株式会社クラス 代表 久保裕丈氏
個人のライフスタイルや法人の事業規模の変化のたびに、買われ捨てられる家具・家電。
その中で、循環型でサステナブルな「ものを捨てない社会づくり」の実現を目指して挑戦を続けるのは、2018年に自身の二度目の起業としてCLAS(クラス)を創業した、久保裕丈(くぼ・ ひろたけ)氏だ。
家具・家電のサブスクリプションサービス(以下、サブスク)の提供を通じて、人々はより自由に日常を変化させることができる。ビジョンにもある自由さと軽やかさをまとった久保氏に創業から4年間のストーリーと世界観、今後の目標について伺った。
ー CLASとはどのようなサービスなのでしょうか。
月々440円(税込)から最低利用期間の縛りなく家具・家電の利用・交換が行なえるサブスクサービスです。
個人・法人向けに、変化に応じた「最適空間」を提供しています。
返却・交換手数料も不要で、ライフスタイルに合わせて必要なときに必要なものをレンタルしてもらい、不要になったら返却してもらうことで、より自由で手軽に家具・家電の導入をすることができます。
ー CLAS創業に至るまでのキャリアと創業のきっかけについて教えてください。
東京大学大学院を卒業後、ATカーニーの経営コンサルタントとしてキャリアをスタートしました。
一度目の起業は10年前。事業をバイアウトした後は経営者視点を持つフリーランスとして、3年くらいWebマーケティングやブランディング領域のコンサルティング業務をしていました。
ただ、自分が本当にやりたいのは、「自分ごと」に思える社会課題を根っこから解決することだと思っていて。
そんな中、2018年の2月くらいだったかな。引越しの際に家具を捨てたのですが、その瞬間に自分の所有物だったものが粗大ゴミとして回収されていくのを目の当たりにして、悲しさと罪悪感を強く抱きました。
「家具を捨てなくていいようなサービスがあったらいいのに」と思って調べたらまだ世の中になかったので、それなら自分が取り組みたいと思ったのがきっかけですね。
自身の原体験から新しい事業の着想を得て、二度目の起業として2018年4月にCLASを創業しています。
ー 着想から会社設立まで3ヶ月足らず。スピード感がありますね。家具の製造やサブスクモデルでの事業は未経験の中、立ち上げの決め手は何でしたか?
僕自身の考えですが、起業するにあたってやりたい事業とこれまでの自分自身のキャリアの連続性は、あっても無くてもどちらでもいいと思っています。
取り組む事業に対して知見があるかどうかより、事業に対して使命感を持てたことが自分の中では大きかった。
自分ごとではじめた事業を通じて社会課題を解決したいと考える中、調べるほど家具や家電は環境負荷の高い製品であることもわかり、家具や家電を捨てない環境に優しい世界をムーブメントとして起こしたいという意識も創業当時から持っていました。
その時にちょうど立ち上げに協力してくれるメンバーが身近にいたことも大きかったですね。
こんなサービスがあったらどう思う?という話に真剣に耳を傾けてくれる友人や知り合いの声も聞きながら、事業を構想していくことができました。
ー 実際に事業を開始されてみて、特に大変だったことは何でしたか?
資金調達は考えていた以上に大変でしたね。
これまでCLASは累計で約28億円を調達しているので順調に見られることもありますが、投資家からは断られることの方が圧倒的に多かったです。
特に、僕たちが挑戦しているのは文化創造型のビジネスなので成果が出るまでにどうしても時間がかかります。
しかし投資家には投資家のビジネスがあり、投資家側の時間軸というものがある。
その中でエクイティストーリーについて投資家と話す際、起業家側が本来のプランを投資家目線にすり合わせていく必要があることをわかってはいるものの、戦略の目線でどうしても折り合いのつかない話し合いを続けながら、同時に事業も伸ばしていかないといけない場合もありました。
一度目の起業でバイアウトしているので資金調達の仕組みや投資家の目線は理解しているのですが、実際にやってみるとなかなか大変です。
資金調達期はとにかく時間を惜しんで、昼も夜も週末も関係なく時間を捻出していました。
ー これまでの資金調達を振り返ってみて、最もしんどかった調達フェーズはいつでしたか?
いつもしんどかったです(笑)。
特にグロービス・キャピタル・パートナーズからの資金調達時、パートナーや投資担当者の方々の視点が自分よりも圧倒的に高くて。
彼らも納得できる戦略を作るのに時間も脳みそもがむしゃらに投入したあの頃は本当に痺れました(笑)。
高い視座と世界観を持った方々から、当時の自分にまだ見えていない世界に対する質問をされたときは、回答するのに精一杯でした。
ー そこを乗り越えられ、最終的には投資を受けられていますよね。
はい。無事に出資を受けることができ、社外取締役も派遣してもらっています。
ただ、グロービスの方とは経営会議に月1で来てもらうだけの関係性ではなく、僕たちの方から事業課題への壁打ちを依頼するくらい頼りにしています。
事業をやっていると乗り越えなければいけない壁が見えてくるのですが、彼らのすごいところはそれが先回りして見えていることなので、相談相手になってもらっています。
関係性はめちゃくちゃ密で、週1くらいのペースでグロービスの方々とはコミュニケーションをとってますね。
他の投資家の方々も頻度は違えど、頼りにさせてもらっています。
ー 最低利用期間や返却手数料の撤廃など、よりユーザーファーストに事業を進められていますよね。どのような思考や哲学が根底にあるのでしょうか。
僕らはスタートアップの一社として、未踏の社会課題の解決にチャレンジをし続けることが役割です。
その中で、ユーザーと向き合い続けて社会を変えるムーブメントを起こすことができれば売上や事業の成長といった結果は後からついてくると信じて挑戦を続けています。
このあたりはAmazonやGoogleといった偉大なスタートアップがすでに証明済みですよね。
そのためにも僕たちは自社のビジョンである「”暮らす”を自由に、軽やかに」を何よりも大事にしようと決めていて、その結果としてユーザーファーストが徹底されていると思っています。
ー 「二度目の起業は初めての起業よりも格段に有利」と言う方もいますが久保さんが感じられた連続起業家ならではのメリットがあれば教えてください
二度目と言っても前述の通り資金調達は苦労しましたし、すでに一度目の起業では経験していない世界にきています。
まだまだ自分の目線を数段上げていかなければこの先の世界では闘えないと思っています。
でも、もし何か一つ挙げるとしたら、組織づくりへの覚悟ができていたことですね。
組織づくり自体は何度目であっても簡単ではないのですが、フェーズごとにすべきこと、起きるであろう事態やその対処法などがある程度見えていて、それらと向き合い乗り越える覚悟を決めて取り組めたのはメリットでした。
ー 今のCLASが必要としている人材とは?
ここであえて挙げるなら、開発エンジニアとオペレーション人材、データアナリストが必要ですね。
CLASというサービスがユーザーファーストを貫くためには、優れたインフラがないと回りません。
ここにはヘビーなオペレーションを支える高度なテクノロジーの力が必要だと思っています。
海外の、例えばtoC向けサービスのネットフリックスは至るところに優れたテクノロジーが使われています。
そのため、CLASを牽引してくれるエンジニアの力を強く求めています。
また、AmazonなどのtoC領域で成長しているサービスを見ていて思うのが、オペレーション人材の強さなんです。
データドリブンで戦略を考えられる人材も必要ですね。ビジョンに共感していただける方がいればぜひ一度お話したいです。
ー 今後、海外展開や海外人材の採用予定などはありますか?
海外展開はこの先絶対にしたいですね。
僕たちのサービスを求めているユーザーは海外にも存在すると考えています。
インドでは既に大手企業の競合がいますが、まだサービスが浸透していない国も多いので、海外にもチャンスがあると思っています。とはいえ、海外展開をする前にまずは日本で「無くては困るサービス」を作っていきたいですね。
もしAmazonやGoogleが明日なくなると言われたら生活にも仕事にも多大な支障が出るユーザーが圧倒的な数いるはずです。
株式会社クラスという会社として、なくなったら困るサービスづくりをしていきたいですね。また、外国人採用で言うと韓国、中国籍の方はすでに働いてくれています。
ジェンダーも国籍も仕事を一緒にする上で関係ないので本来はなんでもいいと思っていますが、現時点では日本語でのコミュニケーションが主体となっていますので、日本語が扱える方であるとありがたいです。
ー 久保さんの人となりをもう少し読者に伝えたいです。学生時代はどんな人でしたか?
テニスサークルでの活動をすごく頑張っていたと思います。
試合もですがイベントにも積極的に参加するサークルで、先輩方も「何にでも全力投球!」という環境だったので、本気で活動に取り組んでいました。
サークル以外の活動では、理系だったので大学院に行こうとずっと思っていたので勉強も就活もほとんどしてなくて、留年も経験しました(笑)。
でも留年したことで同学年が先に就活してた分、同級生から就活に関する有益なアドバイスをもらうことができました。その中で、大学院1年の冬に参加したコンサルティング企業のインターンシップ経由でオファーをもらい、就活を終えましたね。
ー 社会人になり、コンサルタント業を通じて得られたことは?
当時身についたロジカルシンキングは今でもかなり役に立っていると感じます。
非常に刺激も学びも多く、成長を実感しながら充実した毎日を過ごしていました。
ただ、ビジネスに対する手触り感を身につけられたのは1社目を自分で興してからです。何度も失敗しながら経営視点が身につき鍛えられていったのだと思います。
ー これから起業を考えている方、あるいは起業してすぐの方々にアドバイスをお願いします
アドバイスしたいことは多くあります。
でも、起業に限らず何かを始めたての頃ってあんまり人のアドバイスを聞かない人が多いんじゃないかな(笑)。
僕自身、経営スキルに関しては実際に失敗して辛い思いをして初めて身についたものが多かった。その経験から思うのは、専門性の高い人のアドバイスで大抵の失敗は回避できるのでそこには時間を使った方がいいということ。
起業して事業を成長させた人や経営経験が豊富な視座の高い方々からいただくアドバイスは、振り返ってみると正解なことが実際に多かった。ただ、難しいのは、アドバイスが自社や自身の状況にすぐにフィットするかはまた別なんですよね。
なので「この人の話だったら素直に聞ける」という人を見つけてうまく事業に取り入れられるといいですね。
また、スタートアップはグロースファーストでとにかく売上を上げることを1番に考えがちですが、それを考えるのは3番目か4番目で良いと思っています。
1番目に大事なのはユーザーファーストであることで、2番目は会社を整えてメンバーの働きやすい組織づくりをすることです。
事業が成長するかはあくまでも結果です。
特に、会社のバックオフィスやオペレーション、インフラといった根幹がしっかりしていないと会社が伸びない時期が来ますので、仲間が働ける環境を整えてきたことが事業成長の加速に、最終的には売上につながっています。
ユーザーファーストと組織づくりは後手にしない方がいいですね。
ー ご経験に基づくお話をありがとうございます!最後に、今後に向けた意気込みをお聞かせください!
日本で暮らす人だけでなく、世界中の暮らす人にとって無くては困るサービスづくりに挑戦する中でCLASはまだまだこれからです。
いつも何かが足りていない環境の中で、人々がもっと自由に暮らし、軽やかに生きる未来を描いて自身も会社も成長しています。
ユーザーの期待を超え続けた先に、チームも売上も夢もあると思ってこれからも挑戦を続けます。
株式会社クラス
金融機関や外資コンサル、アクセラレーター施設立上げを経て独立。合同会社OmochiのCEO。Startup Hub Tokyo(TAMA)のチーフコミュニティマネージャーや、起業希望者向け個別相談、イベント企画運営を通じて日本のスタートアップ業界の拡大を目指す。
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