TOP > インタビュー一覧 > 京都駅から徒歩十数分! 知る人ぞ知るこのエリアに、クリエイティブ拠点が集積。 意外な歴史的背景を持つ場所だからこそ生まれるイノベーティブな施設やコミュニティの魅力とは?
京都市都市経営戦略アドバイザー 入山氏×FabCafe Kyoto 高田氏×植彌加藤造園 鷲田氏×シューズデザイナー 串野氏×サウナの梅湯 住廣氏×UNKNOWN KYOTO 近藤氏
本動画では、経営学者であり「京都市都市戦略アドバイザー」でもある入山章栄氏が京都で新しいイノベーションが誕生しているエリアや施設を巡る。
今回紹介するのは、河原町五条エリア。古来、処刑場があった六条河原のすぐ近くだ。
「京都駅から近く利便性の良い地域でありながら、明治期頃まで存在した処刑場のイメージがあるため、京都の人はあまり活用しなかったのでは」と語るのは、FabCafe Kyotoの高田氏だ。
入山氏は「だからこそ、若い人やクリエイターが拠点を構えやすいというメリットがある」と述べた。
本動画には京都のクリエイター達が頻繁に利用している施設やストーリーが多々登場する。
あなたが京都で活動したらどんな毎日になるのかを想像しながら、本動画をご覧いただきたい。
このページの目次
今回の案内役である『FabCafe Kyoto』高田幸絵氏から、河原町五条エリアの意外な背景が知らされた。
河原町五条は京都駅から徒歩十数分という利便性の良い立地の割には、使われてない場所が残っている穴場スポットである。
高田:ここ「河原町五条エリア」は、四条河原町という京都の中心街(一番にぎわっている場所)と京都駅(外部の人を迎え入れる場所)の中間地点で、明治期頃まで処刑場・晒し首の舞台となった六条河原にも近いエリアです。
生と死が混在するこの場所でしか生きられなかった人達がいて、生き延びるために必死に想像力を働かせてきた歴史があると考えています。
入山:死が近いからこそ生まれるクリエイティブがあるんですね。
高田:この地域は、処刑場の歴史を背負ったことにより、アクセスの良さの割に活用されてこなかったと考えています。
だからこそ、新しい人が入ってきやすいし、若い人でも拠点をつくりやすいと思います。
入山:面白いイノベーターやクリエイターが集まってきていて、イノベーション拠点になりつつあるということで、高田さんに案内してもらいながらいろいろな施設を散策してみます。
『FabCafe Kyoto』はデジタル工作機械がある珍しいカフェだが、クリエイターだけに閉じた場所ではない。
ビジネスパーソンや地域の人、一般の旅行客など、様々な人が出会う機会も提供している。
そして、クリエイターではなくても、作る活動を開いているのも大きな魅力だ。
「自分でも意外とやればできるんだ!と実感することで、それぞれの選択肢を増やすことが幸せにつながるのでは」と高田氏は語る。
FabCafe Kyoto公式HP:FabCafe Kyoto - 喫茶利用はもちろん、ノマドワーク・ものづくりもできる京都・五条河原町のカフェ
高田:FabCafe Kyotoは、クリエイティブとテクノロジーをテーマにしているカフェです。
デジタル工作機械やいろいろな素材のサンプルもあり、ここで出会ったクリエイターたち達と展示やイベントもしていますが、ただのカフェでもありたいと思っています。
利用者は、仕事目的でくる方、デジタル工作機械を使いに来るクリエイターさん、観光中にふらっとお茶しに来た方、お墓参りの帰りに寄った親子の方など様々です。
建物は130年経っていて、一階は家具屋さんの店舗で、二階三階が住居だったようです。
この辺りの地域は、平安時代には源氏物語の光源氏のモデルの一人になった貴族が住んでいて、お屋敷の中に塩竈の風景を模した庭園を造ったことから、本塩竈という地名になりました。
入山:昔の貴族は家で塩を作ってたんですか?
高田:海がすごく遠いのに塩水を運んできて、ここで塩を作っていたという説もあります。
入山:それも貴族にとってはアート作品みたいなものなのでしょうね。
そう考えると、歴史的にもルーツがありますよね。
高田:FabCafe Kyotoでは、クリエイターとして活動していなくても、好奇心と創造性に突き動かされた人が3か月滞在して創作活動を行うというプログラムを行っています。
たとえば、これまではアナログな制作手法だけだった版画作家さんが、刺繍ミシンを用いることで平面だけでなく立体的な作品に挑戦しました。
その人の新しい選択肢が開けていくことで幸せが広がるのではないでしょうか。
渉成園は東本願寺の飛び地境内地で、国の名勝にも指定されている。
御用達の庭師である植彌加藤造園の鷲田悟志氏 は、 「渉成園の育成管理は通常の日本庭園とは異なる手法を取り入れている」と語った。
仏教の教えを取り入れた庭造りの奥深さに入山氏は興味深々だ。
東本願寺公式HP:渉成園|真宗大谷派(東本願寺)
入山:京都のど真ん中に、こんな大きな庭園があるとは驚きです。
鷲田:枯山水や露地などの日本庭園は変化を感じさせないように管理されていますが、渉成園は草丈を保つなど、生き物たちが生きやすい環境をあえて作っているのが特徴です。
一斉ではなく外周から順番に草を刈ることで、通常人が入れない孤島の南大島へ虫達を追い込み、秋に虫達による大合唱「音の風景:サウンドスケープ」が聞こえるようにしています。
今は生き物を殺虫剤で駆除したり、人間の都合で常に同じ景色をつくって良いのか?という社会的な課題がある中で、これは日本庭園の世界での新たな取り組みです。
入山:仏教で殺生は良くないとされているため、自然と共生する庭になっているんですね。
鷲田:それ以外にも、植物が枯れたり芽がでたり…といった命のサイクルも見ることができる庭です。
入山:鷲田さんは庭師ですが、現代アートのバックグラウンドも持っていると聞きました。
鷲田:はい、そうです。ここを担当しているもう1人の庭師はバイオサイエンス系のバックグラウンドを持っていて、2人でいろいろなことを深掘りしています。
例えば、倒れた木は枯れるけれど、さっきまで生きていた…それは果たして美しくないのか?ということを考えながら管理しています。
渉成園では、百年前に枯れたビャクシンという針葉樹をシンボルとして残しています。
これは「死」を感じ取ってもらうためです。
このように、仏教の教えに沿って「生老病死」すべてをイメージする庭空間を揃えています。
入山:いわゆる普通の日本庭園とは違って、アート&サイエンスや仏教の教えを取り入れた日本庭園なのですね。
高田:人間以外の生き物とも共生していく…これから世界が歩むべき道の一つの形なので、とてもリスペクトしています。
渉成園では、FabCafe Kyotoに集まるクリエイターが庭師さんと一緒に苔をきれいにしたり、草を抜いたりして、命とは?美しいと綺麗の違いはなんだろう?と考えるワークショップをしました。
そこで生まれた作品は、渉成園で開催したお茶会で展示しました。
鷲田:クリエイターの方が、様々な言葉や表現で発信してくれたり、企画として立ち上げてくれています。
入山:相互に刺激を与え合うwin-winの関係が生まれているんですね。 これから日本中、世界中のクリエイターに来てもらって、庭師さんとコラボしたら、さらに面白いと思います。
遊郭地帯であった旧五条楽園は、河原町五条の東南部に位置する。
このエリアは、「Yamauchi-No.10 Family Office」の代表であり、「山内財団」の理事も務める山内万丈氏がオーナーとして携わっているホテル「丸福樓」が22年4月にオープン。さらに今後30年をめどに同エリアの活性化を目的としたプロジェクトを推進している。
このプロジェクトに対して万丈氏は以下のように語っている。
「京都という世界的に見てもユニークな街の魅力は、歴史の中で紡がれてきた価値を残しながらも、常にその在り方を変えてきたことにあると思います。街全体が縦横のグリッドで仕切られていますが、そのグリッドはよく見ると完全なものではなく、曖昧な部分も街の一部として残されてきました。時代と共に変化する柔軟さ、そして縦横のように規格では割りきることのできない人間生活の曖昧さ、を引き継いでいくことが大事なのだと信じます。」
そんなエリアに突如あらわれたクールな空間。
ここは串野真也氏のアトリエ兼ショールームだという。
串野氏はレディ・ガガが着用した靴をつくった経歴があるシューズデザイナーだ。
遊郭地帯であった場所で、流行最先端のデザイナーが創作活動をしているというカオス感。
これが、他の街にはない面白さである。
串野真也氏公式HP:Masaya Kushino 串野真也
串野:アーティスト活動をしながら、洋服や靴のデザインをしている串野真也です。
「旧五条楽園の雰囲気を守り、盛り上げていくために、アーティストが集まるコミュニティになる場所を作りたいと考える方から、ここにアトリエを構えてハブになってもらえないか」という話をもらいました。
僕は生まれが広島ですが、その誘いがきっかけでここにアトリエを作りました。
この場所自体が面白い土地だと思っていて、駅から近くアクセスが良いだけでなく、趣ある街並みも僕は好きなんです。
京都でこんなにひらけた場所はあまり残っていなくて、しかもここはまだスペースが空いているので、いろんなアーティストが集まって、この一帯がクリエイターの街になっていけば嬉しいですね。
入山:どういった目的で、ここを活用されていますか?
串野:1つ目の目的は、作品を置いて皆さんに見てもらうためです。
2つ目の目的は、別のアトリエではできない作業をするためです。
こちらでは、鉄の加工や木を切ったり、粘土をこねるなど、彫刻的な作業を行っています。
別のアトリエでは主に縫う作業を行っていますが、場所を分けたことで、作品に汚れが付きにくくなっただけでなく、思考もクリアになったのが大きなメリットでした。
人々の生活になくてはならない銭湯、ここ『サウナの梅湯』には若いクリエイターのお客さんも利用するようだ。
梅湯の公式SNS:サウナの梅湯 (@umeyu_rakuen) / X - 京都市
高田:私は、銭湯は自宅に風呂がある家が多くなった現代でも、地域のインフラだと思います。梅湯さんは、コロナの時期でも閉めなかったそうですが、その理由は、風呂の有無に関わらず銭湯を必要としている人が地域にたくさんいるからです。
住廣:梅湯は、明治創業で百何十年の歴史がある、天然地下水を薪で沸かしたお湯を使用している銭湯です。 2015年にうちの会社で引き継ぎまして、こういった銭湯を八軒運営しています。
京都では三件、他は大阪、愛知、三重などです。
昔ながらの銭湯のようにすぐ脱衣所に入るのではなく、若い方でも抵抗感がないよう待ち合わせや休憩ができるロビーを作りました。
さらに、銭湯でオリジナルグッズを販売しているところは多くないと思いますが、うちは全部スタッフが企画して作っています。
銭湯の入湯料は490円と決まっているので、他の銭湯の運営に繋げるためにグッズ販売もしています。
入山:付加価値をつけて持続的なビジネスにすることで銭湯文化を守っているんですね。
梅湯で働く住廣成実氏は千葉出身だが、梅湯を訪れた際にファンとなり、移住して働いているとのこと。
関東の人からみても、心惹かれる場所なのであろう。
梅湯では写真撮影イベントやライブイベントも行っているというから、新しい可能性を感じさせる場所だ。
入山:住廣さんは京都出身ですか?
住廣:私は千葉出身ですが、京都旅行の際に梅湯に立ち寄り、関東にはない魅力を感じました。
それで「ここで働きたい!」と思い、当時の会社を辞めて梅湯で働き始め、4年経ちました。
高田:梅湯の靴箱の鍵を作る際に、FabCafe Kyotoのデジタル工作機器を使用してもらいました。
片面は梅湯のスタッフが手彫りして、手彫りではできない部分はFabCafe Kyotoのレーザー刻印です。
入山:このエリアならではの地域連携ですね。
はてな創業者の近藤淳也氏が運営する『UNKNOWN KYOTO』は、外国人に大人気の宿だ。
レストランとコワーキングスペースも併設していて、長期滞在もできる工夫がされている。
UNKNOWN KYOTO公式HP:UNKNOWN KYOTO
近藤:旧五条楽園は地元の人があまり使用しておらず、長く手が入らなかったことで細い路地があったり、古い建物が残っていて独特の雰囲気があります。
京都の中でも珍しい場所なので、ここを選びました。
しかも、交通の便が良い場所にあって京都以外の方も出入りしやすく、クリエイター達が集まっているのもメリットですね。
入山:ここは京都のど真ん中なのに、あまり知られていないことに驚きました。
近藤:『UNKNOWN KYOTO』という名称も、「知られざる京都」という意味でつけました。
UNKNOWN KYOTOは、コワーキングスペースとホテルとレストランが一体になった施設です。
自分たちのオフィスをここに置きながら、この施設を運営しています。
例えば、一泊二日の短期旅行だといろんな飲食店にご飯を食べに行くと思いますが、中長期ワーケーションをする場合は少し違います。
UNKNOWN KYOTOなら、仕事と食事と宿泊がワンストップでできるので非常に便利です。
IT系企業の開発拠点としても使用されていて、長期的に仕事をされる方からプライベート旅行中に短期で仕事をされる方まで、お客さんが固定されないから、多様な出会いや交流が発生しているんです。
海外の方も含め、ワーケーション施設としての魅力を感じている方が多く、数日から数週間滞在いただいて、お仕事される方も増えています。
「新築で建てるよりリノベーションしたほうが費用がかかった」と語る近藤氏。
それでもリノベーションを選んだのは、歴史ある建物にはそれだけの価値がある証拠だろう。
近藤:部屋は、ツイン、シングル、ドミトリーがありますがお風呂はないので、梅湯の利用をオススメしています。
いわゆる京町家とは少し違っていて、遊郭の個室を客室にしました。
実は、修繕が大変で、耐震の強化から始まって、かなりコストがかかっています。
しかし、建具や柱は昔のものをそのまま残したことで、国内の方はもちろん、外国の方にもとても喜ばれてます。
このエリアは、京都の中でも独特の歴史がある場所。
他の場所にはないムードを体験する絶好のチャンスだ。
河原町五条周辺のクリエイティブエリアに、ぜひ訪れていただきたい。
入山:河原町五条エリアは、まさにUNKNOWN京都!ですね。FabCafe Kyotoのように、さまざまな施設同士のコラボレーションが広がるとさらに面白くなりますね。
高田:FabCafe Kyotoでは、世の中の人々が、販売されているものを買うのではなく、「自分で作るという選択肢もある!」と思える瞬間を作っていきたいです。
どの施設の方も、歴史や建物へのリスペクトがあるのがとても素敵だなと思っており、これからも一緒にエリアを盛り上げていきたいですね。
入山:知られざる京都のど真ん中で、イノベーティブな施設が集まり、クリエイティブなことが起こっているので、ぜひいろんな方に来てもらって、一緒に面白いことができたら良いですよね。
高田さん、本日はありがとうございました。
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