TOP > インタビュー一覧 > AI顔認証エンジン「FaceMe®」で世界と戦う サイバーリンク株式会社の技術へのこだわり
1996年に台湾で設立以来、映像・写真編集ソフトウェアをはじめとしたマルチメディアソフトウェア分野の牽引役として世界をリードしてきたサイバーリンク株式会社。2018年に開発したAI顔認証エンジン「FaceMe®」が、今、世界中から注目を集めている。
バイスプレジデントを務める萩原英知氏に、起業からの変遷や、社風、そして独自開発した顔認証エンジン「FaceMe®」の特長をお聞きしました。
プロフィール
萩原 英知
このページの目次
−サイバーリンク創業の経緯を教えてください。
創業者のDr. Jau Huang(ジャウ・ホァン)は、UCLA でコンピュータサイエンスの博士号を取得後、国立台湾大学(NTU)電気情報学院の教授を務めていました1990年代当時は、台湾の大手コンピュータ会社のほとんどがハードウェア中心に事業展開をしていた時代です。Dr. Jau Huangはそんな状況を見て、国の経済を発展させるためには、ソフトウェアビジネスを育て市場を拡大させる必要性があると強く感じていたそうです。
そこで、1996年に自身が率いるマルチメディア研究所を大学から分離し、コンピュータ・ソフトウェア会社CyberLink Corpとして独立させたというのが創業の経緯です。始まりが大学の研究所なので、コアとなる製品開発メンバーには今でも彼の当時の教え子が在籍しています。
−創業当初はどのような製品を販売していたのでしょう?
幅広く取り扱っていましたが、現在も販売している製品で言えばDVD再生ソフトの『PowerDVD』が最も歴史があります。
『PowerDVD』は高品質であり、サイバーリンクの認知度を世界中で高めました。動画編集ソフト『PowerDirector』も、今でも初めてお会いするお客様の大半がご存知というほど、幅広い人気と知名度を誇っています。初心者からコアユーザーがスムーズに使える製品として広まり、6年連続でシェア1位を獲得することができています。
−全世界でヒットする製品を生むなど順調に成長してきたように思うのですが、これまでに危機を迎えたことはあったのでしょうか?
弊社の危機というより業界全体の危機として、スマートフォンやタブレット端末に押された結果、パソコン出荷台数が減少傾向にあります。パソコンにバンドルするタイプのソフトウェア製品を開発してきたメーカーはビジネス形態を変えて対応するなか、私たちは既存技術を携えて比較的順調に伸びていたBtoB市場に打って出る道を選びました。
しかし、BtoB市場において私たちはやはり後発です。そこで、ゲームチェンジを起こすべく勝負をかけたのが顔認証エンジン「FaceMe®」でした。
−「FaceMe®」について教えてください。
2018年にリリースした「FaceMe®」は、ディープラーニングによる高度な AI(人工知能)技術を採用した顔認識エンジンです。私たちは顔認証に関しては、顔でログインする機能や何千枚とある写真ストックから自分が映る写真だけタグ付けする機能を過去に開発していたので、基礎的な技術の蓄積はありました。そこにちょうどAIという新技術が登場し、後発の我々でもゲームの流れを変えるチャンスができたので、顔認証のマーケットに新規参入を決めたのです。
−「FaceMe®」はどのように活用されているのですか?
私たちが供給するのは顔を比較したり特徴点を抽出したりといったエンジンなので、SIer(システム開発を請け負うIT企業)などが、このエンジンを搭載したサービスや商品を開発し、販売するというかたちをとっています。
活用例としては、株式会社ビットキーさんのスマートロックと組み合わせた顔認証によるカギの解錠や、カメラ付きデジタルサイネージに組み込むことで属性(性別や年齢等)ごとに最適な広告を映すディスプレイ広告など様々です。入退室管理や、セキュリティ領域での活用も多いですね。
−様々な企業が顔認識のマーケットに参入していますが、「FaceMe®」の強みはどこにあるのでしょう?
顔認証で大事な要素が3つあります。
1つ目は、スピード。大型サーバを使用すればどんなエンジンでもある程度のスピードが出ますが、初期投資とランニングコストがかさむというデメリットがあります。その点、私たちはビデオの世界でいかに処理能力を上げるかという課題に長年取り組んできたので、その技術を応用し、スマホやIoTデバイスでも満足のいくスピードで顔認証を行うことができます。
2つ目は、多様なニーズに対応すること。メーカーによっては特定のOSプラットフォームでないと駄目、ローエンドモデルの場合はクラウドサービスしかないなどの各種制限がある場合も多いです。私たちは、レベルを問わず、様々なプラットフォームに対応しているので、お客様の多様なニーズに柔軟に応えることが可能です。
3つ目は、認証の精度。精度に大きく影響するのが角度です。カメラに正対した状態で顔認証を行うのは簡単です。しかし、ショッピングセンターやビルなどではカメラが天井から釣り下がっているので、斜め上からの撮影になります。その場合、認証角度が狭いと正しく認識できませんが、「FaceMe®」は非常に広い認証角度を誇っているので、高精度な認証が可能であり、実用的です。マスクをしていても顔認証ができるのも強みの一つです。事実、「FaceMe®」は、顔認証の精度に関する業界内で最も厳格な評価テスト NIST FRVT 1:N(1:N Investigation Mode VISA Border)テストで上位6位にランクインしました。1位〜5位は中国、ロシアのベンダーです。個人情報の観点からチャイナリスクを懸念する企業も少なくないため、国内での選択肢としては実質最上位の製品と言っても過言ではありません。
−「スピード」、「多様なニーズへの対応力」、「高精度」という3点において、優れているのが「FaceMe®」ということですが、今後は、「FaceMe®」をどう活用していきたいとお考えですか?
これまでのようにマーケティング分野での活用に加えて、今後、新たな需要があると私たちが見ている領域の一つがeKYC(electronic Know Your Customer)、つまり「電子(オンライン)での本人確認」の分野です。
銀行口座の開設やクレジットカードの発行、役所での書類申請など本人確認が必要な状況は多々あります。申請自体はオンライン上で可能でも、実際は身分証明書の写しを郵送するなどの手間がかかりますし、サービスを受けられるまでにタイムロスが生まれるなど従来の本人確認には難点が複数あります。
しかし、顔認証ならば特別必要な物や手間もなく、成人に関しては何年経っても認証可能であるため、顔認証技術を活用するメリットは大きいと言えます。
また、近年日本政府はセキュリティ強度の向上のため、企業や団体に二要素認証対応、特に生体認証を推奨しています。生体認証には顔認証も含まれますので、「FaceMe®」のエンジンが様々な社会インフラに組み込まれることで貢献できることになります。
さらに、医療現場にも需要があります。医療現場には、有資格者でないと扱えない医療機器があり、資格の有無を顔認証で判断することができれば不正使用を防ぐことが可能になります。
−本人確認の分野では様々な領域で「FaceMe®」が活用できそうですね。ちなみに、サイバーリンクでは「FaceMe®」などの販売を促進はどのようにされているのでしょうか?
私たちは技術者集団ですので、展示会などでの製品のデモンストレーションを地道に行ってきました。お問い合わせが急増している最大の要因は、お客様の口コミです。一人ひとりのお客様から高評価を頂くことで、製品の良さは自然と伝わっていきます。今までの取り組みが現在の高い満足度につながっていると思います。
技術に対する真摯な姿勢がサイバーリンクの最大の強みかもしれませんね。
私たちは、技術開発を非常に大切にしています。
新技術や新しい情報を発見すると、開発陣だけではなく、世界各国のオフィスの人間がすぐさま共有し、それにポテンシャルを感じれば即座に開発を始めます。開発スピードの速さや、技術へのこだわりは私が入社したときから変わっていません。今後も技術への思いを大切にしながら、革新的な製品を提供できるよう努めていきたいと思っています。
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