TOP > インタビュー一覧 > 骨髄検査が血液検査に代替される世界。リキッドバイオプシーで白血病患者のペインを解決するLiquid Mineの挑戦
株式会社 Liquid Mine 代表取締役社長 岸本倫和 氏
「最新の遺伝⼦解析技術で白血病の検査方法を確立させる」
現在、世界的に脚光を浴びている「リキッドバイオプシー(液体生検)」技術。
血液検査で白血病患者にテーラーメイドな検査薬をつくることを目指している株式会社 Liquid Mine 代表取締役社長の岸本 倫和(きしもと・ともかず)氏にお話を伺った。
このページの目次
編集部:Liquid Mineさんの事業概要を改めて教えてください。
岸本:弊社には、大きく分けて二つの技術があります。
一つが全ゲノム解析です。白血病は遺伝子変異が原因で発症することが分かっていますので、原因となる遺伝子変異を正確に同定するために全ゲノム解析を行います。
発症の原因である遺伝子変異を特定し、白血病の治療につなげます。
もう一つが、白血病のモニタリング検査に関する技術です。
従来のモニタリング検査は、骨髄検査と呼ばれる、腰の骨に直径4mm程度の針を刺し骨髄液を採取する手法です。
Liquid Mineの技術を活用すれば、骨髄検査を血液検査に代替可能です。これが、リキッドバイオプシーと呼ばれる、身体への負担が少ない低侵襲性の液体生検を活用した技術です。
生物の特徴を解析する上で必須となるゲノムがもつ遺伝情報を総合的に解析する工程のこと。シーケンサーと呼ばれる機械を活用し、ゲノムを構成するDNA分子の塩基配列(グアニン・アデニン・チミン・シトシンの並び)を読み取る。
編集部:東京大学医科学研究所発のスタートアップとのことですが、スピンアウトに至った経緯を教えてください。
岸本:東京大学医科学研究所で2015年頃から、全ゲノム解析とモニタリング検査の二つの技術を研究をしてきました。
2019年頃に研究の成果が出始め、論文も発表しました。
世界的にもゲノム医療が大きな注目を浴び始めたということもあり「この技術を社会実装して少しでも多くの白血病に苦しむ患者さんを助けたい」という想いで創業者がスピンアウトを決意したのが経緯です。
編集部:岸本さんはどのようなことをきっかけにして、2020年7月にLiquid Mineへ参画したのでしょうか?
岸本:私が転職サイトに登録した際に、創業者から連絡をいただいたのが最初のきっかけです。
私が近しい友人をがんで亡くした経験があり、がん治療の課題に対して何かしたいとはずっと思っていて、創業者の人柄の良さも相まって参画を決意しました。
編集部:代表取締役社長に就任後、大変だったことを教えてください。
岸本:入社直後の時点から資金調達が始まりました。VCとのやりとりや資本政策など、今までに経験したことがない業務がたくさん目の前に現れ、自ら勉強しながら投資家向けのピッチに挑むことは非常に大変でした。
右往左往しながらも、様々なVCの方にサポートしてもらいました。ファイナンス以外でも、医療系スタートアップとしてどのような薬事戦略や特許戦略をとるべきかを考えることも非常に大変でした。
編集部:遺伝子解析技術は世界中で注目を集めています。類似企業もありますが、その中でのLiquid Mineの一番の優位性はどのような点でしょうか。
岸本:全ゲノム解析を行うと、個人差があるものの数百から数十万程度の遺伝子変異が出てきます。
しかしこの数字には、髪の毛がくせ毛なのか直毛なのかや、お酒の耐性など、疾患ではなく人の個性を表している遺伝子変異も含まれています。
数十万の遺伝子変異の中から、白血病に関連するものを人の目で判断する工程は非常に時間と労力がかかります。
弊社のフィルタリング技術を活用すれば、白血病に関連する遺伝子変異候補をわずか3分で特定できる点が大きな優位性だと考えています。
モニタリング検査技術に関しても、患者さんの負担が大きかった骨髄検査が血液検査に代替可能な点が強みだと考えています。
編集部:医療系スタートアップでは、知財戦略が鍵を握ります。現在どのように取り組まれていますか?
岸本:遺伝子変異フィルタリングの技術に関しては、弊社と東京大学で共同出願しています。
こちらの特許は、日本・アメリカ・ヨーロッパで出願しています。
そのほか弊社の技術の基盤となる知財は、東京大学が特許出願し、弊社に独占ライセンス権を付与する形を採用しています。
遺伝子変異フィルタリング以外の特許に関しても、国際特許出願を予定しています。
編集部:Liquid Mineが取り組んでいる薬事承認の工程について教えてください。
岸本:薬事承認を得るために取得するデータに関しては、厚生労働省やPMDA(医薬品医療機器総合機構)に「薬事承認を得るためにこのようなデータを取得することで問題ないか」と確認を取る必要があります。
何度もPMDAと協議を重ねる必要があり、根気と経験が必要です。
社内に、経験豊富で優秀な薬事担当のメンバーがいるので、そのメンバーを中心に厚生労働省とPMDAとは協議を進めているところです。
医薬品医療機器等法で定められている承認過程のこと。企業が医薬品や医療機器の製造販売をするには、厚生労働省に承認申請し認可される必要があります。有効性や安全性などの審査は独立行政法人のPMDA(医薬品医療機器総合機構)が担います。
PMDAとは、医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染等による健康被害に対して、迅速な救済を図り、医薬品や医療機器などの品質、有効性および安全性について、治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査し、市販後における安全性に関する情報の収集、分析および提供を行うことを通じて、国民保健の向上に貢献することを目的としている組織です。
(参考:https://www.pmda.go.jp/about-pmda/outline/0001.html)
編集部:海外での医療承認を含めたグローバル展開について教えてください。
岸本:まずは国内での医療承認を進めていきますが、同時並行でアメリカやヨーロッパの患者さんにも届けていきたいと考えています。
骨髄検査に関しては全世界共通の課題であるため、血液検査に置き換わることのニーズは高く、論文発表後に海外からもお問い合わせをいただいています。
技術に関しては海外でもある程度評価をいただいているので、あとはビジネスプランや薬事戦略をブラッシュアップしていきます。
編集部:Liquid Mineが世界で戦っていくために、どのような点が鍵になると考えていますか?
岸本:まずは国内で認知してもらうことが重要です。
海外進出する際は、地域ごとに良いパートナーを見つけてしっかり連携して事業拡大させる点が重要だと考えています。
海外のパートナー獲得のためにも、国内での認知度向上は必要です。
編集部:週末はどのように過ごしてリフレッシュされていますか?
岸本:小学3年生と1年生の活発な息子がいますので、休日はなるべく子どもたちと外で遊んでリフレッシュしています。
週末はできるだけ家族との時間にあてて、気持ちを切り替えています。
動物園とか水族館とかに連れて行くと息子たちは喜んでくれるので、今後もそのような時間を大切にしていきたいです。
編集部:学生時代はどのようなことを考えながら過ごしていましたか?
岸本:学生時代から漠然と起業したい、経営者になりたいと思っていました。
大学では法学部に進学して弁護士を目指していましたが、頭の片隅に起業という二文字がありました。
編集部:どのような人材に参画してほしいですか?
岸本:既にコアメンバーは揃いつつあります。一番は、Liquid Mineのミッションやビジョンに共感してくれる人材に来てほしいです。
今のメンバーも、白血病に苦しむ患者さんを何とかしたいと本気で思って参画を決めてくれました。
一つ挙げるなら、今後も資金調達を予定しているのでCFOをお任せできる方にはなるべく早く参画いただけると嬉しいなと思っています。
編集部:現在は何名程度の組織なのでしょうか。
岸本:社外取締役を含めて社員は8名です。
研究開発をするメンバーには遺伝子解析の実務経験が豊富な人材がいて非常に頼もしいです。
また、大学院を卒業後に新卒で入社してくれたメンバーも一人いて、よく弊社に飛び込んできてくれたなと本当に嬉しい気持ちです。(※社員数は、取材した2022年7月時点の数字です。)
編集部:新卒入社した方もいらっしゃるのですね。現役の医学生に向けて伝えたいメッセージはありますか?
岸本:学問を修めた後に医学の道に進むのも一つですが、弊社のような医療系スタートアップに参画すると、病院やアカデミアとのやり取りを進めながらビジネスも学べます。
スタートアップの一員として会社を成長させながら医学の発展にも貢献する。そんな人生も一つの選択肢になるかなと思っています。
編集部:採用はどのように進めていますか?
岸本:現状はリファラルの採用が多いです。7月1日から入社してくれた薬事をメインに担当するメンバーは、1年程度の業務委託期間を経て参画を決意してくれました。
編集部:シード期のDeep Techスタートアップとして、強い組織にするために工夫している点を教えてください。
岸本:弊社では、研究職なら研究だけというわけではなく、一人三役や四役と、様々な業務を掛け持ちしてもらっています。
自分の得意領域でなくても積極的に挑戦して取り組んでくれる人材がコアになる組織にしていきたいと考えています。
また、社員が働きやすい環境をつくることを大事にしています。社員からあがってきた良い意見はすぐに反映します。
スタートアップは毎日夜遅く、休日まで働くような印象があると思いますが、社員にはオンオフをしっかり切り替えて働いてもらいたいので、休日に仕事をしてもらうことはほぼありません。
編集部:過去に恩恵を受けたイベントやプログラムがあれば教えてください。
岸本:いくつかプログラムに参加しましたが、特許庁が展開している知財アクセラレーションプログラムであるIPASはとても良かったです。
特許戦略やビジネスプランの甘い部分に対して、マンツーマンでサポートいただき非常に助かりました。
編集部:スタートアップエコシステムの中での横のつながりは、どのように活用していますか?
岸本:モビリティや製造業など様々な業界のスタートアップの経営者の方とつながっています。
業界は違っても経営者共通の悩みはたくさんあるので、その都度相談しています。
編集部:今後、白血病モニタリング検査システム「MyRD」の実績を活用することで、白血病以外のがん治療の克服にどのようにつながるか教えてください。
岸本:現在は白血病にターゲットを絞っていますが、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫といった疾患には技術を応用できるので事業戦略の視野に入れています。
これら2種類の疾患への応用はまだ研究の初期段階ですが、3−5年後の実用化を目指しています。
今後は、最先端の遺伝子解析を活用して、がん患者一人一人に最適な治療環境を提供していきたいと思っています。
弊社が掲げるビジョンである「すべてのがんを克服する」の達成に向けて社会実装していきたいと考えています。
編集部:最後に、Liquid Mineが目指している世界や目標について教えてください。
岸本:弊社の技術は、検査企業の協力なくして患者さんに届けることができません。
既に国内大手の検査会社とは話し合いを進めていますが、このような事業提携をまずは加速させていきます。
検査企業との提携と研究開発を両輪で進めながら、保険収載を目指しています。
保険収載が実現出来れば売り上げが飛躍的に向上するので、Exitに向けての大きなエンジンとなると考えています。
編集部:ありがとうございました!
株式会社 Liquid Mine
学生時代に宇宙工学を専攻。ビジネスコンテストやアクセラレータプログラムの企画運営に関わりながら、ライフワークとして宇宙ビジネスメディアにライターとして参画。趣味はロードバイクとラグビー観戦。
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