TOP > インタビュー一覧 > 「ゆとり世代の最適解を出したい」yutori 片石氏が目指す ミレニアルコンテンツカンパニーの意味とは
株式会社yutori 片石貴展氏
●株式会社 yutori CEO 片石貴展氏
株式会社アカツキへ新卒入社後、新規事業部の立ち上げやコンテンツ制作ユニットのPM、インフルエンサーエジェント立ち上げ等を担当。「古着女子」を立ち上げ、2018年に株式会社 yutori を創業。
2018年6月 Instagramを使って、0円での起業に成功した株式会社 yutori(以下、yutori)。「古着女子」をはじめとする各種アカウントの総フォロワー数は26万人を突破するなど大きく話題になっている。
そんなyutoriは10月29日のプレスリリースにて「ミレニアルコンテンツカンパニー」として自らを定義し、今後の構想について発表した。これまで4,000人もの起業家を見てきた弊社栗島が「絶対に成功する」と大絶賛する 片石氏の未来像、またセンスの根源について深掘りをした。
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ーそれでは改めてyutoriのこれまでの事業内容について教えてください。
片石:今やっている事業は大きく分けるとメディアとアパレルの2つです。
メディアは「古着女子」の Instagram、Twitter、youtubeです。Instagramがメインになります。
アパレルは「9090(ナインティナインティ)」という90年代ボーイッシュテイストな古着コンセプトショップと「dabbot.(ダボット)」というミレニアル世代特化のスポーツブランドがあります。
画像出典元:PR TIMES
これまではオンライン上のショップやメディアだけを運営していましたが、今後はオフラインでのコミュニティスペースも作っていきます。平日はインフルエンサーやクリエイターが集まる居心地のいい空間にしたくて。たまり場のようなイメージですね。土日にはイベントも開催していく予定です。
古着って一点ものだから基本的にオンラインと相性が悪い商材なんですよ。「リアルで古着を売るにはどうしたら採算がとれるのか」「オフラインとオンラインが同時に存在することで、どのように相互が連動していくのか」を検証していきたいです。
ーそもそも片石さんがyutoriの事業を始めたきっかけは何でしょうか?
片石:前職のアカツキで新規事業の一環としてインスタグラムの運営を行っていました。当時、趣味で複数のアカウントを同時に走らせる中で、一番伸びがよかったのが「古着女子」でしたね。
実は、学生時代にメンバー兼プロデューサーとしてアイドル活動をしていて。デビューもできそうなくらい成功したんですが、自分を信じきれなくて辞めてしまいました。その後、後悔が残ったので色々と試しましたが…なかなか当たらなかったんです。
そんな自分にとって「古着女子」はようやく巡ってきたビジネスチャンスでした。しかも自分の好きなファッションという分野で。アイドル、アカツキの頃の経験を含めると、yutoriは自分にとって3回目の起業という感じです。
趣味として副業でアカツキでの業務委託をやりつつ「古着女子」の運営を行っていましたが、事業として本格的に取り組み始めたのは今年の1月くらいですね。父が起業家なので、起業したい気持ちもありました。
話題は先月リリースされた「ミレニアルコンテンツカンパニー」について。
ーとても面白いコンセプトですよね。普通の企業だと、メディアとEC事業と、という形でプラットフォームを作る方向に走っていきそうだなと思うんですが。なぜ「ミレニアルコンテンツカンパニー」として名乗ったんでしょうか?
片石:既存のマッチョな評価軸で図られたくないという気持ちがあって。勝てるイメージが無いし、みんな強そうだから勝つ気もあまり起きなくて。だからエネルギー的にもプラットフォームのビジネスをやるのは負け筋だと思っています。
だからこそyutoriはプラットフォームではなくコンテンツを提供する企業としてやっていきたいなと思っています。
アイドルとして、また古着女子やそれに依存しないまったく新しい切り口のブランドで成功した経験があります。それらは「抽象化した要素」「自身の感性」「トレンド」という3つの予測の掛け合わせで考えてきたんですが、これは他の領域にも転用できると自負しています。
ー片石さんのユーザーが求めるものに気付くというのは才能なのか、それとも事後的に身につけたものなのでしょうか?
片石:ずっと「人」に興味があって、割と先天的なものもあるのかなと思います。
「この人が今考えていることや大事にしていることは、どういう家庭環境・学校での経験・クラスの立ち位置によって作り上げられてきたのか」というストーリーに没入するのが好きで。年が経てば経つほど、そのフレームワークというか「人」がその人格を作り上げる上での重要な要素ってある程度ポイントがあるじゃないですか。
その感性とフレームワーク的なのものを一緒に統合させながら物事を見ている感じです。今でも人間観察が好きで、休日に原宿とかで歩く人を見ていますね(笑)
でも老若男女を巻き込むコンテンツというよりは、僕らの半径5メートルにある空気感をかぎ取って、僕らが好きな人が集まってくるようなプロダクトを生み出したいんです。これこそがミレニアルコンテンツだと思っています。
既存の評価軸で評価できるような存在とか匂いに僕らがなってしまってはいけないと思うので、まったく新しい企業の在り方やモノの作り方とかにチャレンジしていくという意味も込めて、ミレニアルコンテンツカンパニーのyutoriと改めて名乗った感じですね。
ー完全にブランドごと作りに行っている感じですね。
片石:自分たちの聖域を広げていくというか、不可侵な領域をどれくらい僕らの中で広げていけるかっていうチャレンジなのかなって気がしますね。
ー「自分たちが大衆にあわせていく」というよりは、「大衆が俺たちに合わせろ」という感じでしょうか?
片石:僕たちが作っていくものはユーザーの0.2歩とか0.3歩位先にあるものなので、あくまでもみんなが何を欲しているのかはかなり深いレベルまで見ています。
ー片石さんは「私とあなた」という二人称の関係から考えるデザインシンキングが得意なんですね。このタイプはロジックではないとこから踏み込めるので、課題想起ができたり起業家に向いているんです。
片石:確かにその考え方はすごく好きですね。僕はめちゃくちゃ自分に正直というか、インナーチャイルド※が結構許せるようになってくるとその人の深みや、「この人の子供っぽい部分ってどういう性質なのか」みたいなのが分かってくるんです。
アカツキの一人目の上司がU理論※とかを専門的に勉強されている方で。何も仕事ができないときに深掘りさせられたんですよ(笑)でも今となっては、そういう機会にも恵まれたのはラッキーだったと思います。そこでだいぶ素地ができたなって気がしますね。
※ インナーチャイルド : 心の内側にある子ども時代の人格
※ U理論:過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術
ーなるほど。だからミレニアルコンテンツカンパニーという概念まで踏み込めたんですね。
片石:そうですね。でもあの言葉を出すのに2〜3ヶ月はかかっています。どれもしっくりこなかったですし、勇気も要りました。
ーミレニアルコンテンツカンパニーとして、今後具体的に何をしていくのか、改めて伺っていきたいと思います。
片石:コンテンツというか広義のIP(知的財産)を作るという感じですね。かっこいい言葉でいうと知的労働というか、自分たちの知性で肉体とか労働集約的な部分を超越して、そのお金を生み出せるかがテーマだと思っています。これを掲げていると、上流から考えられるような、賢くてセンスのいい仲間が集まってくると思っています。
会社は「どういう沿革を辿ってきて、その会社が大事にしてることは何で、そこから生み出されたプロダクトがどのようなモノで、そのプロダクトをプロモーションするためには…」という様に連動していますよね。個人もそれと一緒だと思います。
上流から考えられるというのは、まったく自分とは異なる考え方や価値観とは判断基準を持った他人になりきれること、つまり思いやりがあることだと思うんですよ。そんな思いやりを持った人と一緒に仕事をしたいですね。
広義のIPを作って、それが独り歩きして行く姿をどれくらいの世界観やスケール感で描くことができるかが恐らく僕らのアップサイドで、yutoriとしての力を試されている部分だと思います。
ー最近はyoutuber然り、その人自身がコンテンツ化してきていると思うのですが、そういったものを活用していく予定はありますか?
片石:はい。実は既に仕込んでいるものもあります。
ーなるほど。メディアとリアルのコミュニティ、EC、そして更にその先…という話があったと思いますが、メディアの手前のところに強烈な人・コンテンツ・IPのプロダクションのようなものを作っていくような気がします。
片石:おっしゃる通りですね。メディア自体も、今はInstagramがメインですが、それがメインではない別のモノも準備中です。それぞれが連動しつつも、コアはかぶっていないのでどのように広がっていくのかをかなり考えています。
ーまずは最初の事業ラインを沢山作っていく中で強烈なIPが出来上がったら、そのIPをコアとしてまた横展開したり、深掘りしていくみたいな感じですね。
片石:既存のInstagramを利用したマーケットにおいて、インフルエンサービジネスを行っている企業は存在するんですけど、僕らの場合は「必ずしもインフルエンサーを活用しなくても自分たちだけでIPを生み出せる」という自信があります。
ーこれはだいぶ楽しみですね。
片石:楽しみです、めちゃくちゃ。よく「ファッションの会社だよね」とか言われるんですが…
ーちょっと違いますよね(笑)
片石:「そうなんです。ファッション大好きなんです。」みたいな感じで答えています(笑)
ー 一般的なスタートアップがよく言われる「特定のプロダクトに集中して事業しろ」っていうのとはまた違いますね。
片石:そうですね。ワンプロダクトでやるのは、できればそれに越したことはないと思うのですが、如何せん僕は最初が「古着が好き」から入ってしまっているので…
この事業は数千億とか大きな売り上げにならないとしても、24歳の起業家が足元を固める事業としては意味があると思っています。ただ次が勝負で。次の事業を始めるのは早ければ早いほど良いなと思っています。まだ今は種をまいて、水をじょうろに入れたくらいですね。
ー種まきフェーズですね。これ投資家側にも事業のセンスが要りますね。理解しないと投資できないですね。
片石:できないと思いますね。だから僕らとの相性はパキッと分かれるのかなという気がします。
ー投資家さん達からはどこを期待されていると思いますか?
片石:「誰もやってないことをやってほしい」ということではないでしょうか。
yutoriという社名にしたことも、ミレニアルコンテンツカンパニーという宣言をしたのも、「僕らの世代での最適解を出したい」という自負が自分の中にあるからなんです。
当たるかどうかは分からないけれど、とりあえずユニークなものを作ってくれそうだなという雰囲気を感じ取ってくださったり、投資をして下さった4人のセンスや匂いと、yutoriが近しい部分があったのかもしれないですね。
ーパターン認識なので言語化が難しいのですが、成功したり、やりきる人の匂いってあるんですよ。特有の雰囲気とか、思考と行動の回り具合とか。それを片石さんからビシビシ感じますね。
片石:光栄です。あまり自分に自信が無いので…
ー自信を持ちすぎてもだめですし、難しいですよね。
片石:欠乏や恐れって他と比較することで生まれますよね。そして、比較するとその欠乏を許せなくなり埋めようとする。ネガティブな感情からくるエネルギーは短期的には起爆剤になるけれど、取りつかれると戻ってこれなくなってしまう。
だから「弱さも含めてありのままの自分を受け入れることが大事」であると思っているし、そういうマインドとかスタンスでいると会社の居心地も良くなるので、結果的にも面白い人が沢山集まってくるのだと思っています。yutoriという社名をつけたり、自分自身がそのようにいられるような環境を作ったことがかなり大きいですね。
ーちなみに今のような自己内省みたいな思考はどうして生まれたんでしょうか?
片石:「自分が発言したことが相手にどのように捉えられるのか」とにかく考えました。そのせいで、自分が思ったことや好きな人に素直に好きって言えなくなってしまう感覚が生じてしまったんです。それがようやく最近溶けてきてバランスを保てるようになった感じですね。
ーそういう気持ちをあえて無視できるようになったということですか?
片石:そうです。「あ、自分恥ずかしいって感じてるな」「でもそりゃあ思ってることを言うの恥ずかしいよね」みたいな会話が自分の中で起きている感じです。
ーそれが出来るのは強いですよね。アイドルをやっているときは辛かったのではないですか?
片石:正直、アイドルをやっているときは全然面白くなかったですね…
「何かのファクトで自分を証明しないといけない」という思考があったので、ひたすらフォロワーや動員数、Twitterのいいねの数を気にしていました。本当はコアな音楽が好きだけど、数字とるためにお客さんに受けそうな曲を歌う毎日で。「そもそも何のためにアイドルをやっているんだっけ」という話にもなりました。
起業家としても、「この日のため今を生きている」よりは、「今この瞬間にどれぐらい没入できるか、その刹那がどれぐらい充実するか」ということが大事なんだと学びました。
ー既存の投資家さんともこういう壁打ちみたいな事をやっていたりするんですか。
片石:投資家さんとは数か月に一度報告をするくらいです。
それぞれの領域のプロにお会いして、それをインプット、統合するということは自分で行っています。副業で手伝ってくれてる友達が「いかにyutoriであるか」ということに対してすごくシビアだし優秀なんですよ。だから用途に応じてそれぞれの方と壁打ちをして、最終的には自分で形に作りこんでいくという事をしています。
ーいいですね。自分がやりたいことをやったものから派生した結果、強烈に人を惹きつけてますね。
ー資金調達をされたという事ですが、何のための資金として考えていますか?
片石:調達額は少ないんですが、オフラインでのコミュニティスペースなど今仕込んでいるものに投資をしています。
自分たちだけのリソースを使ってコンテンツを出すのもいいと思うし、「produced by yutori」のような形でコンテンツを作るのも理想的だなと思います。
ーでは今後はクリエイターとの架け橋のような役割を担っていく予定なのでしょうか?
片石:そうですね。そこに勝ち筋があるから、割と一回り二回り上の世代の方とも一緒にやっていけるような会社にはなれるのかなと思っています。僕らも上の世代の人に対して敵対心はまったくないですし、むしろ「勉強しながら足りないものを補っていきたい」というニュートラルな思想をもっているので。
ーいいですね…やはり、yutoriの話を聞いているとプラットフォーマー型からコンテンツ型の社会に戻ってきている感がありますね。
片石:そうですね。コンテンツで勝負するというのは、お金を持っているかどうか、人脈が強いかどうかなどが関係無いフラットな世界で戦うことだと思っているので、yutoriの思想とも合致するし、面白いなと感じます。
ー今後も期待しています。
片石:ありがとうございます。
取材者プロフィール
栗島祐介
津田塾大学英文学科に在学。趣味は映画鑑賞、ダンス、旅行、ライブに行くこと。
“裸眼のVR”で新しいバーチャル表現で池袋のカルチャーとコラボレーションするkiwamiの取り組みとは
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