起業家の誰もが陥る失敗といっても過言ではない、”契約時のちょっとしたミス”。
この「ちょっと」が後々になって様々なトラブルを引き起こす引き金になるのは皆さんもご存知かと思います。
今回は、弁護士の石田学氏と株式会社サイトビジットの中野竜太郎氏の対談にお邪魔し、起業家の契約時における失敗やこれからの契約のあり方についてお話を伺いました。
プロフィール
AZX総合法律事務所 パートナー弁護士 石田 学
プロフィール
株式会社サイトビジット 中野 竜太郎
ー起業家がミスしがちなタイミングといえば、契約時だと思いますが、実際どのようなミスが多いのでしょうか?
石田:取引基本契約書はとりあえず締結しているけれど、個別具体的な発注について書面などが何も残っていないということが多いですね。
中野:そうですね。発注書、請求書、契約書が全く残っていないっていうケースが結構あります。
石田:じゃあ何をしていたかって聞くと「口約束です」っていうパターンなんですよね。
中野:履歴に残すっていうことがとにかく大事なんですけどね。 食事の席で、口頭ベースで合意をして肝なった生成でそのまま口頭で契約してしまうことがありますが、それが後になってトラブルの原因になるんですよね。
ー他によくある失敗はありますか?
中野:ベンチャー企業ではロゴを自社ではなくてクラウドソーシングで委託することがあるのですが、そういった際にもしっかりとした契約がないと証跡が残らないので後で困りますね。
ーなるほど。そもそも、創業時には会社に法務部などはないものなんですか?
石田:ないですね。最初は社長が法務周りも担当します。そのあと管理部門ができるとバックオフィス周りの仕事を全般的にやるので、その人が法務も担当しますね。
中野:そうですね。弊社(株式会社サイトビジット)に電子契約のご相談頂けるの方も、ベンチャー企業だと基本的には代表の方が多いです。
その時に、契約書の雛形がないことが一番問題なんですが、そういう時はリーガルチェックした業務委託契約書のテンプレートをFreeeプランのご登録特典としてお渡しています。
石田:え、無償なのはすごく良いですね!
中野:電子契約の有効性などのお問い合わせは弊社でお答えしていますが、個別の契約書の内容など、それ以上のことを聞かれた場合は弁護士の方に伺っていただくよう依頼しています。
ー弁護士の石田さんにお聞きしたいのですが、契約書のチェック依頼が来た時に、どういったところに着目してチェックするものなんですか?
石田:契約書の雛形みたいなものを使っている方が多いんですが、それが実態に合っていないことが多くて、「こんな取引ではないでしょ!」みたいなことは多々あります。 反対に、本来定めるべきことが抜けていたりするので、そういった点はチェックしています。
ーなるほど。NINJA SIGNが無償提供しているのも雛形ですが、それは大丈夫なのですか?
石田:今って、Web上によくわからない雛形がたくさん上がっているんですね(苦笑)。使うならWebに落ちているものではなくて、NINJA SIGNさんのリーガルチェックが入ったような、弁護士等専門家が作った雛形をベースに修正する方が絶対に良いですね。
最悪、そのままでも良いくらいです。無料または安価で提供している雛型という点では、弊所でも提供しているものがありますが、提供元のチェックなどその雛型が信頼性のあるものかきちんと確認することが重要ですね。
とにかく、Webに落ちているものをよく確認せず使うことだけはしない方が良いです。
ー実態に即さない契約書にするとどういった問題が起きるのでしょうか?
石田:一番の問題は、守られるべき権利が守られないことですね。 検査・検収が予定されている取引であるのに、検収等のルールが定められていないと、仕事が完成したのかが不明確になってしまいます。
また、仕事の成果物の利用方法が明らかになっていないと、例えば情報成果物ができた時にどの情報をどの範囲まで使ってよいのか、どこまで出して良いのか、逆に出していけないのかといったことが不明確になります。
中野:あとは、業務請負と業務委託(準委任)で印紙が必要/不必要といったことがそもそも違いますし、そこがごちゃごちゃになっているケースもあります。そのあたりは気をつけた方が良いなと思います。
また「契約不適合責任」という観点があるのですが、契約者のどちらが責任を持つのか、何かあった時にいくら賠償するのかなどは、はじめに定義するべきですね。 そこを有耶無耶にしてしまうと、最悪のパターンになってしまい紛争となることがあるので気をつけた方が良いと思います。
石田:そうですね。中野さんがおっしゃったところで一番大事なのは、「責任を限定する」ということですね。
例えば、委託者と受託者がいて、委託者側は単純にお金がもらえれば良いですが、受託者側にはちゃんと業務をやってもらわなくてはいけないわけです。委託者としては、受託者側に債務不履行があった際には損害賠償責任等を追及することになりますが、その時に、受託者がどこまで責任を負うのか、支払済みの対価が上限なのかとか、半額で良いのか、2倍なのかといったことは予め契約書で決めておくべきです。
契約に責任の限定についてしっかりと定めておかないと、受託者としては責任の限定を主張できないですからね。
ーそんなトラブルが多々起こりうる契約書ですが、NINJA SIGNさんで電子契約にしたい方はどういったユーザーが多いのでしょうか?
中野:フランチャイズや受発注の回数が多く紙で契約していることがそもそも手間だというパターンが多いです。同じフォーマットのものを一気に送りたいという時に使われる方ですね。
もちろん紙の契約書が全てなくなっているわけではなくて紙でやらなくてはいけないものは紙でやりますし、電子契約をしたあとで紙の契約書を送るということも対応としてはやっています。
中野:NINJA SIGNでは雇用契約書、業務委託契約書などの本当に典型的かつ内容の変更の少ない契約書を使っているユーザーが多いです。 契約のリスクの度合いに合わせて紙の契約書と電子契約書を使い分けている人が多い印象です。
石田:それが良いですよね。契約の重要性の高いものは紙の契約書にして、そうでないものは電子化してコストカットするのが良いですね。
中野:そうですね。重要性が高いものはしっかりと証拠を残さなくてはいけないので。
また、印紙のコストもかなりかかるので、電子と紙で並行して利用するのが良いと思います。そうすることでコストカットとトラブル回避の両立ができます。
石田:印紙代って経営者は結構気にするものなんですか?
中野:印紙代はかなりかかりますね。電子契約ツールの導入の意思決定にもかなり関わってきています。
ツール代=印紙代という感じで捉えられる方もいます。また、経営者目線では業務全体のコストを分解して考えた時に、明らかに電子契約にした方がコストがかからないので導入するケースが多いです。
ー話は戻りますが、法務部門がない企業はどういったフローで契約を締結していけば良いのでしょうか?
中野:まずは、弁護士監修の雛形をベースにして、そのあとのチェックを弁護士の方にしてもらえば、レビュー費用等のリーガルコストの削減になって良いと思います。
会社が立ち上がったタイミングで電子ファイルに契約を保存しておくと管理が楽なんです。紙で保存すると汚損、紛失などのリスクがありますし、ニンジャサインで管理しておけば更新管理の通知をしてくれるので、手続きのし忘れも防ぐことができますよね。
ー電子契約でトラブル回避、コストカットできるのは良い点ですが、他にもメリットはありますか?
中野:電子契約を使っていること自体が企業価値の向上に繋がると思います。 最近では、SDGsが流行っていてペーパーレスにして環境に優しく経営することが企業イメージ向上のきっかけになりますね。
実際、ペーパーレス推進を企業文化のPRとして使っている企業もいます。ペーパーレスは、進んでいる会社の印象を与えることができて、企業価値の向上に繋がりますね。
石田:先ほどもお話させて頂いたとおり、紙の契約書と電子契約の二者択一ではなく、重要性の高低に応じて、紙の契約書と電子契約を使い分けるのが良いと思います。
また、ベンチャー企業は大企業よりも第三者の法務面のチェックを受ける機会が多いと思います。というのも、ベンチャーのイグジットはIPOかMAのどちらかですが、そういったタイミングで法的な監査(デューデリジェンス)を受けるんですね。その際、相手側またはその弁護士が資料を求めてくるのですが、提出する資料は大量になるので、大概は電子ファイルで提出します。この際に、これまでに締結した契約を電子ファイルでまとめて保管しておくことですぐに書類を提出できますので、イグジットを見据えているスタートアップには特に適していると思います。データ管理の問題はスタートアップではかなり重要ですね。
ーとはいえ、電子契約を今まで使ったことのない企業は電子契約への不安が多いことかと思います。
中野:そうですね。電子契約導入は従来の社内体制に変更を加えることになるので、少なからずハードルを感じる方は多いと思います。そんな方々にぜひ参加していただきたいイベントがあるのでご紹介します。
このイベントは、「押印文化の未来会議」と題して電子契約や押印文化の変化に関して様々な専門家を招いて議論していきます。ゲストとして元衆議院議員の杉村 太蔵氏も登壇するので、ぜひ参加していただけたらと思います。
【開催済み】NINJA SIGN Conference 1st Anniversary
「ハンコ出社」が大きく取り上げられた2020年。日本ではテレワークが推進され、押印文化の商慣習に変化が見られています。紙とハンコで契約を結ぶ。そのような伝統の分岐点に私たちは直面しています。本カンファレンスでは、企業法務、弁護士、実業家、官庁など専門家をお招きし、「押印文化の未来会議」を実施していきます。12/22(火)13:00-17:00でオンライン(zoom)開催します。
ーありがとうございました。
慶應義塾大学経済学部出身。いろんな人と出会って話をするのが好き。
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