”捕る漁業から育てる漁業へ”。養殖現場訪問によるインサイト×テクノロジーで、ウミトロンが目指す世界とは

”捕る漁業から育てる漁業へ”。養殖現場訪問によるインサイト×テクノロジーで、ウミトロンが目指す世界とは

ウミトロン株式会社 Co-founder / CEO 藤原 謙 氏

記事更新日: 2022/11/09

執筆: 長田大輝

「捕る漁業から育てる漁業へ」

水産業の中でも養殖業の課題解決に挑む 藤原 謙(ふじわら・けん)氏はこう語る。

水産庁が発表した令和3年度水産白書では、世界の漁業・養殖業生産量は世界的に急成長しており、2020年度の総生産量の約半数を養殖業が占めると発表されている。

そんな注目産業である養殖業の課題をリモートセンシング技術で解決する、ウミトロン株式会社Co-founder / CEOの藤原 謙氏に話を伺った。

成長産業の一つである養殖業の課題解決に着目

編集部:ウミトロンの事業概要を改めて教えてください。

藤原:養殖業の課題解決に特化したプロダクトを開発しています。

海で魚を育てる養殖業の現場にAIや衛星データといったテクノロジーを導入することで、生産効率の向上や環境負荷の低減の実現に取り組んでいます。

また、ウミトロンの技術を活用して育てたシーフードブランド「うみとさち」を立ち上げ、量販店や飲食店などを通して一般消費者の方へのサステナブルシーフードの販売も手掛けています。

編集部:水産業の中で養殖に着目したきっかけを教えてください。

藤原:水産業において、天然資源を捕る漁獲高は、グローバル規模で生産高がずっと横ばいになっており、海洋資源量も限界に達しているといわれています。

今後は漁獲量管理や規制が厳しくなる分野だと捉えています。一方で養殖業は、世界で拡大している海産物需要の供給に応えていて、成長産業の一つです。

捕る漁業から育てる漁業へのシフトはグローバルトレンドでもあるので、技術を活用してサポートするインパクトの大きさを感じ、養殖業に着目しています。


スマート魚体計測システム「UMITRON LENS」解析イメージ画像

画像出典元:「ウミトロン株式会社」

編集部:一次産業の領域で、スタートアップとして勝負する楽しさを教えてください。

藤原:生き物を育てるという部分に面白さを感じています。

私は航空宇宙系のバックグラウンドなのですが、宇宙開発は熱力学や材料力学といった学問の知見を活用してロケットや人工衛星、地上アンテナなどを開発します。

そんな宇宙開発において生物と接点をもつ領域は、それこそ宇宙人が見つからないと始まらないと思っています。

私自身は生き物も好きで、テクノロジーと生き物という話においては、生き物の成長に何がどんな影響を与えるか、その要因をテクノロジーでどのように解決するかに非常に関心があります。

テクノロジーと生き物の融合の視点を常に持つことが、一次産業の領域でスタートアップとして勝負する楽しさの一つだと思います。

編集部:創業してから大変だったことを教えてください。

藤原:常に大変なのですが、創業直後の2016年頃はよく記憶に残っています。

私もそれまで養殖業との接点は全く無かったため、大学の先生に愛媛県の生産試験場や実際の生産者の方を紹介いただいていました。

当時から、プロダクトアウトではなくしっかり現場に赴き、課題起点でプロダクト開発をやりたいと強く思っていましたので、養殖現場に入り浸っていました。

大学の研究施設内に研究者向けの宿泊施設があり、3ヶ月ぐらいそこに泊まり込み、町内で実際に養殖業を営む方にひたすらヒアリングをしながらプロトタイプ開発に取り組んでいました。

当時は創業メンバーの3名のみの時期で、私が一人で現場にいて、山田が事業開発に取り組み、岡本が東京の自宅でソフトウェア開発をやるという体制でした。

その時代が一番大変で記憶にも残っています。

編集部:ウミトロンは、2021年に「うみとさち」を発表し、くら寿司でのAI桜鯛やAIハマチ提供のニュースも話題になりました。消費者に届く海産物の販売を開始したきっかけはありますか?

藤原:きっかけは、新型コロナウイルス感染症の影響です。2020年になり行動規制が開始され、多くの飲食店が営業中止になりました。

するとそういう飲食店に卸している養殖事業者のもとに大量の在庫が滞留してしまったのです。

我々が養殖業の課題解決に挑む中で、商流をしっかりつくることが大きな課題として顕在化しました。

養殖現場の生産者が抱える課題として商流基盤があるのであれば、ウミトロンとして養殖業者に向けたプロダクトを提供するだけでなく小売業にもアクセスできるようになるべきだと考え開始したのが、サステナブルシーフードブランド「うみとさち」です。

  • おいしさ
  • 安心
  • サステナブル


の3点を兼ね備えた養殖魚を消費者に提供しています。

ウミトロンだけでなく個人的な考えとして、テクノロジーやサービスは最終的に消費者につながると思っています。

テクノロジーが最終的に世の中に大きな価値を提供するためにエンドユーザーまで一気通貫で取り組みたいと以前から考えてはいました。

その部分が2020年時点で現場の大きな課題として浮かび上がってきたため、小売ビジネスを開始させました。


サステナブルシーフードブランド「うみとさち」
画像出典元:「ウミトロン株式会社」

人工衛星がどうエンドユーザーに貢献できるかを考えた学生時代

編集部:週末はどのように過ごしてリフレッシュされていますか?

藤原:週末は子どもと過ごしています。小学校4年生と2年生の息子がいるのですが、今は二人とも野球にハマっています。

週末は子どもを野球チームに連れていき、私もチームに混ざってコーチングをやっています

一日中野球をやるとすごく疲れますがそれがとてもリフレッシュになってます。

編集部:コーチングもされているのですね!昔野球の指導をされていたご経験もあるのですか?

藤原:高度な指導をしているわけではないです。

小学校4年生以下と2年生以下のチームなので、一緒に入ってキャッチボールをして投げ方を直してあげたりとか、守備の時のアドバイスをしたりとか、そういったことを実際に練習現場に入ってやっているといった感じです。

編集部:学生時代はどのようなことを考えながら過ごしていましたか?

藤原:大学生の頃は小型衛星開発にどっぷり浸かっていました。

学部3年生の時にCanSatプロジェクトに参画してから大学院を卒業するまで、ずっと小型衛星開発のことを考えていました。

その開発経験の中で非常に考えさせられた点は、小型衛星はミッション(※1)がないと、ただ箱を打ち上げているのみになってしまうということです

人工衛星はバス部とミッション部と呼ばれる部分で構成されているのですが、ミッション部とは文字通りその人工衛星の目的を達成するための部分。

突き詰めていくと最終的にテクノロジーがどう役に立つのか、波及効果として衛星の技術で恩恵を受ける人が本当に存在するのかという思考です。

ミッションをいかに創出するかの重要性に気づけたのは、自分の中で大きな糧となっていて、人工衛星の開発の中でもこの観点に一番時間を使っていました。

この時の経験から、新しい技術が世の中に出てきた際に、最終消費者や技術に触れた経験のないエンドユーザーに何らかの価値を提供するというのが、個人的なミッションになっています。

ジャパスタメモ

※1:人工衛星はバス部とミッション部と呼ばれる部分で構成されます。ミッション部の開発は、人工衛星を活用して何を観測して最終的に何の課題解決に役立てるのかの視点から逆算して進めることが多いです。

 

編集部:JAXAでの制御系研究開発員としてのご経験、三井物産での新規事業開発の経験が、今にどうつながっていますか?

藤原:エンジニアからキャリアを変え、MBAを修めて大手商社でビジネス経験を積みました。

ビジネスモデルを考えるフレームワークや、その技術をどんな領域にどう活用していくのかという観点においては、エンジニアの頃よりは視座が上がって今に生きていると思います。

編集部:三井物産で人工衛星の新規事業開発に従事されていた頃から、衛星データ利活用での起業は想定していましたか?

藤原:衛星データ利活用はずっと取り組みたいと考えていました。三井物産で新規事業に従事していた頃は農業分野の課題解決に取り組んでいました。

その経験の中で一次産業と衛星データの組み合わせは非常に可能性があると感じていました。

ただ農業と衛星データの掛け合わせはサービスが既に立ち上がりつつあったため、海洋に注目してサービス検討していました。


「UMITRON PULSE」で可視化した海面温度の分布図

画像出典元:「ウミトロン株式会社」

現場訪問と課題起点を大事にするカルチャー

編集部:CXO及びエグゼクティブ人材をどのように獲得していますか?

藤原:研究開発スタートアップとして、フラットな組織をいつまで維持できるかは重要なテーマだと考えています。

ウミトロンは、生産現場で起きている課題を会社全体でしっかり理解したうえで、革新性のあるプロダクト開発を進めるのが強みです。

そのスタンスを継続させる際、階層構造が強い組織だと現場の意見が見えにくくなったり、現場チームと開発チームの距離が離れてしまう可能性があります。

今後も会社のコアコンピタンスとして徹底した現場主義を大事にしていきたいので、フラットな組織であることは重要です。

現在は創業メンバー以外のCXOはいません。フラットな組織を維持しつつも自分の役割をしっかり担えるCXOに出会えたら、ぜひ一緒に未来をつくっていきたいと考えています。


実際の養殖現場に足を運ぶ藤原氏

画像出典元:「ウミトロン株式会社」

編集部:2022年6月に発表されたウミトロンのValuesに込めた思いを教えてください。
(参考:ウミトロンのValuesを公開します。

藤原:Valuesに込めている私の思いとしては、スタートアップとは、新たな価値体系の創造を担う組織だと思っています。

世の中の価値観を変える出発点には、 常にテクノロジーの大きな発展があります。

チームとして、テクノロジーの発展とそれを世の中に広げていくという両輪のアクションを継続的に出来る行動指針と会社のカルチャーをつくっていきたいというのが、Valuesに込めている私たちの思いです。

デザインの背景としては、大航海時代になぞらえています。航海技術の発展があったからこそ、冒険者が海に飛び出し大航海時代が始まった。

それにより今まで通説の価値観だった天動説が覆されたり、新たな価値観が世の中に広がった。

ウミトロンとしても、大航海時代の時のように、新しいテクノロジーの発展で世の中の価値観のアップデートをスタートアップとして引き起こしたい

技術があるから冒険者が誕生し、冒険者がいるからこそ世の中の当たり前が変わる。このような思いを、デザインとフレーズに落とし込みました。


UMITRONのValuesを表現したイラスト

画像出典元:「ウミトロン株式会社」

編集部:今後、どのような視座やスキルを持っている人材を採用していきたいと考えていらっしゃいますか?

藤原:とがった専門性を持ちつつ、それらの知見を新しい分野に応用するための新たな知識の吸収や試行錯誤を厭わない人を採用していきたいと考えています。

ウミトロンのValuesに’Don’t forget ship upgrades!’と記載していますが、「知識と経験をアップグレードしよう。やらないよりは試そう。失敗しても学んで改善しよう」という意味です。

これはウミトロンで大切にしている働き方の一つでして、Valuesに共感して一緒に体現していく方を採用したいと思っています。ぜひ他のValuesも参照いただけると嬉しいです。

編集部:スタートアップとして強い組織にするために工夫している点を教えてください。

藤原:なるべく多くのメンバーが現場や顧客に直接対峙する機会が持てるように、積極的に現場訪問の機会をつくるようにしています。

一次情報を取得することで、養殖業界の変革につながるような、潜在的な課題発見にもつながります。

他のメンバーから人づてに聞くのではなく、顧客や生産現場の課題感を直接感じて新たなサービスの開発に繋げていく。そんな組織をつくっていきたいと考えてます。

グローバルアジェンダに挑戦

編集部:シンガポールに本社を構えるウミトロンですが、グローバル展開についてぜひ教えてください。

藤原:日本だと魚離れといわれる場面も増えていますが、食料危機や海産物の安定供給というテーマはグローバルアジェンダです。

世界に目を向けると、経済成長が著しい国では所得が増えて海産物の消費は増大していますし、欧米などの先進国では、健康志向の文脈でも注目され始めています。

スタートアップとしてこのようなグローバルアジェンダの解決に、本気で貢献したいというのがグローバル展開を目指している背景です。

一方で、一次産業はローカルプラクティスがかなり大きいです。一つのソリューションを開発したからといって、すぐにグローバル展開できるほど甘くはないです。

どうしても各地域でローカルオペレーションとソリューションの融合が必要になってきます。

私としては、この部分はハードルではなく、むしろ泥臭くて面白いなと感じています。

養殖業が必要な地域でテクノロジー開発とローカルオペレーションの融合を泥臭くやっていく。それが今後のグローバル展開における目標です。

編集部:各地域で商習慣も異なると思います。そのようなローカルオペレーションとソリューションの融合で特に工夫している点はありますか?

藤原:その点では、国内における事業展開とグローバル展開で変わりません。現場の生産者としっかり接する時間を長く取るという部分が一番重要です。

日本でもこの観点を大事にしているので、東南アジアでも欧州でも南米でも変わらず、エンドユーザーである養殖業者さんの課題をどれだけ解決できるかがウミトロンのコアバリューです。

スタートアップの経営者として、グローバル展開を考えるうえでもこの提供価値は絶対に外さないことを大事にしています。

編集部:衛星データ利活用が今後進むために必要だと感じていることを教えてください。

藤原:衛星データを産業ごとのサービスにしていく、サービスプロバイダーの立場の企業がもっと必要だと思います。

我々は養殖業界の課題解決に挑みますが、他の業界でも衛星データが活用できる領域はまだまだたくさんあります。

そのように特定の業界に向けてサービスをつくっていく企業が増えてくれば、衛星データという技術が民主化される世界になると思います。


2019年8月に開催されたジャパン・インターナショナルシーフードショーの展示会場にて

画像出典元:「ウミトロン株式会社」

編集部:日本のスタートアップエコシステムに対して感じていることを教えてください。

藤原:最近、スタートアップに飛び込んでくる人の数が増えたと感じています。特に人材募集をした際に、様々な分野の方からお声掛けいただく機会が増えました。

人材の流動性が増すことは、業界が盛り上がるうえでも、業界を変革していくうえでも重要な指標です。

様々な強みを持った人材が流れてくると、日本のスタートアップエコシステムもより盛り上がってくると思っています。

編集部:ウミトロンの事業を通して10〜20年後に実現したい世界を教えてください。

藤原:捕る漁業から育てる漁業へ、そのシフトを加速させていきたいです

世界で供給される海産物の多くの部分を養殖業が占めるようになって、そこにウミトロンのテクノロジーが活用されている未来を10〜20年後につくっていきたいです。

編集部:ありがとうございました!

編集部
藤原さんの現場を大切にする気持ちを終始感じたインタビューだった。

水産業界を今後牽引していくであろう養殖産業。現場の課題を解決しながら、環境負荷も低減させるソリューションを複数展開するウミトロン。将来、ウミトロンの技術で育ったサステナブルなお刺身が世界の食卓にならぶ未来が楽しみだ。

ウミトロン株式会社

・住所 東京都品川区東五反田1-10-7 AIOS五反田ビル 1102号
・代表者名 藤原 謙
・会社URL https://umitron.com/ja/index.html
・採用ページURL https://open.talentio.com/r/1/c/umitron/homes/3603

長田大輝

この記事を書いたライター

長田大輝

学生時代に宇宙工学を専攻。ビジネスコンテストやアクセラレータプログラムの企画運営に関わりながら、ライフワークとして宇宙ビジネスメディアにライターとして参画。趣味はロードバイクとラグビー観戦。

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