TOP > インタビュー一覧 > 「介在価値」を発揮し、社会に貢献したい。未経験から廃棄物業界の課題解決に挑む、ファンファーレ・近藤 志人氏
ファンファーレ株式会社 代表取締役 近藤 志人 氏
日本における廃棄物業界の歴史は長い。「汚物掃除法」が制定されたのが1900年。
行政の管理下で廃棄物の処理を行うしくみが初めてつくられてから、100年以上が経つ。
だからこそ、旧来の業務のやり方を変えるハードルが高く、人手不足で生産性向上が急務でありながらも、まだまだ旧態依然とした体制が残る企業も多い。
そんな廃棄物業界の課題に挑むのが、ファンファーレ株式会社の近藤 志人(こんどう・ゆきと)氏だ。
近藤氏は業界の中でも属人化しやすく、大きな労力のかかる「配車計画の作成業務」を独自アルゴリズムのAIで自動化する「配車頭(ハイシャガシラ)」を開発した。
新規事業の開発を軸にキャリアを形成し、全くの未経験から廃棄物業界のスタートアップを立ち上げた近藤氏。
今回のインタビューでは、これまでのキャリアや創業の経緯、人生で大切にしている価値観などについて語っていただいた。
このページの目次
―― まず、ファンファーレの事業について教えてください。
弊社は廃棄物業界に特化したAIを構成し、廃棄物を回収する際の配車計画を自動化するSaaS「配車頭」を開発・提供しています。
日々異なる廃棄物の回収依頼に対して最適なルートと担当者を3分程度で提示することが可能です。
配車計画の作成業務は、その日の依頼状況やドライバーと依頼主との相性、道路情報など、あらゆる情報を整理しながら最適なルートを導き出す必要があり、大きな労力がかかります。
また、計画をスムーズにつくれるようになるには熟練の経験が必要なため、属人化しやすい業務です。つくった計画は未だ紙でドライバーに共有しているところもあります。
Uberなどを見ればわかるように、配車はAIが得意とする仕事です。
廃棄物業界になじむ形でITの力を活用することができれば、業界全体の働き方を改善でき、ひいては少子高齢化で労働力不足にあえぐ日本で持続可能な社会インフラ構築にも貢献できると思い、この事業を立ち上げました。
―― 事業アイデアは、近藤さんのご経験から生まれたものなのでしょうか?
いえ、私は特に廃棄物業界に所属していたわけではなく、事業アイデアはリクルートで働いていたときに携わったUXコンサルティングの副業がきっかけで生まれました。
私はもともと京都の美大でグラフィックデザインを学んでおり、新卒で入社したCreww株式会社では大手企業の新規事業開発とスタートアップの支援を行っていました。
転職先のリクルートでは組織開発に従事する傍らで、UX職としてプロダクト開発も担当しました。
副業でさまざまな会社でUXデザインのコンサルティング業務を行っていたのですが、そこでたまたま廃棄物業界に関わるようになったんです。
副業を行う中で、廃棄物業界はIT活用の白地が大きく、IT活用によって労働環境が劇的に改善する状況があることに気がつきました。
廃棄物業界は、社会の基盤となる重要なインフラです。たとえ労働力不足でも、決して止めることはできません。
そのような業界が抱える課題をITで解決できないかと考えたことが、事業アイデアにつながりました。
―― 事業アイデアが生まれたきっかけは、副業だったのですね。近藤さんはこれまで、どのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか?
大学を卒業後は、Creww株式会社にアルバイトとして入社しました。この会社を選んだのは、ビジネスをつくる能力を身につけたかったから。
学生時代に京都の伝統工芸の後継者不足を解決するため、工芸品のリデザインを行う事業を立ち上げたり、不登校児の社会復帰を目指すスポーツ塾を立ち上げたりと、本当にさまざまなソーシャルビジネスを手がけたのですが、どれもスケールせずに終わってしまったんです。
自分の実力不足で事業を通じて救える人が限られ、ただの自己満足となっている状態に悔しさを感じていました。
Creww株式会社は「オープンイノベーション」がまだ日本では珍しかった頃から、起業文化を根付かせるべく設立された会社です。
大企業が10から11になろうとしている場面にも、スタートアップが0から1を生み出す場面にも、両方のビジネス創出に携われる環境に魅力を感じ、「とにかくこの空間に入りたい」と思いました。
そこで、代表の伊地知さんに自らコンタクトを取ってお話し、広告代理店や制作会社など6社からもらっていた内定をすべて断ってアルバイトから入社させてもらいました。
―― Creww株式会社では、どのようなお仕事を担当されていたのですか?
大学での学びを活かしてデザイン関係の仕事から開始し、大手企業の新規事業の創出支援はアシスタントから少しずつ責任範囲を広げて携わらせてもらいました。
最終的には退職するまでの3年間で100件ほどの事業創出に携わりましたね。当時は本当に忙しくて、泥のようにぐちゃぐちゃになりながら働いていました。
―― Creew株式会社で働く中で、最も学びになったことは何でしたか?
それまでのキャリアとこれからの人生をすべてかけて、事業に挑む人の姿と熱量を肌で感じられたことですね。
スタートアップの創業者はもちろんですが、実は大手企業のイントレプレナー(社内起業家)も周囲の期待と自身の会社でのキャリアをすべて背負って、事業創出に挑んでいる人が多いんです。
自分が起業する際の熱量の基準ができましたし、視座を正しく上げることができたように思います。
―― Creww株式会社を退職してからは、リクルートに入社されたのですね。
そうですね。Creww株式会社を辞めた後は、組織開発を経験すべく株式会社リクルートホールディングスに入社して3年間働きました。
新規事業開発から組織開発へと職種をスライドさせたのは、オープンイノベーションに携わる中で、新規事業を進めるための組織体制づくりも大切だと実感したからです。
人やお金、環境など必要な要素を完璧にそろえたとしても、組織が既存ビジネスに最適化されて新規事業にうまく適応できなかったために、短期間で事業がクローズしてしまったケースもありました。
どのような組織をつくれば、事業やイノベーションを生み出し続けられるのか。
新しい環境で組織づくりを考えたいと思っていたとき、大手企業ながら革新的な風土を持つリクルートとご縁があり、入社することになりました。
―― 実際にリクルートに入社していかがでしたか。
ゆっくりと舵を切って大きな組織を動かす経験を積むことができました。
また、リクルートは変化に強いメンバーが集まっているため、短期的なパラダイムシフトを繰り返しています。
重要な役割を担っていた人たちが立場を変えていく姿を、事業会社の一員として体験することができたのは、私のキャリアの中でも大きな経験だったと思います。
―― 近藤さんは新規事業の創出を軸に着実にキャリアを積まれてきたと思います。そんな中で、なぜ未経験である「廃棄物業界」の課題に、高い熱量を持って向き合えているのでしょうか?
Creww時代に数々の起業家やイントレプレナーを見てきたことが大きいと思います。高い熱量を持っていなければ、起業しても難しい。
そう思っていたからこそ、廃棄物業界に注目しながらも、すぐには起業しなかったんですよ。
社会インフラである廃棄物業界に何か貢献できないかと思いながら、まずは1年ほど、業界の現場を知る期間に充てていました。
全国のさまざまな事業者を行脚して、常駐させてもらいながら現場の仕事を見たり、社員の方とランチをして他愛もない話をしたり。
その中で「配車頭」の構想を固めていきました。価値提供したい人たちの姿が手触りを持って実感できるようになってはじめて、起業を決意したのです。
業界の現場をつぶさに見ることで心から納得して事業アイデアを固めることができたからこそ、現在も熱量を失わずに課題と向き合えているのだと思います。
―― 近藤さんはグラフィックデザインやソーシャルビジネスの立ち上げ、新規事業の創出など、これまでのご経歴の中で一貫して「何かを生み出す」ことを大切にされてきたように感じます。
たしかに、「価値を自らの手で生み出す」ということは意識していると思います。
私の人生の中で、社会や関わる人たちに自分の介在価値を発揮したいということは常に考えていますね。
仲の良い友達はもちろん、浅い関係性のよく行くお店の従業員の方などに対しても、私の人生に少しでも関わるのなら「絶対に介在価値を出したい」と思ってしまうんです。
―― 「介在価値」とは具体的にどういうことでしょうか。
分かりやすく言えば、何らかの良い影響を与えるということでしょうか。
具体例を出すと、通っているパーソナルジムのトレーナーさんに、何度もしつこく確認することで、職場としては取りづらかった有給休暇を取得していただいたことがあります。
たとえ関係が浅かったとしても、私と関わったことでその人の人生やその背後にある社会に対して、良い爪痕を残せたらいいなと常に意識していますね。
―― そのように「介在価値」を意識するようになったのは、どうしてなのでしょう?
明確な原体験はないのですが、昔から自分が社会のどこにも所属していない喪失感や寂しさを何となく感じているような、少し変わった子どもでした。
その気持ちを埋めて充実した人生を送るためには、社会が正しい、やったほうがいいと考えることに対してコミットする必要がある。
私は自分自身が生きていくために、子どもの頃から周囲に対して価値を生み出す活動を何かしら行っていました。
例えば、小学生の頃は絵を描くスキルを活かして、女子の友達には可愛い動物のキャラクターのイラストを、男子の友達にはギャグマンガを描いてプレゼントしたりしていましたね。
―― ここからはぜひ、ファンファーレという会社の特徴をさまざまな角度から伺っていければと思います。近藤さんは経営者兼UXデザイナーとして、「配車頭」のUI/UXで特にこだわった点はありますか。
現場の状況にどこまで寄り添えるかということは、強く意識していましたね。
ひとつは、ITリテラシーの問題。ご想像の通り、廃棄物業界に従事する方々はITツールに不慣れな方が多いんです。
一般的なUXデザインのセオリーは通用しないため、例えば、タイピングスピードが少し遅いけれども、特定のページは時間内にサクッと入力を終えないと業務が滞るといった場合は、すべての入力項目をプルダウン形式にするなど、いかに現場の方が使いやすいものを整えるかという点はこだわりました。
また、廃棄物業界ならではの事情に配慮した機能づくりも意識しました。ドライバーと依頼主とのトラブルも意外と多く、依頼主との相性も意識した上で配車計画を立てる必要があるんですね。
そのため、普通の運送業ではつくらなくてもよい「出禁乗務員」の設定もできるようにしました。
経営者がUXデザイナーである価値は、会社の事業計画の入口と出口をきちんとチェックして、一貫性を保てる点にあると感じています。
会社が目指すものを、サービスの使い勝手の部分にまでしっかりと反映し切ることができる。事業計画と提供するサービスのズレが生じないことは、私の専門スキルと経歴を活かした弊社ならではの強みだと思います。
―― 近藤さんは経営者として、どのようなことを大切にしていますか。
廃棄物業界という公共性の高い業界で事業を展開しているからこそ、「企業倫理」の部分は創業時から深く考えています。
さまざまな書籍から知った考え方などを引用して、私自身の企業倫理への考え方をnoteにまとめたのですが、最終的には会社の存在意義として企業倫理がどこまで社会に認められるかという点がとても大切なポイントだと思っています。
弊社はこれからさらに拡大し、社員も投資家さんもお客様も、関わる人が増えていくでしょう。
会社としていかに統一感を持ちながら、自分が思い描く社会貢献の形を実現できるか。意思決定のときにはいつも難しさを感じながら、選択していますね。
―― なるほど。関わる人が増えるという点では、ファンファーレには経営陣をはじめとして、とても優秀な方が集まっている印象があります。採用に関して、意識していることはありますか?
まず、経営陣の獲得に関しては、私自身がカリスマ性のあるような経営者ではないと思っており、「その方に入社していただいた際の介在価値」を感じてもらうことは心がけています。
廃棄物業界は業務プロセスがとても安定しており、トレンドが大きく変わる業界ではないからこそ、中長期的な未来を非常に描きやすい。
解決したい社会課題とその方法をきちんとリアリティを持って描き切ることで、足りないパーツを明示して、「あなたに力を貸してほしい」と説得することができます。
例えば、CTOの矢部も弊社の事業計画に魅力を感じて、入社してくれました。
私の描いた未来に対して、自分の持つNECでの新規事業開発の経験とAIの知見と技術をプラスすれば、この事業を成功させられると思えたそうなんです。
また、現場のメンバーの採用に関しては、今はバランスを大切にしながら採用を行っています。
現在のフェーズでファンファーレに入ってくださる方は、将来的にマネージャークラスになる方ですから、主体性が高く、業務をやり切る力のある方を採用していますね。
―― 先日、プレシリーズAの資金調達も終えられましたよね。投資家から評価されたポイントはどういったところでしたか?
投資をお願いする先に関しては、中長期的な目線でこの業界の改善に同意してくださるかどうかを非常に重要なポイントとして見ています。
私が取り組もうとしている社会課題に、スタートラインの時点から全肯定してくださった投資家やVCとは良好なお付き合いを続けており、今回の調達も業界課題の解像度と未来のポテンシャルの高さを評価していただきました。
銀行系のVCとエネルギー系の企業に入っていただけたのも、廃棄物業界はどうしてもうがった目で見られやすい業界ですから、弊社の取り組む事業を拡大させていくうえではとても大きな意味を持つように思います。
―― 今後の展望について、教えてください。
中長期を見据えた展望としては、すべての廃棄物事業者の業務フローに対して、適切なサービスをマルチプロダクト化し、ラインナップをそろえていきたいと考えています。
加えて、社内にはさまざまなフェーズの事業が混在することになりますから、各事業の進捗に合わせて、営業部門などの適切な組織体制を整えていきたいです。
―― プレシード期からシード期のスタートアップへ応援メッセージをいただけますか?
私たちの経験から、伝統的な産業のバーティカルSaaSに携わるスタートアップにメッセージを伝えるとすれば、きちんと業界課題やニーズを捉えたサービスであれば、待っていてくれる人は必ずいるということでしょうか。
バーティカルSaaSを開発しているとき、このサービスが本当に売れるのか不安になる方も多いと思います。私自身もPMFの最中は本当に不安で、毎日試行錯誤しながらプロダクトの改善を行っていました。
特に廃棄物業界のような歴史の長い産業で中小零細企業を営む2代目~3代目の経営者は、業界をより良いものに変えるべく、新しい風を待っている方も多いように感じます。
ぜひ自分たちのつくっているサービスに自信と希望を持ちながら、事業開発に挑んでほしいです。
私の経験が少しでもみなさんの希望になったら、嬉しいなと思います。
―― 最後に、読者へ一言お願いいたします!
私たちは今年の7月にプレシリーズAの6.3億円の資金調達を終えました。
廃棄物業界でここまで資金調達している企業は1社もなく、あとはどれだけ早く成長できるかというフェーズに入っています。
これからはプロダクトを複数手がける中で、弊社の体制も常に変化を伴いながら、つくりかえていかなければならないと考えています。
また、廃棄物業界の特殊なドメイン知識をプロダクトの中に、データベース構造として描き切るといった挑戦も控えています。
チャレンジングな環境で、成功に向けて全速力で走りたい。弊社は一緒に働く仲間として、そんな方をお待ちしています。
ファンファーレ株式会社
・住所 東京都港区赤坂 8-11−26 +SHIFT NOGIZAKA 3F
・代表者名 近藤 志人
・会社URL https://fanfare-kk.com/
・採用ページURL https://fanfare-kk.com/career/
フリーのライター・編集。広報として大学職員、PR会社、スタートアップ創出ベンチャーを経験後、ライターとして独立。書籍や企業のオウンドメディア、大手メディアで執筆。スタートアップの広報にも従事中。
サイト:https://terukoichioka128.com/
Twitter:https://twitter.com/ichika674128
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