強みを活かして大企業の事業に貢献し、本業の進化・成長にフィードバック ATOMicaが三井不動産との協業で目指す共創の形(前編)

強みを活かして大企業の事業に貢献し、本業の進化・成長にフィードバック ATOMicaが三井不動産との協業で目指す共創の形(前編)

ATOMica

記事更新日: 2024/08/26

執筆: 編集部

スタートアップ企業は大企業とどのような化学反応を生み出せるのか。

その問に対して、ATOMicaが推進している三井不動産との取り組みは、本業の強みを活かして大企業の事業の成長に貢献し、そしてそこで得られた様々な経験やノウハウを本業に活かし成長させているという“最適解”のひとつと言えるのではないでしょうか。

2019年に宮崎県で創業したスタートアップ企業であるATOMicaは、全国各地で地域の課題解決や新たな価値創造のためのコミュニティを運営する「ソーシャルコワーキング®️ 」のビジネスを展開。

東京では三井不動産31VENTURESが運営するスタートアップワークスペース「THE E.A.S.T.」に拠点を構え、ここでのコミュニティマネジメントで三井不動産と協業しているほか、今年4月には31VENTURES Global Innovation Fund2号(グローバル・ブレイン株式会社が運営する三井不動産株式会社のコーポレートベンチャーキャピタルファンド、以下CVC)をリードインベスターとした資金調達を実施し、さらに協業の幅を広げながら、そこで得られた知見を本業であるソーシャルコワーキング®️ 事業にもフィードバックしています。

コミュニティを生み出し活性化させるという共通の思いの下、両社はどのような思いで協業・共創を推進しているのでしょうか。

今回は、ATOMicaの代表取締役Co-CEOである嶋田瑞生氏、三井不動産イノベーション推進本部ベンチャー共創事業部で「THE E.A.S.T.」の運営に携わる太田聖氏、CVCの運営を担当している塩山裕介氏にお話を伺いました。

前編では両社がどのような協業を推進し、どのような相乗効果を生み出しているのかについて紹介します。

三井不動産 31VENTURESから資金調達を実施し、「WORK STYLING」のコミュニティづくりを共同で推進

――三井不動産は今年4月にCVCを通じてATOMicaに出資を行っていますが、今回の出資を受けて現在は両社でどのような協業を進めているのか教えてください。

太田氏:三井不動産の事業領域における協業については、弊社の法人向けシェアオフィス事業「WORK STYLING」のコミュニティづくりを共同で推進しています。

「WORK STYLING」は、「すべてのワーカーに『幸せ』な働き方を」というパーパスを掲げて、昨年リブランディングしました。

「多様なつながりを持つ人は幸せ」という研究結果もあり、Well-Beingを向上する大事な要素に良好な人間関係があります。シェアオフィスだからこそできる、企業の垣根を超えた「つながり」を働く人に提供したいという想いから、人と人をつなげるイベントや、コミュニティづくりに力を入れるため、ワークスタイリング事業では、新しいパートナーを探していました。

ちょうどそのタイミングで、31VENTURESではATOMicaさんに出資検討していたわけです。

そこで、31VENTURES側から「WORK STYLINGでの協業はどうか」と提案してみて、協業の検討が始まりました。

――ATOMicaは、元々は全国の各地域で地域内外の人 をつなげるコミュニティを形成するというビジネスを展開されてきましたが、「WORK STYLING」は首都圏をはじめ主に大都市圏を中心に拠点を展開しています。ビジネスのフィールドとして大都市圏は創業当時の構想にあったのでしょうか?

嶋田氏:私たちは宮崎で2019年に創業したのですが、創業当時から首都圏・東京に進出したいという構想は持っていました。

その理由は、もちろん東京に様々な地域から人が集まるからというのもあるのですが、全国の様々な地域を結び活性化していくことを考えたときに、そのハブとして東京にも拠点を構え、事業展開したいという考えがあったのです。

創業当時のシードファイナンスの資料にも、いずれは不動産会社と組んでいきたいという構想は記載しており、実は今回の増資タイミング以前にも、三井不動産さんには(増資の)相談に乗っていただいたという経緯もありました。

――これまでもATOMicaは様々な地方都市でコミュニティマネジメントに取り組んできたと思いますが、「WORK STYLING」がコミュニティマネジメントを外部のパートナーと協業して強化していくというお話をもらった際には、どのような可能性を感じられましたか?

嶋田氏:私たちが各地で作っているコミュニティは、元々は地域の方々を対象に必ずしもビジネスに関わることでもなく、幅広く「悩みごと、相談事、願い事」に向き合っているというのが特徴ではないかと思います。一方、WORK STYLINGの利用者さまは首都圏のビジネスパーソンばかり。

そういう意味では、地域の方々に提供できるソリューションと、都会にいる方々に対するソリューションは大きく変わってくる可能性が高いわけです。率直に言えば、「WORK STYLING」が考えるコミュニティマネジメントのスタンスと、私たちの実践してきたスタンスが本当にマッチするのかという懸念は最初に持っていました。

しかし、太田さんがおっしゃるように「WORK STYLING」のリブランディングが進んだことで、両社の目指していた世界線が徐々に一致していったと感じています。

今回の「WORK STYLING」のリブランディングは、働く場所の提供をメインにしていたところから、それだけでなく、働く人のWell-Being向上をテーマに掲げ、人のつながりやコミュニティの提供に力を入れていくという点が大きなチャレンジです。

コミュニティマネジメントをこれまでやってきた私たちにとっても、コミュニティの価値で「WORK STYLING」を盛り上げられるかというのは大きなチャレンジだと感じています。

――コワーキングスペースは都内に本当に数多くあり、それぞれで大小様々な企業がリードしてコミュニティを形成していますが、その中でATOMicaと協業することにはどのような価値を感じていますか?

太田氏:確かにコワーキングスペースでコミュニティを構築している企業は色々ありますが、実際に施設を運営する企業と“目指したい姿”を共有しながらパートナーシップを組んで一緒に事業を展開できる企業というのは限られているのではないでしょうか。

「WORK STYLING」のリブランディングの方針に基づいて運営しようとすると、将来的には相当な数の拠点についてコミュニティマネジメントを組織的に担っていただける企業と組む必要があります。 

その点で、ATOMicaさんは100ヶ所を超える拠点でもATOMicaさんのクオリティでコミュニティマネジメントしていくことができる体制づくりを目指して事業を推進していらっしゃいます。

特に人材の採用やコミュニティマネージャーの育成を積極的に戦略的に取り組まれている。コミュニティマネジメントの属人的な部分と組織的・戦略的な部分のバランス感覚も非常に優れていらっしゃる。

三井不動産としても、私たちが目指すコミュニティマネジメントを将来的に多拠点で展開しようと考えた時に、それを担えるパートナーとしてATOMicaさんには可能性を感じており、その期待から協業が始まっていると言えます。

協業で得られた成果と本業で得られた成果が相乗効果を生み出す

――出資を受けて始まった「WORK STYLING」での協業を含めて、現在は三井不動産とATOMicaでどのような協業が進んでいるのでしょうか?

嶋田氏:「WORK STYLING」については、現在三井不動産さんの担当事業部とATOMicaでいくつもの協業が走っています。

「WORK STYLING」の様々な課題について私たちがこれまで他の地域でやってきたソリューションを踏まえてアイデアを出し、プロフェッショナル同士でディスカッションを深めていくのは非常に面白いですね。

そして、「THE E.A.S.T.」の運営・コミュニティマネジメントでも協業していますが、ここでの三井不動産さんとATOMicaの関係性は面白くて、「オフィスオーナーと入居者」という関係性もあれば、この拠点の運営でいうと「発注主と発注先」という関係性もあり、「株主と出資先」という関係性もあるわけです。

そして、この日本橋1丁目にある「THE E.A.S.T.」は私たちのビジネスの拠点としても様々なチャレンジができると感じています。

例えば、「WORK STYLING」の事業で活かせるアイデアを「THE E.A.S.T.」で試してみたり、またスタートアップ領域のコミュニティマネジメントは地域のコミュニティマネジメントとは大きく異なるので、そのR&Dを太田さんたちと一緒に進めたり。

両社が様々な関係性で繋がっていることから、それぞれの関係性でこの「THE E.A.S.T.」の使い倒し方が様々あると思っています。

――このような協業の形が、ATOMicaの本業である全国各地で展開するコミュニティマネジメント事業に与えている影響についても教えてください。

嶋田氏:とても良い影響が生まれていると思います。例えば、この「THE E.A.S.T.」で実践していて全国に展開していけることを挙げると、まずはスタートアップ支援だと思います。

スタートアップの成長支援をコミュニティの力を使ってどのようにできるのかという課題に対するアイデアの立案と実証実験を「THE E.A.S.T.」で展開して、実際にここから生まれた数々のアイデアがATOMicaの拠点に展開されています。

そして、様々な地域で実践してみると、そのフィードバックをもとに標準化できるものも生まれていく。

また一方で各地の拠点でそれぞれのコミュニティマネージャーが独自に企画した施策が成功したら、それを「WORK STYLING」や「THE E.A.S.T.」を含めて他の拠点でも導入してみるという流れも生まれています。

「WORK STYLING」や「THE E.A.S.T.」で成功したアイデアを全国に実装したり、各地で実装されたアイデアを「WORK STYLING」や「THE E.A.S.T.」にも導入したりしながら次々にスタンダードを生み出していっていると思います。

これは私たちだけで実現しようとすると途方もない時間が掛かるのですが、三井不動産との協業があったからこそだとスピード感をもって進められていると感じています。

日本橋をスタートアップの街にする「E.A.S.T.構想」がATOMicaのビジョンと共鳴

――三井不動産から見て、ATOMicaと協業する意義・メリットについても教えてください。

太田氏:まず私たちは、日本橋エリアを中心にスタートアップエコシステムを構築していくという「E.A.S.T.構想」を掲げています。

日本橋エリアは東京駅を中心にした大企業の集積地であることから、そこから優秀な人たちがスタートアップにチャレンジしていくという潮流のようなものを作っていけないかと考えている中で、起業だけではなく副業という形でもスタートアップに挑戦できる環境を整えたいという思いがありました。

その上で、「願い=WISH」と「出会い= KNOT」を大切にするというATOMica のビジョンに共鳴し、一緒にスタートアップと副業に挑戦したい人が出会える場を生み出していきたいというところから協業が始まっています。

そうした挑戦に対して「まずはやってみよう」とスピード感をもって取り組みを始めれられたのが、大きかったと思います。

嶋田氏:スタートアップ界隈では「まずはやってみよう」はスタンダードな考え方ですが、それを三井不動産さんほどの規模の会社でできるのはすごいと思います。

太田さんのチームがすごいのですが、まだまだ体制の虚弱なスタートアップ企業にとっては、例えば実績としてできたことをしっかり評価してくれたり、本業の必要な部署に繋いで可能性を拡げてくれたりといった大企業のバックアップは非常にありがたいわけです。

太田氏:「THE E.A.S.T.」では、入居いただく際の審査基準として三井不動産との協業の可能性があるかも重視していて、審査時の面談では両社が協業するとどのようなことができるのかという仮説のディスカッションを必ずしています。

もちろん、その協業が実現しない場合もあるのですが、スタートアップの皆さんと新しいチャレンジを生み出していく環境として「THE E.A.S.T.」には様々な可能性があると思います。

特にATOMicaさんとディスカッションしていると、思い描いたことが次々に実現できていてすごいと思っています。

後編では、お互いの強みを活かした協業からシナジーを生み出すためにどのような努力をしているのか、そしてその取り組みからどのような気づきや学びがあったのか。そして投資検討にあたっての舞台裏などについて伺います。

 
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