【起業ログ×Jumpstart共同連載】第1弾:インドネシア初巨大ユニコーンCEOが語る「国を、電子化する。」

【起業ログ×Jumpstart共同連載】第1弾:インドネシア初巨大ユニコーンCEOが語る「国を、電子化する。」

記事更新日: 2024/03/28

執筆: 編集部

アジアのスタートアップについての情報を日々発信している香港発のJumpstartと起業ログが共同でアジアのスタートアップ情報を定期的に発信していくこの企画。

記念すべき第一弾は、インドネシア初の巨大ユニコーン企業「ゴジェック(GOJEK)」の設立者、ナディム・マカリム。2010年に創業し、ライドシェア事業、フードデリバリー、買い物代行やデジタル決済サービスなど人々の生活に関わる様々なサービスを提供し、インドネシアだけでなく東南アジアへ進出している。

6年で巨大ユニコーンに成長したゴジェックが社会に与えるインパクト、そして設立者のナディム・マカリムが貫いてきた価値観、そして未来の起業家へのアドバイスについて語った。

Jumpstart

香港で2014年にスタートし、アジア地域のスタートアップに関する情報をフリーペーパーやwebサイトで発信。現在では、起業家や投資家を繋げ、世の中にプラスな影響をもたらすイノベーティブなプロジェクトを共同するためのプラットフォームを提供している。

6 年で時価総額5,000億円 インドネシア初のデジタルユニコーン「ゴジェック(GOJEK)」。設立者ナディム・マカリムがインドネシアにもたらす社会と経済へのデジタル化のインパクトについて語った。

それは一夏の パイロットプログラムから始まった

「機械は徐々に人間の労働に取って代わり、既存の仕事を無価値にし、無職者を生み出す─ 」

テクノロジーの負の側面を語るこの警句はよく知られている。

しかし、この考え方は、テクノロジーを活用することで、反対に成長の機会を創り出す事実を見落とした見方ともいえる。たとえば、さまざまな人たちがインターネットにつながることによって国全体の成長スピードをも加速させたインドネシアのアプリプラットフォマー、「GOJEK(ゴジェック)」が好例だ。

2010年にナディム・マカリム(Nadiem Makarim)によって設立されたゴジェックは、「オジェック」と呼ばれるインドネシアのバイク・タクシーのライドシェアプラットフォームを立ち上げ、最初の6年で、インドネシア初の大ユニコーン企業となった。

マカリムがハーバードビジネススクール時代のひと夏に始めたこのパイロットプロジェクトは、瞬く間に時価総額 50 億米ドル(約 5,000 億円)の企業に成長し、100 万人のドライバー登録者数と、ひと月当たり 1 億回の利用者を創出した。

世界銀行はゴジェックについてこう表現している。

「ASEAN 経済の36.5%のGDPを占める東南アジア最大のインドネシアマーケットは、投資家にとって間違いなく最重要市場である。その最重要市場おいて比類なき利用者数と市場シェアを持つゴジェックの圧倒的な成功は、注目せざるを得ない」

さらに2018年初頭にゴジェックは、「グーグル(Google)」や中国を代表するSNSプラットフォマー「テンセント (Tencent)」、フードデリバリーサービス「美団天評(Meituan Dianping)」、中国最大級の直販EC サイト「ジンドン(JD. com)」、米国の世界最大の資産運用会社「ブラック・ロック(BlackRock)」、シンガポールの政府系投資会社「テマセル・ホールディングス(Temasel Holdings)など、世界中の名だたる IT巨人から瞬く間に 1.5 億ドルを超える投資を集めている。

このゴジェックの驚異の成長物語は、マカリムが起業時に掲げた1つのミッションに始まる。彼が掲げたミッションは「テクノロジーで日常的な課題を解決し、社会に明確なインパクトを与える」である。

世間からは「コミュニティ交流効率化による開発モデル」と定義された、この1地方の起業家の物語は、そのミッションの遂行策として「地域の日常的な問題を解決するデジタルツールへのアクセスと、コミュニケーションの効率性を改善するプラットフォーム構築」に見出したことに始まる。

インドネシアのような発展途上国において、日常的な問題は、デジタルツールへの基本的なアクセスができないことがしばしば挙げられる。

デジタル化が人々にどれほど深いインパクトを与えるかについては、強調しすぎることはない。たとえばデジタル時代におけるテクノロジーとインクルーシブ開発 を支援するイギリスの「新たな道委員会(Pathways Commision) 」は、「デジタル報告書(digital report)」において「デジタル技術から排除されるということは、そのアクセスと利用をユーザーが恣意的に選んだから起こることではない。よってデジタル技術からの排除は一方的に社会格差を反映し、拡大することにつながりかねない」と主張し、こう提案する。

「その地域の人々の誰もが生活に利益をもたらす有意義で豊富なサービスにアクセスできる、デジタルなエコシステムを構築すべき」だと。

インドネシアの失業率はここ10年で着実に減少した。2008年では8.5%だった数字が、2018年には5.1%まで下がった。この低下に、インドネシア経済誌『Trade Economics』は「ゴジェックなどのシェアリングエコノミーのプラットフォームは大きな影響を与えた」と分析している。ゴジェックは首都ジャカルタをはじめ、その他の都市の失業や不完全就業を減らすことで、都市の労働の流動化を進め、活力を生み出した

 僕らのオジェックは人を運ぶ以上の価値があった

ゴジェックは現在、輸送から、食品の配達 、日用品 、マッサージ、住宅の清掃、流通、電子給与支払いやロイヤリティなど19のサービスを展開している。写真提供:ゴジェック

マカリムは、当初ゴジェックの社会的使命を「会社の躍動」、「事業の自然な帰結」としていたが、これにこだわり続けたことで、さまざまな困難や軋轢に遭ってきた。 初期のまさに会社が急拡大していたときは、ライドシェアサービスに専念するように圧力をかけられたりもした。

僕らにはもっと大きな夢があった。僕らは “オジェック”が、単に人々をA地点からB地点に運ぶ以上の価値があることがわかっていた。僕らはパパママショップと言われる零細商店がもっと大きな利益を上げられるはずなのに、消費者との接点が限られているために、それができていないことを見てきた。だから僕らはその潜在能力を最大化するため、必要なアクセスを最大限提供することにしたのだ」とマカリムは振り返る。

実際、マカリムの意図に沿う形でゴジェックは、ロジスティクスからライフスタイルにまたがる商品ラインナップを19まで増やしている。さらにデジタル決済システムプラットフォームやポイント還元プログラムなど、事業を急拡大している。これらはいずれも最初のライドシェア事業の成功で得られた顧客数をベースに拡大させていったものだ。

たとえばゴジェックのライフスタイルサービスであるGO-LIFE は、オンデマンドマッサージ、在宅スタイリストサービス、 自動車に関わるソリューション、プロによるホームクリーニングなど幅広いサービスを提供しているが、それだけでなく、そのサービス提供者の多くが、仕事がなくて困っていた地元の事業者たちなのだ

全てのサービスに、莫大な成長の余地がある。 その成長の余地とはつまり、僕らが市場を効率化できるということだ。僕らはゴジェックがどれだけ大きくなれるか想像できないのだ。

銀行口座が作れない人に金融サービスを提供


 GO-PAYはゴジェックの電子給与支払いサービス。銀行口座を持たない大多数のインドネシア市民にとっては初めての振り込み口座となっている。

ゴジェックがユーザーをデジタル経済圏に取り込むもう1つの挑戦が「GO-PAY」という電子決済サービスである。これは e-ウォレット(電子財布)として使うことができ、携帯電話のモバイルアカウントで支払いができる。GO-PAYはインドネシア人にとって定番のサービスで、20万人の事業者がGO-PAYでの支払いを活用して いる。ユーザーはGO-PAYで、一杯のコーヒーから食料品雑貨に到るまであらゆる商品を実店舗またはオンライン店舗で購入でき、さらには屋台での支払いや非営利団体への寄付ですらGO-PAYのQRコードを読み込むことで利用することができるのだ。

世界銀行はGO-PAYについて「金融機関に対する信用が低く、クレジットカードの普及率が3%を切るインドネシアで、オンライン決済機能を広げる意義は大きい」と評価している。「ユーザーにとってこのアプリを不可欠なものにするだけでなく、より重要なことは銀行口座がなかったり、作ることができなかった人々に、以前彼らが阻害されていた金融サービスへのアクセスを提供したからだ」

マカリムはGO-PAYの普及の速さの要因についてはこんな風に語っている。

「ポイントを挙げるとするなら、それは伝統的な金融機関の地位を脅かさないことだ。代わりに、僕らはこれらの機関と協力関係を築き、インドネシアの全域で、あらゆる人が金融サービスを受けられるようにするという共通の目標を設定したんだ。2018年11月時点で、GO-PAYは、この目標の実現に向け、インドネシアの27の金融機関と提携している」

ゴジェックの成功のもう1つの鍵を挙げるとすると、その綿密な市場調査にあるだろう。いつ、どんなサービスを出せばユーザーに刺さるのかーーゴジェックは市場を的確に捉えている。

マカリムはビジネス展開の基本を「まず現場の声を聞き、需要と供給の両面を深く理解する方法を見つけることが重要だ」と信じている。

「消費者が市場に求めていることはまだまだ少ない。いま市場に提供しているサービス間の連携はとても大きな成長の余地があるし、僕らが市場のなかで効率化できる領域もまだたくさんある。僕らがやってることはまだ市場の上辺だけを掬っているだけだ。ゴジェックがどれくらい大きくなるかなんて誰も想像もつかないよ」と続けた。

市場参入のタイミングとリスクテイクの大きさ、市場の広がりなど、ゴジェック独自の綿密なマーケティングは、その成長戦略にも反映されている。

たとえば、ゴジェックは去年初めて外国に進出した。これは、同規模の典型的なベンチャー企業のスピード感からすれば極めて遅い。

「国境を跨いだ事業展開は、ゴジェックにとっての大きな決断だった。僕らは国外市場に闇雲に入るのではなく、まずはその国でゴジェックと同じ志と意欲を持った仲間を見つけることを優先していった」とマカリム。

それぞれの地域特性に対応すべく、ゴジェックは進出先の現地を最重視する「ハイパーローカル拡大戦略」を採った。

これは各国のチームに事業に対する広い裁量権を与え、ジャカルタの本社機能チームが、テクノロジーとビジネス開発面でこれを全面的にバックアップする戦略体制 だ。ゴジェックは現地チームのポテンシャルを強化する役割に徹している。 

ゴーベトは地元の創立チームによって運営されており、ジャカルタのゴジェックチームによってサポートされている。(写真提供:ゴジェック)

マカリムはこのハイパーなローカル戦略について「『現地の課題を解決する』というゴジェックのミッションを体現しようとする意欲の高い、創造性あふれる現地社員が、自ら意志決定することに意義がある」とする。「彼らの「地元への並ならぬ関心」 に基づいて意思決定されること、それがゴジェックの外国進出を支えている」という。

ゴジェックのビジネスモデルが、インドネシア中の人々に活力を与えることに効果的だったことは、すでに証明されている。

「僕らは、東南アジアの隣国でも、彼らの日常的なトラブルを解決するという僕らのやり方で似たような効果があげられないかと考えている」(マカリム)

とは言え東南アジアのアプリ市場は、シンガポールに拠点のあるGrabを始め、かなり競争的だ。だがマカリムは、競争が「健康的で価値あるもの」と捉えている。それはゴジェックの強みである、「顧客を最優先し、有能かつ協力しあいながらリスクを最小化していく文化」を共有するエンジニアチームを、さらなる上のステージに引き揚げることにほかならないからだ。

「僕らは情熱的で精力的であり、ミッションをしっかり共有している。だから競合他社からの騒音に揺さぶられることはない」と彼は付け加えた。

貧しい人たちが利用できないほどの高価なインターネットの利用料金設計は近視眼的すぎて、持続可能な収益を達成することができない。

現地の情熱を見極め、確実に外国進出を図る

ソエリスティヨ・アンドレ(左端)とマカリム(右端)は2019年9月12日、ハノイでゴーベト(Go-Viet)をスタートさせた。

マカリムにとって、2018年はベトナム・ハノイでの「GO-VIET」の立ち上げ、「ゴジェック Wirausaha」(バハサ=インドネシア語での起業家育成)といったパイロットプロジェクト、DBS Bank のような大手企業とパートナーシップを結んでのシンガポールへの進出準備など、重要な節目を迎えた年だった。

「僕たちの一歩一歩が、本当に記憶に残る、価値あるものだ。僕らは、これを実現した仲間を誇りに思う。だからこそ最初の想いを再度思い起こして謙虚になることが必要だと思う。僕らはさらに学習と改善を続けて成長していくことを約束する」とマカリム。

今年ゴジェックは、インドネシア国内でのサービスの拡大を含め、東南アジアの中産階級という広大な未開拓領域で拡大し続けるだろう。

ゴジェックは常にドライバー、加盟店、およびユーザー向けたサービスの最適化を目標としている。当たり前のことだ。だがこれほど急速に拡大し、巨大なアプリのビジネスモデルとなった前例はインドネシアにはない。

ゴジェックは過去に市場を混乱させたことでオジェックなどの既存ドライバーから猛反発を受けたことがある。これはGrabやUberのような同様のシェアリングエコ ノミー型プラットフォーマーたちが踏んできた根深い課題だ。マカリムは「製品やサービスに完璧はない」とその批判に応える。だからこそゴジェックは「ドライバーの懸念を最もよく理解し、対処する」(マカリム) ためにドライバーの関与を強化している。

ゴジェックには投資部門の「GO-VEN-TURES」もあり、東南アジアまたはそれ以外の地域でイノベーションを奨励・支援している。起業家スピリッツ溢れる人々へのゴジェックの支援は、長きにわたって育んできたゴジェック文化に根ざしたものだ。

参加する起業家は、起業家としてのスキルを学び、ビジネスの各段階に応じた支援が受けられる。たとえば、食品販売業者が配達サービスを利用してより多くの顧客を獲得することや、無認可の美容師への資格取得支援などだ。

マカリムは、「“資金調達額” ではなく “集めた資金の品質を大切にする”ことが重要である」という。そのためにゴジェックが参入しようとする分野の世界的リーダーを株主に選び、彼らと戦略的互恵関係を結んでいる。

2018年10月、テクノロジーとインクルーシブ開発に関する「繁栄への新しい道委員会(Pathway for Prosperity Com-mission)」の共同議長でもある、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のメリンダ・ゲイツは、インドネシアで「ゴジェックに登録するドライバーとGO-LIFEに登録する労働者の存在は、デジタルツールが人々とインターネットにつながることでいかに成長をもたらし、より安定した仕事と収入を得られるようにしたかの、まさに好例である」と評した。この発言を受けた同委員会のコミッショナーでもあるマカリムは、「“ビジネスと社会は不可分に絡み合っている” ので、企業は実力をつけ、できる限り将来の世代により良い未来を築く責任を負うべきだと考えている」と応えた。

それでも彼は企業だけが未来を担うべきではなく、公共部門と企業が手を携えて、 すべての市場で活気に満ちたデジタル・エコシステムを開発する必要があると認めている。

「政策や規制は現実に追いつかなければならない。市民社会や産業界の専門家と共に、企業も政府との継続的な話し合いを通じ、政策決定に必要な情報を提供して重要な役割を果たすべきだ。こういった取り組みが、政策を妥当かつ最も弱い立場にある人々に配慮した実行的なものにしていく最良の方法だ」

「新たな道委員会(Pathways Com-mission)」の調査によると、デジタル設備への投資を回収するための価格設定は、社会で最も疎外された人々にとって高すぎる。これは、高い損益分岐点が、貧困層からインターネットへの包摂を制限し続けることを意味する。この問題に対してマカリムは、より多くの国が同じように取り組んでいくことで対処できると考え、それを自ら試みている。「貧しい人たちが利用できないほど高価なインターネットの利用料金設計は近視眼的すぎて、持続可能な収益に結びついていかない。慎重な計画と最適化、そして政府の効果的な関与があれば、最終的にみんながデジタルエコシステムに参加できるはずだ」

かつて誰もが「バイクタクシーを効率的に組織することは不可能だ」と考えていたなかで、「直観に反する」ビジネスモデルを追求したゴジェックの例は、破壊的な起業家精神がいかに不平等に対する解決策をもたらしうるかを示している。

デジタルインクルージョン(デジタル包摂)は、世界的が直面する社会的経済的課題の1つに過ぎない。重要なのは、スタートアップのリーダーが、イノベーションと人間開発の間の緊密な関係を認識し、この認識に基づいて、志を持った起業家を創り出すことにある。

ナディム・マカリムの起業家への3つのアドバイス

1

あまり人の話に耳を傾けるな

情報を得ることは重要だ。ただやりたいことの最善の方法を見つけるために、あまりにも多くの専門家を聞くのはよくない。本当にやりたいことに実際に取り掛かることで、より多くのことを学ぶ必要性がわかっていく。何かやりたいこと向かって動き出した時から、誰か専門家や詳しい人に聞いていったらいい。しかし、あなたが何もスタートしない場合、 あなたはいくら専門家に耳を傾けても得ることはない。

2

すべてを自分から質問する

ほとんどの人は、自分が何について話しているか本当にはわからないものだ。人の言うことを簡単に信じてはいけない。すべて自分で調査し、テストしてみる。 商売に起きる循環は唯一の法則だ。簡単にあきらめず、浮き沈みを乗り切り、それぞれの経験から学ぶのだ。

3

誰かになろうとするのはやめる

多くの若者は、他の人をマネしようとする。問題を解決しようとしていたことを忘れて、有名人になることを夢見てしまう。 そうではなく、自分が解決したい問題について執着し続けるほうが、成功する確率がはるかに高い。

 

出典:JumpStart(https://www.jumpstartmag.com/jumpstart-issue-24-new/

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