社会に関するさまざまな問題を事業を手段にして解決に取り組む社会起業家。
最近、少しずつ聞かれるようになってきた「ソーシャル・アントレプナー」は、社会起業家の英訳です。
しかし、まだまだその実態は知られていないため、一般の起業家とどう違うのかがいまいちわからないという人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、社会起業家をテーマに、社会起業家とはどんな人なのか、一般の起業家との違い、社会起業家が取り組む社会問題とは何か、気になる年収についてもご紹介します。
世界的にもSDGsへの関心の高まる昨今。これからソーシャルビジネス(社会的活動)を考えている人はぜひ参考にしてください。
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昨今、ソーシャルビジネス(社会的事業)が増えてきています。その事業活動を行っているのが社会起業家です。一般的な起業家との違いは何なのでしょうか?
社会起業家とは、社会的企業家ともいわれます。貧困や差別、格差などのあらゆる社会問題を課題として認識し、事業を手段にして解決する人を指します。
社会起業家研究の第一人者であり、アメリカのスタンフォード大学教授であった故グレゴリー・ディーズ氏は、論文で社会起業家について定義しています。
それらをまとめると、社会起業家とは次のような人です。
既存の概念にと他われずに、利他の精神をもって社会的価値を基準にしたミッション遂行できる人
そもそもソーシャルビジネス(社会的事業)とは、社会性・事業性・革新性を兼ね備えたものです。
経済産業省が2008年に発表したソーシャルビジネス研究会報告書では、各性質について以下のように次のように定義しています。
現在解決がもとめられる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること
ミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと。
新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出すること。
これらを事業にしたとき、その形態は株式会社、NPO、合同会社などといった経営スタイルにすることができます。
社会起業家と起業家の大きな違いは、起業における目的です。一般の起業家は、商品やサービスの開発・供給によって利益を得るとともに、社会変革を目指します。
一方で社会起業家は、社会の変革(社会的課題の改善)を目的に、さまざまな事業を手段として、そのなかで利益を生み出します。
社会起業家が取り組む社会問題は、SDGs(エスディジーズ)に共通しています。
SDGsは、Sustainable Development Goalsの頭文字を取ったもの。和訳すると「持続可能な開発目標」となります。
2015年に国連において採択された、加盟193ヵ国が2030年までに解決すべき17の目標と、169のターゲットによって構成されています。
【SDGs 17の目標】
1. 貧困をなくそう
2. 飢餓をゼロに
3. 全ての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに
5. ジェンダー平等を実現しよう
6. 安全な水とトイレを世界中に
7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
8. 働きがいも経済成長も
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
10. 人や国の不平等をなくそう
11. 住み続けられるまちづくりを
12. つくる責任つかう責任
13. 気候変動に具体的な対策を
14. 海の豊かさを守ろう
15. 陸の豊かさも守ろう
16. 平和と公正をすべての人に
17. パートナーシップで目標を達成しよう
SDGsに掲げられている目標は、世界の途上国に関わるもののように見えますが、日本国内に目を向けてみても、SDGsに繋がる問題は数多くあります。
たとえば、少子高齢化、地方の過疎化、ひとり親世帯をはじめとした貧困化、環境破壊など。国や各地の行政が解決に向けて取り組むも、多様化した問題は国や行政だけでは解決困難です。
それを社会起業家たちがビジネスを通して取り組むことで、国や行政の手が届かなかった問題にも解決の糸口が見えてくるようになるのです。
日本は、欧米諸国に比べて社会起業家が起業しやすい環境ではないといわれています。
その背景には、行き過ぎた資本主義があるとも考えられています。自社の利益よりも社会貢献を根幹に置く社会起業家の活動では、事業継続が難しいからです。
しかし、そんな日本国内でも、社会起業家は誕生し、今も活発に活動されています。
全国に無料の放課後教室を提供し、そこで学習支援や食事提供、子供たちの居場所づくりを行う認定NPO法人カタリバ。
その代表理事を務めている今村久美氏は、大学在学中に前身となる任意団体「カタリバ」を立ち上げています。また、2011年に発生した東日本大震災で被災した学校の復興支援もしています。
地域計画プランナーでもある佐野章二氏は、2003年9月よりホームレス支援雑誌『ビッグイシュー』(日本版)を創刊したことでも知られています。
ビッグイシューは、ホームレスである販売者が路上で販売することで、売上の一部を自身の収入にできる仕組みになっています。
ホームレスが自立するために、最も必要な仕事と収入を同時に得られる事業となっています。
2009年に新卒で、障害や難病を抱える人たちを対象にした就労移行支援事業所「ウイングル」に入社し、翌年8月にウイングルの親会社である株式会社LITALICOの代表取締役社長に就任した人物です。
2016年には、株式会社LITALICOを上場させています。発達障害を持つ子供を対象にした療育・学習支援サービスをはじめ、ITとものづくりを掛け合わせた教室の提供などをしています。
社会起業家は、社会課題を解決することを目的にするのであれば、一般的な起業家のように利益を追求することはできないのでしょうか?
社会起業家も利益を追求しないわけではありません。社会の問題を解決するために創り出した事業ですから、その事業を継続させることも重要です。
利益がなければ事業を継続させていくことは困難ですので、社会課題の解決と並行して自社利益を追求していくことになります。
事業がとん挫してしまえば、事業を通して社会課題を解決することが難しくなります。社会起業家は、社会課題解決と利益追求の2つの目標に向けて活動することになるのです。
一般的な起業家と比較すると、社会起業家は難しい選択を常に迫られているといえるでしょう。
起業家(個人事業主)の平均年収は、約600万円~800万円。どのようなサービスを提供するかによっても、その金額が変わってきます。
法人化すれば、月給制や年俸制になるため、個人事業主の起業家よりも低くなることもあります。
一方で、社会起業家の場合は、一般的な起業家と比較すると、高い収入を得るのは難しいようです。
社会起業家にはNPO(非営利団体)を立ち上げる人も多く、その場合、売上金などで資金調達をすることができないため、融資や寄付によって資金をまかなうことになるからです。
特に日本では、利益還元を重視する傾向にあり、寄付や募金文化があまり根付いていません。
利益還元される事業は投資家からの出資や金融機関からの融資を受けやすい一方で、社会起業家が立ち上げるような事業は出資や融資を受けにくいのです。
株式会社で起業するケースであれば、事業が拡大すれば1.000万円を超えることもあります。しかし、それまでは年収300万円前後という人が多いようです。
社会起業家は、起業してしばらくは収入がないことも多いので、なかには起業から数年間は無給で過ごした人や、月収10万円ほどで過ごした経験を持つ人も少なくありません。
まず、社会起業家の「成功」とは何でしょうか? 第一に、どれほどの社会貢献ができて、どんな結果をもたらせたのかという点。次に、ビジネス規模の拡充。
それから、金銭的な富や名声。これらが成功している社会起業家が得ているものかと思われます。
成功している社会起業家には、次の3つのチカラが必要とされています。
・社会貢献するチカラ
・ビジネスを展開・拡充させていくチカラ
・ファンをつくるチカラ
社会貢献するチカラは、社会の違和感に気づき、それに対してどんな解決策を提示し、実行できるかが問われます。
ビジネスを展開・拡充させていくチカラは、社会起業家のみならず一般の起業家にも必要なチカラです。
特に、社会起業家の場合は、事業を継続させてこそ目的を達成することが可能になるので、一般的な起業家よりも事業継続していくことが非常に重要なポイントになります。
また、ファンをつくるチカラとは、共感してもらえるかどうか、応援してもらえる人物かどうかという人間性に直結してくる部分でもあります。
活動資金を集めにくいビジネスモデルでもあるため、「あなたの活動を応援したい」「あなただから支援したい」と思ってもらう必要があるのです。
社会起業家は、社会が抱えている多種多様な課題をビジネスを手段にして解決に取り組む人のことです。
取り組む社会課題は、貧困、介護・福祉、生活環境などSDGsと類似するテーマです。
欧米では比較的よくみられる起業家タイプですが、日本ではまだまだ一般的ではありません。
しかし、近年は、年々増える災害や高まる社会問題への関心などから、社会貢献思考の強い起業家が増えてきています。
今後は、一般的な起業家と並んで社会起業家も当たり前の存在になるのではないでしょうか。
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