法人を設立して、ようやく従業員を雇用するまでに会社が大きくなった!それは嬉しいことではありますが、従業員を1人でも雇用した途端に発生するのが、社会保険への加入義務です。
今回は、少し複雑な社会保険について、その概要から種類、保険料の計算方法までを網羅的に解説していきます。
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まず「社会保険」とは何かを簡単に説明すると、私たち国民が、生活を送っていく上で抱える様々なリスクに備えて、あらかじめ強制加入の保険に入っておく仕組み(または保険そのもの)のことを言います。
民間の保険と異なるのは、まず多くの場合が「強制加入」である点。そしてもう一つ、雇用主である法人と被雇用者である従業員折半して保険料を支払う保険がある、という点です。
リスクが生じた際にお金を受け取れるのは従業員ですが、保険加入の手続きは法人が行う、という点も特徴的だといえるでしょう。
実務的な話をすると、社会保険に加入手続きを行うのは法人であり、法人が税金などと同じように従業員への給与を天引きする形で保険料を計算・徴収し、従業員に代わって保険料を納める仕組みになっています。
ところで、従業員ではない人、例えば個人事業主などは社会保険に加入できないのはリスクが大きいのでは、と疑問に思われるかもしれません。
確かに、個人事業主などは法人が加入手続きを行う社会健康保険には加入ができませんが、その代わり同じようなはたらきを持つ別の保険に加入したり、あるいは民間の保険会社を活用することになります。
ただし社会保険とは異なり、これらの加入手続き等は自分で行う必要が生じます。
社会保険には4つの種類があり、従業員を雇用する全ての事業所が加入する保険(雇用保険・労災保険)と、法人及び一部個人事業主が加入する保険(社会健康保険・厚生年金保険)に分類されます。
法人を初めて設立するような場合には、これらの保険が対応するリスクや加入要件などをしっかりと把握して加入手続きを行う必要があります。
まずは、従業員を雇用する全ての事業所が加入する保険である「雇用保険」と「労災保険」について、保険の概要と保険料の計算方法について解説していきましょう。
雇用保険とは、従業員が失業をしてしまうリスクに備えた保険です。別名「失業保険」とも呼ばれています。
従業員が失業した際に、生活を安定させるための「失業給付金」を支給したり、あるいは再雇用の機会を得るための教育資金に使われたりします。
すべての事業主は、事業の規模や内容あるいは雇用形態に関わらず、以下の2つの要件にいずれも当てはまる従業員を雇う場合には、加入義務が生じます。
個人事業主であろうと人を雇う場合には入らなければいけません。
・1週間の所定労働時間が20時間以上であること
・31日以上の雇用見込みがあること
雇用保険料は
給与額×雇用保険料率
で算出されます。
ここでいう給与額には、基本給や賞与などのほか、残業手当や深夜手当、通勤手当などといった各種手当ても含まれます。
一方で、退職金や災害見舞金あるいは休業補償金などは含まれません。
雇用保険の保険料率は、基本的には1年のスパンで設定され、厚生労働省のウェブサイトなどで確認できます。平成31年度の保険料率はこちらのとおりです。(引用:厚生労働省「平成31年度の雇用保険料率について」)
こちらの保険料率に従って、例えば月の給与額が20万円であったとすると、雇用保険料は以下のように算出されます。
200,000円×9/1,000=1,800円
この1,800円のうち、3/1,000に相当する600円が従業員、6/1,000に相当する1,200円が事業主の負担となります。
労災保険とは、従業員が業務が原因で病気にかかったりケガを負ったりする「労働災害」のリスクに備えた保険です。
従業員本人が亡くなってしまった場合の家族への補償(遺族年金)も含まれています。
雇用保険と同様、従業員を雇うすべての事業主に加入義務が生じます。
雇用保険と合わせて「労働保険」と呼ばれ、社会保険の中でも労働者の生活と雇用を守る重要な保険として位置づけられています。ただし、雇用保険とは異なり労災保険は事業主のみが保険料を支払うことになっています。
労災保険料は、雇用保険料と同じように
給与額×労災保険料率
で算出されます。
労災保険の保険料率も雇用保険と同様に1年のスパンで設定されますが、事業の種類ごとに非常に細かに保険料率が設定されている点に注意が必要です。
各事業所ごとの保険料率は厚生労働省のウェブサイトにて確認できます。
例えば、林業の保険料率は60/1,000となっていますので、月の給与額が20万円であったとすると、雇用保険料は以下のように算出されます。
200,000円×60/1,000=12,000円
繰り返しになりますが、労災保険は事業主のみが保険料を支払います。
もし従業員から天引きしてしまったら、それは違法行為となってしまうので注意してください。
続いて、法人及び一部個人事業主が加入する保険である「社会健康保険」と「厚生年金保険」について解説していきましょう。
なお、この2つの社会保険の保険料は「標準報酬」という基準に基づき計算されるので、保険料の計算についてはまとめて説明します。
社会健康保険とは、従業員が業務に関係なく病気にかかったりケガを負ったりするなどの健康上のリスクに備えた保険です。
日本では「国民皆保険制度」という仕組みが採用されており、おおまかに分けて従業員などは社会健康保険に、個人事業主や職に就いていない人などは国民健康保険にそれぞれ加入することになっています。
社会健康保険の加入要件は雇用保険や労災保険よりもほんの少しだけ緩く、以下に該当する事業所等が「強制適用事業所」と見なされ加入義務が生じます。
・従業員が1人以上いる法人事業所
・従業員が常時5人以上いる、法定16業種※の個人事業所
法定16業種とは、法律により社会保険への加入が義務づけられている業種をいい「物の製造、加工、選別、包装、修理又は解体の事業」や「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業」など全部で16業種が指定されています。
強制適用事業所に該当しない事業所(任意適用事業所という)については加入義務はありませんが、任意で加入することは可能です。
厚生年金保険とは、老後に働けなくなるなどして収入がなくなるというリスクに備えた保険です。
雇用保険や労災保険などとは異なり、老後は誰しも訪れる可能性が高いものですから「保険」という感覚は薄いかもしれませんが、れっきとした社会保険の一種です。
「国民皆保険制度」ほどメジャーではありませんが「国民皆年金」という言葉もあるとおり、日本では年金に加入することも義務となっています。
健康保険と異なるのは、厚生年金保険は国民全員が加入する「国民年金」にプラスアルファで加入するものである、という点です。
その分、個人事業主などよりも保険金は大きくなりますが、支給される年金の金額も上積みされます。
厚生年金の加入要件については、社会健康保険と同じく「強制適用事業所」に加入義務が発生します。
社会健康保険及び厚生年金保険の保険料は、毎年4月から6月までの報酬月額を元に算出された「標準報酬月額」に基づき、下のような「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」という表にのっとり決定されます。
法人と従業員は、保険料をそれぞれ折半して支払うことになります(実務上は個人負担分を法人が給与から天引きする形です)。
(引用:平成31年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表)
例えば標準報酬月額が20万円であった場合、17等級の行を見ると、「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の全国健康保険協会管掌健康保険料の折半額が9,900円、厚生年金保険料の折半額が18,300円とそれぞれ記載されています。
これが法人と従業員の負担金額です。
なお、ここでいう「介護保険第2号被保険者」とは「介護保険」の加入対象者のことをいい、40歳以上65歳未満の人のことを指します。
40歳以上になると、今回ご紹介してきた社会保険とは別に、老化に伴う様々な病気・ケガなどによるリスクをカバーする介護保険に加入することとなっており、その分の保険料は社会健康保険にプラスされる形で徴収される仕組みです。
社会保険は、従業員を雇用する全ての事業所が加入する保険である雇用保険と労災保険、法人及び一部個人事業主が加入するである社会健康保険と厚生年金保険の4つの種類があります。
後者の2つの保険は個人事業主であれば加入義務がないことがあるものの、法人に関して言えば、1人でも従業員を雇用していれば、これら4種類すべての保険に加入義務が生じます。
万が一、加入義務があるにも関わらず加入手続きを怠った場合、あるいは社会保険料の納付に際して金額等に間違いがありそれを放置してしまった場合には、違法行為となり罰則が下される恐れも出てきます。
社会保険の保険料率は毎年見直されるという点も要注意でしょう。
厚生労働省などの関係官庁の情報をよく確認して、加入や天引き、納付の手続きを行うようにしましょう。
不安であれば、社会保険のスペシャリストである社会保険労務士に相談することをおすすめします。
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