福岡市をスタートアップ都市に導いた的野氏×経営学者 入山氏による特別対談

福岡市をスタートアップ都市に導いた的野氏×経営学者 入山氏による特別対談

京都市都市経営戦略アドバイザー入山 章栄氏 × 福岡市住宅都市局部長 的野 浩一氏

記事更新日: 2022/12/20

執筆: 宮林有紀

~開業率3年連続第1位の福岡市からみる、京都市におけるイノベーションの可能性とは~

開業率3年連続第1位(令和2年度20政令市中)など、スタートアップ都市として全国から注目を集める福岡市。

そんな福岡市といえば高島市長が有名だが、スタートアップ政策を牽引し福岡市をイノベーティブな街にした立役者が的野 浩一氏である。

的野氏と経営学者 入山 章栄氏に、これからの京都市に必要なものを、京都市職員に向け語っていただいた。

京都市都市経営戦略アドバイザー入山 章栄氏 

早稲田大学大学院経営管理研究科早稲田大学ビジ ネススクール(WBS)教授。慶應義塾大学院経済学研究科修士課程修了後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号を取得し、同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。WBS准教授を経て、2019年に現職へ。「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)等の著書のほか、メディアでも活発な情報発信を行っている。

福岡市住宅都市局部長 的野 浩一氏

 福岡市に入庁後、用地買収の業務に携わり、現場主義の大切さを学ぶ。まちづくり関連 部署へ異動後、民間企業と連携した福岡市観光案内サイト「よかなび」を立ち上げ、当時の官公庁では珍しくYouTubeを導入し、注目を集めた。その後、都市経営に関わる部署へ配属され、福岡市の経済発展のため「スタートアップ」に着目。スタートアップをテーマにした国家戦略特区の獲得など、スタートアップ都市実現へ導いた。

京都がさらなる発展を遂げるカギは【市の職員】

入山 章栄氏

入山氏は「京都の強みは国内外に通用するブランド力。その強みを活かして京都をイノベーションがたくさん起こるまちにするためには、もっと世界や国内、京都の中でのつながりを増やすこと」だと述べた。

入山氏の最終的な目標は、”部外者である自分のようなアドバイザーがいなくても、京都市に住む人々が国内外の人とつながり、新しい創造を次々と生み出していくまちにすること”だ。

「そのとき重要なカギを握るのは【行政】です。地域を支える行政が率先して変革し、職員の方が世界中の優れた人々とつながっていけば、京都市が抱えている問題の多くを解決できます。」と入山氏は続けた。

行政主導でスタートアップを集積し、都市の活力につなげている実例が福岡市である。変革が起きて移住者が増え、ベンチャー企業も増え、イノベーションがたくさん生まれている場所だ。

入山氏は「福岡市のスタートアップ政策をここまで全国区にしたのは的野さんです。トップに注目が集まりますが、それを支える人(市の職員)こそがすごく大切なので、ぜひ的野さんのしてきたことを知ってほしいと思います。そして、チャレンジするヒントやきっかけになったら嬉しいです。」と参加者に伝えて、的野氏にバトンタッチした。

福岡市を変革するために的野氏が行ったこと


的野 浩一氏

的野氏がなによりも重要視したのは、福岡市のスタートアップ関係者との対話である。現場の生の声を聞くことで、大事なポイントがみえてきたようだ。

的野氏の気づきは、若者に興味をもってもらうためには”カッコいいイメージ”を打ち出す必要があるということ。そのために、相談窓口をカフェにするなど様々な取り組みを行った。

国家戦略特区になるための申請をする際には様々な課題もあったが、組織を超えて外の人に助けを求めることで乗り越えたという。

最初はうまくいかなかった海外施策の体験談では、「諦めずにチャレンジし続けることが大切だ」と的野氏は述べた。

◆福岡のスタートアップの人との積極的な対話

◆「スタートアップ都市を目指す宣言」のイベント開催

◆たくさんの人が訪れてコミュニケーションが活発になる工夫
  • 若い人に参加してもらうために「カッコいいイメージ」を目指した
  • 相談窓口をカフェにして入りやすい雰囲気にした
  • 相談場所をイベントコーナーとしても活用した

◆大企業とスタートアップのマッチングイベント開催

◆「福岡市をスタートアップを推進する街にする」という提案(国への申請)
  • 組織を超えて外の人(東京の会社の人 民間企業、地元企業、スタートアップなど)にも協力を求めることで様々な障壁を乗り越えた

 >内部のリソースは有限でも、外部には無限のリソースがある!
 >人を説得する時に大切なのは、リサーチとエビデンス(数字と固有名詞)!

◆海外施策:福岡のスタートアップが海外に行った時の支援を各国にお願い
◆海外施策:海外のスタートアップが福岡にきた時の支援を各国に約束
 >失敗しても気にしない!最後まで諦めない!大切なのはサイコロを振り続けること。

◆役所とスタートアップ、両者をつなぐ通訳(人だけでなく、デザイン、空間・場所など)を活用
   >新しいことをする時には必ず摩擦が起こるが、摩擦や衝突を恐れない!
   >行政は確実性を求め、スタートアップは社会にないものをつくるから、衝突するのは当然だと思っておく

 

【特別対談】福岡市がスタートアップ都市になった背景とは?

せっかく頑張ってるならもっと評判をよくしたい

入山:起業家はビジネスをつくりますが、的野さんはスタートアップや個性的な人が集まるエコシステムをつくっているんですね。

起業家以上のことをしていると感じましたが、その情熱はどこからくるのでしょう?

的野おもしろいことをしたいからでしょうか。

たとえば、TwitterなどのSNSでバズることをしたほうが世間に認めてもらえますよね。

あとは、市の職員が一生懸命に頑張ってるのに、外部からの評判が悪いと知ったのもきっかけです。

せっかく頑張ってるなら評判を良くしたい!と思いました。

上司よりも、外からの評判や意見に影響を受けましたね

入山:福岡市の中の職員は外と繋がってないけれど、的野さんは外と繋がっているから福岡市の評判がわかったんですね。

スタートアップを呼びたいなら「カッコよさ」をつくる

入山:行政の立場として、スタートアップが必要だと考えましたか?

的野:はい、僕自身はスタートアップにまったく関心がなかったのですが、福岡の雇用を増やすためには新しい会社が必要でした。

また、最新技術にふれる機会が多い若い起業家が少ないのが問題だと思いました。

若い起業家を増やして発展し続ける街にするのが目指すべき方向だとわかった時、「それなら、スタートアップしかない!」と気づいたんです。

入山:的野さんが行った改革の1つが、若い人に興味をもってもらうために暗い雰囲気をカッコいいイメージに変えたことですが、若い人にとって「カッコいい」や「おしゃれ」はとても大事なんです。

的野:カッコ良くないと若い人は参加しませんからね。

とはいえ、行政だと「カッコいい」は優先順位の最後になるし、派手にやると怒られるんです。

入山:子供が野球選手になりたいのは、イチローや大谷みたいな一流選手がカッコいいからです。

草野球をしている人をみて「カッコいいから野球選手になりたい」とは思わないでしょう。

人間のモチベーションはシンプルです。

スタートアップを呼びたいなら、「カッコいいイメージをつくる」のが一番の早道だと思います。

的野:子供への将来なりたい職業のアンケートでは、会社の社長は最下位だったそうです。

理由は「テレビで謝ってるイメージしかないから」で、カッコよくないからだったんです。

”カッコよさ”はスタートアップ推進のための重要なポイントですね。

変革が難しい行政でも成功させるコツ

一気に変えようとはせず、徐々に味方を増やす 

入山行政を変えようとすると、民間企業以上に壁が大きいんですよね。

スタートアップはこの世にないものをやるから、規制を変えないといけません。

僕は大臣経験者に企業の顧問になってもらえと言っているのですが、それくらいしないと巻き込めないと思います。

入山:変革の空気をつくるまでにどれくらい時間がかかりましたか?仲間はいましたか?

的野一気に変えようとはせず、周囲に徐々に理解してもらいました

「僕がやるので、1年間だけやらせてください!やってみて手柄があったらそちらにお渡しします。うまくいかなかったら自分が責任をとります」という提案をしました。

それで1年目は自分、2年目に引き渡し、というケースがよくありました

入山:いつもその「1年目は〜」のやり方ですか?

的野:交渉はケースバイケースですね。

やってみて安心してもらう方法以外には、「これを行うとあなたに好都合がありますよ」という方法もありますね。

人を動かすために、その場その場で使う方法を変えてます

また、仲間は最低でも1人は必要です。

自分だけで成功させるのは現実的ではないので、少なくとも1人は味方につけといたほうが良いですね。

行政の「異動」について

入山:変革はすごく時間がかかることですが、行政は配置転換で2〜3年ごとにスタートアップ担当者が変わるのが課題です。

的野さんは、そこはいかがでしたか?

的野:1〜2年で異動してましたが、そこは配慮があったのか、似たような部署で異動してました。

入山肩書きが変わっても同じことをさせてもらえたんですね。

組織において、人事はとても大事です。

ローテーションで変わるから変革できないこともありますよね。

的野:僕の場合は、役所としての担当は違っても、外部の人と触れ合えるのは変わらなかったので取り組みを続けることができました

京都市はこれからなにを目指すべきなのか?

京都と福岡の意外な共通点。ITハードのシリコンバレーはJR京都線。

入山:的野さんは京都にどんなイメージを持っていますか?

的野福岡が目指すべきなのは京都だと思ったことがあります

福岡は成長している企業が少ないのですが、京都は成長している企業がすごくたくさんありますよね。

また、全国でいろいろなスタートアップのイベントに参加しましたが、多様性があるのは京都と福岡だけだと思いました。

京都のスタートアップイベントには外国人と女性の参加者が多かったんです。

入山:実は、JR京都線の周囲にある企業がなくなったら、世界のIT業界が機能しなくなるんです。

京都線は世界的に重要な場所なので、ITハードのシリコンバレーはJR京都線だと僕は思っています。

それぐらい潜在的な可能性がすごくありますが、ベンチャーは多くはないのが課題です。

的野:京都のスタートアップの人に会った時に、「京都のスタートアップは市役所と会話する機会を待っている」と言っていたので、話してみることからスタートすれば良いと思います。

入山:的野さんが京都市の戦略係になったら何をしたいですか?

的野:まずは勉強したいので現場に行くでしょうね。

現場の人の声を聞きたいです。

入山:ありがとうございました。

それでは、質疑応答に入りますね。

質問コーナー

質問(1):海外と連携してベンチャーを支援していたことについて詳しく聞きたい

的野氏:取り組みは2つあります。

1つ目は、福岡や日本のスタートアップが海外に行った時に受け入れてもらうこと。

2つ目は、海外の人に福岡市に興味をもってもらい、福岡市にきた時に支援すること。

とくに後者が大事だと思っています。

理由は、福岡のスタートアップがグローバル展開しようとすると知り合いがいないなど、いろいろとハードルが高いのですが、福岡で困ってる外国人のスタートアップなら、すぐに問題を解決できるからです。

さらに、その外国人がどこかにつないでくれるブリッジ人材になるし、会社が大きくなったら日本人を雇ってもらえます。

質問(2):説得する時に重要な”エビデンス”となる固有名詞とは?

的野氏:たとえば補助金なら、誰が使うの?など具体的な部分を押さえることです。

質問(3):結果が出ない期間はどうやってしのいでいたのか?

的野氏:最初は目立たないのでクレームがないんですが、徐々に大きくなると批判されるんですよね。

その時に、どんな批判でも自信を持って答えられました。

理由は、市民や住民とコミュニケーションをしっかりとっていたので、「こんなにたくさんのスタートアップの方々が期待している!」という思いがあったからです。

最後のひと言

入山:最後に的野さんが伝えたいことをお願いします。

的野:福岡が目指すのは京都だと思っていて、京都は多様性があって、世界的に知名度が高いので、すごい有利です。このまま前に進んでチャレンジしたら成功すると思います。

入山:ありがとうございました。それでは、これで終わりにしたいと思います。

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