TOP > インタビュー一覧 > 日本は投資必須時代へ、これからのスタンダードとなる金融商品開発に挑むファンズが目指すコンプラインスと開拓の両立経営
ファンズ株式会社 代表取締役 藤田雄一郎 氏
会社員でも片手間で行っている人も少なくない株式運用。
一方、投資先に不安があったり、株価の乱高下リスクがあると懸念することもあるだろう。
そんな中、株式ではなく貸付投資の形で、個人が1円から投資できるサービスができた。
それが「Funds(ファンズ)」だ。運営母体のファンズ株式会社は、2019年1月にFundsをリリースして以来、会員登録60,000名を突破し、これまでに募集を行ったファンドは累計で60社210ファンドとなる。
代表取締役の藤田雄一郎(ふじた・ゆういちろう)氏にお話を伺った。
このページの目次
ー これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。
早稲田大学商学部卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社しました。
私は2000年代前半に大学生時代を過ごしたのですが、当時はITバブル真っ盛り。IT起業家が時代の寵児としてメディアで注目を浴びた時代でした。
大学では友人を巻き込んで何か企画するという面白さに目覚めたことも相まって、起業に憧れはじめました。
大手企業への入社も検討はしたものの、ベンチャーマインドあふれる環境に身を置きたいと考え、サイバーエージェントへ。そこではインターネット広告の営業を担当していました。
入社して2年後に卒業し、2007年に大学時代の友人たちと、Webマーケティング支援事業を行う企業を創業しました。
その企業では、2012年に上場企業に売却するまでを経験しました。その時経験したことによる学びはとても多かったです。
Webマーケティングは、当時すでにレッドオーシャンで競争が激しく、事業成長させるのに大変苦労しました。一方、他の業界も含めて見てみると、自分たちよりも後で起業した人たちが急成長することも。
一体何が違うのだろうと考えた時に、起業家の能力の差や、誰がやるかというのも、もちろん大事だけれど、それよりもさらにどこの市場で戦うかが重要であると気づきました。
それであれば、自分も次に起業をするなら、時世を捉えたものにしようと市場を眺めていたところ、目に入ったものの一つが融資型クラウドファンディングでした。
たまたま知人の紹介で、融資型クラウドファンディングサービスの立ち上げメンバーとして経営に携わらないかとのお誘いがあり、その会社に参画しました。
ー 融資型クラウドファンディングの世界に入ったのはバイアウト後だったのですね。実際に関与されてみてどう思われましたか。
仕組みもコンセプトも面白いなと感じました。
一方で、ハイリスク・ハイリターン寄りの商品が多く、ユーザーニーズを考えた時にもう少し利回りが低くても安心感のある商品があると良いなと考えていました。
そのころ、共同創業者の柴田陽(しばた・よう)と出会い、ちょうど彼も今のFundsと似た構想を持っていたところで、一緒に2016年11月に株式会社クラウドポートを設立することになりました。これが今のファンズ株式会社になります。
柴田は起業家として著名で、ちょうど事業売却してシリコンバレーから帰国してきた頃。
スタートアップの経営経験が豊富な柴田と、融資型クラウドファンディング業界の知識がある私とで一緒にやれば、業界を大きく変えられるようなサービスができるのではないかと思いました。
2019年1月には貸付投資のオンラインマーケットFundsをリリースしました。Fundsは、資産形成したい個人と事業資金を借りたい企業をつなぐオンラインマーケットです。
Fundsのサービスでは、投資家はファンドに出資し、さらにそのファンドが一定の選定基準をクリアした企業に貸付を行い、回収した元利金をファンドを通じて投資家に分配します。
投資家側の手数料ゼロで1円から投資ができ、投資後の値動きチェックが不要といった特徴があります。貸付先の企業として、多くの上場企業にご参加いただいていることもFundsの強みといえます。
ー 最初からこの構想をお持ちだったのですか。
最初は貸付投資の比較検討Webメディアを運営していました。
実は、貸付投資の事業を始めるには、第二種金融商品取引業のライセンスを取得する必要があり、そのライセンスの取得を進めながら、まずはメディアを通してユーザーの皆さんとの信頼関係を構築していきました。
ー エンドユーザーからの声はいかがでしょうか。
ユーザーのボリュームゾーンは30〜40代の会社員で、SNSをよく見ている人やエンジニアの方が多いですね。
広告からの流入のほか、Instagram、YouTubeなどでユーザーが紹介してくれて、そこから流入してくれることもあります。資産運用サービスとしては珍しい流れかなと思っています。
ー サービスイン直後は新型コロナウイルスの流行が始まった頃ですね。影響はありましたか。
当時は事業規模がそこまで大きくなかったので事業へのインパクトはさほどありませんでしたが、個人投資家と投資先の企業をマッチングさせるイベントができなくなったのは悲しかったですね。
でも、ステイホーム中は出勤するよりも資産チェックがしやすいからか、証券口座開設数が伸び、その影響もあって成長もできたと感じています。
ー 資金調達はいかがでしたか。
2016年に設立し2019年にサービスインしました。
シリーズAはその前年の2018年3月で、B Dash Ventures、AGキャピタル、みずほキャピタルなどを引受先とした総額3.1億円。
ライセンス取得前だった状態ながら、組織も強くしないといけないので採用にお金が必要な時期。そんな中で信じていただき投資決定いただいたわけで、とても感謝しております。
2019年8月に、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、グローバル・ブレイン、三菱UFJキャピタル、SV-FINTECH Fund等からシリーズBを7億円でクローズしました。
サービスを開始した直後だったので、このフェーズでも結構大変でした。
そもそも個人投資家が集まるのか、企業側も超低利の銀行融資が存在する日本市場においてFundsで資金調達したいニーズがあるのかと質問を受け、可能性を理解いただけないこともありました。
さらに2021年4月には、ANRI、日本郵政キャピタル、メルペイ、FFGベンチャービジネスパートナーズ等からシリーズCで累計約22.3億円を調達。
安定した企業を貸付先に増やそうと動き始めていたタイミングでしたが、福岡銀行との業務提携により、福岡銀行が借り手となるファンドを実現できました。
銀行が借り手となる地元企業の優待付きファンドで、個人投資家に地元企業の認知を広げ、ファンづくりを促進しようというもの。
この時は、10万円以上投資した方を対象に湯布院にある温泉旅館「柚富の郷 彩岳館」の無料宿泊券や割引、グレードアップなどの優待特典をお付けしました。
株式投資の場合は株主優待を実施している企業は複数ありますが、貸付投資で優待を実施している例は少ないと思います。
銀行の信用力に依拠して投資を行うことができ、その上で優待特典ももらえると、個人投資家には嬉しいことばかり。
個人投資家の反応もとても良かったので、今後もこういったユニークな形の取組みは増やしていけるといいなと思っています。
ー PRについてもお聞きできればと思います。国内最大級のピッチコンテストであるIVS 2019 Launch Pad(以下、IVS)での優勝をはじめとした多数の受賞実績の他、経済ニュース番組のワールドビジネスサテライト(WBS)等のメディアにも多く取りあげられておられますね。
はい、実はIVSに臨むにあたっては準備を入念に行いました。
開催の2、3か月前から出場を決め、過去動画を見て、どんな会社がどんな構成でピッチをしているかを研究し尽くしました。
ある程度トラクションが集まっているフェーズながら、新規性もPRできるタイミングだったので、自分たちの事業のどの側面に光を当てて、どういうストーリーラインをつくるかを徹底的に練りました。
練習もかなり重ねまして、社内外の方にフィードバックをいただきました。
あのステージに立つと頭が真っ白になるくらい緊張するのですが、何度も練習していると、考えなくとも自然と口から言葉が出てくるまでになります。
実は、広報の水野さんから「優勝のプレスリリースをドラフトしておきました」と言われて、プレッシャーを感じつつも気合が入りましたね。
IVSはエンドユーザーへの認知拡大のほかにも影響力があり、資金調達で門前払いされることもなくなりましたし、採用にもかなり活きました。
認知の拡大に加えて、「有名なイベントで優勝した会社だ」という説明ができるようになるので、私たちを信じて投資や入社をしたいと思ってくださる皆さんが、周囲を説得しやすくなる効果もあります。
取材の問い合わせも増えましたし、ピッチの準備は大変ではありましたが、時間をかけて準備した甲斐があったと思っています。また、短時間で自分たちの事業をプレゼンしようとすると、採用や資金調達の場面でも使える、人の心を動かす言葉が出てくるのも思わぬ利点だと思いました。
あとは、やはりまだテレビには影響力があると実感しています。特に、30〜40代から更に上の世代にも認知してもらうことができます。
我々の商品は投資信託のように値段が上下動しませんから、入門者である若い方々だけでなく、安定的に資産形成をしたいシニア層の皆様にも良いサービスだと思っておりまして、幅広い層に知っていただくには良いチャネルだなと思います。
ー 組織風土、採用について伺えますか。
弊社のミッションは「未来の不安に、まだない答えを。」です。
お金にまつわる不安の解消に挑みつつ、やはりスタートアップであるからこそ、新しいソリューションで課題解決したいという理念を織り込んだものです。
金融事業ということもあり、誠実な経営を行うことができる体制になるよう、バリューの一つに「コンプライアンスファースト」という項目を敢えて設けています。
監査体制を充実させる組織づくりも、堅実な採用も、お金や時間といったコストがかかりますが、むしろそこをしっかりやっていく必要があると思っています。
そういったことがあった上で、金融機関や投資家からの信頼を獲得できるため、重要な成長戦略の一環であると捉えています。
スタートアップ的な成長のためにも国内・世界で初めてのことが出来ているかという点にもこだわってもいます。
モラル意識も高く、挑戦の気概も高い、バランスの良さが求められるフェーズですので、面接を4〜5回行ったり、大事なポジションなら食事などのカジュアルな場面でお互いの本音をすり合わせたりと、採用にはじっくり時間をかけています。
ー 今後の展開についてはどうお考えですか。
最近ですと、前述の福岡銀行の事例のほかにも業界初の取り組みとしてメルペイと提携し、2020年11月から「メルカリ サステナビリティファンド」と題した貸付ファンドを提供してきました。
通常のファンドであれば、投資資金も分配金も、Fundsデポジット口座を介して送金されます。
一方、このファンドの特徴としてはメルペイ残高で投資も分配金の受け取りもできます。ポイント投資に似た感覚があるかもしれませんが、融資先はメルカリという大手企業。
非常に好評で、初回ファンドは1億円の先着希望枠に対して約1分で満額申込を達成しました。その後もメルペイとの取り組みを継続し、現状で第3弾までファンドを公開しました。
今後優先させていきたいのは、顧客基盤が固い企業との連携ですね。最近では三菱UFJ銀行と連携して、同行が運営するMoney Canvas(マネーキャンバス)に参画をさせていただきました。
他の金融機関とも連携の話を進めていて、これまでプロ投資家にしか投資できなかったレベルのアセットにも投資してもらえるようにしたいですね。
日本は調達コストが低いので、国内で資金を集めて海外に拠出していく流れをつくることも検討しています。
今はWeb3が人気で、弊社のプロダクトとNFTファンマーケティングも相性は悪くないですし、まだやれていないことがあると思いつつも信頼が大事な業種なので、まずは自分たちの事業に集中したいなと思っています。
ー 学生時代はどのように過ごされましたか。
極めて普通でした。高校時代は野球部でしたが、甲子園を目指すとかでもなく(笑)。
一方で、その後の大学時代は割と転機でした。友人と音楽イベントの企画運営をするサークルを立ち上げたのですが、その経験が今の経営に繋がっている気がします。
コンセプトメイクから始めて、集客の仕方など、何もかも自分達で考えて広めていくというのが楽しかったです。
当時の友人たちは、大企業に勤めている人もいるし独立している人もいます。今も仲が良くて旅行にも行ったりしますが、みんな頑張っているので自分も負けたくないなといつも思います。
サークルの活動や仲間と何かをやる経験は、自分の経験値としても人脈づくりにも良かったと感じています。
ー 休日の過ごし方、リフレッシュ方法は何かありますか。
ベタですがサウナです。コロナ禍が始まり、遠くへの外出が制限されるようになったので近場で楽しめることを探したのがきっかけです。
正しいサウナの入り方を調べて入ってみたら、ものすごい整ってしまって(笑)。それ以来、サウナやスーパー銭湯によく通っています。社内にもサウナ好きは多いですね。
ー プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。
スタートアップを経営すると、悔しい体験をすることはとても多いです。採用がうまくいかなかったり、調達がうまくいかなかったり、他の経営者に嫉妬したり。
けれど、それも反骨精神にして、自分を信じてやり続ければ道は開けてきます。どうか諦めずにやり続けてみてください。
先日、札幌で開催されたスタートアップのカンファレンスで、マネーフォワードの辻社長がお話されていたのですが、「たとえ世の中から注目されていない事業であっても、10年想いを持って真剣にやり続けていればきっと形になる」とおっしゃっていて感銘を受けました。
私もこの業界に入って10年経ちますが、最近ようやく結果が見えてきたなという気持ちです。
彗星の如く現れていきなり認知が広がり、売上が上がる企業もありますがレアケースです。基本的に経営は持久戦。私もまだまだこれからという気持ちでいます。
経営にあたってはメンタルの安定も必要です。私の場合は心というものを主観的に捉えすぎないようにしています。
心も胃や腸と同様に体の器官の一つであって、不調があっても脳内物質の分泌バランスが崩れているだけなので、早寝早起きや運動で解決しようと心がけています。
ー 最後に、これからつくりたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。
我々は、国民的な資産運用サービスを創る、をビジョンにしています。
これまでは、お金の運用は資産家がやるものと考えてきた人が少なくないかと思いますが、今後の日本を考えると、これからはやらなくてはならないものになると考えています。
学校教育においても投資の勉強が始まりますが、初めて投資をする時に選んでもらえる商品として、Fundsが当たり前に選択肢にあがるくらい、身近でモダンなものにしていきたいです。
我々の取り組みは、日本の資産状況、金融リテラシーにまで影響力のあるものです。資産運用の根幹的な部分を大きく変えていくようなこの事業にご関心のある方は、ぜひご一緒できればと思います。
ファンズ株式会社
銀行、通信企業での新規事業担当を経て独立。スタートアップのファイナンスやコミュニティの運営に長く携わる。自身でメディア運営をしていることがきっかけでライター活動も行なっている。
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