私たちがスタートアップ企業に提供できるのは、人とチャンスだと思っています。

人としては私たちCVCのチームもそうですし、太田の「THE E.A.S.T.」のチームもいます。

そして、この「THE E.A.S.T.」を拠点にしてチャンスもいくらでも作っていきます。

もちろんCVCはお金の担当であるものの、お金は協業を成功させるためのひとつの道具に過ぎないし、お金の使い道に厳しい制約を加えるつもりもありません。

検討の結果として仮に出資に至らないことがあっても、事業を成長させるためのヒントや活用できるアセットをご紹介できることもあります。

お互いが自由に心地よく動ける中で、スタートアップ企業の皆さんには三井不動産のアセットをフル活用して新しい価値の創出に挑戦してもらえればと考えています。

 
編集部

この記事を書いたライター

編集部

ページトップへ