「5G活用」をテーマに、学生たちが事業創出に挑む 東京都立大学のアイデアソンをレポート

「5G活用」をテーマに、学生たちが事業創出に挑む 東京都立大学のアイデアソンをレポート

記事更新日: 2024/01/10

執筆: 市岡光子

11月17日、東京都立大学(以下、都立大)にて学生向けのアイデアソン『5G活用アイデアソン2023 - UPGRADE CAMPUS LIFE -』が行われた。テーマは、「5Gを活用して、どのようにキャンパスライフをアップグレードできるか」だ。

14時から17時30分までと非常に短い開催時間だったにもかかわらず、3グループで1つずつ、全部で3つの事業アイデアをまとめ上げた学生たち。そのうちの1つは最優秀賞を受賞し、学内のローカル5G環境を用いて実証実験を行うべく、現在急ピッチで準備が進められている。

そんな都立大のアイデアソンイベントを取材した。本稿ではその様子をレポートする。

9名の学生が、起業家3名とともに事業アイデアの考案へ

今回のアイデアソンには、男女合わせて9名の学生が参加した。3人一組でグループをつくり、株式会社fondi代表の野原樹斗氏、株式会社sci-bone代表の宮澤留以氏、株式会社Nefrontの今村翔太氏がそれぞれ各グループにメンターとしてつくという構成で行われた。

まずは、都立大の堀田貴嗣副学長より開会の挨拶が。都立大のローカル5G環境は東京都の掲げる「『未来の東京』戦略」の一環として整備されたものであることを説明し、「本学の国内最大規模のローカル5G環境を多くの方に知っていただき、積極的な活用を生み出していきたい。学生の皆さんには、スタートアップ各社のアドバイスを受けながら、できるだけ斬新なアイデアを出してほしい」と激励の言葉を贈った。

スタートアップのプロが教える「ビジネスアイデアの考え方」

続いて、アイデアソンの運営を担うプロトスター株式会社の前川英麿代表より、「ビジネスアイデアの考え方」について簡単にレクチャーが行われた。

前川代表は、学生たちの前に立つと、「100を120にする仕組みを考えることがビジネスだ」とズバリ説明。そうした仕組みを考えるにあたっては、孫正義氏のアイデア発想法が参考になると、3つの方法を紹介した。

1つ目が、日常生活の中で困ったことや問題だと感じることに目を向けてビジネスを構築する「問題解決型発想法」だ。2つ目が「逆転発想法」で、その名の通り、世の中に既にある物の“逆”を考えていくというもの。例えば、冷蔵庫であれば「白い、四角い、重い、冷やす」という特徴があるが、逆転発想法ではこの特徴をひっくり返し、「黒い、丸い、小さい、温める」という特徴を持った物を考えてみるのである。3つ目が、2つの単語を組み合わせて新しいアイデアをつくる「複合連結法」だ。

孫正義氏は19歳の頃、この発想法で年間250個のアイデアを考え、その中で生まれた「音声装置付き多言語翻訳機」のアイデアを大手メーカーに売却し、初期の活動資金を得たのだという。

前川代表はそのエピソードを話すことで改めて学生に応援メッセージを伝え、アイデアソン本編へと移った。

いよいよアイデアソンがスタート。まずは課題を抽出・選別

アイデアソンの本編は、StartupWeekend理事の中本卓利氏がファシリテーションを担当。事業アイデアの創出に向けて、約2時間ほどのワークショップが行われた。

ただ、5Gの活用を考えるといっても、5Gを使ってできることは幅広い。そこで、今回は「学び」「スポーツ」「グローバル」の3分野に対象を絞り、各グループが自分たちに割り振られた分野の事業を考えることとなった。

中本氏は、「人はポジティブな物事よりもネガティブな感情が発生する物事に対して2倍のお金を支払う」という脳科学に裏付けされた事実を示し、まずは“困りごと”を発見しようと学生たちに提案。「英語学習サービスが続かない」「海外留学に行きづらい」「運動が嫌い」といった日常生活の中で感じる課題を思いつく限り付箋に書き起こし、それをチームメンバーにシェアしていく形で、課題の深堀を行っていった。

そして、ある程度の数の課題が集まったところで、事業化に向けた課題のピックアップへ。

中本氏はさまざまな起業家の言葉を紹介しながら、「コアファンが熱狂するような課題・事業アイデアを探してほしい」とコメント。学生たちは「課題を解決した際に得られる対価の大きさ」「課題解決の緊急性の有無」「課題の頻度の多さ」の観点から事業化にふさわしい“強い課題”を見つけるべく、テーブルに置かれた付箋が6枚になるまで絞り込んでいった。

しかし、アイデアの絞り込みはこれだけでは終わらない。中本氏は学生たちにさらに条件を提示し、「ITやテクノロジーを用いて効率的に解決できそうなもの」に限ってアイデアを残すよう指示。

その条件を聞いた学生たちは、チーム内で活発に意見を交わし合いながら、付箋に書いたアイデアのさらなる絞り込みを行っていった。

活発な意見交換で、小さな課題が1つのビジネスアイデアへ

そして、ブレインストーミングも交えながら、手元に残った課題に対して解決策を考える時間に。お互いの発想を褒め合いながら多数の事業アイデアを出し、最終的に5Gを使って解決できそうなアイデアをまとめ上げていくと、その途中で中本氏からアドバイスが。

中本氏は現在はXと名を変えた旧・Twitterを例に挙げ、「皆さんが提供する価値や機能をシンプルに絞り込んでほしい」と、思考がヒートアップしている学生たちにヒントを投げかけていく。「Twitterも最初の頃は、ただ気になる人をフォローして、自分が思っていることをつぶやいてシェアするだけのシンプルなサービスだった」と解説すると、「どのサービスもはじめは1つの機能から始まった。皆さんが考えている事業で、最初にあるべき機能と価値はどれなのか。ぜひ考えてみてほしい」と語りかけ、各チームで再び話し合いがスタートした。

メンターからの「どうやってマネタイズする?」「大手企業の人が欲しがっているものは?」「Googleでは類似サービスを手がけていないの?」という鋭い問いかけに、学生たちは手元のパソコンでリサーチを重ねながら、「勉強をAIでアシストできるのでは?」「運動をしたくない人たちに向けたサービスをつくるにはどうしたら?」と白熱した議論を繰り広げていく。

そのような話し合いを経て、最終的に1つの事業アイデアに絞り込んだ学生たちは、短時間でピッチ用の資料を作り上げ、イベントはいよいよ「ピッチコンテスト」の時間となった。

学生ならではの視点で生まれた3つのソリューションを発表

ピッチコンテストでは、都立大の副学長のほか、2名の教授とプロトスターの前川代表が審査員として参加。学生たちの事業アイデアを「課題、ソリューション(最初に提供する価値を定義できているか)」「ビジネスモデル(マネタイズ)」「5G(5Gを活用する意義のあるモデルか)」という3つの観点からジャッジした。

まずは、「学び」をテーマに事業を考えたグループが登壇。建築学科の学生が日頃感じていた「自分の設計した建築やデザインに現場感が不足している」という課題をもとに創造した「建築デザインAR」の事業アイデアを発表した。

このARサービスは、自身の制作した建築模型をスキャンすることで、建設予定地に模型を実寸大の姿で投影できるといい、自治体への導入などを考えているという。そして、5Gの「超高速・大容量」という特徴を活かせば、模型のスキャンとAR化、建設予定地でのモデルの確認も容易になると見込んでいると語り、ピッチを終えた。

続いて登場したのは、スポーツ分野で事業アイデアを考えたグループだ。このグループは、「正しい運動方法が分からない」という大学生の悩みに対して、運動時の自分の動き方を専門家の動き方と比較することができるアプリケーションとデバイスを提案した。

マネタイズは主に大学によるデバイス等の購入を想定。今回は大学内の授業で学生が使用するものとしてソリューションの提案が行われたが、ピッチ後の質疑応答では、審査員から「高齢者に対しても使うことができそう」というアイデアが飛び出す場面も。また、「類似サービスがあるため、今後はどう差別化を図っていくかが鍵だ」という意見も出され、登壇した学生たちは納得した様子を見せた。

最後に登壇したのは、「グローバル」をテーマとしたグループだ。彼らは「英語を勉強してもスラスラ話せるようにならない」という課題に対して「AI英語アシスタント」というサービスを提案した。

Chat GPTを活用して耳元に装着する専用デバイスをつくり、それを会話中に装着すると、話したいけれど分からない言葉の提案など、生成系AIが文脈をうまく拾いながら英語での会話をリアルタイムに補助してくれるという。ビジネスモデルは教育機関から基本料金を徴収し、将来的にはコミュニケーションが行われるすべての場所で展開を目指すという。

以上、3組の発表を終えて、ピッチコンテストが終了した。

最優秀賞は「スポーツ」をテーマとしたグループが受賞

短時間のアイデアソンだったにもかかわらず、クオリティの高い事業アイデアをまとめた9名の学生たち。

厳正な審査の結果、今回の最優秀賞はさまざまな応用が考えられる提案を行った「スポーツ」チームが受賞した。

優秀賞は、リアルタイムで英会話アシストが可能なデバイスを提案した「グローバル」チームが受賞。

プロトスター賞は、「建築デザインAR」を提案した「学び」チームが受賞した。

ピッチコンテスト終了後には、プロトスターの前川代表より総評が。前川代表は「『5Gを活用する』というテーマが難しかったのではないかと思う」と話し始めると、「制約がある中で、みなさん非常に素晴らしいアイデアをまとめていた」とコメント。さらに「今回のイベント内では『課題』を見つけるワークが多かったと思う。ビジネスは、まずしっかりとした課題を見つけることがものすごく大切」「これをきっかけに興味を持っていただいて、ビジネスの世界につながっていただけたら」と語り、学生の将来にエールを送った。

そして最後に、津村副学長が「皆さんは本当に良い経験をされたのではないかと思う。このような経験を、他の人を巻き込んで、エネルギーを増幅させる機会になればいいなと願っている」と挨拶の言葉を述べ、今回のアイデアソンが終了した。

「■ローカル5G環境を活用した最先端研究:https://www.tmu.ac.jp/research/project-5g.html

市岡光子

この記事を書いたライター

市岡光子

フリーのライター・編集。広報として大学職員、PR会社、スタートアップ創出ベンチャーを経験後、ライターとして独立。書籍や企業のオウンドメディア、大手メディアで執筆。スタートアップの広報にも従事中。

サイト:https://www.miraieditingroom-ti128.com/
Twitter:https://twitter.com/ichika674128

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