株式会社TeaRoom 代表取締役 岩本涼 × プロトスター株式会社 代表取締役 前川英麿
「お茶」は日本の伝統文化が凝縮された世界。
株式会社TeaRoom 代表取締役 岩本涼氏は、「お茶」という文化価値をつかって、様々な社会問題を解決に導いている。
TeaRoomは、日本茶の生葉をつかったクラフトジン(日本初)を商品化することに成功し、三重県にある四天王寺(曹洞宗 塔世山)との記念事業を手掛けるなど、幅広い分野で活躍している。
とくに注目を集めたのは、その時の気分に合わせて自由にお茶をセレクトできる『YOU IN』だ。
この商品は、単に選べるだけでなく新しいライフスタイル”ムードペアリング(昨日にとらわれすぎず、見えない明日を不安視せず、この瞬間に生きる私自身を受け入れてみる、という生き方)”を提案しているのが特徴である。
今回紹介するのは、挑戦者支援を行うスタートアップ企業、プロトスター株式会社の代表取締役 前川 英麿氏と岩本氏の対談だ。
お茶の世界の奥深さや魅力、TeaRoomの目指している世界観、お茶をビジネスでうまく活用する方法について岩本氏に語っていただいた。
このページの目次
前川:岩本さんはお茶をつかったビジネスをされていますが、HPにある「お茶を通じて日本の価値を世界に証明する」がTeaRoomのミッションですか?
岩本:はい。ただ、創業時から変わらず持っている社の理念は「対立のない優しい世界を目指して」です。
前川:「お茶は衛生学である」と書いてある本があり、一方でお茶は文化でもあるし、アート的な側面もありますが、岩本さんの捉え方を教えてください。
岩本:私は「多面的な価値をいかしたもの」と考えています。
お茶は、様々な概念に紐づいていて、見せる側面に応じて、機能性に基づいたプロダクトや、茶室などの場と紐づく精神性を伝える手段、トレンドにあわせた商品にもなるんです。
さらにお茶には、東インド会社がお茶を輸出入する航路を確立したことで世界の食の流通インフラを支えてきたともいえる歴史もあります。
だから、「お茶は物流的なインフラであり、伝統にも紐づいた精神的なインフラでもある」と捉えています。
前川:ビジネスをスタートする時、トレンドでいくのか?それとも保守的な戦略にするのか?という点で悩みませんでしたか?
岩本:私たちが最初に行った事業は静岡の工場を承継することで、そこから農業に参入しました。
お茶は”レガシー”といわれる産業なので、民意を得る必要があります。
そのため、静岡に農地所有適格法人の設立や、お茶産業の上流部分の場所をもちつつ、周囲の人々に応援される会社に育てることを目標にしていました。
前川:民意を得るためにという点も含めて、明確なビジネス戦略を立てていたのですね。
岩本:農業の世界を例えるならば、面取りゲームです。
たとえば、北海道の土地を押さえてしまえば、誰も北海道でお米を作れなくなります。
もう1つの特徴は、お茶など衰退している産業に関わっている方の年収が下がっていることです。
これらの背景があるため、潤沢な財力で土地を買い、農家などの技術者に高額な報酬を払う、一次産業はそういった状況になってきています。
私たちはTeaRoomの拠点である東京で、お茶の価値を幅広く伝えて資金を集めることができるので、東京でうまれた資金を地元で貢献することができるビジネスモデルです。
前川:岩本さんは起業家でもありますが、起業された理由を教えていただけますか?
岩本:私の中には「できること」と「やるべきこと」の2つの軸があります。
「できること」は自分ができることの最大値で、自分の能力の延長線上にあるもの。
「やるべきこと」は、社会がやるべきだと期待してることに応えることです。
だから、自分が所属したコミュニティから絶対に抜けないと決めていて、自分ができることを最大限貢献することを意識して生きてきました。
そして、自分のできる役割は”点と点をつなげていくこと”で、プロデューサー的な力を発揮できるんじゃないかと気づいたんです。
千利休がプロデューサー的な役割を果たしていたことも関係しています。
かつ、衰退してきた日本茶産業を救う人物が社会から求められていたと感じたので起業しました。
前川:工場を買うためにはファイナンスの知識が必要になりますが、良いチームメンバーがいたのでしょうか。
岩本:私の右腕のような、ファイナンス戦略や事業戦略を中心に行う者と、静岡の工場でお茶づくりや製造に取り組む者とで創業しました。
前川:20代で起業された方はWeb3.0のサービスでスタートアップとして挑戦する方が多い中で、まったく違うルートを選ばれたんですね。
岩本:茶会でもブロックチェーンの構想が出てきていて、今はテクノロジーの力でどんな偉人の茶会でも再現できます。
それに、茶会の組織は非常にDAO的です。
主催者が茶会を開いて、関係するお客様を招いて、そこで経済性が発生して循環していくからです。
前川:茶道は古いものと新しいものが融合した思想だからこそ残っているのでしょう。
岩本:私が感じる日本らしい価値観は「外来からきた新しい概念に対して、価値づけをしてリスペクトをして肯定して和風化する」という考え方です。
「最新のものをきちんとリスペクトして、自分たちなりの新しい価値をつければいい」と言う意味です。
外から来たものを取り込んで自分たちらしく消化して、それを再輸出していくのが日本の強みだと思っています。
前川:「和風化する」とは、茶道とWeb3.0を融合させる取り組みのことですね。
岩本:茶道にWeb3.0を導入する場合、導入に反対する保守派の意見もあるとはいえ、いくらでも磨けばいいと考えています。
なぜなら「茶の湯の精神性はそんな簡単に壊れない」からです。
茶道がもつ価値としっかり向き合い続けて、それを大切にするために磨き方を変えていくのが日本の精神性だと思います。
岩本:その話に関連することですが、日本は外資の資本投下によるサービスが多すぎることも課題です。
日本は高齢化など課題先進国であるにもかかわらず、課題を直接的に解決する本質的なサービスではなく、資本投下によって一番リターンが得やすい領域を攻めている印象があると感じます。
たとえば、メンタルヘルスの分野で外資系企業が入ってくると、診療する人と患者をオンラインでマッチングするサービスに注力します。
クーポンをたくさん配るなど、お金を使って集客してマッチングするビジネスモデルです。
でも、メンタルヘルス分野の患者さんの希望は、「駅と自宅までの間に安心して相談できるスナックのママみたいな人がいて、自分たちの居場所になるところがほしい」です。
だから、メンタルヘルスのサービスを行う会社が収集したデータを元にして、適切な場所にお茶屋を置いていく、というビジネスモデルが日本社会には最適だと思っています。
メンタルヘルスの分野を外資のサービスでつくると、マッチングの精度を上げて母数を上げることだけに注力してしまうのが問題です。
顧客との向き合い方が本質的であり、日本の磨き方として正しいと思います。
前川:他の人々は、岩本さんと違って日本を探求できていないのかもしれません。
岩本:茶道では、亭主が一番きれいだと考える茶碗の「正面」をお客様に見えるようにしてお茶をお出しします。
それに対してお客様は、亭主へのリスペクトの気持ちとして、「せめて飲み口を正面にするのは避けよう!」という意味で正面を外すために2回回してから飲むんです。
この時には「2回回す決まりを守る」ではなく、亭主にどうやって感謝を伝えるか、言語を介さずとも伝えられる方法があるのか、を考えることが重要です。
目の前にあるマナーブックよりも、その裏にある背景が大切だからです。
今の日本文化の学び方は表面的なマナー作法講座になってしまったので、そこにギャップがあると感じています。
多くの日本人が日本文化を学びたいと思っているのに、学び方がわからないし、学ぶ場がマナー講座しかないので、日本の本質性を学ぶ場所がないんですよね。
前川:もともと茶道はどのようなものだったんですか?
岩本:茶道は1つの物語だといわれています。
1つのテーマや伝えたいことがあり、それを言語ではなく”非言語のコミュニケーションで伝える”のが茶道です。
茶道具やお花などいろいろなものでテーマを表現し、お客様には亭主がつくった物語を体験してもらいます。
そのテーマを読み取れた時に亭主とお客さんに”つながり”ができることが茶道の魅力です。
だから、亭主は物語を紡ぐ力が要求され、お客様は物語を読み解く力が要求されます。
前川:そういう意味では、茶道は高級な遊びともいえますね。
岩本:実は、「茶道は”おままごと”と同じである」と私は考えます。
子供がおままごとをすると「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と言いますよね。
でも、お母さんに対しては敬語を使いません。
ままごとという空間が仕切られたことで、言葉使いなどの振る舞いが仕切られるんです。
囲われると次元が変わり、そこで役割を演じるようになります。
これがお茶の世界とままごとの非常に似ている部分です。
前川:起業家やビジネスマンと茶会の文化は親和性が高い気がします。
岩本:とくに20代の方で茶会にくる人が増えていて、文化に対しても関心が深まっています。
その理由は、世界に出た時に日本人が持ち寄るアセットがなくなってきているからです。
その課題を解決するのが、日本独自の考え方です。
私たちの稽古場に通っている人は、「日本独自の価値観を学ぶこと」を目的としています。
前川:起業家向けのお茶会を開催したいですね。お茶はサロンに似た価値観があるんですか?
岩本:そうですね、革新性のあるお茶会は完全にサロンです。
お客様は茶会に参加した後すぐに感謝のお手紙を書きますが、その時に、お客様が読み取った茶会のテーマや亭主の工夫を書にまとめて伝えます。茶会の中での体験を通じて、同じ時を過ごし、価値観を共有する。
これがお茶的なサロンです。
岩本:以前、「気づきはセンスが良いんではなくセンサーが良い、気づく力が高いんだ」と言っていた方がいました。
情報化社会の今は非常にノイズが多く、社会の中に10あるとすると1つ変化があっても気づきにくいんです。
だけど、余計なものを削ぎ落したお茶の世界は、社会にある10が1に凝縮されていて、1の中での0.1の変化を見せます。
茶会体験を繰り返して0.1の変化に気づける力をつけると、社会の0.1の変化にも気づけるようになり、10ある社会の0.1に気づければトレンドなどを把握できるようになります。
それで消費者の変化や次のトレンドが読めるようになる……つまり、結果的にセンスが良くなるんです。
この気づく力が今の時代に求められているし、競争力を高めるためにはノイズの多い世の中でも気づく場(茶会など)をもつ必要があります。
茶会は、世界に出ていくための競争力を学ぶ場で、アセットを持つ人を育てることにつながります。
前川:ありがとうございました。ここからは視聴者のみなさんの質問にお答えいただきます。
岩本:私たちの会社はカルチャープレナーを目指していますが、カルチャープレナーとは「日本の本質性を一番うまく使えてる方々」と考えています。
日本の本質性とは、サービスではなく”もてなし”という考え方や、主客一体(主人と客人が対等な関係でお互いに啓発しながらその場をつくる)が組み込まれたサービスなどです。
岩本:オープンイノベーション的な考え方になってきました。
お茶を売る際は1人の営業マンが10社に営業するよりも、大企業の取締役になった方など10人に仲間になっていただいたほうが、経済的なインパクトがあるだろうと思っています。
たとえば100万円で凄腕の営業マンを雇うよりも、10万円を10人に顧問料で振り分けるやり方です。
自分たちの価値観や考え方を伝えていただける仲間を増やしていきたいと思います。
前川:最後に今後の抱負をお聞かせください。
岩本:創業5年たちましたが、ほとんど資金調達をしてこなかったので、今後は資金調達に力を入れていきたいです。
今年来年の展望は、海外のカンファレンスにもでようと思っています。
お茶というプロダクトだけの価値ではなく、その裏の精神的な価値を伝えるには時が満ちたタイミングだと思うので、全力で世界中に発信していきたいです。
前川:素晴らしいですね。次の時代の岡倉天心になっていただけることを期待しています。今日はどうもありがとうございました。
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