●株式会社ユニコーンファーム CEO/株式会社ベーシック CSO 田所 雅之氏
日本と米国で合計5社を起業したシリアルアントレプレナー。シリコンバレーのVCのベンチャーパートナーを務めた。現在は国内外のスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、株式会社ベーシックのChief Strategy Officerを務める。
今回お話を伺ったのは、世界で累計5万シェアされたスライド”Startup Science”の著者である、田所雅之氏です。
ユニコーンを作るということにこだわりを持つ田所氏によると、「自分の作りたいものを作る」という”プロダクトミーフィット”型の起業家は大きな成功は得られないと言います。
またスタートアップが陥りやすい問題、成功の秘訣についても詳しく教えていただきました。これから起業をしようと考えている方、事業を拡大させていきたい起業家必読です。
このページの目次
ーまずは『起業の科学』を執筆された経緯について教えてください。
田所:僕はこれまでに日米両国で5回起業をしています。エグジットもあります。その経験や、日・米・アジアで投資してきたことをまとめようと思い、2014年くらいからブログみたいなものを書いていました。
まずは、シリコンバレーで失敗した経験について書き始めたんですが、それが溜まっていくうちに怒りが湧いてきたんです。
ー「怒り」ですか。
世界時価総額トップ10に入るような、大企業の情報は多いのに対して、スタートアップは「どうすれば成功するのか」が全く体系的にまとめられていないんです。それに対する怒りですね。当時僕がシリコンバレーで失敗したことや、日本で大きなIPOをできなかったことは社会的構造上の問題だと思っていましたし。だから、起業を失敗をしないための科学/セオリーを作ろうと思いました。
「プレイブックがないこと」「共通言語がないこと」「プロセスがないこと」「時期尚早拡大してしまうこと」という課題がスタートアップにあります。それでスライドを作成し始めたのですが、3年前くらいに700ページくらいまで溜まったんです。それを公開したら、ものすごくバズって。ここまで来たら、さらに突き抜けようと思いました。
そこから半年かけてスライドを1219ページに増やしたところ書籍化の話がきました。また半年かけて1759ページとスライドを増やし、このタイミングで書籍化をしました。
ー最初から書籍化しようとしていたわけではなかったのですね。
田所:そうですね。
起業は科学できること、を証明したかったということもありますが、これは数年前の自分自身のために書いたものでもあります。僕は起業家に対して「自分で選んだ領域の権威になれ」と言っているんですが、自分自身にもそれが無ければ嘘になってしまうと思いました。
グロースハックという概念の提唱者であるショーン・エリスは、「このプロダクト/コンテンツが無くなったら世の人ががっかりする」というのがプロダクトマーケットフィットの条件だと定義していますが、恐らくそれは達成できたと思っています。
ー本の出版後どのような反響がありましたか?
本を読んだ方から、一日に大体50通くらいのメールが届きます。「おかげさまで資金調達ができました」「5年前にこの本に出会いたかったです」という意見を頂きます。
逆に「起業ってこんなに面倒くさいことなんだ」という声も多いですね。あの本は読む人を選ぶと思うんですよ。スモールビジネス型の人や、「プロダクトマーケットフィットよりも自分の作りたいものを作る」という、プロダクトミーフィット型の人は恐らく読まないでしょう。なぜならお客さんの声を真摯に聞いて、それをもとにUXをひたすら改善するということが辛いからです。
起業して、ある程度のところまで事業が大きくなったからバイアウトしてといった方は日本にももちろんいます。ただ、基本的には彼らがしていることには再現性が無いんです。バッターボックスに立って無茶苦茶にバットを振ったら、たまたま当たった…みたいなことと同じですね。だから僕は『起業の科学』で無駄なフォームを無くそうとしているわけなんです。
これはユニコーンを作るうえでも非常に大事なことです。ユニコーンを作るには、1→10、10→20の段階で、いかに再現性のあるモデルを作るのかということが重要です。0→1、1→10を作っている段階で、失敗しにくい型を見つけないとダメなんですよ。
ー「ユニコーンを作る」ということが田所さんの大前提としてあると思いますが、それは何故でしょうか?
田所:ユニコーンは1つの産業プラットフォームを作れる状態だと思うんですよ。日本では未上場企業でユニコーンは2社ほどしかなくて、マザーズが生まれてからメガユニコーンになったのは10社ほどなんですね。結局ユニコーンレベルにまでならないと、大企業側に優秀な人が流れてしまうんです。人の流れを作ることができる、これこそがユニコーンの魅力だと思っています。
「スモールエンジンとして売りぬいちゃえばいい」という考えで10億、20億で売却をしている人もいますが、基本的に起業家としてそれは面白くないと思います。
田所:去年までシリコンバレーのベンチャーキャピタルのパートナーをやっていて、それから日本、アジア、ヨーロッパ、アメリカ…と2000社ほど企業を見てきましたが、ほとんどのスタートアップは8割無駄なことをしているんですよ。僕はそれを社会的損失だと思っています。
ラーメン店を例に考えましょう。ラーメンを誰が食べるのかということを定義し、更にラーメンを食べるという体験をつくる。それを検証し、店舗を綺麗にしたうえで、店主は初めて広告を出すべきですよね。でも多くのスタートアップは、美味しいラーメン、素晴らしいラーメン体験を作る前にラーメンの宣伝を始めてしまうんです。
アイデアを段階的に検証していくことが大切なんですよ。インサイト、つまり「まだ世界で顕在化されていないニーズ」というのを世界で初めて自分が見つけてから、プロダクトを提供できるかどうか検証をしていくんです。
ーなるほど。「一部の企業は検証を疎かにしてしまう」ということを本書で読んだのですが、それはなぜでしょうか?
田所:ユーザーと話すこと、向き合うことが辛いからです。顕在化していないニーズを検証するのって、方法論がないと何をやってるか分からなくなってしまうし、わかりやすい価値が見いだせないんですよ。インサイトを検証していくために必要な軸というのが分かっていない人が多いので、そういった風土を『起業の科学』で変えていきたいと思っています。
「100万人が好きなものではなく、10人にとってなくては困るものを作れるか」も重要な考え方で。起業してから1期目、2期目では特にそれに注力するべきですね。プロダクトマーケットフィットには「プロダクト」と「売り方」の2つの側面がありますが、それらで勝つ法則を見つけたうえで次の段階に行くことが大切ですね。
ーシリコンバレーの企業の様に大きく成長を遂げる企業は日本には少ないと思います。シリコンバレーとの差は何でしょう?
田所:やはりマーケットサイズに圧倒的な差がありますね。シリコンバレーの場合、全米の後はカナダ、ドイツ、ベルギー、シンガポール…と英語圏を攻めていくことができるので、市場規模は日本の8~12倍あると言われています。
チームのバランスの良さも実感しますね。ものすごく成長している企業は、社長が何でもできてしまうけれど、あえて優秀な人を雇い入れている印象があります。組織作りの重要性は改めて実感しています。
ー日本で起業をしたいという人もいると思いますが、国内で創業した場合に成功する可能性が高いのはどの領域でしょうか?
田所:基本的には需要に対する供給がひっ迫しているところにはチャンスがあります。AIやブロックチェーンでやる場合は相当技術力が必要になるのですが、日本でも比較的進んでいて、他国に比べて規制が緩いところは全て成功する可能性が高いと思います。
ー田所さんが今後やっていきたいことは何でしょうか?
田所:RIZAPのように、3ヶ月コミットすれば時価総額を2倍、3倍にもできるようなプログラムを作っていこうと仕込んでいます。
すでに1バッチ目として、6社が参加する3ヶ月のアクセラレータをやりました。彼らのピッチは顧客のインサイトに基づいていなかったので最初のうちはボロボロだったんです。そこで最初の1ヶ月は「顧客以上に顧客が気付いていない課題を見つけることができるか」という部分にとことん向き合ってもらいました。
その後は「自分自身に欠けているところはどこか」客観的に内省してもらったり、「その事業に対して自分の人生を捧げることが出来るのか」と覚悟をきめてもらったり。市場戦略、プロダクト戦略、それに伴うバリューチェーンの作り方、採用スキーム、その前提となるミッション・ビジョン・バリューの作りこみなどかなり細かいところも教えました。最後に改めてピッチをしてもらったんですがかなり変わりましたね。
この3か月間で反省点もありましたが、事業を成長させることが検証ができたので良かったです。かなりコミットすれば、1人でも10社くらいは倍にできる自信があるんです。でもそれだと流れを作ることは難しいと思うので、属人化してしまう知識を可視化して、仕組化しようとしています。
ー最後に、現在起業をしている人、今後起業を考えている人に対してメッセージをお願いします。
田所:とりあえず起業をしてみるということも有りだと思います。全く歯が立たないこともあるかもしれませんが、やってみると何が足りていないかわかると思うので。失敗する・しないに関わらず、ちゃんとやり切ることが出来れば、自分が死ぬとき絶対に後悔しませんよ。天職が何であれ、僕は自分の仕事に対して後悔する人を減らしたいという思いで活動をしています。
でもそのためには世の中の負に出会うことが大切です。よくある例として、学生による学生のための就活サイトであったり、学生向けのサービスを作ったりとかしますけど、どうしても視野が狭いと思ってしまうんです。でも学生は実際仕事をしてみたら社会の構造の中で、満たされていない部分があるということに気づくことができるはずです。もっと大きな視点をもって、自分の負の原体験をもとに起業をしてほしいと思っています。
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