宇宙ビジネスはもっと面白くなる。インフラとして宇宙ビジネスを支えるインフォステラのビジョン

宇宙ビジネスはもっと面白くなる。インフラとして宇宙ビジネスを支えるインフォステラのビジョン

株式会社インフォステラ CEO 倉原 直美氏

記事更新日: 2022/06/08

執筆: 長田大輝

「宇宙ビジネスのインフラを担う」

大学での博士研究員、衛星管制システムエンジニアの経験を経て、宇宙ビジネスに挑戦する倉原直美氏はこう語る。

2021年12月には実業家の前澤氏が宇宙旅行を体験するなど、近年注目を集める宇宙ビジネス。

現在世界で40兆円規模のマーケットと言われる宇宙ビジネスにおいて、インフラとなる地上設備のシェアリング事業を展開する、株式会社インフォステラCEOの倉原 直美氏にお話を伺った。

人工衛星と通信する地上設備のシェアリング

編集部:インフォステラの事業概要を教えてください。

倉原:昨今、人工衛星を用いたビジネスが注目を集めており、国内外でスタートアップが多数生まれています。

衛星ビジネスにおいて、人工衛星を製造して宇宙空間に打ち上げるだけではなく、人工衛星と通信するために必要な地上システム(以下、地上局)が欠かせません。

地上局は、軌道上の人工衛星に指示を出したり、人工衛星が取得したデータを受信したりする機能を担っています。

しかし、人工衛星の数に対して地上設備の数が足りておらず、人工衛星で取得できるデータのポテンシャルを十分に引き出せていない現状があります。

そこでインフォステラが展開するStellarStationでは、世界中のさまざまな地上局へのアクセスを提供しています。

すべてが単一のAPIを介して接続され、人工衛星を製造および運用する企業(以下、衛星事業者)はStellarStationを活用することで、共通のインターフェースを介して世界中の地上局にアクセスできます。

人工衛星を運用する際の地上設備、衛星運用管制システムやネットワークも含めて、一気通貫で衛星事業者に提供するサービスをGround Segment as a Service(以下GSaaS)と呼びます。

これによって衛星事業者の負担が大幅に減り、人工衛星から取得できるデータの利活用に資金や時間を割くことができるようになります。

StellarStation 概要図

編集部:大学での研究員、衛星管制システムエンジニアを経て倉原さんが起業に至った経緯を教えてください。

倉原:正直なところ、自分が起業するなんて全く思っていませんでした。大学院で博士号を取得した後、東京大学の博士研究員として「ほどよしプロジェクト」とよばれる衛星プロジェクトに参画していました。

このプロジェクトは、ただ人工衛星を製造するだけでなく、人工衛星の利活用のすそ野拡大を重視していた点が特長でした。さまざまな企業にヒアリングに行きましたが、想定ユーザーのニーズに応える上で人工衛星の地上設備の拡充が必須であることを実感しました。

その後、衛星管制システム大手企業に就職しましたが、システムのプロバイダーとして衛星事業者とやりとりをする中でも、小型衛星を多数打ち上げ全球をカバーする上で、地上局の数の少なさに起因する通信機会の少なさを痛感しました。

これらの経験から、人工衛星ビジネスが世の中に浸透していく上で地上局の問題が根強いと感じ、2016年に起業しました。

編集部:学生時代はどのように過ごされていましたか?

倉原:学部生時代は、卒業したら何か宇宙の仕事がしたいなと思っている程度でした。修士課程で研究室に入った時は海外での研究を経験し、もっと研究を深めたいと感じて博士課程に進学しました。

顧客開拓の苦労を乗り越えて掴んだITジャイアントとの提携

編集部:創業して一番大変だったことを教えてください。

倉原:スタートアップのフェーズごとにそれぞれ大変な日々の連続ですが、一番苦しんだのが2019年〜2020年の時期です。

私たちは2016年の創業以降、約3年間は主要プロダクトであるStellarStationの開発に注力していました。

開発期間を経て、2018年の冬からStellarStationの営業を開始しました。しかし、結論から言うと初期はStellarStatinが全く売れませんでした。

編集部:そうなのですね、売れ行きが悪かった理由は何でしょうか。

倉原:インフォステラのビジネスモデルは、シェアリングです。地上局を弊社が所有して提供するのではなく、地上局を所有しているオーナーと衛星事業者をつなぎます。

当然、StellarStationを衛星事業者に使ってもらうには、パートナーとなる地上局をどれだけ集めることが出来るかが鍵なのですが、地上局のオーナーから見ると、StellarStationのネットワークに参加するまではインフォステラは衛星事業者を取り合う競合です。

販売を開始して日が浅い時期は、ネットワークに参画している地上局の数が少なく、契約を取りづらい状況でした。

その後は、地上局のオーナーに直接的なインセンティブを提示し、少しずつパートナー数を増やしていきました。

現在宇宙ビジネスの中でも地球低軌道を周回する小型人工衛星が注目されており、打ち上げも増えていますが、そういった人工衛星が一つの地上局と通信できる時間はわずか10〜20分程度です。

地上局が人工衛星と通信できる回数も限られているので、地上局のオーナーとしてはせっかく設備を整えても、多くの非稼働時間が生まれてしまうという問題が発生します。

そこで、StellarStationのパートナーとして参画してもらえれば、従来の非稼働時間を他の衛星事業者に貸出すことができ、収益を増やすことができると丁寧に伝えることを大事にしていました。

編集部:パートナー数を増やしていく中で、手ごたえを感じた瞬間はありましたか?

倉原:2020年11月にアメリカの通信衛星大手企業であるViasatと、2021年6月にAmazon Web Services(以下AWS)とそれぞれ提携した時ですね。

ViasatもAWSも複数の国に自社の地上局を所有しているため、これにより衛星事業者に提供できる価値が向上し、顧客開拓に手ごたえを感じていきました。

宇宙ビジネス特有のハードルを着実に超えていく

編集部:宇宙ビジネスというと、Deep Techスタートアップの中でも特に結果が出るまで時間を要する印象があります。資金調達で苦労された点はありますか?

倉原:投資家の皆さんとのやり取りで、ビジネスのタイムスパンに関する認識のすり合わせは大変でした。

インフォステラは、一般的なIT系スタートアップと比較して営業のサイクルが非常に長いです。衛星事業者の顧客一社を獲得するのに、10ヶ月〜1年程度の時間を要するのが普通です。

これほどの時間がかかるのは、主に通信衛星に関する規制の問題に端を発するのですが、現時点では解消できていません。

投資家の皆さんには「宇宙ビジネスは時間がかかります」とお伝えしていましたが、具体的な期間を数字で示した方が認識の違いが生まれなかったなと思います。

編集部:宇宙ビジネスは特に、グローバルに勝負を仕掛けることが重要だと思います。

2022年1月にアメリカに拠点を設立されていますが、海外市場で結果を残す上でどのようなことが鍵になるのでしょうか。

倉原:創業初期からグローバルに展開するサービスにしたいと思っていました。

2016年のインフォステラ創業期は、自社で人工衛星を所有している企業といえば、三菱電機などの大手メーカーか、宇宙スタートアップのアクセルスペースくらいでした。よって、ビジネスとして成長させるには海外に目を向けるのは必然だったとも言えます。

しかし、グローバルに展開する上で、宇宙ビジネスは特に規制の問題を切り離すことができません。しかし、宇宙ビジネスは規制上のハードルが多く、グローバル展開をするにはそれぞれの国や地域ごとに対応をしていかなければなりません。

最初に私たちのパートナーになってくださった地上局は日本にありますし、日本のリモートセンシング法に対応する上でも日本に設備がある方がメリットがあります。

一方で、アメリカの市場で着実に結果を残すために、戦略の一つとしてアメリカ法人を設立しました。

人工衛星が取得したデータを国外に渡したくないというアメリカの企業もありますし、地上局をアメリカに設置することで、アメリカの衛星事業者に必要とされる瞬間は増えます。

加えて、ViasatとAWSの地上局を活用し、世界規模のカバレッジを強みとしていきます。

編集部:ミドルフェーズのスタートアップのCEOとして、今一番大事にしている点を教えてください。

倉原:今大事にしているのは、営業の精度をあげることです。

人工衛星の打ち上げが3年後の事業者に営業しても必要とされません。一方で人工衛星の打ち上げが2ヶ月後の事業者に営業しても、既に地上局を確保しています。

インフォステラとして、適切なタイミングで適切な企業に営業を行う点が非常に重要です。

StellarStationを利用してもらうための十分条件の解像度をあげ、顧客をよく知ることを今のインフォステラのフェーズの経営者として一番大事にしています。

大手宇宙企業出身のエグゼクティブが参画

編集部:倉原さんはご出産と創業の時期が重なっているかと思いますが、どのようにして乗り越えましたか?

倉原:私は出産3ヶ月後に職場復帰しました。保育園を活用出来なかったため、毎日子どもを職場に連れて行っていました。

私が会議で手が離せない時に子どもが泣いたら、社員が抱っこしてあやしてくれるようなこともありました。チームからのサポートが非常にありがたかったですね。

最近は育児をしながらの起業も増えていますが、このように積極的に子育てに理解があるチームだと経営とも両立が可能だと思います。

編集部:スウェーデンの大手宇宙企業Swedish Space Corporation(以下SSC)からエグゼクティブを迎えていますよね。どのようなご縁だったのでしょうか?

倉原:弊社の投資家が、当時SSCの役員を務めていたTom Pirroneにインフォステラを紹介してくれたことが最初のきっかけです。

Tomは最初の時点からインフォステラのビジネスモデルに関心を持ってくれて、すぐにLinkedInでやりとりが始まりました。

Tomにとって地上局ビジネスは情熱を捧げている領域ですし経験も豊富なので、CSO(最高戦略責任者)としてお迎えしました。Tomには2022年1月に設立したInfostellar U.S. Inc.のCEOも担ってもらっています。

編集部:採用で苦労された点があれば教えてください。

倉原:最近は改善していますが、ソフトウェアエンジニアの採用に苦労しました。

日々数千万ユーザーと接するITスタートアップのプロダクトと比較すると、宇宙ビジネスは年間で数ユーザーと接する規模感です。

StellarStationを、ソフトウェアエンジニアとしてやりがいがあるプロダクトだと感じてもらう工夫が必要でした。

編集部:どのように乗り越えたのですか?

倉原:新しく採用したソフトウェアエンジニアのマネージャーが、「ソフトウェアエンジニアにとって魅力的なタスク」をチーム内でうまく展開しているのが大きな効果を生んでいます。

開発しながらコミュニティマネージャーのような動きをしてくれており、ソフトウェアエンジニアがモチベーション高く働けています。やはり組織は上から作っていく点が重要だと実感しました。

宇宙ビジネスとソフトウェアは切り離せません。インフォステラに限らず、宇宙ビジネス業界として、ソフトウェアエンジニアをどう獲得し、モチベーション高く働いてもらえる環境を用意できるかは鍵だと思います。

Deep Techだからこそ、出口戦略から逃げない

編集部:インフォステラが特に恩恵を受けたイベントやプログラムがあれば教えてください。

倉原:東京都が展開する海外進出支援プログラムX-HUB Tokyoの北米西海岸コースに2020年に参加しましたが、メリットが大きかったです。

新型コロナウイルスの影響で、実際に海外には渡航していませんが、プログラムの一部で、メンターと一緒に海外の顧客候補と、実際のリーチ手法まで一緒に考えたことはとても役に立ちました。

実は、このプログラムがきっかけでAWSとの提携につながっています。

編集部:事業を通して実現したい世界を教えてください。

倉原:StellarStationは、宇宙ビジネスのインフラだと考えています。IT系スタートアップが事業を展開する際に、ネットワークプロトコルから考えたり、スマートフォン自体の開発から始めたりしませんよね。

既存インフラがしっかりしているからこそ、IT系スタートアップが成長します。StellarStationがインフラとして浸透することで、衛星事業者の技術が私たちの日常のさらに多くの場面で活用される世界を描いていきたいです。

編集部:宇宙ビジネスのインフラとして、具体的にどのようなポジションを狙っていますか?

倉原:インフォステラとしては、クラウドベンダーとの距離感を考えると面白いポジションを狙えると考えています。

SpaceXが展開する通信衛星サービスStarlinkは、GoogleやMicrosoftのクラウドを活用すると発表しています。またAmazonは、AWSを活用しながらProject Kuiperという通信通信サービスを展開予定です。

また、AWSは2018年11月に、GSaaSサービスであるAWS Ground Stationを発表しましたが、インフォステラと共存できる関係にあると考えています。

詳しく説明すると、クラウドサービスを展開している企業が通信衛星サービスに着手した点が非常に興味深いのです。

彼らは、海底ケーブルなども所有しデータセンターを世界中に設置しているため、キャリア事業者に近いポジションです。

つまり、SpaceXやAmazonがより遅延が少なく使い勝手の良い通信衛星サービスを展開していくためには、キャリア事業の通信基地局と同じように、衛星と地上をつなぐ地上局が必要です。

これらの企業がサービスを提供する上で欠かせないインフラのポジションを、インフォステラとして狙いに行きます。

編集部:最後に、日本のDeep Techスタートアップが世界で勝っていくために必要なことは、ずばり何でしょうか。

倉原:技術と社会的な意義をしっかりとつなげるのが鍵だと思います。

Deep Techスタートアップとして、創業初期の開発期は「いつかきっと役に立つ」というスタンスでも良いと思います。しかし、最終的な出口をしっかり具体化させる点はとても大事です。

投資家からお金を預かり、投資家にリターンをお返しするというロジックでスタートアップは生きています。

このロジックを崩すとうまくいきません。ただ技術を開発したいだけならスタートアップを立ち上げる必要はなく、研究機関で思う存分技術開発に取り組むこともできます。

スタートアップというゲームに飛び込み勝負するからこそ、社会へのインパクトを高い解像度で描くことが大事です。

これがDeep Techスタートアップの成功の最短経路だと思います。インフォステラも、宇宙ビジネスのインフラとして世界中の宇宙企業を支えるために、出口戦略から逃げずに一歩一歩成長していきます。

編集部:ありがとうございました!

編集部

編集部のお見送りの際も優しい笑顔を向けてくださったのがとても印象に残っている。 宇宙という壮大なフィールドで勝負をしかける彼女には、宇宙がより身近になる世界はもう見えているのかもしれない。 世界中で注目を集めている宇宙ビジネス。インフォステラが世界中の宇宙企業を縁の下で支えるインフラとなる未来が楽しみだ。

株式会社インフォステラ

 ・住所 東京本社 東京都新宿区西新宿1-26-2 新宿野村ビル32階
・代表者名 倉原 直美
・会社URL https://infostellar.net/infostellar-jp
・採用ページURL https://infostellar.net/careers-jp
長田大輝

この記事を書いたライター

長田大輝

学生時代に宇宙工学を専攻。ビジネスコンテストやアクセラレータプログラムの企画運営に関わりながら、ライフワークとして宇宙ビジネスメディアにライターとして参画。趣味はロードバイクとラグビー観戦。

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