残業時間上限は月45時間|規制内容・36協定・罰則・適用外職種は?

残業時間上限は月45時間|規制内容・36協定・罰則・適用外職種は?

記事更新日: 2022/03/09

執筆: 浜田みか

1980年代後半から、しばしば聞かれるようになった「過労死」という言葉。その背景には、長時間労働による心身の不調があります。

働きすぎによる過労死を防ぐため、2019年4月に施行された働き方改革関連法では、残業時間に対して厳しい規制が設けられました。

企業あるいは個人事業主が従業員を雇用する際には、残業時間についてもしっかりと管理・監督することが求められるようになったのです。

今回は、「残業時間の上限」をテーマに、規制内容から36(サブロク)協定、罰則内容、規制適用外の職種ついてまでご紹介します。

従業員を雇用している経営者や、今後従業員を雇用する可能性のある事業者の方、総務・労務関係者は知っておくべき内容です。

残業時間は週15時間/月45時間が上限

社会問題となっている「過労死」。その原因になっている長時間労働を改善するため、2019年4月から働き方改革関連法が施行されました。

この法律により、以前に比べて残業時間を含む従業員の労働時間の規制が強化されています。

残業時間の上限に関する法規制について

残業時間の上限に関する法律「働き方改革関連法」は、正式名称「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」です。

そのままでは長いため、「働き方改革関連法」と略されて呼ばれています。

この法律の目的は、大きく分けて2つあります。

  • 労働者の事情に応じて働き方が選択できる社会実現
  • 労働者が置かれている労働環境(働き方)の改革促進

これらの目的を達成するには、労働基準法や雇用対策法などのさまざまな関連法律にも変革が必要です。

そのため、本法律は「関連法律の整備に関する法律」という遠回しな名称がつけられています。

働き方改革関連法では、労働時間、休暇、雇用形態といった労働者の労働環境にまつわる施策が制定されています。

この法律によって雇用者は、労働者が健康的に働けるように就業環境の整備に努めることが定められているのです。

その規制の一つが、「残業時間(時間外労働)の上限」です。

残業時間の法律、改正前後で変わったのは『上限の有無』

残業時間の上限規制は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行されています。

残業時間についての規制は、これ以前では「年6回まで上限なし」という、実質長時間労働が認められているような状態でした。

そのため、長時間労働が蔓延し、時間外労働が当たり前の風土になっていた企業も少なくない状況だったのです。

しかし、法律が改正され、残業時間の上限に定めができてからは、企業側もこれに応えるように就業環境の見直しが進むようになりました。

改正後、残業時間の上限は以下のように変わっています。

改正前 改正後
年6回まで上限なし 年6回まで上限適用
1ヵ月45時間上限/年間360時間上限 原則1ヵ月45時間上限/年間360時間上限
特別条項利用で年間720時間以内(休日労働時間も含む)
特別条項利用で月上限100時間まで(年6回まで、休日労働時間も含む)
複数月平均80時間以内(休日労働時間も含む)
罰則規定なし(行政指導のみ) 罰則規定あり(6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金)

期間別で区切ると、改正後では次の残業時間の上限が設けられています。

対象期間 残業時間の上限
1週間 15時間
2週間 27時間
4週間 43時間
1ヵ月 45時間
2ヵ月 81時間
3ヵ月 120時間
1年間 360時間

 

残業時間の上限規制が適用されない職種

上記に挙げた残業時間の上限は、一部の特殊な職種を除いてのみ適用されます。

適用されないのは、以下の職種です。

  • 自動車運転業務に従事する職種(事務業務を行うものは上限適用)
  • 土木、建築、建設業
  • 医師業
  • 新技術や新商品などの研究開発に携わる職種(マーケティング、リサーチ、広告制作業務なども含む)
  • 労働基準局長が指定する職種または事業

今回の改正では、医師に対しての残業時間の上限は適用されないことになりました。

しかし、厚生労働省の発表によると、2024年4月からは勤務医の残業時間について「年960時間を上限」にする予定とのことです。

参考資料:「時間外労働規制の在り方について③(議論のための参考資料)」(厚生労働省 第16回医師の働き方改革に関する検討会)

病院経営に関わる事業をおこなっている方は、今後の動向に注意してください。

残業と時間外労働の違い

残業時間の上限規制を注意する際、気をつけておきたいのが「残業」と「時間外労働」の違いです。

会社ごとに定められる労働時間と法律で制定されている労働時間は、必ずしも一致しないケースがあるからです。

たとえば、会社で定められた労働時間(所定労働時間)が次の場合、残業時間がどうなるのかを考えてみましょう。

会社既定の労働時間

始業時刻9:00

終業時刻17:30

休憩時間12:00~13:00

所定労働時間7時間30分

このケースでは、17:30以降の業務は「残業」に当たります。上記のケースで18:00まで就業すると、残業時間は30分となります。

しかし、法定労働時間は、1日8時間、1週間40時間が上限です。18:00までは法定労働時間内となり、時間外労働には当たりません。

少しややこしく感じるかもしれませんが、法律上18:00までは法的に労働時間の範囲としてみなします。

これを踏まえると、次のケースはどうなるでしょうか?

会社既定の労働時間

始業時刻9:00

就業時間18:00

休憩時間12:00~13:00

所定労働時間8時間

このケースでは、所定労働時間が8時間ですので、法定労働時間と一致しています。18:00以降の業務は「残業」であると同時に「時間外労働」に当たります。

残業時間の上限規制は、会社ごとの所定労働時間ではなく、法定労働時間を基準にするのが判断ポイントです。この違いをしっかりと認識しておきましょう。

残業時間と36(サブロク)協定の関係

残業時間の上限規制に関わるものに、36協定があります。どんなものかいまいちわからなくても、その名前を聞いたことがある人は多いはず。

36協定とは、労働基準法36条に基づく労使協定のことです。ここでは、残業時間と36協定の関係について、わかりやすく解説しています。

36協定とは企業と労働者間での『残業についての取り決め』

36協定とは、労働基準法36条で定められた「時間外・休日労働協定」に関する書式で、正式には「時間外・休日労働に関する協定届」のことを指します。

時間外や休日労働は、雇用者(法律上では“使用者”という)と被雇用者(法律上では“労働者”という)間での取り決めによっておこなわれます。

この取り決めに関する話し合いを「労使間協議」といい、協議によって取り決められた内容を基に結ばれるのが「労使協定」です。

この労使協定(36協定)を結ぶ際に使われる書類が「時間外・休日労働に関する協定届」なのです。

36協定は、以下の労働が予想される場合には、必ず締結することが定められています。

  • 法定時間労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超えて労働させる
  • 法定休日(労働基準法で定められている休日)に労働させる

法定休日とは、会社が決める所定休日(法定外休日)ではありません。毎週1回の休日、または4週間のうちに4日の休日のことです。

たとえば、1日7時間~8時間勤務するような会社の場合、1週間に1回の休日では1週間の労働時間が40時間を超過します。

そこで、会社が別途休日を設けることで40時間以内に1週間の労働時間を抑えられるようになります。

法定休日は、必ずしも特定の曜日に設定する必要はありません。

上記の労働時間の場合、法定休日に労働させることは、必然的に1週間の労働時間上限規制に抵触します。このケースでは、36協定が必須です。

36協定には、時期的・臨時的に限定時間を超過して時間外労働をおこなうケースも配慮した定めが設けられています。それが『特別条項付き36協定』です。

特別条項付き36協定を結ぶことで、上限規制の縛りを緩和させることが可能になります。

なお、特別な事情とは、「決算時期で業務量増加が予想される」「災害からの現状復興で業務量が増加する」などが当たります。

「忙しくなりそうだから」といったような漠然とした理由では認められません。届出時には、具体的かつ明確な理由の記載が必要です。

36協定を結ばずに残業させたら労基法違反で懲罰の対象に

36協定を結ばずに時間外労働(法定時間を超える残業)をさせた場合、労働基準法違反で懲罰の対象になります。

罰則規定では、「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」と定められています。

悪質な企業では、労使間協議をせずに、企業(使用者)側が一方的に協定を作成して届け出るケースも発生しています。

なかには、労使協定を結んでいたものの、その内容があまりに企業側にとって有利になるものであったことから、悪質さに事件性ありと判断されて書類送検されたケースもあります。

「36協定を結べば、残業させてもいい」わけではなく、「36協定を結ぶことで、残業が労働者の健康を害さない範囲で許される」のだと認識しておきましょう。

上限規制が守れているか?判断の3つのポイント

自社で従業員を雇用しているならば、残業時間の上限規制を守れているかは、非常に気になるところではないでしょうか。

ここでは、自社が「残業時間の上限規制」をきちんと守れているのかを判断する3つのポイントをご紹介しています。

ポイント1.36協定に対する労基署への届け出ができているか

従業員に時間外あるいは法定休日に労働をさせることが予想されるなら、36協定の届出を管轄の労働基準監督署に提出せねばなりません。

この届出をしないまま、従業員に時間外または法定休日に労働をさせてしまわないよう、提出ができているか確認しましょう。

ポイント2.就業規則や労働契約書類で従業員に周知させているか

36協定では、労働基準監督署に届出をおこなうだけでは不十分です。労働基準法第106条で、会社は従業員に対して36協定の内容を周知させる義務があると定められています。

常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。

引用:労働基準法第106条

周知方法は、主に次のとおりです。

  • 事務所や作業場所など、従業員がいつでも確認できる場所に掲示/備え付ける
  • 就業規則に条文として交付すること
  • 労働契約書に条文として交付すること など

これらの周知義務に反した場合には、労働基準監督署から是正勧告あるいは指導を受ける可能性があります。

悪質なケースでは、労働基準法第120条の「30万円以下の罰金」が科されることもあるのです。

会社は、36協定の届出の有無とともに、周知義務を全うできているかも確認しましょう。

ポイント3.36協定の有効期間が過ぎていないか

現行の法律では、36協定において有効期間に定めはありません。これは、状況を鑑みて定期的に見直しする必要性があるからです。

これを踏まえて、厚生労働省が発行している「改正労働基準法に関するQ&A」では、1年間とすることが望ましいと明記されています。


36協定の対象になる期間は、1年間に限定されています。対象期間を超えて36協定の有効期間を設定しても、1年間しか対象にならないのです。

起算日から1年が経過し、期日以降に時間外労働や休日労働といった残業をさせる場合には、改めて36協定の締結が必要です。

まとめ

残業時間の上限規制は、企業側にとって従業員との関係性や従業員の働く環境を見直す良い機会です。厳しい罰則や規制の背景には、従業員の過労死といった痛ましい事案があります。

万が一、自社において従業員が長時間勤務が原因で健康を害することがあれば、会社の信用にも大きく関わることでしょう。

従業員を大切にできる企業は、人材獲得の困難にも打ち勝っていけるはずです。

 

画像出典元:Pixabay

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