京都フュージョニアリング 代表取締役社長 長尾昂×プロトスター株式会社 代表取締役 前川英麿
46億年にわたり、膨大なエネルギーを生み出し続ける太陽。
その源となる「核融合」を利用した発電は、海水中の水素から莫大なエネルギーを得られ、温室効果ガスを発生させないクリーンで安全な発電方法として研究が進められてきた。
京都フュージョニアリング株式会社 CEOの長尾 昂氏は、この“究極のエネルギー”の実用化が、いよいよ迫ってきたと語気を強める。
同社は核融合プラントエンジニアリングなどにおいて、世界有数の技術力を持つ京都大発のスタートアップだ。「発電だけでなく、核融合を多くの産業に応用させたい」と長尾さんは志を語る。
今回は、挑戦者支援インフラの創出を目指すスタートアップ支援企業、プロトスター株式会社の代表取締役 前川 英麿氏との対談で、起業の背景や経営哲学に触れながら、核融合実現の期待について語っていただいた。
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前川:核融合は夢のエネルギーといわれています。長尾さんから見た核融合の面白さはどこにありますか?
長尾:核融合は、大分古くから研究されていますが実用化には至らず、いつまでたっても「30年後には実現できるだろう」と言われ続けてきました。
それが今、ようやく手の届くところにある。長い間、人類が研究開発してきた、いわば“科学技術のロマン”を事業として扱えるのが一番楽しいですね。
ビジネス寄りのキャリアを歩んできた僕としては、核融合の産業化に情熱を注ぐことができるのも大きな魅力です。
前川:キャリアといえば、戦略コンサルティングなどビジネス領域で活躍されていた長尾さんが、なぜ技術系スタートアップの経営に関わることになったのでしょう。
長尾:学生の頃から技術経営を自分のテーマにしてきたので、いずれは技術力のある会社で勉強して起業したい、という気持ちがありました。
ただ、コンサルにいた10年以上前は、自分の想いにフィットするスタートアップが見つかりませんでした。そこで一度、エネルギーサービス系の企業に移り経験を積んだのです。
前川:今でこそ、SpaceXなどのディープテック企業が広く認知されるようになりましたが、それ以前は、テック系といえばソーシャルゲーム開発といったIT系が全盛でしたよね。
長尾:そうそう。そういう時代でした。
その後、TeslaやNVIDIAなどの登場によってソフトウェアとハードウェアの融合をテーマとした事業が可能になり、いよいよ本気で「自分のやりたかった技術経営の方向に軸足を移そう」と思える世の中になったことが、起業のベースにあります。
前川:共同創業者の小西哲之教授と出会ってから起業までは、じっくりと時間をかけて話し合いをされたのですか?
長尾:小西教授に初めて会ったのは、2019年5月。同年10月に当社を設立しているので、出会いから起業まで短期間でした。
当社の4人の共同創業者のうち2人は小西教授の教え子で、もともと小西教授らはビジネスサイドができる人間を探していたのです。そのため、事業をきちんと軌道に乗せていけるかが議論のポイントでした。
ただ、起業を決意するまでの数カ月間は、人となりの部分からお互いを理解するまで、きっちり話し合いましたよ。
前川:結婚と同じくらい重要な決断ですからね(笑)。スタートアップ経験があり、かつ技術も理解している長尾さんだからこそ、短期間での起業が実現できたのではないでしょうか。
長尾:後になって、僕の他にも経営者候補がいたと聞きました。しかし、スタートアップや経営の経験、技術やエネルギー分野への造詣の深さなど、数ある条件を同時に満たすのは僕だけだったそうです。
僕も彼らへのリスペクトを感じていたため、核融合の分野に飛び込もうと決めました。
しばらくは役員中心に少人数で事業をする計画でしたが、うれしい誤算というべきか、僕の想定より3年ほど早く、世の中から核融合技術が注目され始めたのです。この1年半の間に40人ほど採用して組織作りを推進しました。
前川:急激な成長ですね。ターニングポイントとなった出来事は?
長尾:2つあります。
1つは経済産業省の補助金の対象事業者に採択されたこと。プロジェクト費用の半分は自己調達ですから、これで会社のギアを飛躍的に上げなければならないフェーズに入りました。
もう1つは、核融合関連のスタートアップへの投資が増えたことです。
前川:昨今はクリーンエネルギー需要もあって、世界的に核融合技術への投資が活況となり、マーケットが伸びている印象ですよね。
長尾:それは実感としてあったため、今が勝負どころだと判断しました。
会社が大きくなると経営者の能力ばかり評価されがちですが、実は「市場が拡大しただけで、誰がやっても結果は同じ」という説があります。僕も同じことを思っていて。
自分たちの能力うんぬんよりも、「とにかくマーケットに付いていくんや!」という勢いに任せて意思決定した印象ですね(笑)。
前川:大きな決断をされてきたことに変わりはありません。御社の意思決定はどのように行われているのでしょうか。
長尾:小西教授と二人三脚で進めてきたため、意思決定には基本的に2人とも参加しますが、なるべく合議制に近い形をとり、全員で情報共有して合意形成しようと努めています。
前川:現在、御社では2024年の発電試験開始に向けて、試験プラントの建設を進めています。世界初の取り組みだそうですが、主な目的を教えてください。
長尾:核融合発電は、“核融合反応”を起こすプラズマ領域に研究開発が集中してきました。しかし、本格的に核融合発電を実用化させるには、核融合炉からの熱取り出しや、発電するための特殊機器の開発が欠かせません。
つまり、核融合の原理が実証された後にも、たくさんのボトルネックがあります。それを先回りして解決するために、プラント全体のエンジニアリングを実証できる設備が必要なのです。
例えるなら、ガス火を点火したらガスコンロのツマミさえ回せば火が使える状態にする。ガスコンロの部分はすべて当社がやりましょう、というわけです。
前川:核融合の“火種”にはいくつかパターンがあり、それぞれに対応したシステムを提供できれば、ビジネスも多角的に広がるというわけですね。
御社のように総合的な核融合技術を手掛ける企業は、業界でも独特なポジションではないですか?
長尾:とても独特ですね。細かい要素技術に取り組む企業は数あれど、発電の流れを網羅的に押さえている企業はありません。
日本は国の研究機関で先輩たちが努力してきたおかげで、世界的にもレベルの高い核融合技術が存在しています。
それでもまだ、エコシステムが確立されていないので、今は研究機関やパートナー企業の数を増やし、彼らとの距離を縮めることに注力していきたいです。
そのためには、より良い会社として評価されることが不可欠。R&Dや採用などの強化も急いでいるところです。
前川:ベンチャーキャピタルを経験した私としては、投資する側も、核融合に関する技術や将来像への理解をより深める必要があると思っていて。
御社のような骨太の技術系スタートアップとの往復作業を通じて、キャピタリストのレベルが上がってくるのではないでしょうか。
ディープテックでトップラインを上げていく存在であればこそ、御社が業界全般に与える影響は大きいと感じます。
長尾:大学発スタートアップの立ち位置を含め、ディープテック業界を変えていきたい気持ちは強いので、まずは当社の事業を成功させることに全力を尽くしたいですね。
前川:御社は京都や東京、イギリスなどに拠点を置いています。グローバル企業として、どういった採用方針をお持ちですか?
長尾:当社には、非常に優秀な方々がたくさん在籍しています。しかし、技術はジグソーパズルのピースのようなもの。
例えば超伝導やプラズマの技術があっても、品質管理や生産管理など、あらゆる要素が1つになって流れなければ、プロダクトは完成しないのです。
ですから、プロジェクトにおける役割をきちんと整理して、メンバーがお互いにリスペクトを持ってコラボレーションし、チームとしてきちんと機能できるよう、さまざまな個性や能力が集まる幅広い採用を心掛けています。
グローバルなチーム作りのためには、カルチャーのフィットも大切です。リモートワーク環境を整える一方、リアルコミュニケーションを推奨して、相互理解を深める取り組みを行っています。
前川:御社が求める人物像を教えてください。
長尾:ビジネスサイドでいうと、グローバルなビジネス経験があり、日本の国を元気にしたいという明確なビジョンを持っている方です。
プロジェクト達成に向けて、チーム一丸となって取り組める熱意があり、日本のモノづくりに対して強い思い入れがあるグローバル志向の方は、きっと当社で活躍できると思います。
そういう方々が会社を元気にしてくれると、僕としてもうれしいですね。
核融合実用化への道のりは長いかもしれませんが、それはつまり、楽しめる時間も長いということ。例えば、2050年まで約30年。
ちょうど30代の方々は、自身のキャリアを終えるまでフルスイングで挑戦を続けられるわけですし、同時に、日本の産業立国に貢献できるチャンスでもあるのです。
前川:他社にはあまり比較対象がなさそうな分野ですし、御社で核融合の産業化に没頭できる人は、きっと楽しいだろうと思いますね。
長尾:そう言っていただくことは多いです。中には「論文を読んでいたら楽しくて、気づいたらそのまま寝落ちしていました」というスタッフも。論文を肴に酒を飲むみたいなね(笑)。
もちろん、当社のすべてが技術だけで成立するわけではないので、さまざまな分野の方々に集っていただけると、もっと楽しい会社になるのかなと思います。
前川:先ほどのジグソーパズルの例えでいうと、やはりいろいろなピースがあったほうがいいということですね。
長尾:絶対にそうだと思います。世の中に同じ人は二人といないので。
前川:まだまだ日本にはグローバルスタートアップが少ない中で、御社は本格的なディープテックに加えて、真のグローバル企業であることに重要な意義を感じます。今後の展望をお聞かせください。
長尾:まずは核融合を実現したいですね。核融合は発電だけでなく、海水を淡水化したり、二酸化炭素を炭素に固定化するなど、あらゆる技術への転用が期待できます。
宇宙船のロケットエンジンに応用すれば、木星への往復探査も夢ではありません。
こうした新しい用途を研究開発し、次の世代が実現させられるように道筋をつけたいと思っています。ただ発電プラントを作るだけでは終わりたくないですね。
前川:核融合をあらゆる産業に応用できたら、世界を一変させられそうです。
長尾:そういう会社に育てていきたいですね。僕はビジネスに関わる人間として、日本からGoogleやSpaceXのような企業を輩出したいと痛切に思っています。
海外から見れば、まだまだ日本製品の評価は高い。
このブランドが維持されている間にグローバルで戦うのは良いモデルになるはずですし、日本に立脚したグローバルな企業が増えれば、国全体の利益にもなります。
前川:お話を聞いて、御社が世界を狙える位置にいることがよく分かりました。核融合が実現された後の世界をぜひ見てみたいです。
京都フュージョニアリング株式会社
・住所(東京オフィス) 東京都千代田区大手町一丁目6番1号 大手町ビル6階 Inspired.Lab
・代表者名 長尾 昂
・会社URL https://kyotofusioneering.com
・採用ページURL https://kyotofusioneering.com/joinus
プロフィール
長尾 昂
プロフィール
前川 英麿
“裸眼のVR”で新しいバーチャル表現で池袋のカルチャーとコラボレーションするkiwamiの取り組みとは
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