TOP > インタビュー一覧 > 行政が抱える課題は『誰かに渡せばビジネスになる。』47都道府県の公務員をつなげる「よんなな会」とは?
脇雅昭
47都道府県に存在する自治体と、国政にも携わる中央省庁。
そこで働く公務員たちを有機的につなぐ「よんなな会」というグループがあるのを知っていますか?
部署や市町村、県といった縦割り組織になりがちな公務員をつなぐこの取り組みの中心となっているのは、総務省勤務で現在は神奈川県庁に出向中の脇雅昭氏。
“縦割り”“保守的”なイメージの強い公務員という職業ですが、よんなな会はそんな公務員業界においては“型破り”ともいえる活動を展開しています。
よんなな会の何が人を集め、その心を引きつけているのか、発起人である脇氏に伺いました。
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――まず、「よんなな会」について、どのような組織なのか教えていただけますか。
脇雅昭氏(以下、脇):よんなな会は、2010年に立ち上げた公務員だけのコミュニティです。
私は2010年に総務省に入省し、熊本県庁へ出向していました。そこで地域の方と触れ合ったり、地元のお祭りに参加させていただいたりして多くの出会いを経験し、本当にたくさんの人が地域をかたちづくっているのだということを実感したんです。
逆方向へ目を向けると、では地方から東京へ出向してきている人にそうした出会いを十分に経験してもらえているだろうか?激務のなかで、他の省庁やもっと広い世界での出会いの機会はあるだろうか?と疑問に感じました。
もっと原点的なところをお話しすると、大分県のとある市から東京へ出向してきている人がいたのですが、勤務を始めた4月と比べて5月や6月にはみるみる元気がなくなっていって。慣れない環境ですし、忙しい日々で仕事と休息しかできていなかったんですね。
そこでいろいろな人を紹介して、人間関係を広げてみてもらいました。すると今度はどんどん楽しそうになっていったんですよ。「ありがとう」という言葉ももらえて純粋にうれしかったし、こんな風に目の前にいる人をどんどんハッピーにしていけたらと考えるようになって、いつの間にか500人を超える人数が参加する会になっていました(笑)。
思えば、これがよんなな会の原点かもしれません。
――47都道府県の公務員がつながることで、どのような効果があるのでしょうか。
脇:私がよく言っているのは「全国の公務員の志や能力を1%上げる」こと。それだけで世の中はグンとよくなると思っているんです。
それができないのって、きっと自分のなかにある「こんなもんだろう」という諦めや固定観念のせいなんですよ。だから、他の自治体で同じような仕事をしている人とつながることで、自分が感じている「当たり前」が唯一無二のものではないと気づいてもらうことにすごく意味があると思います。
――こうしたコミュニティは、拡大や継続が難しい印象もあります。どのように人を増やし、活動を継続しているのですか?
脇:まず重視しているのは「コミュニケーションが生まれる」こと。私は参加しているみんなのことを“お客様”とは思っていないんです。楽しんでほしいとは思うけど、それはお客様としてではなく、仲間として。だから、どうすればみんなが“仲間”になれるかは深く考えながら会をオーガナイズしていきました。
――例えば、どのような取り組みをされたのでしょうか。
脇:参加者に「一人一品ずつ、地元のモノを持ってきてください」とお願いしています。
悩まれる方も非常に多いのですが、「みんなに地元の何を食べてもらおうかな?」とこの会に思いを馳せてもらうことは、参加費を払うだけの食事会よりずっと有意義ですし、実際に持ってきたものをプレゼンしてくださるときにも、自分が選んだものだからこそ自然と動けるんですよね。
以前、吉本興業の社長に芸人さんの“育て方”を聞いたのですが、「うちは芸人を育てているのではなく、劇場をやっているだけ。そこにステージがあって、みんながそこに上りたがるだけなんだ」とおっしゃっていて。
そういう“ステージ”を、いかに世の中につくっていくか。いやいや、僕はいいです、なんて言いながらステージに上ったときから、頑張るきっかけができているものなんですよ。
――コロナ禍によって、活動はどのように変化しましたか?
脇:リアルな場で集まることができなくなったのはやはり大きかったです。オンラインへの移行は必須でしたが、「本当はリアルでやりたいけどオンラインで我慢する」みたいな開催は絶対に嫌だ! と思って、どうすればオンラインであることに価値を与えられるかを考えていきました。
2020年3月と8月にはオンラインでよんなな会を開催しました。よかったなと思うのはやはりどこにいてもどんな状況からでも参加できるところ。実際に、子供を部活に送っていって、迎えに行くまでの合間に参加してくれた人や、自宅から愛猫と一緒に参加してくれた人もいました。
子供が小さくて、リアルのよんなな会には参加が難しかったという人も参加できて。自分のスタイルに合う形で参加できるという点にすごくオンラインの強さを感じましたね。
オンラインでの開催を検討するなかで、絶対に残したかったのが先ほどもお話しした「一人一品」のコーナー。「一人一品」には自己紹介の意味合いもあったんです。何もない状態で初めて会う人と話すのって難しいですよね。でもその人がお酒を持っていたら「お酒が好きなんですか?」と会話を始めることができるし、もしも自分もお酒が好きなら盛り上がるはず。そういった自己紹介ツールとして「一人一品」をやっていたんです。
それをどうオンラインに置き換えるか? と考えたときに、皆さんがいるであろう場所を考えてみました。多くの人が自宅などのプライベートな場所から参加していますよね。そこで提案したのが「今周りにあるものを持ってきて!」で(笑)。
飼っているペットや趣味の品、ゲームの大会で優勝したときのものだというトロフィーを見せてくれた人もいました。もしもリアルでの開催なら、トロフィーをわざわざ持ってくることはないでしょう。これはまさにオンラインだからこそできたことだったなと思います。
――脇さんの新たな取り組みとして注目したいのが「オンライン市役所」ですが、これはコロナ禍の影響を受けての立ち上げだったのでしょうか。
脇:立ち上げ時期は2020年の春ごろでしたが、ここまでのコロナ禍はまだ予想していない時期でした。
よんなな会を10年続けてきて、自分のなかにたまっていたモヤモヤについて考えていて。よんなな会でみんな喜んでくれるし、どんどんつながりを作ってくれている。でもそれが、会が終わって月曜日を迎えた彼らにも残っているかと疑問に思ったんです。
よんなな会での時間はいわば「非日常」で、お祭りのように心を高揚させたり前向きにさせたりします。でも、日常にまでその力が入り込めているか。よんなな会という「場」ではない日常の中に出会いや気づき、モチベーションを高められる場所を作りたいと考えていたんです。
そこでFacebookのグループとして「オンライン市役所」をオープンしました。
――どのくらいの規模で、どのような活動をしているのですか?
脇:日本には今、1788の自治体があるのですが、参加者の所属としては全国1170自治体。人数は5000人ほどになります。
活動は全国の公務員たちのつながりを保つためのプラットフォームとしての役割が大きいです。共通の趣味を持った人がグループを作ったり、「庁内放送」というラジオのような配信をしていたりと自発的に活動している人が多いですよ。
熊本県庁に出向していたころ、とある業務に従事する職員の数が非常に少ないことに気がつきました。それだけ人が足りないということなのですが、考えてみるともっと小規模な村では職員が数十人というところもあります。そんなところで「新しいことをやろう」なんてリソース的にも難しいと思うんですよね。
でも、それは組織を“縦割り”で見ているから。横でみると、同じ仕事をしている人が全国の自治体に1741人いて、多くの自治体が共通の悩みを抱えていることも少なくないんですよ。もしもそこがつながれば、悩みを解決できる仲間になれるのではないかと思ったんです。
それから、公務員には異動もつきもの。全くの畑違いの部署へ異動になることも多く、引き継ぎ期間も充分にとれないことも多くあります。培った知識やノウハウを次の担当者や他の自治体で同じ仕事をする人のために渡せたら、そこにたまっていく知見はとてつもない財産になるのではと考えました。
例えば最近では新型コロナ対策やワクチン接種といった全国的な動きがありますが、「オンライン市役所」ではこの動きが出てきてからすぐに有志による勉強会が始まり、知見や情報の交換が次々になされていました。
全ての都道府県で全員がマニュアルを読み込んでいくよりも、得意な人がわかりやすく説明してあげれば全員の理解が速まりますし、それで浮いた時間を実務に回すことができます。
他にも毎年起こる自然災害への対策シェアが行われています。2021年の夏には熱海で土石流による大きな災害がありましたが、災害発生の翌日にはオンライン市役所の中にある災害対策課のメンバーが立ち上がり、「庁内放送」で現場からの声を届け、災害時に公務員としてやるべきことをシェアしました。「自分のところで起きたらどうするか」を考える機会にしてもらえています。
――官民連携というワードもあふれていますが、民間との連携の可能性をどう感じていますか。
脇:これまでに“官”が担ってきた課題の解決を、これからも官の力だけで解決していくのには無理があります。財源にも限りはありますし、人的リソースも足りません。
私は、行政はもっと「助けて!」と言っていいと思っているんです。というのも、私たち行政が抱えている課題って、誰かに渡せばビジネスになる。
例えばコロナ禍で外へ出にくくなった高齢者に対して、何かできないかと考えていたとします。一方、民間の小売店では人出がなくなって稼働していない店舗がある。ならばそこで何かできないか? と声をかけてみることもできます。
民間同士ではお互いがビジネスをするので利害関係が生まれてしまいますが、行政ではそういったことはありません。だからこそ信頼関係をもってプロジェクトを進められるというメリットもあります。
そんな風にして社会が抱えている課題と企業のサービスをうまく翻訳し、マッチさせていくことが私たちにできることだと思っています。
――公務員のなかにも、保守的な文化を打破し、変革しようというモチベーションの高い人がたくさんいるんですね。
脇:公務員は全国に338万人いるといわれています。そのみんながみんな、同じ考え方なんてありえないんですよ(笑)。
組織のメンバーや公務員である前に、一人の人間なんです。その人たちが感じていること、変えたいこと、やりたいこと。そういった思いが集まる場所としてよんなな会は存在していますし、その思いを後押しするための取り組みを今日も考え続けています。
プロフィール
脇雅昭
“裸眼のVR”で新しいバーチャル表現で池袋のカルチャーとコラボレーションするkiwamiの取り組みとは
日本のHR市場がこれから目指すべき、TalentXが描く「タレント・アクイジション」の世界
TalentX代表 鈴木貴史氏
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