LIFEHUB株式会社 代表取締役CEO 中野 裕士 氏
「機械と人間の融合」は、多くの人が夢見る未来ではないだろうか。
マトリックスやアイアンマン、アニメでは攻殻機動隊など、多くの作品の中で描かれるその世界は、テクノロジーの進化を経て実世界でも実現が近づいてる。
しかし、一口に機械と人間の融合と言ってもさまざまな切り口がある。
今回は、そんな世界を実現するために次世代のイス型モビリティというアプローチでチャレンジを行っている、LIFEHUB株式会社代表の中野 裕士(なかの・ひろし)氏に取材を行った。
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ーー 改めまして、御社の取り組みについて説明をお願い致します。
LIFEHUB株式会社では、次世代のイス型モビリティの開発を行っています。
同プロダクトは、足の不自由な方をターゲットに開発しておりまして、そのような方たちが不自由なく暮らせる世界を目指しています。
しかし、身体的なハンデキャップを抱えている方のみが弊社のターゲットというわけではありません。
私たちのビジョンは、人間の体を進化させ、身体的な制約をなくすこと。
その手段の一つとして、次世代イス型モビリティのように機械の体をつくり、身体機能を代替または拡張することを目指しています。
将来的には足に限らず全身の制約をなくせるようなプロダクトをつくっていきたいと考えています。
ーー これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。
祖父が工場の組立ラインの導入を行うような機械系の会社を経営していた影響もあってか、小さいころから機械系が好きでした。
中学卒業後に高等専門学校に進学し、大学、大学院と専攻はずっと機械系です。
分野としてはロボティクスや制御系統にフォーカスしており東北大学でドクターを取得。
その後、日立オートモティブシステムズ株式会社(現 日立Astemo株式会社)に入社し、自動運転などの研究開発をしていました。
さらに次世代モビリティのベンチャーであったり、解析ソフトの企業であったり、モビリティの研究開発を行っている企業でのコンサルタントも経験しました。
起業自体は、祖父の仕事を間近で見ていたため、自分でも機械系の会社をつくりたいと小学生のころから考えていました。
その時は漠然と機械系というイメージでしたが、キャリアの中でモビリティを中心にロボティクスに多く触れるなかで、人が自由を感じるためにロボティクスの技術を直接生かせる場面が実はもっとあるのではないかと感じました。
車を運転すると人は自由を感じます。人が自由を感じることとは人の身体的な制約をなくすこと。
車以外には例えばパワードスーツなどが挙げられますが、そのような製品は常時使用するものではなく、介護や運搬などの特定の作業を行うタイミングでのみ使用されているのが現状です。
そこで、人に直接的に作用して、なおかつ常時使用できるプロダクトを開発し、人の生活をアップデートしたいと考えLIFEHUBを起業しました。
ーー 開発を行っている次世代のイス型モビリティについて教えてください。
LIFEHUBで開発している次世代のイス型モビリティは、足の不自由な方がハンデを感じることなく生活できることを実現するプロダクトです。
将来的にはどのような人でも気軽に使えるような近距離モビリティを目指します。
具体的な機能は順次追加していくのですが、「立ち上がり機能」「エスカレーターに乗れる機能」「階段の昇降機能」「自動運転機能」の4点をメイン機能として搭載する予定で、場所や周辺設備に依存せずに自由な行動を提供することができます。
プロダクト自体は現在も開発中で、2023年末を目処にリリースを目指しています。
ーー 電動車椅子は参入企業が増えている分野だと思いますが、LIFEHUBのプロダクトの優位性はどこにあるのでしょうか。
弊社のイス型モビリティの優位性は、「スタイリッシュなデザイン」「コンパクトな車体」「高付加価値な機能部分」の三つだと考えています。
ーー 機能部分の技術について、少し詳しく伺ってもよろしいですか。
先程も挙げたとおり大きく四つの機能が備わっています。
立ち上がり機能ではジャイロセンサを用いて倒立振子の制御を行い、重心にあわせて車輪の前後方向を制御することで起立状態を保っています。
カメラやレーザーによる外界認識を活用した、自動車の自動ブレーキのような機能もあります。
また、ハード部分にも特徴があり、人間の足に似せた機構を採用しています。
膝立ちの状態をイメージしていただくと分かりやすいのですが、4輪走行の際は足と膝部分を接地して動作して、起立の際は足の先にあたる部分を接地して2輪で走行します。
また、エスカレーターに乗る際は4輪の状態にすることで安定性を保ったまま座面を水平にすることができるうえ、人間の足と同じ構造のため階段の昇降も可能となります。
このような多機能が一つの機構で実現できることはほとんどなく、この機構によってコンパクトさを実現しています。
ーー 起業して特に大変だったことをお伺いできますか。
資金面と人の部分が大変でした。
どちらもどのスタートアップでも課題になるとは思いますが、人の面でいうと、組織活動を円滑に進められてピンポイントで私たちが欲している技術を持っているような人材はなかなかいないので、採用の部分で苦労はしました。
ーー グローバル展開についてはどのようにお考えですか。
グローバル展開については起業時から意識しており、2025年の展開を目指しています。
アメリカ、ヨーロッパを中心に考えていて、日本で来年リリースを予定している最初のモデルと同じ機能のものを、普及用に設計したモデルとして発売する予定です。
同機能の普及版を売り出す理由としては、グローバル展開に際してさまざまな許認可の取得が必要な点が挙げられます。
例えば、アメリカの場合は車椅子は「医療機器」に該当するためFDAの認可が必要であったり、EUでは販売される製品が基準に適合していることを表すCEマークを取得しないといけません。
そういった認可取得のタイムラインを考慮し、新しく機能を追加したもので進出するよりは、日本でリリース済みのものと同じプロダクトを普及版でという選択肢を取りました。
ーー 組織風土、採用について伺えますか。
全体的にまるく落ち着きがあると思います。全員中途で入ってきているのですが、平均年齢は30代後半。
他のスタートアップと比較すると大人の雰囲気かもしれません。オフィスでパーティーを行ったり、四半期で締め会を行ったりと社内行事も積極的に開催しています。
資金調達が決まったらお祝いをしたり、新入社員の歓迎会をしたりもしていますね。
採用については、エンジニアを募集しており、組み込みソフト、電気電子通信系、ロボティクス、メカ系と幅広く採用を行っています。
ーー どのような人材を求めていますか。
今は人数が少ないこともあり、私たちがほしいと思っている経験や技術力をお持ちかどうかは非常に重要ですね。
技術的な部分以外でいうと、価値観が合う方や、チャレンジ精神が豊富で、新しいことに躊躇しないで挑戦できる方を求めています。
あとは遊び心があるかも大事だと考えています。
ーー 学生時代はどのように過ごされましたか。
中学時代は元々テニス部だったのですが、パソコンを触りたいと思って技術部を自分でつくったり、工作室でものづくりをしたりもしていました。
高専に入学後もテニスはやっていたのですが、ものづくり系のサークルがあまりなく、ここでも自分でサークルをつくりました。
そこでは電気自動車を制作してレースに出たりしていて、当時から車は好きでした。
大学生の時にも学生フォーミュラというフォーミュラカーをつくる学生の大会に参加してみたりと、車づくりは継続して行っていました。
あとはレースそのものもとても好きで、自転車のレースに参加したりもしていました。今もそういったものが好きで、最近ではアドベンチャーレースに参加したりもしています。
ーー 休日の過ごし方、リフレッシュ方法などはありますか。
基本アウトドアで、ゴルフ、アドベンチャーレース、登山などが多いです。登山はアイスクライミングを行ったり、結構ハードなものもやっていますね。
アドベンチャーレースでいうと、初めて参加したのが去年。北海道のニセコで開催された「NISEKO ADVENTURE RACE」というレースに参加して、3位になりました。
アドベンチャーレースは地図とコンパスを基にチェックポイントを回っていくレースです。
走ったり山を登ったり自転車に乗ったりボートを漕いだりというセクション分けはされていますが、ルート選択は自由。
ルート選びの戦略性はもちろん、チーム競技なのでチームマネジメントも必要です。
地図読みやマネジメントが得意なので性に合っていますし、自由度が高くてとても面白いですね。
あとは車が好きなので、カートレースをしたり、自分の車をサーキットで走らせることもあります。
他にもウインタースポーツが好きで、スキー、スノボに行くことが多いです。
しかし、腰痛持ちなので、ちょっと最近厳しい部分もあるんですけど、自身の腰痛も今回のプロダクト開発理由につながっているかもしれません(笑)。
ーー プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。
まだ資金調達していない場合は、躊躇せずに行動するのが大事だと思います。
プレシード期では、自分のアイデアは微妙かもしれない、VCに行っても投資してもらえないかもしれない、と挑戦する前に自己完結してしまい中々行動に移せない人が多いんです。
ですが、基本的に当たって砕けても失うものは特にないので、一旦砕けて成長することも大事だと考えています。
すでに資金調達を行っている場合は、とにかくプロダクト開発を行うという部分に尽きますね。
また、共通して言えるのは、とにかくメッセージを送ってみる、という点です。
私自身、TOKYO STARTUP GATEWAY というビジネスプランコンテストに参加していたのですが、終了後もメンターの方に資金調達の相談に乗ってもらったり、投資家の方を紹介していただいたり、現在もお付き合いのあるキャピタリストの方とつながるきっかけができたりと多くの面で有意義な機会でした。
このようなことも、メンターの方に直接メッセージを送ったところから始まっています。最初は慣れないかもしれませんが、ダメ元でもとにかくメッセージを送ってみるのが良いと思います。
ーー これまで、ご自身や事業の成長に寄与したものは何かございましたか。
基本的には、過去の全てのことが自身の成長と現在の自分のあり方の形成に寄与していると思います。
スティーブ・ジョブズの言葉で”Connecting the dots”(点と点をつなぐ)というものがありますが、その時々で好きなことをやってみると、結果的にそれらのこと全てが土台となり、人生のさまざまな点と点は必然的に結びついてくると思っているんです。
例えば、ものづくりや組織をつくるのは中学から行っていましたし、高専で機械系について専門的に学んで、大学でもフォーミュラカーの制作や専門知識を深めていき、ロボット系は博士号まで取得しいるので、ものごとを突き詰めて学んでいくという経験も積んでいます。
大企業に就職した際には、完成された研究開発のプロセスを見ることができたので、リーンにやる時に完成型から引き算してどこを押さえればいいかが分かります。
このように、全ての経験がつながって今があると考えています。
ーー 今後の展望について教えてください。
現在は近距離モビリティをつくっている会社ですが、パーソナルモビリティの市場のみを見ているわけではなく、人間そのものを進化させて人間のあり方を変えたいと考えています。
人間とテクノロジーが一体化し、能力を拡張させるヒューマンオーグメンテーションという考え方がありますが、まさにそこを目指しており、人間の拡張を一般化して全世界に普及させることを目標としています。
そして、そのためのインフラ企業、リーディングカンパニーというポジションを目指しているのがLIFEHUBです。
そこを実現するために、まずは現在開発している次世代のイス型モビリティを軸に上場して、会社としての基盤をつくろうと考えています。
ーー 人間とテクノロジーの一体化について詳しく聞いてもよろしいですか。
例えば脳みそとデバイスを接続するようなことや、脳の情報をインターネット接続することですとか、人工的な眼球を入れて視覚をAR化することで、手のジェスチャーを推定してARディスプレイの操作ができるようになるかもしれません。
また、そのような状態になるとスマホなどを持つ必要がなくなり、荷物が減り忘れ物がなくなるようになります。
あとは単純に物理的な能力を引き上げるような技術ですとか、切り口はたくさんあると思います。
そのような人間とテクノロジーの一体化を、ウェアラブル端末などではなく、直接身体と接続することで人間を拡張し、制約のない世界をつくっていきたいです。
ちなみに、このあたりの機械と人間の融合という点は『アンドリューNDR114』という映画がかなり印象に残っていて、人間の体をつくりたいと感じたきっかけでもあります。
ーー 最後に、読者へ一言お願いいたします。
「技術を使って人間を変えてやるぞ」ということを聞いて、ワクワクするような人がいましたら、ぜひ一緒に働ければと思います!
LIFEHUB株式会社
・住所 東京都台東区上野3-2-4 ザボン村上ビルB1
・代表者名 中野 裕士
・会社URL https://www.lifehub.co.jp/
・採用ページURL https://www.lifehub.co.jp/post/recruit
東京国際工科専門職大学 IoT専攻3年生。
高校生時より、大手旅行メディアにてライターを努めた後、NPO法人にて教育系メディアの立ち上げに携わる。
その後、AI系メディアのブランディングチームやフリーランスにてWebライター、SEOマーケターとして活動中。
得意領域はITとおでかけ。
Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100010944587380
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