「大企業病」ともいわれる非効率な企業体質を改善するための特効薬として注目されているのが「イントレプレナー(イントラプレナー)」の存在です。
最近耳にする機会も増えてきたイントレプレナーとはどういった存在なのか、イントレプレナーに向いている人が持つ特性、実際の有名企業内でのイントレプレナーの成功事例などを紹介します。
このページの目次
イントレプレナー(Intorepreneur)とは直訳すると「社内起業家」という意味です。
企業内で新しいビジネスを立ち上げる際に、そのリーダーとなる人材を一般の起業家を意味するアントレプレナー(entrepreneur)と区別してイントレプレナーと呼びます。
簡単に言えば、新規事業開発においてリーダーとなり、経営者的な能力を示せる人材のことです。
企業にイントレプレナーが必要な理由
企業がイントレプレナーを必要とするようになったのはなぜでしょうか?
以下の2つの理由が挙げられます。
1. 大企業病の改善のため
2. 企業の成長のため
大企業病とは非効率的な企業体質のことです。
その症状には、意思決定の遅延、責任を回避する体質、縦割り組織、社員のモチベーションの低下、発想の固定化などが挙げられます。
こうした症状が深刻化すると、社員は仕事をただこなすだけになり、企業としての成長や事業拡大は難しくなります。
こうした問題を解決するために、社内でイントレプレナーを育成し、新しいビジネスを開発しそれを実行するという方法があります。
市場のグローバル化、デジタル化により、既存のビジネスモデルはすでに古くなり、新しいビジネスモデルが必要とされているという現状があります。
こうした市場の拡大・変化に対応できる新しいビジネスを生み出し、企業として成長し続けるためにも、企業内でのイントレプレナーの育成は重要な課題となっています。
非効率的な企業体質の改善と企業の成長のために、日本の企業でも自社内にイントレプレナーを育成しようという動きが高まっています。
今の日本企業にイントレプレナーが必要とされる理由が分かりましたが、企業に勤めている人はどのようにイントレプレナーになれるのでしょうか?
博報堂やソニー、ミクシィのような日本の有名企業では、社内公募制の新規事業プランに関するコンテストを開催したり、イントレプレナーの支援・育成制度を設けています。
こうしたコンテストに自分のアイデアを応募し、それが認められるならイントレプレナーとして活躍できる可能性があります。
さらに、経営者的な才能があると認められ、新規事業開発に携わる部門に異動しイントレプレナーとしての訓練を受けるというケースもあります。
イントレプレナーは企業の中で、新しいビジネスを立ち上げる際のリーダーとなる人材のことです。
ではイントレプレナーと一般の起業家つまりアントレプレナーにはどんな違いがあるのでしょうか?
その違いを3つのポイントで比較してみました。
イントレプレナー | アントレプレナー | |
始めやすさ | 企業の資金・人材・設備・ブランド力などを活用できるので事業の始めやすさの点では有利。 | 自分で資金・人材・設備を集め、ブランド力を高めていかなければならないのでイントレプレナーと比較すると不利。 |
自由度 |
企業の経営陣の意向などを反映させなければならない場合もある。 |
資金提供をしてくれている株主の意見を反映する必要はあるものの、自由度は高い。 |
リスク |
企業の後ろ盾があるのでリスク抑えられる。 |
起こりえるすべてのリスクを起業家自らが負わなければならない。 |
では、どんな特性を持つ人がイントレプレナーに向いているのでしょうか?
次の5つの特性がイントレプレナーには求められます。
1. 新たな市場を見出す能力
2. 物事を俯瞰で見る能力
3. 政治力
4. 強い精神力
5. リーダーシップ
ビジネスとはそもそも誰かが抱えている問題を解決したり、既存の制度をもっと便利にしたりすることからスタートします。
イントレプレナーとして新たな市場を見出すことができる人は、世の中の人はどんなことに困っているのか、なぜ困っているのか、それをどうすれば解決できるのか、もっと便利に出来るのかを考えられる人でなければなりません。
世の中のいろんな事柄に常にアンテナをはって、何が求められているのかをキャッチできるという新たな市場を見出す能力のある人はイントレプレナーの特性があります。
物事を俯瞰で見ることができる人はイントレプレナーの特性があります。
例えば、イントレプレナーは新しいビジネスのアイデアを思いついたなら、その個人レベルの発想が、自分の所属する企業、業界、ひいては社会全体にどう影響していくかという俯瞰で眺めたビジョンを持たなければなりません。
こうした視点を持つことで、新しいビジネス計画の必要性を人に説明することができ、それによりそのアイデアに共感できる人を社内・社外に持つことができるようになります。そうなれば新しい事業計画は前に進むようになります。
物事を俯瞰で見る能力は、イントレプレナーとして新しい事業を展開する際に必要なヒト・モノ・カネを動かすためにも使われます。
新しいビジネスを展開するには、どれくらいのあるいはどんなタイプの人が必要なのか、どんなインフラ設備が必要なのか、どれくらいのコストがかかり、どれくらいの資金が必要なのかといった事柄を全体として考えなければなりません。
新ビジネスの魅力だけに注目するのではなく、それを具現化するためには何が必要かを離れた場所から見て考えられる能力がイントレプレナーには求められます。
一般の起業家とは違い、企業という枠の中で新しいビジネスを始めるイントレプレナーは、その企業内の経営陣や役員の合意がなければ新しいビジネスはできません。
そのために必要なのが政治力です。
例えば、新しいビジネスでどれくらいの売上が出たのかという具体的な数字を見せれば、その必要性を経営陣に納得させることができ、社内からの支援を獲得できます。
社内からの支援が増えれば、個人的には新しいビジネスに賛同していないが、大局に逆らう気持ちもないので賛同するという経営陣や役員も出てくることでしょう。
他にも、新しいビジネス計画に対する「社外」の声を経営陣や役員に届けて彼らを動かすという方法もあります。
新しい事業に対する期待、必要性を多くの人が感じているということに気が付けば、経営陣も賛同の意を表明してくれるかもしれません。
このような根回しなどを巧みに行なって経営陣や役員を賛同を得る政治力もイントレプレナーに求められる適性のひとつです。
新しい事業計画に対して消極的な意見を述べたりあからさまに批判する人物も存在します。
さらに、経営陣や役員からの合意を得るために、事業計画書を何度も作り直すことも必要です。
一般の起業家が投資家や金融機関からの資金もしくは融資をえるために、事業計画書を何度も作り直すのと同じです。
そうした壁を乗り越えて事業計画を実現させるには強い精神力、自分の事業計画に対する揺るがない信念が必要です。ですから強い精神力の人間はイントレプレナーとしての適性があります。
社内起業家のイントレプレナーは、「一人で何でもできる人」というイメージがありますが、一人の力だけでは新しいビジネスを成功させることは無理です。
実際は、周囲の協力を得て彼らの能力を引き出し新しいビジネスを成功へと導きます。
ですからリーダーシップもイントレプレナーには必須の特性です。
イントレプレナーの育成は日本の企業にとって急を要する課題ですが、実際に日本の企業でもその課題に上手に取り組み成功を見ているところがあります。
そうした実際の企業のイントレプレナーの成功事例を2つ紹介します。
ソニーが2014年にスタートさせた「Sony Startup Acceleration Program」は、アイデアを生み出すとことから事業化、販売、拡大までを一気通貫でサポートするイントレプレナーを育成しサポートするプログラムです。
2018年にはイントレプレナーだけでなく、アントレプレナーもこのプログラムを利用できるようになりました。
このSony Startup Acceleration Programにより生まれた事業はいくつもありますが、その中でもハイブリッド型スマートウォッチ「wena wrist」や、家中の家電のリモコンを1台に集約できる次世代リモコン「HUIS REMOTE COTROLLER」などは有名です。
AD+VENTURE(アドベンチャー)は2010年よりスタートした博報堂DYグループの社内公募型ビジネス提案・育成制度です。
年1回のビジネスアイディアコンペティションと、事業創造に関する知識を学べるオープンスクールなどが特徴です。
この制度を利用して誕生した企業もいくつかあります。
農業マーケティングの体系化・実現を目的とし、農業者と消費者を繋ぐプラットフォーム「チョクバイ」を運営する株式会社ファーマーズ・ガイドや、ハワイに関する商品なら何でも揃う「マハロモール」を運営している株式会社マハロネットワークなどがその例です。
この記事ではイントレプレナーとアントレプレナーの違い、イントレプレナーに求められる特性などを紹介しました。
日本でもイントレプレナーを育成する制度を設けている企業があり、今後そうした企業が増えることも予想できます。
イントレプレナーに求められる特性すべてを現時点で兼ね備えていなくても、人材育成に力を入れている企業で働き、求められる特性を培い、知識やスキルを磨けば、イントレプレナーとしてデビューすることも夢ではないでしょう。
イントレプレナーよりも自分は小さな規模から始めるアントレプレナーの方が向いているという方もおられるでしょう。そうした方はこちらの記事を参考にしてください。
イントレプレナー(イントラプレナー)とは社内起業家つまり企業内で新しい事業を計画し、それを実現化させるためのリーダーとなる人材を指す言葉でした。
日本の企業の持つ大企業病、競争力の低下といった問題を解決するためにも、イントレプレナーの育成が課題のひとつとなっています。
イントレプレナーには経営者的な適性が求められます。例えば、新たな市場を見出す、物事を俯瞰でとらえる能力、強い精神力、リーダーシップなどです。
企業という枠内で新しいビジネスを展開するので、経営陣や役員の合意を得るための政治力も必要でした。
日本の有名な企業でもすでにイントレプレナーを育成・支援する制度を導入しています。今後多くの企業がその後に続いていくことでしょう。
すでにどこかの企業で働いているならば、イントレプレナーとして会社に貢献するという方法を選択してみるのはいかがでしょうか?
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