個人間や企業間のやりとり、役所における申請や通知など、今や「電磁的方法」は、あらゆるシーンで活用されています。
その割には、日常的にあまり聞き慣れないため何のことかよくわからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、電磁的方法の意味や種類、活用事例、メリット・デメリットについてわかりやすく解説します。
このページの目次
電磁的方法とは、以下のようにコンピューターを使用して電子的処理を行う方法を意味します。
電磁的方法の種類は、以下のようなものになります。
2021年におけるデジタル改革関連法の成立に続くデジタル庁の発足により、電磁的方法は以前にも増して重要視されるようになってきました。
かつては紙を使っていた契約や稟議、申請、その他文書のやり取りなどが、急速に電子化されています。
電磁的方法に似た言葉に「電磁的記録」があります。
電磁的記録とは、コンピューター上で作成、確認、処理される「デジタルデータ」のことです。
つまり電磁的方法をつかって送信する情報が「電磁的記録」というわけです。
ネットを閲覧したり、スマホに届いた電子メールやSNSを開いたりすると表示される情報は、すべて電磁的記録と考えるとわかりやすいでしょう。
個人間や企業間のやりとり、民間サービスや役所窓口における各種申請など、あらゆるシーンで電磁的方法が活用されています。
つまり電磁的方法は、「ペーパーレス社会」「脱ハンコ文化」の申し子的存在といってよいでしょう。
この章では、契約文書や申請書などに実効性をもたせたり、申請業務を効率化したりすることができる電磁的方法の活用事例を紹介しましょう。
電子署名とは、デジタル庁の定義によると「電磁的記録に記録された情報について作成者を示す目的で使う暗号等の措置で、改変があれば検証可能な方法により行うもの」とされています。
つまり電子署名とは、従来、紙媒体の書面で行うことが慣習であった署名を電子上で行えるようにし、その真正性を客観的に証明できるものといえます。
そして2001年の電子署名法の施行によって電子署名は、すでに法的効力があるものとして正式に認められているのです。
ペーパー上で行われてきた契約書や稟議書などの署名は、それがたしかに本人であることを証明するために直筆で行うのが一般的でした。
その役割を電子上で果たし、実在する人物が署名し、それ以外の第三者によっていっさい改ざんされていないことを証明する機能を持ち合わすのが、電子署名なのです。
電子署名の仕組みは以下の通りです。
AとBの間で電子文書のやり取りを行う場合に、電子文書送信者であるAは、「文書に改ざんがないこと」「たしかに本人が署名したこと」を証明してもらうために、第三者機関(認証局)に電子証明書の発行を依頼する。
第三者機関は、Aの本人確認の後、公開鍵とその所有者の情報や文書作成時間(タイムスタンプ)などを入力した電子証明書を発行する。
公開鍵とは:暗号化された文書を復号するために、秘密鍵とペアとして発行される鍵のことで、不特定多数に公開される。
秘密鍵とは:情報を暗号化するために発行し、暗号化した本人しか知らない。
タイムスタンプとは:文書が作成された日時を証明する文字列のこと。これ以降データが変更されていないことを保証する。
Aが、秘密鍵で電子文書を暗号化した上で、先の電子証明書(=公開鍵証明書)とセットでBに送信する。
Bは受信した電子証明書が本物で、タイムスタンプの時刻以降改ざんされていないかどうかを第三者機関に問い合わせる。
電子証明書が本物と確認できた時点で、Bが公開鍵をつかって電子文書を復号する。
これによって、電子署名が本人による署名であり、改ざんもなされていないことが証明できるわけです。
スマホの購入や宅配の受け取り、中古買取専門店で品物を売った際などにタブレット上で署名をした経験がある方も多いのではないでしょうか。
覚え書や同意書などに目を通し、異存がなければタッチペンでタブレット画面上に直接署名するのが、タブレット署名です。
記入した名前は、そのまま電子データとして端末やサーバー内に保存され、いつでも取り出して確認することができます。
ただし、タブレット署名は法的効力が認められているものの、電子署名のように本人証明や非改ざん性の証明はできません。そのため、タブレット署名を依頼する側の人間が立ち会って目視するなどの対策を講じる必要があるでしょう。
上記の電子署名とセットで多用されるのが、「電子印鑑」です。紙媒体上の実印の役割を果たすとイメージするとわかりやすいでしょう。
電子印鑑自体は、電子文書上に押印できる印影のことで、見た目は印鑑に似たデザインが文書上に添付されているにすぎません。
その気になれば、エクセルやワードを使ってだれでも簡単に作ることが可能です。しかしこれだけでは、紙媒体上の実印の役割を果たすことができません。
そこで法的効力を持たせるために、電子署名同様に認証システムを活用します。具体的には以下の通りです。
電子印鑑の利用者は、唯一無二のハッシュ値を作成して、時刻認証局(TSA)というタイムスタンプを発行する第三者機関(財団法人)に送る。
ハッシュ値とは:文書内のデータがわずかでも変更されるとまったく異なる文字列となる非可逆的な文字列のこと。これにより電子印鑑の唯一性が証明できる。
これを受けてTSAは、ハッシュ値と時刻データを結びつけてタイムスタンプを発行する。
電子文書から再びハッシュ値を計算して、タイムスタンプに含まれているハッシュ値と照合できるか検証する。
照合されたら本物であると証明できる。
ここからは、電磁的方法のメリットについて解説します。具体的には以下の通りです。
電磁的方法は、24時間・365日、いつでもどこからでもデータを送信したり、データにアクセスしたりできます。
例えば、日本が深夜で海外が昼間でも電磁的方法を使えば、直接会ったり話したりしなくても電子文書のやり取りが可能です。
仕事や学校の都合で開庁時間内に役所窓口に行けなかったり、営業時間内に民間サービスの手続きができなかったりするケースでも、電磁的方法を活用すれば問題なく解決するでしょう。
こうしたことが可能になると、送信側と受信側の双方が都合の良い時に作業ができるので、関係者全員の業務効率化とワークライフバランスの改善が期待できます。
紙媒体の場合は、どうしても紛失や破損などの危険性が高まります。
会社や自宅といった特定の1箇所でしか保管できないため、遠隔地からデータにアクセスしたり、文書内容を確認したりしづらいといった不便さも否めません。
それに比べて電磁的方法で扱う電磁的記録なら、端末やサーバー内に保存したり、バックアップをとったりすることができるので、紛失リスクが抑えられます。
紙媒体の場合は、時間の経過とともに保管しておかなければならない書類が膨大になります。
するとその分のファイルやキャビネット、金庫や専用スペースなどを確保する必要があるため、在庫管理コストが発生します。
ところが電磁的方法の場合は、すべて端末やサーバー内に保存できるので、経費削減が可能でしょう。
加えて、いちいち書類を郵送したり、一堂に会して署名・捺印したりする必要もなくなるため、大幅に時間が節約できます。
一方、電磁的方法のデメリットにはどのようなものがあるのかを見ていきます。具体的には、以下の3点が考えられます。
電磁的方法は、送信者と受信者の双方が同じシステムを使える環境になくては成り立ちません。端末やソフトウェア、デジタル人材などに不備や不足があるとやり取りができないからです。
また環境は整っていても、そもそも相手が電磁的方法の採用に合意してくれないケースもあります。
こういったことを一つずつクリアしなければ電磁的方法が導入できない点は、デメリットと言わざるをえません。
電磁的方法を組織内で定着させるのは決して容易ではないでしょう。デジタルに強い若手人材が豊富な組織はさほど苦労がないかもしれません。
しかし多くの場合、電子署名や電子印鑑などの暗号化や復号化、あるいは認証局への認証依頼などを間違いなく行えるようになるまでには、ある程度時間を要すると考えられます。
すべて一からとなれば、デバイスや専用ソフトといったインフラの整備、教育システムの構築などにも注力しなければなりません。その労力やコストも十分に考慮する必要があるでしょう。
先ほど相手方の合意を取り付けるのが困難な場合があると述べました。
その理由の一つが、電磁的記録が本当に改ざんがなく、本人による署名なのかといった点に疑問が残るからです。その真正性についてすべての取引相手に100%納得してもらうのは難しいかもしれません。
また、重要書類を悪意ある第三者にハッキングされないようにセキュリティを強化するのにもコストや手間がかかるでしょう。
電磁的方法は、今や社会的にも経済的にも文化面においても欠かせないツールといって過言ではないでしょう。
教育や医療、行政、インフラ、観光、エンタメなど、大半の領域でスマホをはじめとするデジタルデバイスが、サービス利用の入り口となっています。
コーポレートサイト、アプリ、SNS、動画投稿サイトなど、そのすべての機能を裏付けているのは、まさに電磁的方法に他なりません。
こうした背景を考えると、これから電磁的方法の重要性はますます高まると見て間違いないでしょう。
企業や自治体でも、電子契約システムの導入が増えています。
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