毎月給料から天引きされる厚生年金保険料や健康保険料などの社会保険料は「標準報酬月額」から算出されます。
この標準報酬月額と実際の報酬月額とはどう違うのでしょうか?
また、標準報酬月額はどのように決められ、いつからいつまで適用されるのでしょうか?
この記事ではそんな疑問に答えるとともに、厚生年金や健康保険の保険料の計算の例もご紹介します。
このページの目次
標準報酬月額とは、社会保険料を計算するために決められる「平均報酬額」です。
給料から天引きされる社会保険料(厚生年金、健康保険、介護保険)は、会社の経理が実際の給与額から毎月計算しているわけではありません。
それでは事務手続きが会社にとっても国(年金機構)にとっても煩雑になりすぎます。
そこで設けられたのが、年に1回見直される「標準報酬月額」です。会社はその額を国に報告して、1年間それに基づいて社会保険料を給料から天引きします。
標準報酬月額は平均報酬額だと言いましたが、具体的には4~6月の3カ月の報酬の平均です。
ただし、その平均額がそのまま標準報酬月額になるわけではなく、等級に区分されて該当する等級の標準報酬額を適用します。
厚生年金には、標準報酬月額88,000円の第1等級から、標準報酬月額620,000円の第30等級まであります。
健康保険・介護保険には、標準報酬月額58,000円の第1等級から、標準報酬月額1,500,000円の第50等級まであります。(介護保険は40歳以上が対象)
例えば、4~6月の平均報酬額が月295,000円なら、「290,000〜310,000円」の区分に入り、標準報酬月額は300,000円となります。これは厚生年金では第19等級に、健康保険では第22等級に当たります。
(参照:厚⽣年⾦保険料額表)
報酬額が月295,000円の場合、実際の報酬より標準報酬月額が5,000円高いことになります。ちょっと損した気分ですが、報酬が305,000円の場合も標準報酬月額は300,000円で実際の報酬よりも5,000円低い額になります。
標準報酬月額に算入されるのは基本給だけではなく、時間外手当や家族手当、交通費などが含まれます。
基本給以外に、通勤費、時間外手当、家族手当など、会社からもらうお金は、自分が立て替えたもの以外は、ほとんどすべてが標準報酬月額の算定の基礎となる報酬に算入されます。
お金だけでなく、現物支給の定期券、会社製品、食事の費用相当金額も算入されます。社宅・寮などが提供された場合は会社が補助する家賃相当分が算入されます。
「原則として年4回以上支払われる報酬(現物を含む)は標準報酬月額の算定に含まれる」というのが標準報酬月額の考え方です。
ボーナスも四半期に一度など、年4回以上支給される場合は報酬月額に含まれます。
厚生年金保険で標準報酬月額の対象となる報酬は、基本給のほか、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金等、事業所から現金又は現物で支給されるものを指します。
なお、年4回以上支給される賞与についても標準報酬月額の対象となる報酬に含まれます。
(引用元:日本年金機構ホームページ)
年3回以下のボーナス(賞与)は別枠で社会保険料がかかるので、標準報酬月額には含まれません。賞与の社会保険料は、支給された度毎に計算されます。
慶弔見舞金など、労働の対価とは言えないようなものや出張旅費などの実費弁償(立替金の清算)は報酬月額に含まれません。
標準報酬月額が決まれば、それに各社会保険の保険料率を掛けて社会保険料を計算します。
厚生年金の保険料率は18.3%なので、「標準報酬月額×18.3%」が1ヶ月の厚生年金保険料になります。これを会社と被保険者が折半して年金機構に納めます。(被保険者の負担は9.15%)
例えば、標準報酬月額30,000円(厚生年金第19等級)なら、300,000×18,3=54,900円となり、給料から天引きされる額は。その1/2の27,450円です。
健康保険の保険料率は都道府県ごとに決められます。例えば東京都では9.90%、大阪府では10.19%となっています。
(参照:日本年金機構「平成31年度保険料額表」)
大阪府の場合は標準報酬月額が300,000円(健康保険第22等級)なら300,000×10.19=30,570で、1ヶ月の健康保険料は30,570円となり、これを会社と被保険者が折半します。
等級 | 報酬月額 | 標準報酬月額 | 健康保険 | 介護保険 | 厚生年金 | |
健保 | 年金 | |||||
22 | 19 | 29~31万円 | 30万円 | 15,285円 | 2,595円 | 27,450円 |
23 | 20 | 31~33万円 | 32万円 | 16,304円 | 2,768円 | 29,280円 |
40歳から支払う介護保険料の保険料率は全国統一で1.73%です。
標準報酬月額に1.73%掛けた額が1ヶ月の介護保険料で、それを会社と被保険者が折半します。
標準報酬月額は年に1回改定され1年間適用されますが、途中で大きな報酬の変動があったときは随時改定されます。
4~6月の報酬の平均から標準報酬月額を決めて、それを9月から翌年8月までの1年間適用します。
しかし、仕事によっては毎年4~6月に残業が増えるなどで報酬が多くなるケースがあり、それを基準に標準報酬月額を決めて1年間適用すると、会社にも被保険者にも不利になります。
前年の7月から6月の年間平均で算出した標準報酬月額が、4~6月の3か月の平均で算出したものと2等級以上の差が例年生じる場合は、年間平均を算定の基準にすることができます。(会社が被保険者の同意を得て申し立てをすることが必要)
報酬に大きな変動があったときは、随時に標準報酬月額を改定します。
連続した3ケ月の平均で、標準報酬月額で2等級以上の変動に当たる報酬の増減があった場合は、随時に標準報酬月額を改定します。
ただし、その3ケ月はどの月も報酬支払基礎日数が17日以上でなければならず、会社を休んだために報酬が大きく下がった月を算定基準にすることはできません。
改定するときは、会社は年金機構に「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」を提出する必要があります。
産前産後休業や育児休業が終わって会社に復帰した後は、時短勤務などで報酬が大きく下がる場合があります。
休業終了後の3ケ月の月平均の報酬の変動が、標準報酬月額の1等級以上の変動に当たる場合は、届け出をすることで標準報酬月額の改定が可能です。
ただし、その3ケ月はどの月も報酬支払基礎日数が17日以上でなければなりません。
入社して社会保険の被保険者資格を取得したときは、見込まれる1カ月当たりの報酬から標準報酬月額を決定して届け出て、それをその年の8月まで適用し、その後に見直しをします。
標準報酬月額とは、社会保険料を算定するために決められる1ヶ月の平均報酬額です。
4月から6月の3カ月の報酬の平均月額から等級を定めて、1年間その等級の社会保険料を納めます。
しかし、大きな報酬の変動があった場合は、その年度内でも随時に見直すことが可能です。
厚生年金保険料は、標準報酬月額に18.3%を掛けて算出します(個人負担はその1/2)
健康保険料は、都道府県によって料率が違いますが、算出の仕方は同じです。
標準報酬月額を決めるもとになる報酬には、基本給の他に残業代、通勤費、住宅手当、現物支給など多くのものが含まれます。
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