TOP > インタビュー一覧 > 京都に、世界に開かれたスタートアップ・プラットフォームを作りたい IVSが京都開催の先に目指すものとは
IVS代表 島川 敏明氏×京都市成長戦略推進アドバイザー松倉 怜氏×京都市都市経営戦略アドバイザー 入山 章栄氏
6月28日から30日の3日間、スタートアップ企業の経営者と投資家を集めた日本最大級のカンファレンス「IVS」が京都市で開催されます。
京都市勧業館「みやこめっせ」を会場に開催されるこのイベントでは、国内外から業界を牽引する700名以上のスピーカーたちが集結。3日間で250以上のセッションと100以上の関連イベントが予定されています。
イノベーションの創出を目指す起業家やスタートアップ企業の経営者にとって、資金調達やビジネスマッチングの機会としても大きな注目を集めているこの「IVS」は、今回なぜ京都の街を舞台に開催されることになったのでしょうか?
今回は、イベントを主催するIVS代表の島川 敏明氏、京都市成長戦略推進アドバイザーとしてDXの推進に尽力している松倉 怜氏、早稲田大学大学院経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクールの教授で京都市都市経営戦略アドバイザーの入山 章栄氏の3名で、京都でIVSを開催する意義や、イノベーションを創出する場として京都が持つポテンシャルなどについて語り合っていただきました。
このページの目次
――まずは島川さんより、IVSのご紹介と今回京都でイベントを開催する狙いについて教えてください。
島川氏:IVSは、スタートアップの経営者や投資家向けのカンファレンスで、2007年に始まり今年で17年目と日本で最も歴史のあるスタートアップカンファレンスのひとつとなっています。
IVSはこれまで年2回東京以外の地方都市で開催してきた経緯があり、例えば宮崎、札幌、神戸、金沢などの国内都市や、タイや台湾など海外でも開催しています。
その背景には経営者や投資家に地方都市に来ていただき、2泊3日の合宿のようなイメージで集中的にディスカッションをしていただき、その場でビジネスを生み出していただきたいという思いがあります。
イベント規模は2007年当時で数十人規模でしたが年々規模が拡大し、沖縄で開催した昨年は2000人規模に。そして、京都で開催する今年は1万人規模での開催を目指しています。
入山氏:1万人!?(笑)この数字はかなりクレイジーですね。米国でも1万人規模のカンファレンスが開催できる都市は限られているんです。それだけ大規模なイベントだということですね。
島川氏:おっしゃる通りで、この規模で開催するとなると開催地は厳選しなければなりません。
そういう意味で、京都での開催を決めた背景には、今回は海外の起業家や投資家を多数招聘したいという思いがあります。日本のスタートアップ・エコシステム、日本の経済界の課題は、海外からの投資を受けるや海外とビジネスを発展させる機会が少ないということ。
海外の投資家から投資を受けたり、日本のプロダクトを海外に進出させるきっかけとして、海外からも認知の高い京都が最適だと考えました。
入山氏:素晴らしい考えだと思います。私が京都市の都市経営戦略アドバイザーに就任した際にも、「京都は世界から“最も行ってみたい都市”に選ばれる街なのだから、もっと海外とつながっていかなければならない」と提言したことがあります。
日本はシリコンバレーに憧れがありますが、日本からシリコンバレーに行く必要はなくて、彼らに日本に来てもらえばいいのです。しかし実際には、海外から観光目的以外ではなかなか来ない。
Apple創業者の故スティーブ・ジョブスも何度も京都を訪れていますが、観光するとすぐに帰ってしまった。
長期滞在してもらう仕掛けが重要で、長く滞在してもらうことで、地元の大企業、スタートアップ、大学や行政との交流が生まれ、ビジネスが創出される。そんな土壌を作る必要があると感じています。IVSがグローバルな視点から京都開催を決めてくれたのは本当に嬉しいですね。
――松倉さんは京都市の成長戦略推進アドバイザーとしてWeb3の活用やDXの推進についても積極的に推進されていますが、その立場から見た京都のポテンシャルというのはどのように感じていますか?
松倉氏:Web3の観点からみても、京都は世界で最もアセットを有する街のひとつだと感じています。
Web3はコンテンツとの相性がいいですし、コミュニティの構築にも適しています。京都は歴史的な遺産もあればクリエイターが集まり伝統産業からゲームやアニメに至るまで様々なコンテンツを生み出しているし、世界には京都が大好きで京都と繋がりたい人たちがたくさんいる。
Web3には京都発のコンテンツを世界中の京都ファンに届けるプラットフォームがあり、ファンコミュニティを作る技術も充実している。こうした特徴を生かすことで、“京都×Web3”は非常に大きなインパクトを生み出す可能性があると考えています。
島川氏:コミュニティの醸成という意味では、IVSは単なるカンファレンスではなくアジアNo.1のスタートアップ・プラットフォームになりたいという思いがあります。
イベントの全てを運営がデザインするのではなく、参加者、スポンサー、パートナーみんなでコミュニティを作り上げていきたい。そのための施策として、今年のIVSでは「サイドイベント」というものを用意していて、様々な参画企業が京都市内の様々な場所を舞台にした関連イベントを100以上開催していただく予定です。
Web3関連のミートアップや勉強会、ピッチコンテストやハッカソンをそれぞれのイベント主催者のアイデアで開催していただき、私たち運営はそうしたイベントを集約して参加者にお勧めしていきたいと考えています。
入山氏:京都の価値をひと言で表すと、それは「多様性」だと感じています。
京都には日本を代表する大手企業の拠点が多数あり、JR京都線の沿線にはオムロン、村田製作所、日本電産、島津製作所、TDKなどテクノロジー企業が点在している。
まさにシリコンバレーのような場所であり、世界で作られるハードウェアの多くは彼らの技術なしでは動かない。また、京都市には近年スタートアップ企業の拠点が増加しており、京都大学をはじめ学術機関も学内ベンチャーの創出に積極的。ベンチャー・キャピタルも入ってきている。
そして、古来から京都には伝統工芸があり、神社仏閣があり、芸術家がいて文化がある。任天堂のようなゲーム会社や京都アニメーションのようなアニメ制作会社もありコンテンツを生み出している。京都には様々な「顔」があり、それらが最強の多様性を生み出しているのです。
一方で、こうした多様性のひとつひとつはそれぞれが“閉じた世界”であり、あまり世界には開かれてこなかったジャンルも多い。
そういう意味でも世界とつながるためのプラットフォームが必要なのではないかと以前から考えていて、IVSがその役割を目指してくださるのは非常に大きな価値があると感じています。
もうひとつ、京都が持つ多様性が“狭い場所”に集約されているということも大きなポイントです。
東京にも様々な「顔」がありますが、一方で東京は世界的にみても非常に面積が大きい都市だという課題がある。実はフランスのパリは東京の足立区くらいの面積しかない。
米国ニューヨークのマンハッタンも街を歩き回れるほどの大きさです。東京は面積が大きいので、多様性があっても、例えば「スタートアップは渋谷を中心に」「大手企業は丸の内を中心に」といった、それぞれの“棲み分け”ができてしまっていて、混ざりにくいのです。
対していい塩梅に狭い京都は、大手企業、スタートアップ、神社仏閣や芸術家と言った多様な立場の人たちが“すぐそこにいる”という状態。そこにIVSが入って京都の多様性を巻き込んでいただけると、様々な可能性が生まれるのではないでしょうか。
松倉氏:京都に進出したスタートアップの経営者に聞くと、「京都には様々な立場の人たちがいるのに、なかなかつながれない」という声はよく聞きます。
IVSのような“きっかけ”があると、「様々な人たちと繋がってシナジーを生み出したい」というニーズを持つ経営者にとって大きなチャンスになると思いますね。
入山氏:本当にその通り。私が京都でこれまで推進してきた様々な取り組みも、「京都の中でいろいろな立場の人たちがお互いにつながってほしい」という強い思いがあります。その役割をIVSが担ってくださるのは本当に大きいですね。
――2007年の当時と今を比較して、スタートアップ企業をめぐる環境はどのように変化したと感じていますか?
島川氏:日本全体でスタートアップに対して友好的な方が本当に増えたと感じています。
かつては「スタートアップ=なんか怪しい」というイメージがあったのは否めませんが、今では地方自治体の方も大手企業の方も「スタートアップ企業とシナジーを生み出したい」という思いが強くなってきていて、日本が大きく変わってきたと感じています。
法整備の状況を見てもWeb3関連で世界的に見ても先進的なルールが数多く整備されてきていて、日本がWeb3の黄金期に入るのではないかとさえ感じます。
日本が海外からの投資を受けてテクノロジーで世界を再びリードする大きなチャンスに直面していて、このチャンスは日本のポテンシャルが試される最後の機会になるのかもしれないとさえ思っています。
社会環境、法整備、そして海外からの投資と様々な歯車が噛み合ってきていて、このチャンスに勝負をかけないとグローバルの大きな潮流を逃してしまうのではないでしょうか。
松倉氏:京都市内で伝統産業や神社仏閣のような伝統を担う方々のお話を伺っていると、新しいテクノロジーにオープンな方々が多く、デジタルやWeb3の可能性について深く研究されていると感じます自分たちが持つ資産をデジタルやWeb3と掛け合わせることで、どんな新しい価値を生み出せるだろうかと模索していらっしゃる。
IVSのような様々な立場の方々が交流する場が設けられることで、伝統×テクノロジーとかクリエイティブ×テクノロジーといった新たな出会いが生まれ、イノベーションを引き起こす可能性があるのではないかと思います
入山氏:京都の神社仏閣は大きなカギだと私も思っていて、今度のIVSにもぜひ参加してもらいたいと考えています。
実は、京都の神社仏閣の中には前衛的な取り組みを行なっているところも多く、例えば、ある有名なお寺では、予約の取れない有名店のシェフを招聘した食のイベントを開催していて、参加した人が皆、絶賛していました。また、神社仏閣のDXを推進しているスタートアップも存在していて、色んな面白い取組が進められています。
松倉氏:前衛的な取り組みを行なっている神社仏閣とWeb3が融合することで、新しい価値が生まれるかもしれません。
Web3を巡ってはステーブルコインが法律上明確に位置づけられたり、NFTの定義が明確化されました。、地域通貨をはじめ様々な地方創生の取組なのかで活用される可能性を秘めています。
島川氏:ステーブルコインやNFTといったWeb3の技術について政治や行政が深く理解しルールを法整備した国は世界的に見ても珍しいと思います。
これは本当に凄いことだと思います。またスタートアップ企業の人たちも行政と一緒になって新しい価値や仕組みを生み出そうとしてきているので、それはとてもいい傾向だと思います。
松倉氏:Web3は地方創生を後押しする技術としての注目度も高く、民間主体で様々な取り組みが行われています。
ただ、地方自治体がWeb3を活用しようとすると様々な壁があるのですが、政府もこうした壁を解消して地方創生を後押ししようとしています。こうした地方創生の動きにも注目してほしいですね。
島川氏:地方には地域の優良企業が数多くあるわけで、スタートアップ界隈を盛り上げることも大切ですが、地方の優良企業を変革させることも日本経済の成長に大きなプラスになるのではと思います。
入山氏:今までは、地方の優良企業を海外から見つけてもらうというのは非常にハードルが高かったですが、デジタルが発達した現在では地方の企業が東京などの都市圏を経由しないで、いきなり世界と繋がってビジネスを発展させることができるわけです。
地方で面白いビジネスを展開している企業にとっては大きなチャンスがあるのではないかと思います。デジタルを活用して日本のものづくりの潜在的な価値を世界に認められるブランドへと昇華させることができるのではないでしょうか。
――本日は興味深いディスカッションをありがとうございました!最後に、改めて「IVS KYOTO」の開催に向けた抱負と期待をお聞かせください。
島川氏:今回のIVSでは「プラットフォーム化」と「グローバル化」が大きなチャレンジになります。
プラットフォーム化については構想した仕組みが実際に機能するか。グローバル化については、海外から集まる起業家や投資家が日本のスタートアップに興味を持ってくださりシナジーが生み出せるかが運営面での注目ポイントです。
日本の起業家と海外の起業家・投資家が京都という街を舞台にしてどのような交流をして、どれくらい新しいビジネスが生み出せるかについて今から楽しみにしています。
今回IVSは、京都府・京都市と連携した実行委員会形式で実施します。だから、これほどの規模で開催できると思います。
京都の地場産業や伝統文化のエコシステムをしっかり巻き込んで、イベントを盛り上げて行きたいですね。そして、日本のスタートアップ企業の多くにとってグローバルなビジネス展開は悲願です。
これまでは何度も挑戦してなかなか上手くいかないことも多かったですが、今回のIVSがグローバルなビジネス展開に向けた土台を押し上げるきっかけになればと思っています。
松倉氏:京都の街には“場所が持つ力”のようなものがあると感じます。京都を訪れると不思議と思考が整理されたり、新しいアイデアが生まれるといって頻繁に訪れる人も多いです。
今回IVSの開催をきっかけに、歴史と伝統だけではない京都の様々な魅力に触れて、“また京都に来たい”、“京都でビジネスを進めたい”と思ってくださる方が増えれば嬉しいです。私も全力でそのお手伝いをできればと思っています。
入山氏:今回島川さんにIVSの将来的な構想を聞けて本当によかったですし、IVSが目指しているビジョンと、京都が目指しているビジョンには共通している点が多数あることが今日のディスカッションでよくわかったことは非常に嬉しかったです。
私自身、IVSの成功に向けてあらゆるサポートをしていきたいですし、京都市にもご協力いただきながらイベントを全力で盛り上げていきたいと思います。
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