TOP > Jumpstart > 【起業ログ×Jumpstart共同連載】第4弾:ポストコロナ時代における、ソーシャルセクターの存続性 ーDavid Bishop
アジアのスタートアップ企業についての情報を日々発信している香港発のJumpstartと起業ログが、定期的に共同でアジアのスタートアップ情報を発信していくこの企画。
第四弾となる今回のテーマは、現在注目度が高まっているソーシャルセクター(注:利益追求ではなく社会課題解決を目的とした組織)。
ゼブラ企業と言われるような、営利を追求するユニコーン企業への反発から生まれた企業も注目されつつあり、最近盛り上がりを見せている。
しかし、ソーシャルセクターは資金不足に悩まされることも多く、さらにコロナが追い討ちをかけている。
そんな資金面でまだまだ課題が残るソーシャルセクターのあり方に、数々の社会的企業やNGOの創設者、共同創設者、アドバイザーを務めるDavid Bishopが新たなモデルを提案する。
プロフィール
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今年3月、Foundation for Shared Impact(FSI)は、「The Social Sector Needs a Lifeline: How Everyone Can Help(ソーシャルセクターが助けを必要としている中で、私たちに出来ること)」と題した記事をJumpstart 誌に掲載した。
私たちのこの記事内での提案には、共感し支持する声が寄せられた。しかしこうした声の中で、ソーシャルセクターに資金を提供する財団の代表者たちから、ある意見が繰り返し提言されていることにも気が付いた。
「悲しいことだが、新型コロナウイルスの影響で、香港に集まる組織のうち非効率で社会的影響力のないものは排除されていくだろう」
この反応には驚かされたが、私たちが真剣に考えるきっかけにもなった。
ソーシャルインパクト(注:利益ではなく社会貢献度の高さを追求すること)の分野に資金を提供している組織そのものがソーシャルセクターに資金提供する意義に懐疑的な意見を持っており、組織を解散させたがっているとしたら、ソーシャルセクターはどのようにすれば自社を差別化し、長期的に影響力を維持することができるのか?
その答えは、「シェアード・インパクト・モデル」だ。
ソーシャルセクターが活動資金集めをゼロサムゲーム(注:一方が得をすれば他方が必ず損をするゲーム)とみなせば、協力と資源配分の改善のみを望んでいる資金提供者は不満を抱いてしまう。
協力とは、組織が自分たちの得意な分野に集中しながら、他者に彼らが得意とする分野を任せることだ。さらに言うと、情報、リソース、知識を共有することで組織の目標と運営の方向性が一致し、リソースを最大限に活用しながら重複や無駄を最小限に抑えることでもある。成功体験と失敗体験の両方の情報を公開すれば、他者がそれらから学ぶことも可能になる。
情報公開の例として、途上国開発を行う非営利団体Evidence Actionが、季節ごとの移住補助金プログラム「No Lean Season」(注:作物の収穫量が減る時期に収入源を確保するための移住を助けるプログラム)の出来事が挙げられる。同組織は2019年6月6日のブログ記事で、ランダム化比較試験(注:無作為に試験対象を選ぶ実験方法)に基づく不十分な成果の判明と、地元の請負業者の1人が財務上の不適切な行為で告発されたことを認め、プログラムの中止決定を表明した。
多くの国際的なメディアは、このような組織の失敗体験を「大事件」としたり他の非営利団体のモデルとして報道してしまうので、残念ながら組織が失敗を公に認めた例は少ない。実際には、ソーシャルセクターの多くは、Evidence Actionのように自分たちのプログラムがうまくいっていないことを知られるのを恐れ、その影響力を客観的に測定しようとはしない。
しかし、Evidence Actionのチームが述べているように、組織にとって不可欠なのは「パートナーやより広範な開発コミュニティ間での積極的な学び合いに貢献し (...)最終的には私たち全員が奉仕しようとしている貧困下におかれた何億人もの人々のために、より良い結果を導き出すこと」である。
最大のソーシャルセクターであっても、商業的な基準では非常に小規模な企業であり、しばしば運営費の負担が課題となる。
この問題に対応するため、当社ではソーシャルセクターの組織情報を、特定分野の専門家と共有している。
当社の「コミュニティ・コネクション・プログラム」を通じて、ソーシャルセクターは会計、法律、デザイン、プログラミング、写真撮影などの企業専門家の幅広いネットワークから利益を得られる。
資金提供者に資金を預けてもらいたければ、自分たちにはそれに見合うだけの価値があると証明する必要がある。
これは、ソーシャルセクターが社会的影響力だけに集中しながら、ビジネス界のような効率性を身に付け、説明責任義務を果たすということだ。
今のところ、社会的影響力を測定する強固なシステムを持つソーシャルセクターはほぼなく、大抵の組織は技術を活用して日常のワークフローを合理化し、データ収集を自動化することで、大きなメリットを得られている。
例えば、多くの組織では顧客の取り込みに多大な時間を費やし、対面で面談を行い、紙に情報を記録しているため、関連する顧客データを検索・集計・共有することができない。
一方で、デジタルインテークシステムを追加する(例:チャットボットやその他の自動化されたプロセスを導入する)ことで、組織は全体像をつかむためにデータを集約できる。
その結果、組織的な規模で問題を食い止めたり、傾向を分析したり、最適なアクションを行うことに集中できるようになる。
「発想の転換」とは、単に助成金申請の方法を変更するといった部分的な捉え方ではなく、「全体像を捉える」ということを意味する。
多くの組織は、次のような基本的な問いかけもせず、目標達成のために尽力する。
そうでないのなら、対処法を考え直した方が良いかもしれない。
私たちは、全てのソーシャルセクターがこの厳しい時代に成功できることを願うが、実際には、他の組織よりも秀でた組織が存在するものだ。
新型コロナは、私たち全員に資金的、組織的に上手くいっていないソーシャルセクターの一部を統合し、組み合わせ、そして修正することに徹する機会を与えてくれた。
シェアード・インパクト・モデルを通して、組織は他の組織を単なる競争相手としてみなすことをやめ、お互いを応援し合う傾向を一層強めていくだろう。
なぜなら、一組織の成功は全体の成功を意味するからだ。
プロフィール
David Bishop
出典:JumpStart(https://www.jumpstartmag.com/jumpstart-magazine-issue-30-the-lockdown-issue/)
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