進歩の著しいIT業界では、古いシステムや技術は「技術的負債」として認識されます。
これらを現状に見合ったかたちで効率的に活用する際、選択される手段の一つが「マイグレーション」です。
本記事では、マイグレーションの意味や種類、マイグレーションが必要とされる背景など紹介します。
このページの目次
マイグレーションは、古いシステムやデータを現在最適なかたちで活用するための有益な技術の一つ。具体的にどのようなものなのか、マイグレーションの詳細を紹介します。
migration(英):移行・移動
本来「マイグレーション(英:migration)」とは、「移行」「移動」などを意味する言葉です。
移行対象がデータなら「データマイグレーション」、システムそのものなら「レガシーマイグレーション」など呼ばれます。
マイグレーションを行うことで、残った古いデータを今の技術で活用したり、より効率的なシステムへと生まれ変わらせたりすることが可能です。
近年はクラウド技術の進歩から、マイグレーションを行ってデータベースのクラウド化やシステムのオープン化を図ろうとする人や企業が増えています。
マイグレーションとは、こうした「移行作業」のすべてを指す言葉です。
マイグレーションの中でも特に注目度が高いのが、従来のメインフレームからオープン系のシステムに移行する『レガシーマイグレーション』です。
ここでは、レガシーマイグレーションを行う際の選択肢を3つ紹介します。
まずリホストとは、ハードウェアやソフトウェアを一気に新しいものに刷新するのではなく、順を追って新しいものに置き換えていく方法です。
データ量やコスト、業務手順などから一気にマイグレーションを行うのが困難な場合に選択されます。
次のリライトは、言語とプラットフォームを変更する手法です。言語とプラットフォームは新しくなりますが、アプリケーションロジックは変更されません。
そしてリビルドは、基本的なデータベースの設計からすべて変更する手法です。
リホストやリライトのように古いアプリケーションの劣化を受け継ぐことなく、マイグレーションできます。ただし、かかるコストや時間は膨大なものとなりがちです。
それぞれメリット・デメリットがあるので、どの方法を選択するかはシステム全体をよく見た上で検討する必要があるでしょう。
さまざまあるマイグレーションのなかでも、急務といわれるのが前述のレガシーシステムのマイグレーションです。
レガシーシステムとは、導入・運用から長時間が過ぎている基幹システムのこと。
一般に「レガシー」とは「遺産」などを指す言葉ですが、IT業界では「時代遅れのシステム」を指すなどし、あまりよい意味ではありません。
なぜレガシーシステムのマイグレーションが急がれているのかというと、この古いシステムが日本のデジタル化を妨げているためです。
デジタル化できないということは、ビッグデータの活用や5Gの実用化に対応しにくくなるということ。これは今後の企業展開を考える上で、大きなマイナスとなるでしょう。
この問題は「2025年の崖」問題として、政府より詳細が発表されています。
画像出典元:経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
2025年の崖とは、多くの日本企業が抱えるデジタルトランスフォーメーションについての問題です。
経済産業省は、「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」の中で、企業がこのまま古い基幹システムを使い続けた場合、2025年には6割ほどが導入・運用から21年以上のものとなると指摘しました。
その上で、「もしも2025年までに企業が既存システムの問題を解決してデジタル化に対応できなければ、それ以降1年で最大12兆円もの経済損失が見込まれる」との試算を提示しています。
これが「2025年の崖」といわれる問題です。
Windows7のサポートが終了し(2020年1月)やSAP ERPのサポート終了も見えている今、企業のシステム見直しは急務といえるでしょう。
日本は、メーカー独自のOSを搭載した『メインフレーム』の残存数では世界トップクラスといわれます。
レガシーと化したシステムのオープン化は急務といわれますが、実際にレガシーシステムをマイグレーションした場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。
前述した経済産業省の「DXレポート」では、レガシーシステムを持つ企業はシステムの維持管理費が高額化し、やがてIT予算の9割以上を占めると予測されています。
長期間使い続けたシステムの多くはニーズに合わせてつぎはぎされ、肥大化しがちです。
古いものだと構築にかかわったエンジニアが退職しているケースも多く、システムの全容を理解する人がいません。
こうなればメインフレームは「ブラックボックス」と化し、修正や効率化を図るのは極めて困難。
メーカーによるセキュリティやサポートが終了すれば、自社で多大なコストを投じて保守・運用を行っていく必要があるでしょう。
ところがここでレガシーシステムをオープン化して、クラウドや共通プラットフォームを活用すれば、保守運用のコストはカットできます。
IT予算に余力ができ、より効率的に使えるようになるのです。
マイグレーションを行えば、引き続き現行のアプリケーションやオペレーションの運用が可能となります。
長期間にわたって投資し続けてきた業務アプリケーションを無駄にせずに済む上、新アプリケーション導入によるユーザー教育なども不要です。
今まで蓄積してきたIT資産を無駄にすることなく新システムに移行できるのは、企業にとって非常に有益といえます。
ブラックボックス化しているシステムをレガシーマイグレーションによってオープン化すれば、新たなデジタル技術の活用が容易となります。
ほかのシステムと連携させるなど使い方も多様化するため、市場の動きに合わせて柔軟な対策を取れるようになるでしょう。
もちろん、クラウド、AI、モバイルなどの技術を取り入れて新たな製品やサービスを生み出すことも可能です。
オープン系の技術や手法が進歩を遂げ、技術と環境がそろった今、メインフレームをオープン化する企業が増えています。
しかし、実はすべてのレガシーマイグレーションが成功裏に終わっているというわけではありません。
マイグレーションによってシステムがさらに煩雑になった、使い勝手が悪くなったなどのケースも少なからず存在します。
マイグレーションを成功させるには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
失敗無くマイグレーションを遂行するには、現行資産の「見える化」が必須です。
まずは現在あるシステム資産を分析して洗い出し、システムの現状が一目でわかるように棚卸ししましょう。
こうすることで、マイグレーションにはリホストがよいのか、あるいはリライト、リビルドがよいのかなど選択すべき手法も見えてきます。
マイグレーションの目的は、メインフレームのデメリットを解消し、より効率良く稼働させること。
今あるIT資産のなかでどの機能を捨て、どの機能を残すべきか、さらには、どんな機能が必要なのまで明確にしておくことが必要です。
マイグレーションを行う際は、企業戦略に即したWebシステムの「設計図」を作り、それに沿って処理を行いましょう。
マイグレーションの失敗例としてよくあるのが、「メインフレームをオープン化すること」そのものが目的となってしまうケースです。
確固たる設計図がないままにマイグレーションを進めると、かえって工程数が増えたり操作が煩雑化したりなどします。
まずは事前に業務要件を正しく設定し、その上で、それぞれの運用方法にあった最適なシステム基盤を目指さねばなりません。
世界的にデジタル化の波が訪れているなか、日本企業の多くは未だに前時代的なレガシーシステムを活用しています。
早急に新しいシステムに移行しなければ、将来日本企業の競争力や存在感は低下する一方となるかもしれません。
企業が今後新しいデジタル技術を活用してビジネスを進めていくなら、マイグレーションによってシステムの新陳代謝を図ることは必須でしょう。
近年はオープン化の技術も進歩しており、オープン化への環境は整ってきています。経営戦略に沿ったシステムの刷新を行い、「技術的負債」を解消しましょう。
画像出典元:Pixabay
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