TOP > インタビュー一覧 > 研究者と共に、世の中を変えるスタートアップづくりに挑み続けるBeyond Next Venturesの挑戦
Beyond Next Ventures株式会社 Incubation Groupマネージャー 津田将志氏
「Deep Techに関わる一番の喜びは、未来が変わる瞬間と出会えることだ」
自らも学生時代に研究に打ち込んでいた津田 将志(つだ・まさし)氏はこう語る。
大学発スタートアップ企業も増加の一途をたどり、ますます注目を集める研究開発型スタートアップ。
今回は、そんな企業に特化して包括的な支援を提供するBeyond Next VenturesでIncubation Groupのマネージャーを務める津田将志氏に話を伺った。
このページの目次
編集部:最初に、Beyond Next Venturesの取り組みについて改めて教えてください。
津田:私たちは、研究開発型スタートアップの立ち上げ前から伴走支援を行うVCです。
2014年に創業し、これまでに総額220億円を運用しながら約70社に資金提供を行い、シーズの事業化・事業成長を支援してきました。
立ち上げ前~シリーズAフェーズのスタートアップへの支援が弊社の強みであり、2015年に組成した1号ファンドの出資先企業からは数社EXITを果たしています。
編集部:研究開発型スタートアップに対して、具体的にどのような支援を行っていますか?
津田:研究シーズを基盤としたスタートアップの立ち上げの段階では、アクセラレーションプログラム「BRAVE」の運営やシェア型のウェットラボ(実験施設)「Beyond BioLAB TOKYO」、シェアスペース「B-PORT」を運営しています。
弊社からの出資後は、CXO人材の採用支援や、大企業との連携サポート、IPOに向けた支援などをそれぞれの専門性に長けたチームで行っています。
弊社のキャピタリストは、出資先企業に対してボードメンバーやアドバイザーといった立場で日々伴走をさせていただいています。
編集部:多くの起業家と接している津田さんから見て、研究開発型スタートアップ特有の壁は何ですか?
津田:研究開発型スタートアップは、まだ十分に成功事例が生まれていない領域で勝負する場面が多く、そこが難しい部分であると思います。
また、挑戦する産業の専門知識が豊富で、かつスキル的にも即戦力となる人材がほとんどいない状況が多く、予算も限られているため、優秀な人材獲得に苦戦する傾向にあります。
そして、アメリカ等と異なり日本の多くの起業家は初めての起業であるため、一般的なスタートアップがぶつかる壁にも直面しています。
編集部:津田さんは、学生時代はどのような研究をしていましたか?
津田:私は京都大学の大学院で工学研究科高分子化学を専攻し、体内で使える生体材料の研究に取り組んでいました。
具体的には、天然の物質を加工して、体の中に抗がん剤を届ける「キャリア」と呼ばれる物質を開発していました。
編集部:津田さんがBeyond Next Venturesに参画したきっかけは何だったのでしょうか?
津田:実は、学生時代の研究室の恩師が、他の大学の教授と一緒にスタートアップを経営していました。
そのご縁から、シーズをスタートアップに移していくことの困難さを肌で感じていました。
実際にアメリカに行ってバイオスタートアップのエコシステムを見たりしましたが、日本は研究室で培った技術をビジネスとして立ち上げていく仕組みがまだまだ弱いと感じます。
この立ち上げの部分の仕組みを、より改善したいと思い参画を決めました。
編集部:Beyond Next Venturesの機能の一つであるアクセラレーションプログラムBRAVEについて教えてください。
津田:BRAVEは、研究開発型スタートアップを対象にしたアクセラレーションプログラムです。
2016年に立ち上げ、過去7回の開催を通じて120チームを支援してきました。大学の先生方を巻き込みながら、登記前の研究チームやシード期の研究開発型スタートアップに対して包括的な支援を行うことが特長です。
編集部:具体的に、どのような研究開発型スタートアップの方がエントリーされ、審査を通過しているのでしょうか?
津田:応募いただくテーマは千差万別で、創薬技術から新しい食料品の開発、新しい医療機器の開発など、とても幅広いです。
共通している特徴は、「研究シーズを世に出し世の中を変えたい」という熱意です。
実際に選考を通過しているチームは、シーズがユニークであることだけでなく、周囲の人を引きつけ巻き込んでいく力が強いことが多いです。
加えて、「どのような社会課題の解決を目指すのか」という観点も非常に大事です。
研究開発と並行して、社会課題とうまく連結させて継続可能なビジネスモデルにつくり上げていくことも重要です。
画像出典元:「Beyond Next Ventures」
2020年度のBRAVEの参加者の様子
編集部:BRAVEに参加した企業の中で、特に業績を伸ばしている企業があれば教えてください。
津田:最近も大型の資金調達を発表されていますが、AI内視鏡を開発しているAIメディカルサービスが代表的な例だと感じています。
研究開発した技術を世界の臨床で活用したい、という創業者の多田先生の熱意が強く、リーダーシップも強い点がとても魅力的なスタートアップだと思います。
また、膜タンパク質を標的とした創薬に挑んでいるリベロセラもいい事例です。
リベロセラは、創業前の段階から支援させていただき、仮説検証から創業時の補助金獲得の準備に至るまで、弊社と二人三脚で歩んできました。
現在ではさまざまな企業との協業も進み、巻き込み力がより一層強くなっている印象です。
編集部:2022年度のBRAVEは、さらに進化させた点があるとのことですが、詳しく教えてください。
津田:2022年度のBRAVEでは、「Company Creation」をメインテーマに据え、シーズを持っている方と一緒に、弊社のメンバーが創業から深くコミットしていくという形に方向性を尖らせました。
運営側とプログラム受講者という立ち位置ではなく、両社がフラットな立場でパートナーシップを組み、勝てるスタートアップを一緒につくっていくことを目指しています。
技術シーズを世に出したい、世界に挑戦したいという方とぜひご一緒したいです。
画像出典元:「Beyond Next Ventures」
2022年度のBRAVEの内容
編集部:今後、BRAVEをどのように進化させていきたいと考えていますか?
津田:アクセラレーションプログラムが日本に上陸して約10年ですが、次の5年を見据えると、日本国内における研究開発型スタートアップ創業のロールモデルをつくっていきたいと考えています。
アクセラレーションやインキュベーションという今の枠組みのままなのか、カンパニークリエーションやスタートアップスタジオという形の方が適しているのか。
我々も試行錯誤しながら、日本の環境に一番適したスタートアップ支援の仕組みづくりに取り組んでいきます。
編集部:Beyond Next Venturesのユニークな取り組みの一つである、Beyond BioLAB TOKYOとは一体どんな施設なのでしょうか。
津田:東京都日本橋に位置するBeyond BioLAB TOKYOは、バイオ系スタートアップが1名から入居できるシェア型ウェットラボです。
欧米では、バイオスタートアップの創業初期に、研究開発を行うための環境を自力で用意できないという課題が既に発生しており、VCなどが研究拠点を運営していることが一般的になっています。
実験の機器だけでも数千万〜数億かかりますし、分析を別の研究機関に出したとしてもそれなりの費用が必要になる上に、研究開発のスピードも遅くなってしまいます。
創業初期のスタートアップがより手軽に研究してデータを蓄積できる場所をつくることができれば、スタートアップの挑戦をよりサポートできると思い、2019年に立ち上げました。
画像出典元:「Beyond Next Ventures」
Beyond BioLABの様子
編集部:Beyond BioLAB TOKYOに入居したスタートアップからは、どのような意見が届いていますか?
津田:大きくは2点、ポジティブなご意見を頂いています。
一つは、創業初期の研究活動に関するイニシャルコストが安価になる点です。研究拠点を立ち上げるには、数億円の初期投資が必要ですが、Beyond BioLAB TOKYOに入居することでコストを月額数十万円程度にまで抑えることが可能です。
もう一つは、Beyond BioLAB TOKYOに常駐している弊社のラボマネージャーの存在です。ラボマネージャーは、入居企業の日頃の支援やバックオフィス業務など、裏方の仕事を全て担っています。
実は、研究開発拠点においては、共有機器のメンテナンス・新しい機器の導入や、試薬の管理などのルーティン業務や安全管理など、多くの雑務が発生します。
自社でそういった管理までやろうとすると研究をする時間が無くなってしまうくらいの膨大な業務なのですが、弊社のラボマネージャーがそのような雑務を全て担うことで、スタートアップは事業づくりと研究活動に没頭できるのです。
編集部:スタートアップはBeyond BioLAB TOKYOにどの程度の期間入居することが一般的なのでしょうか。
津田:1−2年が多いです。バイオラボは多くても1社あたり4−5名の入居です。資金調達を重ね人数が増えると手狭になりますので、他の大型の研究ラボに移るために卒業することが一般的です。
編集部:今後、Beyond BioLAB TOKYOをどのように進化させていきたいですか?
津田:バイオスタートアップが最初に入居する研究開発拠点として、もっと認知度を高めていきたいと思っています。
アクセラレーションプログラム「BRAVE」への参加や弊社のキャピタリストからの支援を通じて社会実装をサポートし、Beyond BioLAB TOKYOというシェアラボで研究活動の支援を行う。
つまり、ビジネス的な議論と技術的な検証の二つの場を用意し、スタートアップの成長を支える仕組みを確立させていきたいと考えています。
編集部:研究開発型スタートアップを育てることで、日本の研究力向上にどのように寄与できるとお考えですか?
津田:優秀な人が研究者を志すような流れをつくり、業界全体を盛り上げていくことができると考えています。
より多くの研究開発型スタートアップが成功することで、研究の意義や楽しさが連鎖的に波及していくと考えています。
中長期的にモメンタムを何度もつくっていくことで、人材と資金のよい循環をつくり、日本の研究力の底上げに貢献したいです。
編集部:研究開発型スタートアップが世界で活躍するために、津田さんの観点で一番大事だと考えていることを教えてください。
津田:研究開発型スタートアップは、革新的なテクノロジーやサービスをつくることができれば、言語の壁を超えることは難しくはありません。
良い素材や良い薬は、言語関係なく世界中で受け入れてもらいやすいからです。自分たちが生きている中で当たり前だと思っている前提条件を大きく変えることができ、世界中の人々に自社のサービスや製品を使ってもらえる。
そういった、非常に大きな挑戦ができる領域なのです。
世界で活躍していくためには、国内外の市場の動向や、産業全体が今後どのように変化していくかを考えながら、足元の事業に取り組む視座の高さが重要だと考えています。
編集部:どのような思考や思いを持っている研究者に、研究開発型スタートアップの世界に飛び込んでほしいですか?
津田:自分の持っている研究開発シーズで世界を変えたいという思いを強く持っている人と、ぜひともご一緒したいです!スタートアップを立ち上げる人生は困難の連続です。
しかし、私たちBeyond Next Venturesは困難が大好きですし、色々な人を巻き込みながら、研究者の皆さんと一緒に新しい産業をつくっていきたいと思っています。
Deep Techは非常に将来性があり、インパクトも大きな領域です。技術シーズを活用していくことで、世界が変わる瞬間に立ち会うことができます。
チャレンジしたい方は、ぜひ私たちのプログラムにご応募いただけると嬉しいです。
編集部:ありがとうございました!
Beyond Next Ventures株式会社
学生時代に宇宙工学を専攻。ビジネスコンテストやアクセラレータプログラムの企画運営に関わりながら、ライフワークとして宇宙ビジネスメディアにライターとして参画。趣味はロードバイクとラグビー観戦。
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代表取締役 羅 悠鴻
独立系VCであるが、投資のみならず、ラボの運営やアクセラレーションプログラムにも力を入れているBeyond Next Ventures。研究開発型スタートアップと一緒に成長することを重視する彼らの歩みが、きっと未来の日本のDeep Techを盛り上げることに繋がっていくことだろう。研究開発型スタートアップに必要なことは全てここにある。彼らはいつも挑戦者を待っている。