起業家の悩みで尽きないのが、資金調達の問題。仮想通貨が普及していくことで、ICOをしてトークンセールスをやってみようと考えている起業家も多いはず。
この記事では資金調達の方法としてIPOをするかICOをするか迷う起業家のために、クアラルンプールのデザインストラテジストPeyton Ong (ペイトン・オン)氏がまとめた、考えておくべき5点を掲載します。
プロフィール
Peyton Ong (ペイトン・オン)
ICO(新規仮想通貨公開) は、スタートアップ側が「トークン」という仮想通貨を初めて発行し販売、トークンセールスをすることです。
一方でIPOは、新規株式公開のことで、証券取引所に上場して、会社の発行した株式を投資家が売買できるようにします。
ICOもIPOも実態のない資産を扱うという点で同じように見えますが、目的と資金繰りに大きな違いがあります。
成功するICOは、会社のビジネスにトークンを使用するという前提で実行されます。会社のトップは経営権の一部(株式)を手放す必要がないまま、投資をしてもらえます。投資家はトークンを使って、会社が始めるサービスやプロダクトを購入したり、他のものと交換もできます。
一方でIPOをするにあたっては、企業経営権の一部を手放す必要があります。よってIPOは基本的にベンチャーがある程度成長し、自社サービス/プロダクトが企業の成長を後押ししていく将来の見えるときに行われます。
IPOをする場合、ベンチャーのトップは部下たちに、資本収益を確保する戦略決定を任せます。
一方でICOの場合、トップは重大な決定を最初から下さなければなりません。
例えば、どんなタイプのトークンを発行し、どういったスケジュールで進めるのかなど、様々な決定が求められます。これらはその後の経営に多大な影響を及ぼすような、決断にプレッシャーのかかる問題です。
昨今のトークンセールス関連詐欺に警鐘が鳴らされているので、買い手はどんどんリスクに敏感になっています。
よってスタートアップは、トークンセールスを始める際にとても丁重な準備を求められます。この準備には、ホワイトペーパーを書く事以外にも、コミュニティー作りの活動も含まれるのです。
全ては、買い手の信用を得て自分たちのプロジェクトに価値を植え付ける為なのですが、それができなかった場合、投資家たちは元の投資先を切り捨て、他の企業に投資をします。結果、元の投資先企業のトークンは暴落することになるのです。
もしICOをすると決定したのなら、発行するトークンに他の暗号通貨との交換柔軟性を持たせるべきであり、IPOの場合は、どの株式市場に顧客や投資家が多いか見極めねばなりません。
意思決定においてコストは重要な鍵になります。
ICOにもIPOにもお金はかかるが、ICOのコストはIPOほどしっかり決まっていません。
IPOには決められたプロセスがあるため、コストも決まっています。PricewaterhouseCoopersによると、IPOには平均して720万米ドルが必要になります。
一方でICOにはまだ決められたプロセスがありません。
ただ、コストがどのフェーズでかさむか大まかに見積もる事はできます。
例えば、
などは、ICOプロセスにおいて最もコストのかかるものの例に挙げられます。
最適なトークンの値段と、効果的なトークンセールのやり方を決められるかどうかが、ICO成功への分かれ道です。
IPOもトークンセールスも一長一短です。
IPOは従来から法が整備されているのでトークンセールスと比べて安全です。安全かつ安定の道だが、長期間の締め切りに追われるプロセスと引受業務が必要になります。
一方トークンセールスは多額の資金がオンライン上でやり取りされるため、サイバー犯罪に対する脆弱性が指摘されています。未だに枠組みも曖昧な点が多くリスキーであるため、法の整備が急がれているのです。
しかし、プロセスの明確化は進められているし、ブロックチェーン業界を率いるリーダーたちがより良い方法を確立し始めています。また、安全性を高めるためにTruStoryやMetaCertなどの企業のサービスが、サイバー犯罪に強いシステムを構築しています。
スタートアップのCEOは、IPOやICOをするまでにどれだけ時間が必要か、必ず考えるべきです。
IPOとICOは似ているが、会社のトップがコミットする時間に違いが出てきています。
IPOは計画から実行、そして安定させるまで大体1~2年かかるが、ICOは大体6か月から1年ほどです。
ICOやIPOでファンディング計画を立てるのは、長い目で見ると不安の種になりかねないので慎重に進めなければいけません。
スタートアップは成長するにあたり、リスク回避型を取り、投資家の収益率を確保していかなければなりません。投資家との信頼関係を保つためにも、透明性確保は欠かせません。
それでも、小さな失敗などが起こると企業価値は下がります。ヒビの入った会社の評判が、懐疑や批判を呼び込むことになり、次のファンディングラウンドに備える時の障害になるので、注意が必要です。
市場のコンディションは変動します。スタートアップはICOかIPOを決めて実行に移す前に、上場に最適な仮想通貨取引所/株式市場を選ばなければなりません。
トークンセールスにもIPOにもそれぞれ長所短所があるので、スタートアップはどの方法を使えば会社の帆にうまく風を当て軌道に乗っていけるか、考えていくべきです。
【原文】Jumpstart Magazine Issue 23 pp. 22-23(翻訳:篠田 侑李)
画像出典元:unsplash
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