TOP > インタビュー一覧 > 自治体の漏水リスク管理に衛星データが使える?!さまざまな切り口での衛星データ利活用を展開する方法
株式会社天地人 代表取締役 櫻庭 康人 氏
「衛星データは宝の山だ」
ゆったりとした口調で、しかし力強くこう話すのは、JAXAベンチャーとして衛星データを用いた土地評価を行う櫻庭 康人(さくらば・やすひと)氏である。
近年、衛星データを活用したビジネスが大きな注目を集める中、土地評価という切り口で多くの実績を積み上げている、株式会社天地人 代表取締役の櫻庭 康人氏に話を伺った。
編集部:天地人の事業概要を改めて教えてください。
櫻庭:我々は、天地人コンパスという土地評価エンジンを開発しており、その技術を応用しながら、衛星データ×GISのサービスを開発・提供しています。
いわゆるGISは地理空間情報が乗っていて、ユーザーがそこから分析するツールが多いのですが、天地人コンパスはそこに衛星データを標準搭載していることが特徴としてあげられます。
ユーザーは、過去の衛星データと比較しながら、宇宙のデータと地上のデータと人のノウハウを組み合わせながら解析・分析できる点が他社のサービスとの違いになります。
編集部:2019年から株式会社神明と業務提携し、栽培を行ってきた「宇宙ビッグデータ米」が昨年2022年に収穫が完了したというニュースが注目を集めました。農家さんや消費者の方からは、どのような声が届いていますか。
櫻庭:面白いねと言われることが多いです。衛星データを使って土地評価できることをそもそも知らなかったという方も多く、気象条件や環境条件を分析するともっとビジネスにつなげられるといったことや、新しいものをつくれそうという声をもらっています。
編集部:最終的に消費者に届ける上での困難は?
櫻庭:農業としてのスケジュールに従いつつ、ビジネスとして詰めていくところが困難でした。実際にプロジェクトを開始した一年目は、コロナ禍というころもあり、話を詰めることができず流れてしまいました。
米特有かもしれませんが、米の生産は一毛作なので、前年からしっかり計画を立てて品種選びや流通まで全てを固めないと、3月〜5月にかけて田植えができないんです。農業だと詰めきれないことも多いそうなのですが、振り返ると、そこら辺が難しかったですね。
編集部:ConstellRとのMOUや、「Orange Fab Asia Fall 2021」への採択など、海外を見据えた発表を多く見受けられます。今後、海外の顧客を獲得していく計画について可能な範囲で教えてください。
櫻庭:天地人は基本リモートワークです。フランス、ベルギー、スペイン、カンボジア、オーストラリア、アメリカ、台湾にもメンバーがいて、現地とネットワークを持っています。それもあってグローバル進出を順調に進められています。今後は特に東南アジアとヨーロッパの地域で注力していきたいと思っています。
編集部:創業してから大変だったことを教えてください。
櫻庭:実はあまり大変だった記憶がないんですよね(笑)。スタートアップでよくある、お金・モノ・人の観点では、もちろん他のスタートアップ同様大変です。でも、それをいかに楽しく解決できるかと考えながらいつも取り組んでいるので、死ぬほどつらいみたいな記憶はあまりないんです。
良い人を採用する、お金を集めるというのはみなさんと同じく大変だなと思いますが、今のところはこれは難しいなと思うことはまだ特にないです。
編集部:これまで、複数の企業で新規事業やサービス開発に携わってこられた経験が、今の天地人CEOとしての仕事にどのようにつながっていますか。
櫻庭:いろんな仕事の経験から、複数の視点でニーズを考えたりビジネスを組み立てられるというのは活きています。物販もやっていたので流通もわかるので、そこに衛星データや最新の技術がどういったところにフィットするのかをイメージするのは早いと思います。
編集部:豊田市と連携し、水道管の水漏れの可能性がある区域を判定する実証実験を実施されていますが、このような自治体との連携が生まれたきっかけを教えてください。
櫻庭:もともと、私の知り合いが道路系の補修の企業と仲が良く、水道管の漏水に取り組んでいる変わった人がいるというのでお会いしたのがきっかけでした。私自身フットワークが軽く、豊田市に実際足を運んでいろいろお話を伺っていく中で可能性を感じました。
当時、天地人自体は漏水リスク評価の機能は開発していませんでしたし、そもそもマーケットがあることを知りませんでした。ただ、豊田市がとても困っていること、日本のインフラは一見整ってそうに見えるが実はそんなことはないということを教えていただきました。
天地人はもともと分析機能自体は過去に持っていたので、これらが重なり合って、取り組むことになりました。
編集部:豊田市と一緒に取り組んでみてどうでしたか。
櫻庭:衛星がある上空600キロから直接地中に埋まっているものを見る、というのは普通に考えればよく分からない世界ですよね。天地人としても珍しい取り組みだったので、分析をするのに難しさがありました。
コストを抑えながらユーザーのニーズに併せて複数の衛星データや地上データなども合わせながら知りたいデータを分析するのが天地人のコア技術でもあります。
豊田市の取り組みでも、漏水率を見ているわけではなく、地上の地盤の変化や地表面温度の影響、実際のパイプの型や長さなどの複数のパラメーターをAIで掛け合わせて分析しました。
また、この開発の過程で使用している地表面温度のデータを活用した「水道管凍結注意マップ」という副産物のようなものも産み出すことができました。
編集部:他の自治体に活かせそうなことがあればぜひ教えてください。
櫻庭:そもそも、豊田市との出会いはラッキーでした。まず、豊田市自体が、日本中の自治体の中でも先進的な取り組みをしている。データ分析を上手く進めたいが進められない自治体が多い中で、豊田市と前例をつくり、うまくいっている最先端のところを標準化・システム化して他の自治体に展開することが可能だと思いました。
実際に、この取り組みをもとにして生まれた「天地人コンパス 宇宙水道局」は、福島市や瀬戸市で導入され、他の自治体でも導入検討が進んでいます。
編集部:2022年には、JAXAからの資金調達を発表しています。実現にあたって大変だったことを可能な範囲で教えてください。
櫻庭:JAXAさんからの調達は、開始してからクロージングするまで1年半くらいかかりました。JAXAさんがはじめて出資を行うということの難しさが有ったのだと思います。お互いに慣れていない中で、やり取りを重ねたので簡単ではありませんでした。普通の出資とはまったく違うものだったのではと思います。
編集部:HPを拝見したところ、非常に多様なチームとなっている点が大きな特徴なのではと感じました。組織作りにおいて注力している点を教えてください。
櫻庭:基本的に私がみなさんの邪魔をしないことが重要だと思っています。みんなが働きやすい環境作りが大事。人を採用する時も今のチームメンバーと相性が合うかどうかがポイントとして大きくあります。その上で技術とか知識はもちろん重要ですが、少数精鋭でやっていこうとしているので相性を大事にしています。
編集部:今後、具体的にどのような人材の採用を進める予定でしょうか。
櫻庭:業種的には全般的に募集する予定ですが、どうしても宇宙×スタートアップってキラキラして見えてることも多いと思います。憧れから関わりたいという人ではなく、何かを成しえたいと思っていたり、成長したいと思っていたりするようなハングリー精神のある人にぜひ来ていただきたいです。
農業や建設業界などいろいろな業界の人が集まってきており、宇宙業界の人じゃないと入れないということはまったくないです。業界知識や技術についてもキャッチアップできる社内のノウハウも整っているのでそこは安心してください。
編集部:日本のスタートアップエコシステムに対して感じていることを教えてください。
櫻庭:日本は研究開発は進んでいる方だと思いますが、ビジネス化は他国に比べるとまだまだ発展の余地があると感じています。データの理解や価格など見方はいろいろあると思いますが、研究開発のビジネス化をいかに進めるかが大切ではないでしょうか。
そこができれば、基礎的な技術は他国に比べ高いと思っているので、ビジネスも加速する分岐点がどこかで来ると思っています。そこをみんなで働きかけ続けられたら良いなと思っています。
編集部:自治体への衛星データサービスの導入の可能性はどのように捉えていますか。
櫻庭:衛星データは有用で今後使われていく可能性が高いと思います。自治体のIT化を進めるきっかけとして、天地人コンパスを活用いただきたいです。IT化に少しでも気になる自治体にぜひ導入検討いただきたいですね。
今、漏水のリスク評価はどこが漏水する可能性が高いか評価していますが、その後に実際に現場に行って漏水確認を行います。実際に漏水していた場合は補修作業が発生します。現場では紙でメモを取って、後で役所に戻ってデータ入力しているんです。
天地人はその業務をシステムで一元化していくことを目指していて、衛星データでリスクも評価して場所もわかるし、現地にいって確認できれば補修データも入力していけるように開発を進めています。
そうすることで、何がどういう状態で漏水していたかというデータがデジタルな形で残るので、我々としてはまた翌年分析する際に更に精度を上げられるきっかけにもなるし、自治体としても「気がついたらいつの間にかDX化していた」みたいな世界になれると思うので、そういう世界を目指していきたいです。
編集部:櫻庭さんが、天地人の事業を通して実現したい世界を教えてください。
櫻庭:現在は日本中心に活動していますが、どんどんグローバルに広めていっています。日本だけじゃなくて地球規模でサービス提供できるような10年後になっていたらいいなと思っていますし、実現できると思っています。
また、個人においては今のフェーズの天地人で働くからこそ経験できること、企業様・自治体様においては今の天地人だからこそご一緒できる協業の形などもあります。天地人と一緒に何かをやってみたいと思っていただけたら嬉しいです。
編集部:ありがとうございました!
株式会社天地人
・住所 〒103-0027 東京都中央区日本橋1-4-1 日本橋一丁目三井ビルディング5階 THE E.A.S.T. 日本橋一丁目 ROOM 13
・代表者名 櫻庭 康人
・会社URL https://tenchijin.co.jp
・採用ページURL https://tenchijin.co.jp/recruit/?hl=ja
学生時代に宇宙工学を専攻。ビジネスコンテストやアクセラレータプログラムの企画運営に関わりながら、ライフワークとして宇宙ビジネスメディアにライターとして参画。趣味はロードバイクとラグビー観戦。
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