TOP > インタビュー一覧 > 『創造的観光』で京都の魅力が輝く!グローバル化は京都内の変革で実現する 「京都はシリコンバレーよりも都市としての潜在的価値がある」と言われる理由とは?
「KYOTO Innovation Studio 第7回」のテーマは、『グローバル』である。
「このテーマがKYOTO Innovation Studioの"ド本命”である」と語るのは、セッションのファシリテーターを務める京都市都市経営戦略アドバイザー 入山章栄氏だ。
それほど、今回のセッションは重要な意味を持つ。
登壇者は、IMD 北東アジア代表 高津尚志氏、 MPower Partners Fund L.P. ゼネラル・パートナー 村上 由美子氏、一般社団法人 for Cities 共同代表 杉田真理子氏、福岡市総務企画局企画調整部長 的野 浩一氏という錚々たる顔ぶれだ。
行政組織の在り方にまで切り込むなど、活発な討論が行われた「第7回セッション」をレポートする。
京都市都市経営戦略アドバイザー入山 章栄氏
早稲田大学大学院経営管理研究科早稲田大学ビジ ネススクール(WBS)教授。慶應義塾大学院経済学研究科修士課程修了後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号を取得し、同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
WBS准教授を経て、2019年に現職へ。「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)等の著書のほか、メディアでも活発な情報発信を行っている。
入山 章栄氏
入山:第7回セッションである今回のテーマは、『グローバル』です。
登壇者の高津尚志氏は、スイスに本拠を置く世界的ビジネススクール・IMDの日本・韓国・台湾市場責任者であり、世界中のエグゼクティブを日本で最もよく知る人物と思っています。
高津:私は大学時代に外務省の外郭団体で通訳やガイドをしていて、海外から来るお客さんをよく京都に連れてきて案内していました。
現在はエグゼクティブ(経営幹部)教育に携わっていて、世界中のリーダー達が何を考えているのか、彼らがなにを学ぶべきなのかを知る立場にあります。
世界から見た京都のポテンシャルや課題について、お話できればと思います。
高津 尚志氏
IMD 北東アジア代表 高津 尚志氏
2010年より、スイスのビジネススクール・IMDの日本事業責任者として、日本企業数十社のグローバル幹部教育、後継者育成や事業変革の支援に関与してきた。
組織と個人のウェルビーイング推進に日本文化が果たせる役割にも着目。禅・生け花・武道などの専門家と連携、新たな学びのセッションを企画、世界のビジネスリーダーに提供している。IMD参画前は、日本興業銀行、ボストン コンサルティング グループ、リクルートで、一貫して日本企業のグローバル展開支援に従事。桑沢デザイン研究所やINSEADでも学んだ。
京都には、学生時代に外務省外郭団体の通訳ガイド(英語・仏語)として、諸外国の要人に同行、数十回訪問。以来定期的に訪ねてきた。
入山:村上由美子氏は、OECDの東京センター所長を経て、日本初のESG重視型グローバルベンチャーキャピタルファンドの「エムパワー・パートナーズ・ファンド」を立ち上げた方です。
村上:私は日本人ですが、ゴールドマンサックスなど海外企業でしか働いた経験がなく、海外で生活していた時期も長いので、外から日本を見る立場です。
京都にもっと人を呼ぶためには何が必要なのか?を中心にお話したいと思っています。
村上 由美子氏
MPower Partners Fund L.P. ゼネラル・パートナー 村上 由美子氏
OECD(経済協力開発機構)東京センター元所⻑。
岸田内閣「新しい資本主義実現会議」を含む、内閣府、経産省、外務省など多くの審議会で委員を歴任。
2016年に上梓した『武器としての人口減社会』はアマゾン経済書部門にてベストセラーとなる。OECD以前は、主にニューヨークおよびロンドンのゴールドマン・サックス証券会社のマネージメント・ディレクターとして約20年間勤務。
カンボジアの国連平和維持軍や、東カリブ海地域の経済開発援助にも携わった。上智大学、スタンフォード大学院、ハーバード大学院卒。
入山:杉田真理子氏は、都市・建築・まちづくり分野での執筆や編集ほか、都市体験のデザインスタジオfor Citiesの共同代表として、文化芸術分野でのキュレーションやプロデュース、ディレクション、ファシリテーションなど、京都と海外をつなぐ仕事をされています。
杉田:京都には5年前に移住してきましたが、人生では海外で過ごした時間のほうが長く、今も1年の半分は海外での生活です。
バックグラウンドは建築や都市デザインで、新しいアーティストを招致する観光庁のプロジェクトなど、海外からクリエイティブ人材を中長期で受け入れ、京都での創作活動や地域交流のサポートを行っています。
杉田 真理子氏
一般社団法人 for Cities 共同代表 杉田 真理子氏
2016年ブリュッセル自由大学アーバン・スタディーズ修了。
2021年より都市体験のデザインスタジオ(一社)for Cities共同代表理事、(一社)ホホホ座浄土寺座共同代表理事。
出版レーベル「Traveling Circus of Urbanism」、アーバニスト・イン・レジデンス「Bridge To」運営。「都市体験の編集」をテーマに、場のデザインプロジェクトを、渋谷、池袋、神戸、アムステルダム、ナイロビ、カイロ、ホーチミンなど複数都市で手がける。
都市・建築・まちづくり分野における執筆や編集、リサーチほか文化芸術分野でのキュレーションや新規プログラムのプロデュース、ディレクション、ファシリテーションなど国内外を横断しながら活動を行う。
1年の半分は海外のさまざまな都市に滞在している。
入山:的野浩一氏は、福岡市をスタートアップ都市に導いた立役者です。
自治体の変革は非常に難しいと言われていますが、福岡での成功事例が京都でも役に立つはずです。
的野:私は福岡市役所の職員ですが、福岡には大企業がないので本社を誘致するより小さな企業を増やしたほうが良いと考え、スタートアップ支援を始めました。
他には、海外のいろいろな都市とネットワークをつくって、お互いにスタートアップのサポートをし合う取り組みも行っています。
的野 浩一氏
福岡市総務企画局企画調整部長 的野 浩一氏
福岡市に入庁後、まちづくりや、観光分野、スタートアップ分野などに関わる。
近年は、福岡市の経済発展のため「スタートアップ」に着目し、スタートアップをテーマにした国家戦略特区の獲得など、スタートアップ都市実現へ導いている。
西田(京都市都市経営戦略監):京都市の最上位の理念は「文化で世界と交流して平和に貢献し、新しい文化を創造し続ける都市であり続けよう」です。
※参考:京都市:世界文化自由都市宣言
京都市は、30年間「世界歴史都市連盟」の会長都市として、世界の歴史都市を牽引しています。
京都議定書が採択されたCOP3など多くの国際会議が開かれていて、今年は、海外の投資家など1万人が参加したスタートアップカンファレンス「IVS」も京都で開催されました。
京都の風土が、スティーブ・ジョブズやGoogleのジョン・ハンケなど、数多くのイノベーターの製品やサービスに影響を与えたと言われていて、世界に数か所しかないドイツやフランスの公営のアーティスト・イン・レジデンスも京都にあります。
最近では、Forbesと共同して「カルチャー・プレナー」アワードを開催し、若い文化起業家が世界に飛躍するゲートウェイとしての役割りを果たしていこうとしています。
高津:私が考えた、京都市の課題に対する解決策を紹介します。
村上:プレミア観光都市については、コロナ前から五つ星ホテルを増やすことに政府が力を入れていました。
ただ、それがうまくいってない。
高津:ホテルもそうですが、私は寺社仏閣の拝観料が低すぎると思っています。
お寺の拝観料が今は700円~1000円ですが、観光客向けには高い料金に変え、その分素晴らしい経験を提供する方向に転換すべきです。
経済的な効果だけでなくオーバーツーリズムのネガティブな影響の軽減、京都の持続可能な発展につなげていく視点が不可欠だと思っています。
村上:京都は五つ星ホテルの数より「価格」に目を向けるべきです。
一番高いホテルに泊まっても約10万円ですが、海外では同じレベルでも20万円はします。
的野:プレミアム観光都市は、近年注目されており、受け入れ施設も多様化されていっています。
杉田:京都に住んでいると、話をしづらい雰囲気がある話題が出てきたのは良いことだと思います。
高津:たとえば、修学旅行生と、富裕な海外シニア層は違います。全ての「顧客」や「資産」を同じアプローチで改革するのは無理だし、無意味です。切り分けて考えましょう。
杉田:『創造的観光』とは、訪問客が単なる”消費”をするのではなく、それぞれの知識やスキル、リソースを使って何かしら地域に貢献してもらったり、滞在中に何かしらの制作や創造活動などをしてもらう施策です。
たとえば、アーバニスト・イン・レジデンスでは、アーティストが1〜2ヶ月の中・長期滞在中に京都の市民を巻き込んだワークショップをしたり、展覧会をしています。
エグゼクティブから高額な宿泊費をとることを目標にするというよりもむしろ、その方の知識や経験を市民が得られたほうが京都市のメリットになるのではないでしょうか。
世界的に「マスツーリズムの限界」が懸念されているので、『創造的観光』を京都市から発信すると注目を集めるでしょう。
高津:今は「精神的な落ち着く力」が求められる時代ですが、京都が脈々と築いてきた「マインドフルネス」という知見は人類まれにみる財産です。
外部の人が中長期に滞在して、お寺のお坊さんと議論をしながら自分のマインドを取り戻したり、新しいビジネスを思いついたら、京都発のイノベーションだと言えるでしょう。
村上:京都にはそんな素晴らしいマインドフルネスがあるのに、なぜ生かされてないのかを考えた時、京都は「価値をマネタイズできていない」と思いました。
京都には世界から投資を受けられる潜在的な力(点)があるのに、点と点がつながっていない。
こんなにたくさん点があるのに、なぜ線にならないのか?
1つ目の原因は、多様性を生かせていないこと。
今ないものを作っていくことが重要で、その際には「考え方の多様性」が必要です。
考え方の多様性を取り入れると、京都の潜在的な能力を活かせて、点があるけど線にならないという問題が解決します。
外国人の話をする前に、性別と年齢層の多様性を確保するところから始めないといけません。
京都は、ビジネス界はもちろんのこと、社会全体をみてもリーダーシップをとっているのは年齢層の高い男性が多いと、外から見るとそう見えます。
杉田:多様性の話だと、外国人にも多様性があることも忘れてはいけません。
日本では「外国人=欧米人」になりがちで、都市のデザインも欧米をモデルにすることが多いのですが、アジア諸国やアフリカの外国人もいます。
外国人の多様性にも目を向けると良いでしょう。
的野:多様性について大賛成です。
2016年時点での日本の起業家で20代は7.1%しかいないということでした。
最新情報に詳しくて新しいものに飛びつく若い人が決定権を持っていないのは凄く問題です。
性別の話に関しては、女性の参加率が低いという話を聞きますが、男性がいる場所に女性を呼ぶという発想が間違っていて、男性が女性のいる場所に行かないと本当の多様性は実現しません。
入山:京都をグローバル化したいなら、まずは内側からということですね。京都の中に多様性がないと世界とつながれない。
高津:国際ビジネス都市であるドバイがあるアラブ首長国連邦には寛容性と共存を担当する省庁(Ministry of Tolerance and Coexistence)があり、専属の大臣がいます。
世界中から人々を迎え入れて働いてもらって住んでもらうために、しっかりした仕組みや制度、文化が必要、と判断したからでしょう。
この考え方、京都でもどうでしょうか。京都の中にいる人たち、外から来る人たち、みなでいっしょに京都と世界の未来を創っていくには、互いに寛容になり、共に生きることが必要です。
杉田:アムステルダムにいる公式のナイトメイヤー(夜の市長)も、寛容性大臣とつながりますね。
入山:京都市は女性の入職が多いのに徐々に減るのが課題なので、そこをサポートする仕組みを整えることが実はグローバル化するためにすごく重要です。
外国人に関しては、「来年から外国人を最低5〜10人絶対に採用する!」と決めてしまうと効果的です。
そして、ドバイの寛容性と共存担当大臣やアムステルダムのナイトメイヤーのような役職をつくれば、問題の解決に近づけるでしょう。
入山:「アーティスト・イン・レジデンス」のような素晴らしい取り組みを広げるためには、何が必要だと思いますか?
参考:アーティスト・イン・レジデンス活動支援を通じた国際文化交流促進事業
杉田:京都のもう1つの課題は、コーディネーター不足です。
海外から一流のアーティストが来た時、案内・人材の紹介・レクチャーする場を開く、そんな知識があるバイリンガル人材が圧倒的に足りません。
行政のコーディネーターだといろいろなつながりがあるので、サポートしてほしいと思いました。
行政は資金だけでなく、つながりや場を提供できるのが強みです。
高津:コーディネーター人材は、ファシリテーター、モデレーター、コーチングに興味がある人に向いているので、それらの人を募集したらたくさんの人が応募してくるのではないでしょうか。
また、室町時代の「会所」という仕組みが、課題の解決に役立ちます。
将軍や商人、僧侶などいろいろな立場の人が、連歌などで遊びながら語り合うのが「会所」です。
今の京都は、たとえば、商人と僧侶との連携や共創があまりないように見えます。
室町時代の「会所」を現代に復活させて、京都の中でまずつながって、さらに日本人がつながっていき、そこから世界中がつながっていくのは、とても京都らしいやり方だと思います。
的野:福岡でスタートアップを盛り上げたい時に、たくさんのイベントを行いました。
たとえば、特定の国のビジネスに関心がある人など、すごくレアなイベントでも、結構な参加者がいて、そこで人同士がたくさん出会ってつながれます。
村上:京都の強みは、「この場所に行きたい!」と思わせる環境です。
シリコンバレーでは最大のスタートアップエコシステムが発達していますが、土地自体にはさほど面白いことはないんですよね。
世界には、シリコンバレーのように「そこに行かなくてもいい」と思われている場所が大半なのに、京都は「わざわざここに行きたい!」と思えます。
そんな気持ちにさせる場所は世界でもほとんどありません。
ただ、クラスターは1人ではできないので、研究機関や大学、そこで基礎研究を行う人たちが必要です。
そうすれば、クラスターからイノベーションの種が生まれてきます。
イノベーションの種を育てるためには企業の参入が必要で、イノベーションの種があっても企業とタイアップできないと資金調達できません。
このように、スタートアップのエコシステムを生むための条件がいくつかありますが、京都はほとんどの条件を備えています。
入山:村上さんの考え方だと、京都はシリコンバレーよりも有利ですね。
高津:京都は、「どのイノベーションの種にフォーカスするのか?」という点についても議論しないといけないでしょう。
たとえば、スイスだと、ローザンヌではバイオ、チューリッヒではロボット、といったように、都市の大学を中心にして特定分野のイノベーションに集中し、研究者・起業家・投資家や企業を集める仕組みができています。
「京都はどのようなハブになりえるのか?」を考えた時、寺社・大学などでのウェルビーイング、精神性、人間心理に関する知的蓄積が非常に豊富なので、それがひとつの軸になります。
それ以外にテクノロジーなどの候補を1〜2つ作って、シナジーを生み出して行くことを戦略的に掲げると良いでしょう。
入山:「今人気のSaaSは東京が強いので京都には向いていなくて、京都はカルチャー系、ゲーム、ディープテックに力を入れると良い」と前回のセッションで話したところです。
杉田:夫がゲームデザイナーですが、世界的なクリエイターが京都に来ているそうです。
京都には世界的に有名な任天堂があるし、ゲームのコミュニティや発表する場があります。
高津:今は世の中がテクノロジーやメタバースなどのネット上に向いていて、ゲームも基本的にテクノロジーですよね。
ゲームはテクノロジーを使ってエンターテイメントを提供していますが、バーチャルな世界だけだと人間は満足できないので、直に五感を働かせる身体性が必要になります。
その点で言うと、京都は「神社仏閣や美しい自然があって現地に足を運びたい場所=身体性」を提供できるものがたくさんありますよね。
その「京都がもつ身体性」と「非身体性のゲーム」を融合させたところに、人間の未来があると思います。
村上:クリエイティブ関係のスタートアップ、ユニコーン企業のCEO達が日本に来ましたが、彼らにとって日本は憧れの国です。
「クリエイティブで、いろいろな意味で最先端な京都に行って、様々なビジネスのチャンスを見つけたかった」と彼らが言っていたので、これは京都にとってすごいチャンスですよね。
的野:海外のスタートアップイベントに出展した際、ゲームの映像が流れているだけで人が集まってきました。海外でゲームを作ってる会社やクリエイターがすごく多くて、そういった方々が日本に興味があるのだと思います。
外国人は日本の文化が好きで、福岡に来る外国人は、アニメ、ゲームのキャラクター、アイドルに関心のある方が多いです。
外国人から、京都は「アニメの聖地」とも言われているので、外国人から高い需要があるでしょう。
村上:京都の中から変わることが最も重要で、行政が変わると市民も変わるし、市民が変わったらグローバル化がついてきます。
隈研吾さんが言う「発酵都市」では、外から酵母が来た時に、ある場所では腐ってしまい、ある場所ではうまく発酵する。
大事なのは、外からくるものではなく、京都市がどんな存在なのか?ですね。
的野:京都の中だけでつながれる伸びしろがあるので、外国人などの多様性を持っている方々とつながれば良いでしょう。
その実行役は京都市役所の職員が適任です。
なぜなら、公務員は、自分たちの予想以上に信頼性が高く、スタートアップだとなかなか会えない大企業の方々でも、京都市職員なら、会っていただけたりします。
高津:京都には千年以上前に韓国・中国などから建築や美術が入ってきました。
日本だけでなく、海外も含めた『知が融合された場所』なので、そこに立ち帰ればいいだけです。
入山:千年後のことを考えるなら、千年前のことを参考にすればいいんですね。
みなさま、本日は興味深いお話をありがとうございました。
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