TOP > インタビュー一覧 > 世界を変える大学発スタートアップを目指し、研究者がピッチ。「GTIE DEMO day FY2022」レポート
今回、GTIE GAPファンドによる起業家支援の集大成である「GTIE DEMO day FY2022」を、編集部が取材してきました。
本記事では、当日の様子や、実際に参加した起業家の声をお届けします。
このページの目次
世界を変える大学発スタートアップを育てるために、東京大学・早稲田大学・東京工業大学が共同主幹機関として、13の大学およびスタートアップ支援機関から構成されるプログラムがGreater Tokyo Innovation Ecosystem(以下、GTIE)です。
大学発スタートアップの支援プログラムはここ最近増えてきていますが、GTIEではGTIEサーチファンドを立ち上げ、包括的な起業家支援に取り組んでいるのが特長です。
GTIEが2022年5月に募集を開始し採択された17プロジェクトは、2022年9月よりGAPファンドからの資金提供及びメンター等のサポートの下、事業化を目指した研究開発活動を行ってきました。
今回開催されるGTIE DEMO day FY2022は、各プロジェクトの最終発表の場という位置付けです。
モデルナジャパン鈴木蘭美社長の講演。モデルナ流イノベーションについて語っていただきました!
写真:田中 振一/ GTIE
また、ピッチと併せてGTIEプラットフォーム内外の交流のため、有識者の講演やネットワーキング、3人の有識者によるKeynote Lectureが展開されました。
モデルナ・ジャパン株式会社 代表取締役社長の鈴木 蘭美氏からは、産官学の連携を軸にしたモデルナ流イノベーションについて、株式会社シナモン 代表取締役 Co-CEO平野 未来氏からは、起業家として持つべきマインドセットについて、世界を変える大学発スタートアップを目指す起業家の皆様の背中を後押しするメッセージが多数送られました。
株式会社坪田ラボの坪田 一男氏からは、自分の中に多様性を持つ「Intrapersonal Diversity」が大事という話、そして大学発スタートアップが世界に起こすイノベーションを可能にするには、「サイエンス」×「コマーシャリゼーション」が鍵だというメッセージが参加者に向けてありました。
自分の中に多様性を持つには、特定の研究領域を飛び越え、多くの方と連携する、いわば「Go Out」する戦略が大事ということです。
GTIEのDemo Dayに参加する学生や研究者の方は、自分の研究室の中だけで活動するのではなく、広く社会に出て課題解決を目指す方ばかりです。
坪田氏の話は、GTIE参加者からも共感を得る内容だったようで、講演後に多くの質問が飛び交っていました。
株式会社坪田ラボの坪田 一男氏によるKeynote Lecture
写真:田中 振一/ GTIE
そして今回のGTIE DEMO dayでは、GTIE GAPファンドグローバル/ユニコーンコース から合計7プロジェクトが、GTIE GAPファンドスタンダードコースから合計10プロジェクトがピッチを行いました。
プレゼンを行う東京工業大学 刑部氏
写真:田中 振一/ GTIE
プレゼンを行う慶應義塾大学 早野氏
写真:田中 振一/ GTIE
ピッチを現地で聞いていて一番印象的だったのは、どのピッチも研究発表のようなものではなく、しっかり市場分析、ユーザーヒアリングの結果などを踏まえた発表だったことです。
最先端の技術の話だけでなく、市場に投入したあとのロードマップや営業戦略まで言及している方も多く、未来にワクワクするようなピッチばかりでした。
今回のGTIE DEMO day FY2022では、2プロジェクトが最優秀賞を受賞しました。
まず、世界市場・海外進出を狙い、全編英語でピッチ・質疑応答が行われたグローバル/ユニコーンコースから最優秀賞を受賞したのは、東京医科歯科大学 生体材料工学研究所の池内 真志氏が取り組む「不妊治療で用いる生殖補助医療自動化システムの開発」でした。
プレゼンを行う池内氏
写真:田中 振一/ GTIE
池内氏が着目したのは、不妊治療の分野です。
体内での受精が困難な方に対して、配偶子である卵子や精子を体外に取り出し、体外で受精させる技術の総称はART(生殖補助医療技術)と呼ばれます。
ARTには、体外受精(IVF)、顕微授精法(ICSI)、胚移植(ET)、ヒト卵子・胚の凍結保存、凍結胚移植など様々な行程があります。
このような治療を支えるのは胚培養士ですが、業務内容も複雑で熟練度も属人的、人材も不足していることが大きな課題となっています。
そこで、胚培養士による顕微授精作業をAIで自動化させたり、専用のロボティックマニピュレータを活用することで、胚培養士不足の課題解決や治療成功率の向上を図るとのことです。第一世代のプロダクトとして、治療装置一式を500万円から医療機関へ提供していくとのことです。
審査員を務めたTechCrunch USのエディターNeesha氏からは、池内氏のプロジェクトが開発した機械学習のアルゴリズムのユニークさと、市場におけるイノベーションのインパクトの大きさが高く評価できるとのコメントがありました。
次に、市場を問わず大学発の技術シーズをベースにしたDeep Tech全般ないし社会課題解決を目指すスタンダードコース全10プロジェクトの中から優秀賞を受賞したのは、東京大学医学部脳神経外科の小池 司氏が取り組む「術前術中の情報を集約した複合現実手術支援ソフトウェアの開発」でした。
プレゼンを行う小池 司氏
写真:田中 振一/ GTIE
小池氏が着目したのは、脳外科医の手術現場です。
具体的に小池氏のチームが開発したのは、手術中に医師が病変の範囲を正確に把握することを目指す、「複合現実手術支援ソフトウェア(MRCG)」です。
医療現場で一般的に活用されてる既存のAR技術は、術前に撮影した医用画像を医師が見る現実空間に投影するものです。一方でMRCGの手法は逆で、医師が見ている現実空間を医用画像に投影するものです。
この手法により、変形した術野(現実空間)に対応できるほか、術中に医師が様々な角度から臓器を観察することが可能になります。
1ライセンス年間5万円のサブスクリプションモデルで、まずは脳外科医向けにプロダクトを展開していくとのことでした。今後、肺や肝臓といった変形しやすい臓器を扱う医療者への展開も想定しているとのことでした。
審査員の慶應イノベーション・イニシアティブ本郷氏からは、ビジネスの広がりの観点から、小池氏のプロジェクトの今後のスケールの可能性が高く評価できるとのコメントがありました。
今回、ジャパスタ編集部では、受賞直後の起業家2名に、インタビューを実施。リアルな声をお聞きしました。
一人目は、東京医科歯科大学の、池内 真志氏です。
グローバル/ユニコーンコース最優秀賞の池内 真志氏
写真:田中 振一/ GTIE
編集部:最優秀賞の受賞おめでとうございます!
早速何点かお伺いさせてください。GAPファンドが展開した支援内容の中で、具体的に役に立った内容を教えてください。
池内:やはり一番は資金の援助です。他ですと、メンタリング期間に私たちのプロジェクトにおける事業開発の面をアドバイスいただけたことは心強かったです。特にチームをどうやって作っていくか、GTIEのプログラムが終わった後、どのように事業化につなげるかなど、具体的に相談させてもらいました。
編集部:チーム作りとは具体的にはどのような部分でしょうか?
池内:我々のような医療分野の取組では、技術的に達成しただけでは不十分で、そこから実際のビジネスにつなげていくには多くの承認を得る必要があります。そういったハードルをどのようにクリアし、最速で事業化にこぎつけるかに力を貸してくれるチームを作っていきました。
編集部:本プロジェクトにおける2023年度の目標を教えてください。
池内:我々のプロトタイプを三つの医療機関に導入し、実際に使っていただきたいと思っています。まずは自分たちの検証のフェーズです。現場で実際に活用いただきフィードバックをもらうことで、さらにプロトタイプを磨いていく1年にしたいと考えています。
編集部:GTIEの未来の参加者へメッセージをお願いします。
池内:「自分の技術が社会に役立つところを、自分の目で見たい」という気持ちを持っている研究者には、とてもマッチするプログラムだと思います。GTIEの事務局やJSTも、そういった活動(研究の実用化)にとても協力的で柔軟な考えを持っています。ぜひ多くの研究者に「Go Out」で新しい世界に飛び込んでもらいたいと思います。
編集部:ありがとうございました!
グローバル/ユニコーンコース最優秀賞の池内 真志氏
写真:田中 振一/ GTIE
二人目は、東京大学の、小池 司氏です。
スタンダードコース最優秀賞の小池 司氏
写真:田中 振一/ GTIE
編集部:最優秀賞の受賞おめでとうございます!
早速何点かお伺いさせてください。GAPファンドが展開した支援内容の中で、具体的に役に立った内容を教えてください。
小池:我々は研究を起点に思考しているので、誰に対してどのように製品を届けるか、具体的に思い描くのは難しいです。より広い視点で考えることの重要性を、メンターの方にアドバイスいただいたのがとても役に立ちました。
特に、商品をどんな市場にどのように展開してどんなマイルストーンで販売していくのか、具体的なカスタマーの声を大事にしているか、こういった点はアドバイスをいただきながら取り組んできました。
実際にユーザーインタビューを行うことで、自分たちの考えていることと、現場の医師が考えていることが一致していることを確認できたことは自分たちのモチベーション維持にもつながり非常に良かったです。
編集部:本プロジェクトにおける2023年度の目標を教えてください。
小池:現在アプリはほぼ完成しているので、次の一年間の目標は技術的な部分の精度を上げることです。また、並行して法人設立の準備を進めていきたいと考えています。
編集部:GTIEの未来の参加者へメッセージをお願いします。
小池:「自分たちのやりたい研究を世の中に届けたい」というモチベーションが高い研究者の方にはおすすめです。私も実際に起業に向けて頑張っていきますので、少しでも興味のある方はぜひ応募してみてください!
編集部:ありがとうございました!
スタンダードコース最優秀賞の小池 司氏
写真:田中 振一/ GTIE
イベントの最後に、今回のDemo dayを担当した慶應義塾大学の山岸 広太郎常任理事から、全体を総括したコメントがありました。
「Deep Tech分野は開発期間が長く、資金も非常にかかります。だからこそ、自分たちが解決したい社会課題を発信し理解してもらうことが大事で、Deep Tech分野では特に経営者としての手腕が問われます。」
「協力してくれる方を巻き込んでいくためには、自分たちが目指す世界や解決したい課題を、ピッチの場でいかに分かりやすく伝えるかがとても大事です。ぜひ今後も頑張ってください。」
慶應義塾大学の山岸 広太郎氏
写真:田中 振一/ GTIE
GTIEは、「世界を変える大学発スタートアップを育てる」をテーマに掲げ、大学、東京都を中心とした自治体、企業との連携を進めていくとのことです。
このような大学の垣根を越えて連携する組織を通じて、グローバルに羽ばたく大学発スタートアップが生み出されることが、ますます楽しみです。
全体集合写真
写真:田中 振一/ GTIE
no. | 発表機関名 | 発表者 | 課題名 | コース |
Pitch Event Part 1 グローバルコース、ユニコーンコース(英語) | ||||
1 |
東京工業大学 株式会社みらい創造機構 |
松下 祥子 森 健太郎 |
熱源に埋めて使う半導体増感型熱利用発電の事業化検証 | Global |
2 | 東京大学 | 程 久美子 | 疾患原因遺伝子における塩基変異特異的siRNA | Global |
3 | 慶応義塾大学 | 早野 元詞 | Aging創薬プラットフォーム構築とサルコペニア治療薬開発 | Global |
4 | 東京医科歯科大学 | 池内 真志 | 不妊治療で用いる生殖補助医療自動化システムの開発 | Global |
5 | 東京大学 | 太田 禎生 | ID-coded platform | Unicorn |
6 | 東京工業大学 | 鈴木 賢治 | スモールデータAIによる診断支援システムの米国展開 | Unicorn |
7 | 早稲田大学 | 所 千晴 | 電気パルス法による革新的LiB資源循環 | Global |
Pitch Event Part 2 スタンダードコース(日本語) | ||||
8 | 東京大学 | 上沼 駿太郎 | 環状オリゴ糖からなるナノシートの事業化 | Standard |
9 | 慶應義塾大学 | 平山 健太 | 炭素繊維強化プラスチック部品のAIベース非破壊検査 | Standard |
10 | 東京工業大学 | 早川 智義 | 列車の混雑を見える化し、安心して移動できる社会の実現 | Standard |
11 | 東京工業大学 | 田中 利明 | ABM 起業プロジェクト | Standard |
12 | 東京大学 | 遠藤 慧 | 超小型RNA結合タンパク質創薬 | Standard |
13 | 東京農工大学 | 大松 勉 | 耐酸性微細藻類を用いたバイオ医薬品プラットフォーム | Standard |
14 | 東京大学 | 徐 偉倫 | ナノ細孔を用いた分子シーケンサーの開発 | Standard |
15 | 東京工業大学 | 刑部 祐里子 | 新規ゲノム編集TiDの実用化 | Standard |
16 | 東京大学 | 小池 司 | 術前術中の情報を集約した複合現実手術支援ソフトウェアの開発 | Standard |
17 | i2medical合同会社 (慶応義塾大学) |
古賀 文浩 | 音響学的解析による認知症検知技術の事業展開 | Standard |
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