Crezit代表 矢部寿明氏
デジタルネイティブに、もっと未来をー…
金融の改革から若い世代の可能性を伸ばそうと、与信プラットフォーム「Credit as a Service」を運営するCrezitを創業した矢部氏。
消費者信用事業(貸金・割賦販売等)に参入したいあらゆる企業に対して、金融サービス構築に必要なシステム基盤やオペレーションを提供していくことで、ユーザーが、より適切なタイミングで、これまでにない体験性で金融サービスを享受することのできる世界を実現しようとしている。
きちんと返済していくことで、信用が溜まり、借りられる金額が大きくなったり、利率が変動していくことを想定して作られている。
1993年生まれの28歳。本人もまだ若いCrezitHoldings代表の矢部 寿明(やべ・としあき)氏。彼はなぜ、このサービスを作ろうと思ったのか?
ー 矢部さんは、創業前はどういったキャリアだったのでしょうか?
はい、僕は元々、GE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)というアメリカの大手コングロマリットに入社し、ファイナンスを担当していました。
その頃からファイナンスに携わりたいという気持ちはあり、2018年3月には、手軽にネットショップを構築できるサービスを展開するBASEへ、FinTech事業立上げの責任者として転職しました。
当時BASEでは30万のEC店舗を展開。
僕自身も中小規模の事業のファイナンスをどうするかという課題感を持っていたので、現場で経営されている方々のヒアリングをするのもちょうど良いと感じ、EC出店者の方々と接点のあるポジションが空いていないか探していたところ、BASE代表の鶴岡さんにお会いできることになって。
その頃、ちょうどBASEもファイナンス事業を立ち上げようとしており、互いのニーズがマッチし、新しいポジションをいただけることになりました。
ー なるほど、大手企業、Fintechでのご勤務経験があったのですね。創業に至られたのは、どういった心情や背景があったのでしょうか。
はい、三つあります。
一つ目は、インターネットサービスに関わる人たちが金融サービスを提供していくということ自体が未来的だと当時から思っていたこと。
それを加速させる仕組みが世の中にほしいと感じていました。
二つ目は、学生の頃から途上国開発という文脈が好きで、マイクロ・ファイナンスに関心があったこと。
ケニアに11ヶ月ほどいたことがあるのですが、現地で展開されている金融事業として、グラミン銀行のようなものを想定していたのに対し、意外とテックプレイヤーやユニコーンクラスのスタートアップがいて、衝撃を受けたんですね。
日本においては、金融というと、どうしてもサラ金、闇金というイメージがつきまとうところがありますが、途上国においては、生活を支えるインフラとして映ったのです。
日本においても、金融は生活を支えるインフラであることは変わりなく、イメージチェンジをしながら、コンシューマ与信をやっていきたいと感じました。
三つ目は、僕自身の課題でして。日本においては、一定の支払債務を抱えてしまうと、信用情報機関に登録されてしまい、その後の借入が難しくなってしまうという仕組みがあるのですが、僕がこれに悩まされたことがあり…チャンスを失うより、チャンスを与えていくような金融サービスが、僕自身もほしいと思った、というものです。
ー 原体験はアフリカとご自身にあったのですね!ケニアで行われていたコンシューマ・ファイナンスはどういったサービスだったのでしょうか?
いくつかあるのですが、代表的なものを挙げますと、「M-KOPA」があります。
アフリカでは夜間の照明に、灯油を用いるケロシンランプを使うことが多いのですが、これは使うごとに灯油代がかかり、アセットが溜まっていかない、消耗品になるのですね。
一方、分割払いで発電機を買える機会があったとします。支払ったお金で発電機というアセットを得ることができる上に、分割払いをきちんと支払うことができたという実績に基づき、さらなる借入ができるようになって、今度は冷蔵庫を分割で買えたりするようになったりするのですね。
ただ自転車操業で苦しい生活をするのではなく、細かな支払いをするだけで生活が豊かになっていくのです。
僕は「金融の本質というのは、これだ」と思いました。
ー 素敵なお話ですね!先ほど日本ではペナルティを受けるとしばらく融資が受けられなくなるという慣習がある、というお話をされておりましたが、日本においては、金融の課題をどう捉えていますか。
アフリカの例とは逆で、日本は支払いが滞ると、数年間も借入ができなくなるというマイナス評価の世界になっていると感じています。
もちろん、自身が自堕落で、博打をして…と、負債を溜めていく人たち全てを救済すべきとは僕も思ってはおりませんが、若い頃は特に意図せずそれに陥ってしまう人もいるんです。
例えば、携帯電話を分割で購入したが、うっかり支払いを滞納してしまうなど。長くペナルティを受けなくても、本当は与信能力があったり、途中で状況が改善して借入をしても問題ない人たちだっているだろうと思うんです。
もちろん、既存のプレイヤーからしたら、一律で管理した方が楽ですし、滞納をしたことは事実ではありますから、リスクのある人に貸したくないという気持ちはあるでしょう。
けれど、僕は日本の若者の可能性を潰すのではなく、伸ばしていきたい。だったら、自分がそのプレイヤーになろうと思いました。
ー 素晴らしいご意思ですね!実際に救われる人もいそうです。創業されてからのご苦労は、どのようなことがありましたか。
思った以上に大変でしたよ!
大きく二つ挙げますと、一つ目は事業作りそのものです。
僕がやろうとしていることは、貸金業という業態になり、この貸出システムの開発を行うわけですが、まず業務が審査、融資、回収、サポートとステップが多く、裏側のオペレーション、法律、業界内での明文化されていない文化などもあり、非常に複雑な構造になっています。
創業して約3年となりますが、今でも苦心し続けていますよ。
二つ目は組織作りです。
専門的すぎて、与信に詳しい人がまず市場にいないんですよね。
就活をされたことがある方はお分かりいただけるかと思いますが、金融業界に入ろう、と思う時、まず考えるのは銀行や証券会社、保険会社などでしょう。消費者金融は出向などでいくことが多い。
一方で金融グループは給与水準が業界として高いし安定もしているので、一度入るとなかなか転職市場に出てこないんですね。
かといって、金融畑ではない人に融資や金融の意義を理解してもらうのも難しいし、そもそもその知見、さらには技術能力がある方となってくると、そもそも母数が少ないのです。
ー たしかに採用が難しそうな業態ですね。とはいえ何人もこれまでジョインされてきた方がいらっしゃるかと思われますが、理念に共感されて入社を決められた方が多かったのでしょうか。
そうですね。金融サービスを最適に届けるには、新しいサービスが生まれる環境を作り続け、各自が自分で、クレジットスコアを積み上げていける世界にしていかなければなりません。
そこに共感してもらえる人に集まってほしいと呼びかけ続け、今では、大手のノンバンクや、ゼロイチでカード事業を作ったことがある人が入ってきてくれています!
僕らがやろうとしていることは、「Crezit as a service」と「Personal Crezit Management」。
前者は、米国のシナプス等のBaaS(Banking as a service)をベンチマークにしています。後者は、中国の芝麻信用や、米国のCrezit Karmaがベンチマークです。
ー 海外ではすでにクレジットスコアを個人が変えていけるサービスがあるのですね。
ー 日本ではまず金融サービスのイメージチェンジから、となっていきそうですが、調達でのご苦労はいかがでしたでしょうか。
実は、2022年1月にデライトベンチャーズ、スパイラルキャピタル、千葉道場ファンドなどから6.5億円を調達させていただきまして。ラウンドとしては、プレA~シリーズAのあたりです。
この資金で、チームを強化したいと考えています。苦労するかと思いきや、意外とすとんと調達できたのですが、インキュベート・キャンプで優勝したことが効いたと感じています!
僕らは当時まだ実態と呼べるほどのサービスがなかったのですが、その状態ではデューデリジェンス対象も何もなかったのですが、分かりやすい実績として意味があったと思っています。
ー 特に初期投資の際は、チームを見て投資を決めるところもあると聞きますが…
そう思うかもしれないですが、実は見られるのは創業者だけ!と僕は感じています。なぜなら、絶対辞めないのは創業者だけですから。
スタートアップ側も投資家に良いと思われたくて、強いチームが揃っていますよ、というプレゼンをしようとしますが、そんなの実は投資家もわかっているんですね(笑)
ー なるほど。では矢部さんは信用を得られたのですね。そんな矢部さん、週末や休日は何をされていらっしゃいますか?
週1で温泉やサウナに行っています!
最近サウナ好きの経営者は多いですが、僕は「サウナー」というほどではないです(笑)あとは、勉強をするようになりました!
数学、データ、機械学習の勉強。今年の後半には審査システムをしっかり作ろうかと思っているのですが、作れなくてもいいけれど理解できるくらいにはなろうと、1日3時間くらいは勉強しています。
3月から入ってくれているメンバーがCTOにはなるんですが、僕個人もエンジニアリングがわかっている人間でいたいと思っています。
ー エンジニア採用の時も目利きがしやすいですし、社長と会話が通じると、組織設計にも好影響ですよね。学生時代はどういった方だったのですか?
僕は高校から大学まで一貫の学校に通っていたのですが、結構本気でバスケットボールをやっておりまして、大学でもバスケをやろう!と思っていたのですが、夢半ばで敗れ…一種の挫折でした。
それで、しばらく殻に閉じこもって、めちゃくちゃ本を読んだんですね。
その時に、「チェンジメーカー」という社会起業家の本を読んだんです。ああ、こういう、社会を変える仕事につくのもいいなと思った。
そこで、大学に入ってからは、ユニセフの講演会に行ったり、職業のイメージが具体化されてきたこともあり、留学をして世界銀行や国連の人の話を聞きに行ったり。
アメリカのノースカロライナ州に滞在していて、ほぼ毎週末、バスに8時間くらい乗ってニューヨークまで行き、いろんな方へインタビューをしてました。やがて、社会を変えるならばやはり途上国の現地を見てみたいと、ケニアに行ったんです。
実は、一瞬、医療機器メーカーで営業やってみるなど、右往左往していましたよ(笑)
ー 色々なご経験をされた上で、今に辿り着かれたのですね!
とはいえ、留学時代は生活がやばかった時期もありました。アメリカにいた時、寮に入るとミールプランという食堂プランが契約についていたのですが、同じようなピザをひたすら1年食べていましたね。
また、留学した後は、4ヶ月くらいかけて、アメリカから出て日本に帰ってくるという地球1周をしたのですが、マッチングした相手の家に泊めてもらうという「カウチサーフィン」というアプリを使って、半分くらい誰かの家に泊めてもらっていましたよ(笑)
ー ここまで色々と現場を見てきてしまうと、何の仕事をしようか悩まれそうですね。
はい、まさに就職活動は辛かったです。就職したい先がないんですもん(笑)唯一、外資銀行の中に、かっこいいと思う会社があったのですが、落とされて、面接でけちょんけちょんに言われました。
それもあり、就職しないで起業しようとして、語学サービスをやろうとしたり、数ヶ月、無職の時期もあったりしましたよ。
ー ご自身の成長に特に寄与したものはありますか。
今までの全てです。
1社目のGE。厳しい環境で、上司も先輩も超絶技巧のプロフェッショナルばかりで刺激になりました。また、教えてもらう環境ではなく、自分で飛び込む文化であるからこそ、生き抜く力を鍛えていただきました。
2社目のBASE。代表者である鶴岡さんの向かいの席でずっとコミュニケーションさせていただき、仕事の姿勢、やり方など、その多くを学ばせていただきました。スタートアップ独特の、インターネットの香りやセンス。GEのようなプロフェッショナル環境では得られないもの。
自分が起業しようと思う時、その事業によって設計は異なりますから、全てを参考にするということはできないものですが、僕は「サービス作り」というものを、ここで学んだと思っています。
ー プレシードからシード期のスタートアップへのメッセージを。
あえていうならば三つ、ですかね。
一つ目は、一人で始めないこと。
僕は一人で始めたんですけど、二人以上で始めたほうが絶対に早いです。だから会社をやる前に仲間探しから始めたほうがいい。僕はとにかく早くしなきゃと思って謎の焦燥感があったんですが、逆に時間がかかってしまいます。
二つ目は、最初のファイナンス相手は、めちゃくちゃ気が合う人にすること。
調達の時には、ディープポケットかどうかなど色々と長期の資本政策を気にしてしまうものですが、それよりも、実際に気の合う人が側で応援してくれることの方が大切です。
三つ目は事業の覚悟。
起業をするのは別にいいんです。ただ、大変ですよ(笑)。
起業をするならば、ただただEXITするまでのハードシングスだ、と思わずに、自分の覚悟や使命感、本当にやりたいことを人生レベルで見つめ直すのが大事。
例えば今だったら、NFTやれば話題になるのかなとか、儲かるかな、とか、時流を見てしまう人は多いかと思いますが、最後までこれをやるのは自分というただ一人の個人なんです。人生で、何をしたいかという芯のほうを、強く持つことが重要なのかなって思います。
ー ありがとうございました!最後に一言。
絶賛採用強化中です!1ヶ月に3名程度採用していって、年内にはオフィス移転をしたいと思っています。
かなり面白いフェーズで、大きな変化を体験できるタイミングです。今年のCrezitは間違いなくチャレンジして成長できる環境があるので、是非我こそはというかたの連絡をお待ちしています。
銀行、通信企業での新規事業担当を経て独立。スタートアップのファイナンスやコミュニティの運営に長く携わる。自身でメディア運営をしていることがきっかけでライター活動も行なっている。
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