イノベーションとは、全く新しい技術・知識によって、経済や社会・人々の考え方・価値観を大きく変えることです。
市場のデジタル化・グローバル化が進む昨今、日本企業の存在感はますます薄くなっています。
強い日本を取り戻すには、官民一体となってイノベーションを起こすことが必要です。本記事では、イノベーションの意味や日本の課題、イノベーションを起こすためのポイントを紹介します。
このページの目次
まずは、イノベーションの意味や定義を見ていきましょう。
イノベーションとは、英語の「innovation」をカタカナ読みした言葉です。
そのまま訳すと「革新」ですが、ビジネスシーンでは「革新技術」「全く新しい知識・メソッド」などを意味します。
「イノベーションを起こす」などと使うときは、「革新的な技術で新しい価値を生み出し、人々や社会に大きな影響を与えること」を示すのが一般的です。
イノベーションという概念を生み出したのは、オーストリア・ハンガリー帝国(チェコ)の経済学者「ヨーゼフ・シュンペーター」です。彼は著書『経済発展の理論』の中でイノベーション論を展開し、後の経済学者や経営者たちに大きな影響を与えました。
彼の定義によると、イノベーションは「価値の創出方法を変革して、その領域に革命をもたらすこと」です。
すなわちイノベーションは、社会の価値観や経済構造に大きな変化をもたらすものと解釈できます。
そのモノやサービスの登場により「人々の価値観がガラッと変わった」「生活スタイルが変わった」「経済システムが変わった」などがあれば、それがイノベーションです。
リ・イノベーションとは、「再びイノベーションを起こす」という意味の言葉です。0から1を作るのではなく、1を2、3へと増やしてさらなる革新を起こすことをいいます。
「価値がなくなった」「古くさい」と見られる製品やサービスも、手を加えたり方向性を変えたりすることで再び爆発的に売れるケースがあります。
古い技術やサービスを「時代遅れ」ではなく、新たなイノベーションの源泉とするのがリ・イノベーションの考え方です。
2007年、当時の安倍内閣はイノベーションの重要性を説き、イノベーション創造のための経済指針「イノベーション25」を発表しました。
「日本が世界市場で存在感を発揮するにはイノベーションが必須」といわれ続けていますが、なぜイノベーションが注目されるのでしょうか?
ICTの発達によってインターネットを活用した新しいビジネスモデルが次々と生まれ、「第4次産業革命が到来した」といわれています。
第4次産業革命でコアとなるのは、IoTやビッグデータ・AIの活用です。今後市場で強い存在感を発揮するためには、これらをうまく実装して新しいサービス・商品を生み出していくことが必須とされます。
すなわちIoTやビッグデータ・AIを使っていかにイノベーションを起こすかが、企業の経営を大きく左右すると考えられるのです。
少子高齢化が進む日本では、労働力不足によって廃業に追い込まれる企業が出てくると想定されます。「いかに人材を確保するか」は、企業の存続に関わる重要な課題です。
企業の労働力不足解消のカギになると見込まれるのが、業務や組織運用におけるイノベーションです。企業がこれまでの古い経営体質から脱却し全く新しいビジネスモデルを作ることが、企業の生産性維持・向上に必要といわれています。
AIやIoTを活用してイノベーションを起こせば、それに付随するさまざまな需要が生まれるのは必至です。ビジネスモデルの幅が広がり、企業規模を問わず市場の優位性を確保できるチャンスがあります。
例えばインターネットというイノベーションが起きたことにより、SNSや各種ツール・サービスが普及しました。市場原理も一変し、インターネット普及前と今とでは人々の価値観や生活スタイルは大きく変化しています。
1つのイノベーションが、無限のビジネスチャンスを創出するのです。
シュンペーターが生み出したイノベーションという概念は、後にさまざまな学者によって論じられ、分類や種類が多様化しています。
イノベーションの種類について、主なものを紹介します。
シュンペーターは1912年発表の『経済発展の理論』でイノベーション理論を展開し、市場にインパクトを与える新たな概念を生み出しました。
彼の唱えたイノベーションの種類は、次の5つです。
世の中にまだ存在しない新製品やサービスを生み出すこと
新しい生産方式や流通工程を導入し、生産性向上につなげること
新しい市場を開拓し、顧客や販路を獲得すること
新しく原材料調達ルートを確保すること
組織形態や運営方法を刷新し、組織強化につなげること
シュンペーターは、「企業そのものが自発的に変革することによって、外部への影響を強められる」と説いています。
すなわちイノベーションは外から与えられるものではなく、内側から作り出していかなければならないものです。
アメリカの経済学者「クレイトン・クリステンセン」は、著書『イノベーションのジレンマ』の中で、「破壊的イノベーション」と「持続的イノベーション」という概念でイノベーション論を語りました。
全く新しい技術やアイデアにより企業の安定を破壊し、業界構造を一変させること
既存の製品やサービスを顧客のニーズや価値観に併せて大きく変化させること
破壊的イノベーションのインパクトは大きく、企業の成長を大いに促進します。しかし規模が大きくなって経営が安定すると、企業はそれ以上の変革を求めません。安定を重視する傾向が強まって変化の波に乗り遅れ、やがて市場のリーダーシップを失ってしまいます。
これがクレイトンの提唱する「イノベーションのジレンマ」です。
現在世界中の企業で活用されている「オープンイノベーション」を提唱したのが、アメリカの経営学者「ヘンリー・チェスブロウ」です。
社外のリソースを使って新しいサービス・商品を生み出すこと
自前主義。自社で全てをまかなうこと
インターネットの普及や市場の拡大・グローバル化、さらには産業構造の変化により、1つの企業で大きなイノベーションを生み出すのは困難になっています。
チェスブロウは、外部の企業や団体と協働していくことが、イノベーション創出につながると説きました。
日本はイノベーションを起こす素地はあるものの、実現にはいたっていないのが現状です。日本の現状と課題を見ていきましょう。
1989年の1位をピークに、日本の国際競争力は2021年時点で31位まで後退しています。政府は国際競争力の低下とイノベーションの少なさは無関係ではないとして、イノベーションを起こすための取り組みを行っています。
また人口減少が続く日本では、いわゆる人口ボーナスは期待できません。
人口減少による労働力不足・サービスの質低下・地方の過疎化などの課題を解決するためには、労働現場はもちろん、介護現場・公共サービスなどといったあらゆる場所でイノベーションを起こす必要があります。
日本は質の高い基礎研究があり、科学に基づく技術(ディープテック)面に強みがあるといわれます。しかしこれらを生かす十分な環境が整っておらず、新しいイノベーションが生まれていないのが現状です。
例えば量子コンピューターや3Dプリンターは、日本が世界に先駆けて原理の提唱や特許の取得を行いました。しかしいずれも実用化にはいたらず、他国の後塵を拝しています。
新製品の開発はもちろん、新しいビジネスモデルの開拓でも、理工系の高度人材が必須といわれています。しかし日本は若年層の理工系研究者が少なく、人材の不足が懸念されています。
また若い研究者が十分な報酬を得られないこと・研究環境が整っていないことなどから、海外に流出してしまうケースも少なくありません。
理工系の高度人材は世界中で需要が高まっており、日本では「今後どのように高度人材を獲得するか」が大きな課題となっています。
日本企業がイノベーションを起こすためには、日本的経営から離れることや外部との連携を強化すること、高度人材を獲得することが重要です。それぞれについて詳しく紹介します。
日本的経営とは、高度経済成長期を支えたといわれる日本の経営モデルです。例えば以下の事項は、日本的経営の象徴といわれます。
これらはかつて強い日本を作った制度や習慣でした。しかし時代は変わり、日本的経営は今の市場原理とアンマッチになっています。
日本企業がイノベーションを起こすには、古い企業体制を見直して、今の価値観に合う企業文化や風土を作っていく必要があります。
産学官、産産など、異業種連携の広域的なネットワークを形成することが、イノベーションの創出につながるといわれています。
イノベーションを起こす可能性を秘めたベンチャーやスタートアップは、多数あります。しかしこれらの企業は単独で安定したビジネスモデルを形成するのが難しく、実際にイノベーションまでたどり着くことはまれです。
地盤のしっかりした大企業や国・地方組織などが積極的に連携を行うことが、全く新しいビジネスモデルの創造につながると考えられています。
世界各国では、国を超えて優秀な人材をハントしているのが現状です。日本企業も、外国人の高度人材を積極的に確保していく必要があります。
現在見直されているのが、世界各国の優秀な人材を受け入れる留学生制度です。留学生として日本に来た学生の中には、国に帰らずに日本で就業する人が少なくありません。
インターンシップ制度などを利用して優秀な留学生とつなぎを作ることは、イノベーションに必要な高度人材を確保する上で有益なルートの1つです。
イノベーションを起こす企業は、「思いがけないアイデアを生み出し、実行できる企業」です。イノベーションを起こしやすい企業の特徴を紹介します。
社員間の交流が活発で上下の分断がない企業は、新しい発想が生まれやすくなります。1つの思いつきが膨らんで、革新的なアイデアにつながるケースが多いためです。
縦・横が完全に分断されている企業では、新しいアイデアが生まれても広がりません。また年功序列型で下の社員が意見を出しにくい企業も、斬新な意見は出てこないでしょう。
イノベーションを生み出すには、お互いが思いついたことをそのまま口にできる環境を作ることが必要です。
イノベーションが生まれる企業には「失敗してもどんどんやろう」という社風があります。
古い体質の企業では、1度の失敗が将来に響くケースが多々あります。失敗を恐れる社員ばかりなら、新しいことに挑戦しようという雰囲気が育ちません。失敗を受け入れられない職場では、イノベーションは期待できないでしょう。
企業が守りに入りすぎると、イノベーションは生まれません。トップはある程度のリスクを取って積極的に展開していくことが必要です。
ただし、リスクを取ることと無謀な経営は同じではありません。トップは現状分析を適切に行い、行動のタイミングや方法を慎重に選択する必要があります。
また市場の変化を適切にとらえるなら、決断が早いことも必須です。昔ながらの合議制で意見調整を行っていると、市場の好機を逃してしまいます。トップダウンでスピーディーに動ける企業の方が、変化の波にも対応しやすいはずです。
イノベーションに成功した企業は、その後のビジネスモデルの常識に大きな影響を与えています。イノベーションの成功例として、AppleとGoogleを紹介します。
革新的な製品をさまざま生み出し続けてきたApple。「デジタルハブ」構想を軸に経営を展開し、企業を大きく発展させました。
デジタルハブ構想とは、デジタルデバイスやビデオ・カメラ・ミュージックプレーヤーなどを全てMacにつなぎ、管理しようという戦略です。現在では当たり前の経営モデルも、2000年代初頭にAppleが行うまでは見られませんでした。
デジタルハブを提唱・実践した「スティーブ・ジョブズ」は、次々と斬新なアイデアを提案し、Appleファンを増やしていきます。他社と差別化する徹底的なブランディング戦略も当時としては革新的なもので、イノベーションの成功企業として広く認知されています。
「ググる」という語源にもなっているのがGoogleです。Googleのイノベーションにより、インターネットの利便性がより一層向上したといわれます。
Googleが世界に大きなインパクトを与えたのは、Google検索です。Google検索が登場する以前の検索は質が低く、ユーザーは必要な情報にたどり着くのが困難でした。
しかしGoogle検索ではWebクローラがWebサイトをクロールし、最適なサイトを見つけてくれます。ユーザーは上位記事をチェックすれば、有益な情報にたどり着けるようになりました。
Google検索はインターネットの普及とともに知名度を上げ、関連サービスを次々と提供。人々の価値観や生活スタイルにも大きな影響を与えています。
世界トップクラスのモビリティカンパニー・トヨタ自動車。日本の自動車産業の中心に君臨し、産業界を牽引しています。
トヨタ自動車のイノベーションのうち、製造業に大きな変革を与えたのが「カンバン」とよばれる生産管理方法です。各工程を見える化する生産管理方法は、リードタイムの短縮・生産効率向上を実現できるとして、世界の製造業で導入されました。
またトヨタ自動車は、オープンイノベーションを率先して取り入れている点も見逃せません。2022年3月時点では、「知能化技術」「ロボティクス」、「人工知能」「データ」「クラウド技術」等の各分野のベンチャーに投資を行い、新たな価値と市場の創出を後押ししました。
2013年の創業から、あっという間に業界最大手に上り詰めたのがメルカリです。「売りたい人と買いたい人をつなぐマッチングプラットフォーム」という革新的なアイデアを実現し、フリマアプリという新しい概念を生み出しました。
「プラットフォーム利用料で収益化」「アプリで売り手と買い手をつなぐ」「スマホで完結する」…、これらはいずれも従来のリサイクル業界になかったものです。メルカリのイノベーションは業界全体に多大な影響を与え、類似のサービスが多数後発しました。
イノベーションとは、全く新しい技術やアイデア・サービスによって、社会やビジネスモデルに大きな変革を与えることです。
イノベーションの創出により新しい価値や需要が生まれ、企業や社会がより発展していくと考えられます。
日本は経済の停滞が長く続いており、国を挙げてイノベーションの創出のための手段を講じているところです。
企業それぞれが新しいイノベーションを生み出そうと努めることが、日本産業界全体の活性化・市場における日本企業の存在感強化につながります。
画像出典元:o-dan