観光業界が安定した成長を見せる中、「トラベルテック (TRAVELTECH)」という、旅行・観光産業に特化した旅行ITベンチャーが次々と誕生しています。
この記事ではトラベルテックの競争が激化する、アジアの現状を詳しく見ていきます。
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2015年、世界観光業収益は1.27兆ドルで、その世界経済への貢献は8.27兆ドルに上りました。
観光業界はほぼ毎年安定した成長を見せていて、国際観光客は2005年から2015年にかけて5.28億人から11.9億人に増え、2030年までには18億人を超えると予測されています。
そして世界海外旅行消費額の約4割はアジア・環太平洋エリアからきており、その額は2016年度に4730億ドルに上りました(日帰り旅行者と宿泊客の合計額)。
旅客数は同エリアが全世界の約39%を占めており、2000年からは20パーセントも上昇しています。同エリア内で旅行消費額が一番高いのは北東アジアで、全体の74%を占めています。
観光業界では、中国がマーケットをどんどん牽引する存在になっています。
中国観光業の消費額は、2007年から毎年二桁台の伸びを見せ、アジア環太平洋地域、米国、そしてヨーロッパの複数の国における観光客の増加に寄与しています。中国はアジアのアウトバウンド消費額の55%を占めており、世界の観光産業収入においては21%も占めています。
そして中国人観光客の旅行中の消費額は2016年に12%も増加しました。
中国人は今や世界最大の旅行好きであり、2016年には1.35億回海外へ旅立っており、彼らの殆どは北東・東南アジアに向かいました。
中国のほかには、韓国とインドが、2016年にそれぞれ2,200万回の出発回数を記録しており、次に日本(1,700万回)、台湾(1,500万回)と続いています。
消費額で中国に次ぐのは韓国で、2016年には270米億ドルの旅行消費額を記録しました。オーストラリアはそれに次ぐ3位で、250米億ドルです。
住宅宿泊事業法によりAirbnbが日本での収益を落としているようですが、最近Grabはトヨタと10億ドルの投資契約を結び、企業価値が100億ドルとなりました。そしてGrabは確実に、その巨額を特にアジアに使おうとしています。
Grabはシンガポールに拠点を置く交通サービス系ベンチャー。Uberと同様のライドシェアサービスを提供している。2012年にマレーシアでサービスを開始し、東南アジアで急成長している。
しかし、Grabが約16億ドルの契約でUberの南アジア事業を買収したことを忘れてはなりません。複数のメディアによると、この契約には多くの問題があり、会社の首を絞めているといいます。
5月末にアリババが所有するSouth China Morning Postが以下のように報じました。
3月末に行われた、GrabによるUberの南アジア事業の買収は、Grabの競争相手を市場から強制排除することでGrabを地域トップの座に導いた。しかしそのすぐ後の5月には、インドネシアのスタートアップGo-Jekが5億米ドルを投資して、ベトナム、タイ、シンガポール、そしてフィリピンで交通サービス展開を始めると発表した。東南アジアで思いのままに事業展開できるように見えたGrabは、新たな競争相手や独占禁止法に今悩まされている。
トラベルテック業界は急速に成長しています。
旅行者に割引価格を提供するだけでなく、旅行プラン立てや、お金の振り替え、そして旅行自体をVRやARの技術を使って豊かにするというサービスも提供しています。
この業界に参入し始めているのはフィンテック企業だけではありません。様々なクロスオーバーが起きており、旅行業界は消費者、特にミレニアル世代の需要に応えるために急速に変化しています。
所得の向上により、アジアのミレニアル世代の海外旅行消費額は、2020年までに3,400億ドルに上ると、シンガポール観光局は予測しています。
World Travel and Tourism Council (WTTC)は2016から2026の間に、レジャー旅行の目的地として急速な伸びを見せるのはインド、アンゴラ、ウガンダ、ブルネイ、タイ、中国、ミャンマー、オマーン、モザンビーク、そしてベトナムだと予想しています。
この予想がどうなるかはまだわかりません。アジアの旅行ベンチャーはどれもパワフルです。市場はすぐそこにあり、投資家も興味を持っていて、消費者もそのテクノロジーやサービスの恩恵をすぐ受けられる状況です。
スタートレックに描かれたようなテレポーテーションはまだ不可能ですが、そのうちトラベルテックベンチャーの一つや二つがやってくれるかもしれません。
最後に、トラベルテックベンチャーに活発に投資しているVCを以下にまとめました。
500 Startupsはトラベルテック領域で最もアクティブな投資家で、2013年からポートフォリオに16のスタートアップを入れている。
投資先は米国から東南アジア、ヨーロッパにまで及び、宿泊施設予約サービスを展開する企業(デンバーに拠点を置くSilvernestやフランスのMisterb&bなど)を重点的に支援している。
500 Startupsは自称 「車のAir b&b」サービスを展開する、タイのDrivemateを2017年にポートフォリオに加え、タイのバケーションレンタル企業FavStayへの投資に次いで2回目のタイ企業への投資をした。
他に東南アジアのトラベルテック企業でポートフォリオに入っているのは、シンガポールのMetroResidencesとRedDoorz、そしてインドのTripotoとMalaysiaのCatch That Busだ。
Global Founders Capitalはロケットインターネット社のVCだ。
2013から2017の間に、インドネシアのユニコーン企業Travelokaを含む10のトラベルテック関係企業に投資した。
このVCのポートフォリオに入る会社の多くは、ヨーロッパと米国に拠点を置いている。例えば、TravelBirdという、オンラインブッキングサービスや、トラベルラゲージを売るAwayという会社などだ。直近の投資は、アメリカに拠点を置くホームレンタル会社Stayawhileというシード期の会社にされた。
中国のGobi Partnersは2013年から8つのスタートアップに投資しており、投資先はアジアに集中している。(3つが中国、2つがインドネシア、そしてシンガポールとマレーシア)同VCのアジア外の唯一の投資先は米国に拠点を置くWayBlazerで、AIを駆使した旅行オススメサイトだ。
これら3つのVCはそれぞれ7つのスタートアップに投資している。
Plug and Playは米国中心で投資しており、AIを使った価格予想サービスを提供するFLYRや、旅行計画サービスのスタートアップUtripなどに投資している。
Caixa Capital Riscはスペインに拠点を置くシード期のスタートアップ投資にフォーカスしたVCで、直近は旅行セールスシステムのTravelCompositorへ投資した。
Accel Partnersは2017年度、新たな投資をトラベルテック領域にしなかったが、そのポートフォリオにはフランスのユニコーン企業であるBlaBlaCarや、ホテル予約サイトを運営するHotelTonightなど、有名なトラベルテック企業が沢山入っている。
※当記事で使用したデータ出典元:CB Insights (Oct 2017)、UNWTO/GTERC Asia Tourism Trends Report (2017)
【原文】Jumpstart Magazine Issue 22, pp.24-25(翻訳:篠田 侑李)
画像出典元:unsplash
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