2019年に発生したコロナウイルス。
感染者数が減り、久々に外出したときのことを、覚えているだろうか。
日の光を浴びて店舗までの道を歩き、お気に入りの内装や雰囲気を味わい、人の喧騒やおいしい料理に囲まれて、その時だけの体験に心が躍る。
人にとって、店舗とはそういう場所ではないだろうか。
顧客が店舗での体験を味わい尽くせるように、そんなコンセプトで累計約3,000店舗(2022年1月時点)に利用されているSaaS、それがcocoだ。
短期利益を追い求めがちな現場だが、実は顧客に長く愛される店舗運営ができれば中長期的に見ると収益増にもつながる。
それが現場にも浸透すれば、「店員の顧客に対する対応も変わってくる」と分析し、現在のビジネスモデルにたどり着いた。
コロナ以前から起業しているcocoだが、これまでにどのような変遷を辿ってきたのだろうか。
cocoのローンチに至るまで様々なビジネスに挑んできたという、代表取締役の高橋俊介氏にお話を伺った。
ー これまでのキャリアと創業のきっかけをお伺いできますか。
2013年1月に慶應大学理工学部を中退し、cocoを起業しました。
元々、起業家を目指していたわけではありませんでしたが、在学中にITコミュニティとふれ合うなかで、自然と自身も起業を望むようになっていったんです。
過去に様々な事業を検討し、実際のローンチまで行かないものもありましたし、事業売却できたものもありました。
cocoのビジネスモデルにたどり着いたのは、2013年にシードラウンドで資金調達してから4年後の2017年、お気に入りの整体院を見つけたことがきっかけです。
Webマーケティングでは、自分がその場所に辿り着けなかったであろうことに課題を感じました。
当時流行っていたのは広告型送客プラットフォーム。
お金をかけたところが注目されるということだけではなく、その時の整体院のように実力があり、ユーザーも獲得できそうな店舗をどうにかして発掘していくプロセスが作れないだろうかと思いました。
当時、アメリカで急成長していた「Podium」という口コミ獲得サービスを知り、実際にその創業者にインタビューにも行ったんです。
帰国後にcocoを構築し、2017年8月にアルファ版をリリースしました。
ー 実際に創業してみていかがでしたか。
2013年にシードラウンドで資金調達をしてから2年が経過し、2015年頃にはついに資金が完全に枯渇します。
周囲で応援し続けてくれていた人も、何度も同じ失敗を繰り返す私を見てだんだんと距離をおかれるようになりました。
初期に「起業して3ヵ月で会社を崩壊させて思ったことと、近況報告です」というブログ記事を書いたところ、これが炎上してしまい、ポジティブもネガティブも含め大変多くのコメントをいただいたんです。
想像以上に注目を浴びてしまいプレッシャーを感じていましたし、ご叱咤の通りだと思うコメントも散見され、「この起業を本当に続けていくべきだろうか」「大学も中退して、自分は何をしてるのだろう」とかなり悩んだ時期でした。
しかしそんななかでも、受託開発やヒットしないサービスのリリースを繰り返すなかで、以前までできなかったことができているという実感は確実にあり、自身の成長も感じていたんです。
現在、会社は10期目ですが、資金調達は第三者割当増資だけで6回実施しています。
エンジェルラウンドで数百万円。
炎上したブログを見て、投資を決めてくださった方がいました。
この時は、自信を喪失していた私に「君には可能性があるから大丈夫だ」と何度も温かい言葉をかけていただき、本当に支えていただいたんです。
この時の励ましがあったから私は今、cocoを続けられていると思っています。
その後、ポストエンジェルラウンドで、Misltoe(旧・MOVIDA JAPAN)を経営している孫泰藏(そん・たいぞう)さんに出資いただきました。
初期のエンジェルから追加で数百万円入れていただいたことが、起業から2年の間にあったんです。
受託開発で糊口(ここう)を凌いでいた時期もありましたが、経営に慣れてきてゼロイチできるようになり、ZVCとEast Venturesが共同運営するアクセラレータープログラム「Code Republic」に採択されたのが5期目のことでした。
ー 特に大変だったことは何ですか?
特に大変だったのはコロナ禍になってからです。
cocoは店舗向けサービスですから、緊急事態宣言で店舗運営が難しくなっていくと、cocoの利用以前に店舗様は自社経営のほうで大変になり、cocoの解約が相次ぎました。
ところが緊急事態宣言から4ヵ月後、詳しくはご説明できないのですが、cocoでKPIの1つとしていたとある指標が過去最高値を記録したのです。
それは、コロナ禍においても特定の業種や店舗には一定の来客があるという事実を示したものでした。
そこから「店舗とはエンドユーザーへの最高の体験を提供する場所であり、それを支えるのはそこで働く人たち」という事実に立ち返り、サービス設計を徐々に見直していったのです。
やがて、「現場接客のDX(デジタルトランスフォーメーション)」という現在のサービス内容に緩やかにピボットしていきました。
サービスのコアコンピタンス(中核となる強み)が明確化できたこともあってか、2021年には念願のIVS Launch Padへの出場を果たせたのです。
ここで優勝することはできませんでしたが、露出が増え、2021年8月にはZVCなどから2.4億円、合計3億円の調達をすることができました。
ー ピンチはチャンスですね。組織風土や採用についてお伺いできますか。
最初はとりあえず何かを提供して会社を経営していかなければ、という状態だったので、組織にするというより、結果的に組織になっていった形だったかと思います。
そのため、事業をやりはじめて気づいたことがたくさんありました。
店舗とは何か、人にとってどういうものか、そういったところから言語化を進めていったんです。
cocoのプロダクトにも反映されていますが、cocoは顧客志向から逆算し、現場で働く人たちにも中長期的な視点をもってもらうことを重視しています。
我々が目指すのは、そういった本質的な課題に向き合い、中長期で課題解決をしていくことを前提としたインフラづくりに近いソフトウェア開発です。
全員で1つのソフトウェアに向き合ってより良くしていくというプロセスは、街づくりに似ているようにも思います。
人々の仕事や生活を支えるソフトウェアを作り、顧客に提供したい、そこにやりがいを感じる、そんな方々にジョインいただけると嬉しいです。
ー グローバルへの進出はお考えでしょうか。
現在は国内中心に見ていますが、中長期的には見据えています。
アメリカ市場のプレーヤーをベンチマークにしていますが、先に手がけるのはAPACエリアだと思います。
成長してきたらダイバーシティ、グローバル採用も手がけていきたいですね。
ー 学生時代についてお伺いできますか。
高校時代からテニスをしており、団体戦で全国大会まで出場するような部に所属していました。
大学はとりあえず進学しましたが、学生NPO団体での活動にいそしんでいました。
就職活動にあたっては、IT企業でのインターンは経験したものの、卒業が見えていなかったからか、あまり真剣に考えず……。
ブログが炎上した時には、起業を続けることにも心が折れて、友達の会社で仕事をしていた時期も実はありました。
個人的にはリフレッシュも必要だと考えているので、空き時間には今でもテニスをしたり、温泉に行ったりもしています。
ー プレシード、シード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。
もしソフトウェアのビジネスでスタートアップするなら、とにかく顧客と対話し、プロトタイプをブラッシュアップすること。
これ以外にやるべきことはありません。
これ以外をやっていたらおかしいくらい、ここから逃げても何も進みません。
起業した当初は、メンバーもおらず社内会議もないので時間が空きがちになることもあります。
不安になってついアポを入れたりするものですが、本末転倒です。
予定ドリブンでないと動けない人は多く、やりきるのは口で言うほど楽ではないのですが、どれほど動きにくくてもやはり本質に向き合うべきです。
どんな人が起業家に向いているか、という議論もよくありますが、実際に起業するような方は人に勧められなくても「気づいたら起業していた」という人が大半で、適性というより意思の有無に尽きます。
あなたがやりたくてどうしようもなくて、やれるのであれば起業をすれば良い。
ただそれだけだと思っています。
ー 最後に、これを読んでいる読者の方へひと言お願いいたします。
日本の市場には、もっと自らITにふれていこうという人材が必要であると考えています。
私は、自社を通じてもっとITツールにふれる人を増やし、日本をテクノロジーが使いこなせる国に育てていけたらと思っています。
現状になにか不満があり、それを解決するアイデアを持っている、またはそれを解決する手伝いをしていきたい。
そういう方々はぜひスタートアップに飛び込んでみてください。
お待ちしています。
銀行、通信企業での新規事業担当を経て独立。スタートアップのファイナンスやコミュニティの運営に長く携わる。自身でメディア運営をしていることがきっかけでライター活動も行なっている。
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