TOP > インタビュー一覧 > AIによるブレイクスルーはまだこれからだ。最先端技術の社会実装で社会をもっとシンプルに|ACES・田村 浩一郎氏
株式会社ACES 代表取締役 田村 浩一郎 氏
2000年代の第三次AIブーム以降、AIの研究開発は盛んに行われ、AIを用いた事業を行う会社も増えてきた。
しかし、そんなAI自体もコモディティ化が進んでいるといわれているのはご存知だろうか。
2022年11月にはノーコードにも関わらず高品質な対話を実現するチャットボット「ChatGPT」が公開され大きなインパクトを残した。
「ChatGPT」を開発するOpenAIの企業価値は290億ドル(3.7兆円)ともいわれる。ノーコード、ローコードでAIエンジニア以外もAIを扱える時代。
AIのコモディティ化が叫ばれる中で、日本のAIスタートアップやAIエンジニアはどのように価値を発揮できるのだろうか。
今回は、独自のプラットフォームでAI開発のプロセスそのものを刷新し成長を続けている株式会社ACESを紹介する。
ACESの目指している未来はどこなのか、なぜ今のような形式での開発を行おうと考えたのか。
ACESのさまざまな側面について代表取締役である田村 浩一郎(たむら・こういちろう)氏にお話を伺った。
ーー 起業のきっかけを教えてください。
起業のきっかけは私自身が大学でAIの研究を行う中で、社会に対してAIでなにかできないかなと、漠然と考えていたことから始まります。
2017年に出た論文の中で、自然言語分野の中でもブレイクスルーを起こしたTransformer(トランスフォーマー)というモデルが提案されました。
そのころに、友人と学会の宿泊先でシャワーを浴びながら、Transformerの技術を使って何か面白いことができないかと話し「日本の漫画の翻訳をAIで行って世界に届けたら面白いのでは」というアイデアに行き着きました。
その後、つながりのあった出版社の方とお話する機会をいただき、プロジェクトを進めるにあたって法人が必要になり立ち上げたのがACESとなります。
結局当初の漫画翻訳のプロジェクトは頓挫したのですが、「ディープラーニングを社会実装できる人は少ない。こんなメンバーが集まるのは二度とないチャンスだから、このメンバーでディープラーニングのポテンシャルに賭けたい」との思いから、DX事業に舵を切り、現在の事業の土台ができました。
まずはAIスタートアップの勝ちパターンとは何かを考えました。
スタートアップに限らずAI開発はデータが重要ですので、一般的にはデータを多く持つ大企業と組む必要が出てきます。しかし、そこで受託になってしまうと元も子もありません。
ビジネスモデルを突き詰めると「受託のように見えて受託にならないビジネスモデル」が持続的であると考えました。
そこで、AIのアルゴリズムをモジュールとして提供する前提で、大企業向けにセミオーダーで開発を行い、ライセンス提供する形式を取りました。
ーー なぜモジュールとして提供する形を取ったのでしょうか。
Credit:株式会社ACES
ACESでは、モジュールをどんどん積み重ねて構造化していき、システム開発のプロジェクトをやればやるほどアルゴリズムが蓄積されるプラットフォーム「ACES Platform」を構築しています。
これまでのプロジェクトで開発したアルゴリズムを次のプロジェクトに応用したり、強化を行い適応していくことで、開発の拡張性と高速化を実現しているのです。
この開発のプロセスはコスト面で見ても優れています。
新しい開発プロジェクトでもこれまでに蓄積したレベルの高いAIを積み重ねた自社開発のモジュールがありますので、それを必要に応じてブロックのように組み立てます。
プロジェクト毎に一から開発する必要がないため、高い利益率を実現しています。
ーー 最近は営業AIツールの「ACES Meet」にも力を入れていますね。
はい。「ACES Meet」は、オンライン商談の録画・議事録作成をAIが行い、商談の内容や温度感を共有・解析できる営業支援AIツールです。
商談や会議で話した内容は議事録を取れば確認できますが、話す際の表情やリアクション、目線や抑揚、話速といった実際のコミュニケーションの様子にはアクセスすることができません。
「ACES Meet」は商談の様子を動画として保存し、記録したデータを解析することで本人も気づいていないような話し方の癖や動作の可視化を実現しました。
さまざまなユースケースがありますが、例えばトップセールスの方の表情・視線・話し方・内容を分析することで、優秀な営業のノウハウを活用したり新人育成に応用したりすることができます。
このように会議をDXすることで、会議の価値も高められますし、会議の無駄を見つけることができ、会議そのものを効率化することにも繋がります。
特にリモートワークが進んだ現代では会議が増えていますので、「ACES Meet」で会議の生産性向上を推進していきたいです。
ーー 「ACES Meet」を開発した経緯を教えてください。
多くの事業や業務は人の知見や熟練したスキルで成り立っており、属人化による制約が数多く存在します。
人に閉じている知見やスキルは構造化されづらいデータですが、ディープラーニングを用いることで構造化されデジタル上での再現が可能になります。
コミュニケーションの分野もまさに人の知見や熟練したスキルで成り立っている領域です。
また、会議や商談はこれまではオフラインの場が多かったですが、コロナ禍の影響でオンラインに移行していきました。
今までデジタル化されづらかった営業や会議がデジタルデータになるチャンスが生まれたのです。
この領域はアメリカやヨーロッパでも盛んになりつつあり、ACESでもプロダクトとして提供しようと「ACES Meet」を開発しました。
ーー 「アルゴリズムで社会はもっとシンプルになる」というビジョンについて教えてください。
ビジョンは我々にとっては問いであり、会社が存在している理由ともいえます。
ディープラーニングの特徴として、複雑なものを複雑なまま処理できるという点があります。
これまでは複雑なまま物事を処理できるのが人間しかいなかったので、属人的な対応が必要になっていましたが、これからはディープラーニングのアルゴリズムが代替していくと考えています。
つまり、アルゴリズムによって人類にとってシンプルな社会ができる。これこそがACESの掲げているビジョンの背景です。
そして、属人的な仕事がアルゴリズムで解消されていくことによって、結果的に余白を生み出すことができるんです。
その余白は、自己成長のための余裕やちょっとした余暇に使っていくことで、人生の選択肢に広がりが出てきます。そんな社会を実現したいという思いから、このようなビジョンとなりました。
ーー DXパートナーサービスを提供していますが、多くの会社は人材不足やベンダーへの依存、またPoC(概念実証)のみで終わってしまったりと課題が山積していると思います。同サービスではどのように解決を目指しているのでしょうか。
そのような課題に関しては、大きく三つの価値を提供することで解決を目指しています。
一つ目は、AIの事業価値を詳細までデザインすることです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル化することが目的ではなく、X(トランスフォーム)することが本質です。
AIという技術に頼った発想ではなく、リアルの事業や産業で起きている課題はどういうものかを細かくヒアリングした上で、それらにAIをどうかけ合せて解決できるかに主眼を置き、現状と目標を明確にした上でAIの事業価値をデザインしています。
二つ目は、高い精度と開発リスクの低減が両立できる点です。
上で述べたように、研究と事業を通じて自社に蓄積された技術資産を活用して、効率的にデジタル化を進めていける技術基盤を持っている点が大きな強みです。
そして最後の三つ目は、実際に事業を推進していくリーダーシップや、前に進める力があるという点です。
これは本当に大事で、DXは単なるボトムアップの改善に終始せず、事業や産業に変革を起こすためとにかくエネルギーが必要なんです。
そのため、前に進めていく巻き込み力や、壁や困難があってもへこたれないメンタリティを持つ担当者ばかりです。
PoCや実証実験だけで終わるのではなく、しっかり事業につなげていく「AIバリューデザイン」を行った上で、お客様と二人三脚でゴールを目指していくような感じです。
ーー 多くのアルゴリズムがオープンソースで提供されていたり、ローコード、ノーコードでAIを扱えるサービスが増える中、AIのコモディティ化が叫ばれていますがどうお考えでしょうか。
人に置き換えて考えてみると、例えば音声認識などの能力はほとんどの人が持っている認知能力です。
しかし、専門的な知識やスキルが必要な領域、いわゆる専門家がいるような領域は難しい。
例えば東大の入試問題を問いてみてと言っても、おそらく1割ぐらいの人しか解けないと思うんです。
そういった領域はAIにとっても同じく難しいものになります。
実際、AIが何をコモディティ化したかというと、ほとんどの業務はまだAIで代替できていないんです。
先述の音声認識などの基礎認知というか、動物が普段から行っているようなことはコモディティ化していると思いますが、だからといってAIがビジネスの中で一般化しているわけではないと考えます。
特に、5年後10年後に価値を生むための未来の事業や業務のゴール像を適切に描けている会社はまだまだ少ないですし、AIが事業へ価値貢献できる範囲は変わらず大きいと考えています。
ーー 現代のAI研究者 / エンジニアに必要なスキルとは?
アルゴリズムを理解して実装できる能力に加えて、仮説検証の速さが重要だと考えています。
特にエンジニアは、基本的にポイントごとに仮説を立て、問いを立てて検証するというサイクルを繰り返すので、スピードが重要になってきます。
またこれはアカデミックな研究者というより、あくまでACESにいる研究開発者としてという話ではありますが、やはり事業の価値を生む研究を意識し現場に目を向けることが重要であると考えています。
ーー AIについて幅広く開発を行っていますが、どのような方が多く働いているのでしょうか。
やはり技術が好きな方が多いと思います。また、ACESでは全員がある領域のエースであることを期待されており、皆さんそれぞれの持ち場で専門性を発揮いただいています。
他には、推進力がある方も多いと思います。エンジニアライクではあるのですが、必要な時はパワーで押し切る事もできる合理性があり、目的に向かって尽くせる人がたくさんいます。
ーー 学生時代はどのように過ごされましたか。
中高生のころはこの勉強内容はいつ使うのか、なぜ板書をそのままノートに写す必要があるのかなど、色々なことに対して懐疑的で悶々とした日々を過ごしていたように思います。
大学生になってそうしたルールや縛りから解放され、個人事業を始めたり、貯まったお金でトレーダーを始めるなどこれまでできなかった新しい挑戦をするようになりました。
学部2年生の時にはデイトレーダーのような生活をしていて、マーケット開始より早く起き、企業分析やニュースの分析を行い、プログラムを書きマーケットのデータを解析したり、他の投資家のTwitterをリアルタイムで解析したりして投資をする生活でした。
そんな生活を続けていたある日、数時間目を離したすきに300万円ほど損したショックから金融工学に興味を持ち、東京大学松尾研究室に入りました。
元からあった戦略的思考に加えて、その時の企業分析や企業経営への興味がAIというテクノロジーと結びついて現在行っていることにつながっていると思います。
ーー プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。
勘違いしてでも打席の回数を増やすのって大事だと思っています。
例えば、自分たちのプロダクトで世の中を変えられる、自分たちはいけるという意識は半分自信過剰というか、半分勘違いなんですよね。
研究も同じで、大体のことは誰かがすでにやって失敗していて、ほとんどの場合この研究で世界を変えられるのではという勘違いから打席に立つのですが、それを100回ぐらいやると、勘違いからでもたまたま当たってヒットが出たりホームランが打てたりすることもあります。
研究開発においても事業においても、勘違いでも良いから打席にちゃんと立つという意識が大事、ということを伝えられたらと思います。
ーー 最後に、今後の展望と読者へ一言お願いいたします。
会社をやっていて様々思うところはありますが、「まずは日本をどうにかしないといけない」との危機感が強くあります。
少子高齢化が急激に進行していますが、産業現場には依然として無駄や非効率が多く存在しています。
また、多くの事業や業務は人の知見と熟練したスキルで成り立っているため、属人化による制約も数多く存在しています。
ACESはAIアルゴリズムを事業に組み込むことで、産業の担い手である人とAIが協同し共に進化・成長できるような変革を生み出していきます。
この変革、すなわち「AIトランスフォーメーション」の実現に向けて本気で取り組んでいきたいという方々と一緒に働いたり、パートナーという形で一緒に事業を進めていけたらすごく嬉しいです。
株式会社ACES
・住所 東京都文京区湯島2-31-14 湯島ファーストジェネシスビル3階
・代表者名 田村 浩一郎
・会社URL https://acesinc.co.jp/
・採用ページURL https://acesinc.co.jp/careers
東京国際工科専門職大学 IoT専攻3年生。
高校生時より、大手旅行メディアにてライターを努めた後、NPO法人にて教育系メディアの立ち上げに携わる。
その後、AI系メディアのブランディングチームやフリーランスにてWebライター、SEOマーケターとして活動中。
得意領域はITとおでかけ。
Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100010944587380
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