TOP > インタビュー一覧 > DXのラストワンマイルを埋める。Webシステムを使いやすくするテックタッチが目指す、現場主導でのDXを実現する未来
テックタッチ株式会社 代表取締役 井無田 仲 氏
日々増えていくITサービス。利便性は高まる一方で、その急速な変化についていけない、という人も増えていることだろう。
せっかくの便利なサービスなのだから、誰にでもわかりやすくすることで多くの人に使ってほしい。それを現実のものとするツールが「テックタッチ」だ。
どんなWebシステムにでも簡単に使い方ガイドを追加することができ、ユーザーの心理的ハードルを和らげる。
テックタッチ株式会社の創業者兼代表取締役の井無田 仲(いむた・なか)氏は外資系金融やMBAのキャリアを歩み、いまの事業にたどり着いた。
テックタッチが挑む領域は、海外ではDAP(Digital Adoption Platform)と呼ばれる巨大市場となっている。井無田氏がこれから目指す世界について伺った。
ー これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。
慶應義塾大学法学部を卒業後、2003年から2011年まで金融業界におりました。
1社目は新生銀行で、当時は金融再生を経て海外のPEファンドに売却された直後で、外資系金融機関からきた多種多様なバックグラウンドの方がおり、そのカルチャーが日本の伝統的な銀行と混じり合ってすごく面白い環境でした。
その後はニューヨークで約半年ほど300億円規模の不動産ファンドのインターンをし、コロンビアビジネススクールのMBAへ。ファイナンスと不動産のダブルメジャーで金融マンまっしぐら。
当時はインベストメント・バンクのキャリアを模索していました。2008年6月からドイツ証券の東京オフィスに入社。企業の資金調達やM&A助言業務に2011年5月まで従事しました。
当時のドイツ証券はチャレンジ精神に溢れる人材が多く、同僚がCEOやCFO、VCのキャピタリストなどに転職することも。今でもスタートアップ業界で切磋琢磨する仲間が多いですね。
金融の仕事は大きな仕事も多く、毎日がエキサイティングに感じていました。
一方で、金融というビジネスの特性上仕方がないことではあるのですが、チームの一員であることを求められて、常に世の中に新しい価値を生み出し続けられるか、というとそうではなかったです。
より新しい価値を提供するチャレンジをしたいと思うようになり自然と起業という発想になっていきました。
とはいえ、ドイツ証券を退職したころはまだ、これで起業をしたいという明確なアイデアがあるわけではありませんでした。
とりあえず経営をやってみようと、数ヶ月で止めてしまったものの、沖縄で雑貨屋をやろうとした時期もありました。
今の自分には事業構想する上での前提知識が決定的に足りない。そう考えた私は、ITビジネスを学ぶためにIT企業にジョインすることを決めました。
ただ、就職活動をしても私の前職のイメージがあり、オファーがくるのはCFOポジションばかり。
そんな中で、私の起業への想いを受け止めていただきつつ、度量広くITビジネスの現場を経験させていただけることになったのが、スマホのアプリビジネスなどを事業とするユナイテッド社でした。
ー ユナイテッドではどういったITサービスに関わられたのでしょうか。
いくつかのゼロイチ案件に携わらせていただきました。また、当時ユナイテッドでは、グローバルに大ヒットしたスマホアプリがあり、そこのチームにジョインさせてもらいました。
アメリカに子会社を立ち上げて、現地のスタートアップと共同開発で新規事業立ち上げなどをさせていただきました。この時のかけがえのない経験は、今も血肉となって私の中で生きています。
その後、満を持して起業し、共同創業者で取締役CTOの日比野 淳(ひびの・じゅん)と共に2018年3月にテックタッチを設立しました。
ー 日比野さんとの出会いは。
彼はユナイテッド時代の同僚です。先にお伝えしたアプリをゼロから開発し、大規模に成長させました。また、アメリカの子会社で私とともに現地のスタートアップと協業して新規事業開発も行っていました。
ー 前職の同僚であれば、いろいろと話も早そうですね。
そうですね、起業を決めてからの最初の1ヶ月は事業アイデアをいくつも考えました。
最終的に残ったのが「Webブラウザ上で動作し、操作説明を非エンジニアでも入れることができるSaaS」。
自分が会社員時代に感じていた「金融システムが使いにくい」「このアプリのこういうところは使いづらいだろう」といった感覚が元になり、これはきっと他にも不便さを感じている人がいるだろうと思えたことが決め手でした。
広くユーザーニーズを聞いてみようと、ビザスクというスポットコンサルティングサービスで50社程度の大企業の方にインタビューを重ねました。
インタビュー単価もスタートアップに優しいですし、スタートアップの市場調査でもよく使われているようですね。
当初はSaaS企業を対象としたビジネスを想定していましたが、ヒアリングを経て、SaaSを利用するエンドユーザー企業向けの開発に当社は軸足を置くことにしました。
ー ローンチ前の市場調査はかなり念入りだったのですね。テックタッチは社名にもサービス名にもなっていますがどのような由来でこの名前になったのでしょうか。
カスタマーサクセス用語ですね。従来、人の手を必要とする、いわゆるハイタッチやロータッチでやっていたオンボーディングを、テクノロジーで完結できるようにするからテックタッチ、です。
テックタッチは、プログラミング不要で、システムの画面上で操作ガイドを追加できるもの。
入力バリデーションやRPA的な機能、あるいはシステムの利用状況を可視化できるようなアナリティクス機能も追加されています。
システムに不慣れな人でも直感的に操作ができるため、DXを遂行していくことによって、どんどん電子化やオペレーションの複雑化が進んでいる大企業の皆様に大きくニーズを感じていただいています。
2019年2月にはクローズドα版をリリース。1ヶ月で集まったフィードバックを黙々とサービスに反映させていきました。ドキドキしながら、2019年5月には展示会にも初出展しました。
ー 東京ビッグサイトで行われる日本最大級のIT展示会「Japan IT Week 春【後期】」ですね。展示会での反響はいかがでしたか。
僕がBtoBのITにおいては完全に素人だったので、企業規模に対してめちゃくちゃ大きなスペースを予約してしまいました。
前夜、展示スペースを直接見て、あまりの広さに唖然としました。お客さんにきてもらえるのか、不安になったのを覚えています。
ですが、蓋を開けてみれば大盛況。全部で9台のデモ機に行列ができ、特設のマシンを追加で用意しないといけなかったほどでした。
お客様からのポジティブなフィードバックもいただくことができ、確かな手応えを感じた3日間でした。僕もですが、メンバー全員がいける、と心から思った瞬間だと思います。
当時はまだまだ製品の成熟度も低く、展示会でのデモのために突貫で機能改善を重ね、展示会前夜に完成した機能などもありました。
展示会出展費用は数百万円〜1,000万円ということもあり、重圧でCTOの日比野は胃が痛い日々だったと思います(笑)。
ー その約半年後には「日経 xTECH(クロステック) EXPO 2019」にも出展されていますね。
そうですね、この時もどのくらいの費用感で出展すればいいのか手探りで、当日展示会場に行ったら最高級のスポンサーののぼりに、マイクロソフトやAWSといった超一流企業と一緒にテックタッチのロゴが並んでいて、あっこれは分不相応な投資だったんだな、とその時初めて気づきました(笑)。
とはいえ、この展示でも大盛況となり、ROIも大きくプラス。この成功体験によって、サービスのスケールを確信しました。
ー 2019年の末ごろには、初の大規模導入として、大手損害保険会社での全社導入がリリースされましたね。
スタートアップをやっていると、不思議なもので、突如現れる救世主のような方が複数いらっしゃるんです。
この会社のDX部門の方はまさにそんな方の一人です。初めての商談で製品のご案内をした瞬間、その場で買うと即決いただきました。
大企業様を相手にビジネスをやっていると、導入事例・実績が大きく物を言う世界なので、ここで購入していただいたことは本当にありがたかったです。
その方は異動されましたが、今でもお付き合いをさせていただいています。
ー 大手企業への導入も拡大されていますね。
おかげさまで日本を代表する企業様にもご利用いただいており、直近も数万名規模の大規模導入が続いています。
特に大企業ではDXプロジェクトも多く、SalesforceやSAPなどのSaaSが大規模に導入されて事例なども多いので、よくご支援させていただいています。
ー 大手企業への導入に際し、先方の社内決裁のハードルが高いと感じているスタートアップは少なくなさそうですが、どのようにアプローチを進めていかれたのでしょうか。
弊社では、先ほどお話に上げた大手保険会社様に導入いただけたことが大きく、その後の他社様の導入ハードルが一気に下がった感覚があります。
私たちのように、イノベーター/アーリーアダプターの方をいかに探していけるか、はとても重要だと思います。
当時の私たちはとりあえず顧客を獲得しようと、ベンチャーキャピタルのLPや自分の人脈でとにかく多くの方とのアクセスポイントをつくりました。
ー 資金調達でご苦労されたことは。
設立当初はとにかくエクイティファイナンスよりも、デットファイナンスを中心に活用していました。
日本は政策金融があるので、創業当初にも関わらず、借り入れを起こしやすい、デット天国だと思います。
日本政策金融公庫の創業融資や信用保証協会の保証付融資には大変お世話になったので、ぜひ活用することをお勧めします。
エクイティ・ファイナンスはある程度初期のトラクションが出てから実施しました。シードラウンドでは、2019年9月にVCやエンジェルなどから1.2億円。
シリーズAのラウンドではさらに5億円を調達しています。おかげさまで常に良い評価はいただけているので、大きな苦労こそしてないですが、なぜか毎回ファイナンスの時には地合いが悪いですね(笑)。
ー 組織風土、採用について伺えますか。
ホームページでも採用資料を公開しており、そこにも記載しているのですが、「楽しく、ポジティブな人生を応援したい」「仕事も人生の一部として、楽しむ会社を作りたい」と個人的には考えております。
テックタッチのプロダクト自体も、システムをストレス源ではなく、ヒトの可能性を広げるものであってほしいという理念を込めているので、そこにも通じるものがあります。
ー 創業して10ヶ月くらい経ったころに、お祝い事があったときに鳴らすための小さい銅鑼を買ったというエピソードがあり、温かい風土なのだろうなと思っていました。
(オフィスの一角を指して)銅鑼は今もそこで現役で使われています。
当時は資金調達を重ねてシリーズが上がるごとに大きな銅鑼にしていこう、と話していたのですが、オフィスへの出社が減ったこともあり頓挫しました(笑)。
すごくチームワークを重視する風土なのはその通りです。起業して約1年半後の2019年7月に初めてオフサイトを開催し、その時にバリューをみんなで議論して「挑み続けろ 援護があるから」「Deep Thinking」「いつでもごきげん」の三つが制定されました。
そこからオフサイトを定期的に開催したり、オリジナルのアパレルをつくったりと、和気あいあいとした雰囲気でやっています。
採用選考において、カルチャーフィットを見極めることに特化した60分の面接があることも当社の特徴です。
特に初期段階では、カルチャー面でフィットがうまくいかない人が一人入ってくるだけでも影響が大きいので、社内の雰囲気に合うか、チームでうまくやっていけるかは結構見ています。
毎週木曜日に、採用Meetupと称したZoom飲み会を開催し、採用候補者と現メンバーをローテーションしながら少人数で交流するということもしています。
こちらは選考ではなく、会社に入って来てもらう前に会社とのフィットを候補者様に判断していただくための施策ですね。
ー Forbes JAPAN 「CLOUD 20 Rising Stars」、週刊東洋経済「すごいベンチャー100」などに選出されておりますね。広報戦略はどう設計されていますか。
前提として、我々のようなスタートアップにとって、広報は重要だと考えています。
なぜなら、我々のような、新しいサービスを広めていく立場の企業だと、「どう認知してもらいマーケットをつくっていくか」がその後の経営を左右することにもなるからです。
その考え方を軸として、広報戦略は「サービスを知ってほしい対象は誰なのか」「その人たちに『お!』と言わせるトピックや内容は何か」を考えながら、メディア側が報じたいと考える内容と、我々がお伝えしたい情報の掛け算をベースに設計しています。
ー 今後の事業展開についてはどうお考えですか。
Webシステムを誰もが使えるように整え、システム導入効果の最大化を狙うこの領域は、世界的には「DAP」と呼ばれています。海外の競合企業ではユニコーンも複数出現しています。
日本市場においては、我々はこの領域における先駆的プレイヤーとして自負をしております。
社内では、DXを推進するプラットフォームになるという意味を込めて、「DXP®(Digital Transformation Platform/商標登録済)」と呼んでいます。
起業初期はやれることが限られていましたが、成長し、今のフェーズまでくると、いろんなことができるようになったなと改めて感じています。
データやノウハウも蓄積されてきており、どんな会社でどんなシステムが利用されていて、テックタッチを導入するときの課題は何かといったといったことがわかるようになってきました。
今後は、こういったデータを活用し、企業の生産性向上、改善提案のコンサルティングもしていけるのかなと。
市場でいうと、国内であれば公共セクター。そして海外に目を向けると、アジアがホワイトスペースだと感じています。日本人の細やかな特性とDAPは相性が良く、海外においても、私たちのプロダクトが受け入れてもらえる余地があると感じています。
日系企業の海外現地法人など、徐々に展開も開始していて、採用でも英語人材のポジションを強化したりしています。
ー 生い立ちを語っていただけますか。
父は金融マンということで転勤族で、愛知生まれではあるのですが、各地を転々としていました。
大学では、あまり何も考えてなかった(笑)。サークルやバイトに費やしていた時間が長かったですかね。最近の大学生は、就職活動より早い段階からスタートアップでインターンをしている人も多くてすごいなと思っています。
私も就職活動でいろいろなところを受けましたが、新生銀行はいろいろな人が多くて面白そうだなというのが決め手でした。
ー お父様も金融だったのですね。休日の過ごし方、リフレッシュ方法は。
私の父は銀行勤務後、最終的には母と二人で夫婦で起業したりもしています。自身の起業も含めて少なからず影響を受けていると思います。
私自身は、家族との時間はまさに、仕事と離れてリフレッシュできるものになっているかなと。娘が小学生なのですが、この間は二人で横浜中華街に行ってきました。
子どもと話すと、やはり全く違う世界に住んでいるので、自然と思考回路が切り替わって良い気分転換になりますね。
たまに「社員、いま何人になった?」と聞かれたりすることもあります(笑)。
ー プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。
当たり前にはなってしまいますが、その時期は顧客と向き合いつつ、市場の大きさもしっかりと想定してほしいです。
過去いくつか新規事業を手掛けてきましたが、市場の大きさは事業遂行の上でとても大事なファクターです。
資本政策や資金調達は不可逆なので、参入したはいいけれど、市場が原因でスケールまで持っていけない状況に陥るのは、いろんな人を巻き込んでいる分、本当につらいです。
しっかりリサーチし、良い市場で勝てるプロダクトのイメージを立てられることが良いかなと。そこまではとにかく我慢だと思います。
ー 最後に、これからつくりたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。
今は様々なITサービスが次々と生まれてきていて、本人がやる気を出せば、生産性はどんどん上げていける時代。
一方で、特に日本人にはITへのアレルギーがある方が少なくありません。先進国と比較して、相対的にどんどん低下している日本の生産性を上げていくには、いかにITを使いこなせるか、はとても大切だと思っています。
テックタッチを利用していただくと、システム部や、あるいは業務部門の方々が自分たちで使いづらいと感じたところを日々改良していけます。
日本人はオペレーションにとても強いと思っていますし、ボトムアップでITを改善しながら業務改善していく姿勢が根付いていったらとても面白いなと思っています。
同じような課題感を抱いている方、ぜひ僕たちと一緒に世の中を変えていきましょう。
テックタッチ株式会社
銀行、通信企業での新規事業担当を経て独立。スタートアップのファイナンスやコミュニティの運営に長く携わる。自身でメディア運営をしていることがきっかけでライター活動も行なっている。
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