起業時に結ぶべき「創業株主間契約」とは?締結の4つのポイントを解説

起業時に結ぶべき「創業株主間契約」とは?締結の4つのポイントを解説

記事更新日: 2021/05/10

執筆: 石田学(寄稿)

起業家の方だけでなく、起業家の友人やお知り合いがいる方も、「起業家にとって創業株主間契約を締結することは重要だ」という話を一度は耳にしたことがあるかもしれません。

しかし、その重要性を正確に理解している方は多くないのではないでしょうか。創業者が喧嘩別れとなってしまった場合に、辞めていった創業者から株式を買い取るために多大な時間と労力が掛かってしまい、事業が停滞してしまった事例もあります。

そのため、事前に株式の取扱いについて合意しておくことが非常に重要になります。

そこで、今回は、創業株主間契約の締結の意義と重要性、実務上の留意点について解説します。

AZX総合法律事務所 パートナー弁護士 石田 学
寄稿者プロフィール

株式会社日本貿易保険(NEXI)に組織内弁護士第1号として入社。
NEXIから経済産業省に出向し、NEXIの組織法である貿易保険法改正に従事。
NEXI退社後、企業法務系法律事務所を経て、AZX総合法律事務所に参画。 創業初期からIPO直前までの幅広いステージの企業を主なクライアントとしており、スタートアップ側・VC側双方の立場からリーガルアドバイスを提供。

創業株主間契約とは?  

スタートアップでは、社長等の経営陣は勿論のこと、創業初期から携わっている従業員も株式を保有していることが多いです。

このように古参の経営陣や従業員が会社を離れる際に、残ったメンバーでその保有する株式を買い取れるようしておくことが重要となり、その株式の買取り等について定めた契約を指して、「創業株主間契約」または「創業メンバー株主間契約」といいます。

以下では、会社の株式を保有する経緯陣や従業員を「創業株主」と記載します。

なぜ締結する必要があるか?

会社設立時、または創業初期に、役員や従業員が一定数の株式を保有することはよくことでしょう。

会社によって事情は異なると思いますが、一定数の株式を保有して貰うことで経営にコミットして欲しいという思いから株式譲渡をすることもあれば、手元資金が手薄であるため、報酬または給与の代わりにインセンティブの一種として株式を低廉な価額または無償で譲渡することもあるでしょう。

株式は、金銭消費貸借とは異なり、「返済したら関係性が解消する」というようなものではなく一度株式を譲渡したら(株主になって貰ったら)、原則として、株主としての地位を強制的に奪うことはできません。そのため、株式譲渡または新株発行の段階で本当に株主になって貰うのが適当か慎重に検討する必要があります。

その上で一度株主になって貰った後でも、メンバー間の仲違いが生じ、役職員を辞めたりする可能性はあり、そのような場合には以下のような問題が生じます。

① 株主総会決議に必要な議決権を確保できず、新株発行等の重要事項の決議ができなくなる。

② 全株主の同意が必要となる株主総会の招集手続省略等ができず、会社法に基づく手続が迅速に遂行できなくなる。

③ 100%子会社化によるM&Aの弊害となる。

このような問題を回避するために、会社を離れる場合に株式を買い取れるように、予め創業株主間契約で合意しておくことが重要になります。

重要性は理解したけど、本当に必要?~事例を踏まえて~

「創業株主間契約の重要性や問題点は理解したけど、現時点でメンバー間の関係は良好だし、仮に将来会社を離れる場合でも話し合って決めればよいので契約を締結する必要はないんじゃないか」と思われる方もいるでしょう。

しかし、将来どのようなことが生じるか誰も予測することはできませんし、将来に亘って良好な関係性が継続するかも分かりません。

例えば以下のようなケースが考えられます。

事例1

友人であるAさんとBさんは、共同で会社を設立し、ベンチャーキャピタル(以下「VC」といいます。)からの出資も受けて、Aさん50%、Bさん40%、VC10%の持分となった。しかし、経営方針の違いでAさんとBさんが大喧嘩。結局、Bさんは会社をやめてしまった。Aさんが株式の買い取りを要求したところ、VC投資時と同額でないと売らないという。

事例1のケースでは、Bさんは1/3超の議決権を有しているため、新株発行、合併、会社分割等の組織再編に代表される、株主総会において2/3以上の議決権を保有する株主の承認が必要な重要事項について決議ができなくなる可能性があります。

また、Aさんが、Bさんの要求通り買い取ろうと思っても、VC投資時と同額の株価の場合、買取金額が高額になり、個人では準備することができないまたは困難な場合も少なくないでしょう。

事例2

会社は、新たに幹部候補の人材Cさんを採用し、社長は1%程度の株式を譲渡した。しかし、結局その幹部候補のCさんは、社長とケンカ別れをしたあげく、ライバル会社に移籍してしまった。今は何を連絡しても全く返事がない状態である。

事例2のケースでは、事例1と異なり、Cさんが反対しても株主総会において重要事項の決議が可能となりますが、100%買収を前提としたM&Aの場合には、Cさんが反対すれば、奏功しないことになります。

また、株主総会の招集手続の省略等の、株主全員の同意が必要となるアクションを取ることができず、結果的に迅速に株主総会決議に向けた手続を実行することができなくなる可能性や、株主であるCさんに招集通知を発送することで、ライバル会社に情報が漏洩してしまう可能性もあります。

このような事態が生じないないようにするためには、事前に創業株主間契約で合意しておく必要があります

仮に良好な関係性が継続しても、親の介護等の家庭の事情で会社を離れることはあり得ますので、そのような事態に備える意味でも、予め契約で定めておいた方が良いです。

創業株主間契約の4つの着眼点

AZX総合法律事務所では、創業株主間契約書の雛型を公開しているため、こちらも是非ご参照下さい(https://www.azx.co.jp/modules/docs/index.php?cat_id=35)。

この雛型は、社長が従業員株主との間で締結することを想定しているため、社長のみが株式の買取を請求できるような内容になっています。

そのため、持株比率や地位が同等な創業者間で締結する場合には、当事者全員が平等に買取りを請求できる形とする等、修正する必要があります。

創業株主間契約を締結するにあたって留意するべき主なポイントは以下です。

① いつ締結するか
② 誰が買い取れるようにするか
③ いつ買い取れるようにおくべきか
④ いくらで買い取れるようにおくべきか

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①いつ締結するか

前述のとおり、今はまだ誰も会社を離れる具体的な見込みはなくても、どのような出来事が引き金となり、関係性が悪化するか予測は付きません。

また、会社を離れる人にとって株式を手放すことを合意することにメリットはないので、関係性が悪化した段階での契約締結は非常に難しいです。

そのため、株式を譲渡した段階で、締結を検討すべきでしょう。

②誰が買い取れるようにするか

一般的に、

①社長のみ
②残る創業株主全員
③(上記①または②に加えて)上記①または②の指定する第三者

が買い取るようにすることが多いです。

会社がVC等から出資を受けた後は会社に資金が潤沢にあるから、会社が買い取ればよいのではないかと思われる方もいると思います。

しかし、会社法上、会社は「分配可能額」の範囲でしか自社の株式を買い取れないという規制があり、スタートアップにおいては「分配可能額」がない場合も多いので、会社では買い取れないと考えておいた方がよいでしょう。なお、この分配可能額に関する規制に違反した場合には刑事罰が科されるリスクがあります。

③いつ買い取れるようにおくべきか

時期にかかわらず、辞任、解任、退職、解雇等の理由を問わず、会社の役職員の地位を喪失した場合(当該喪失を以下「辞任等」といいます。)に買い取れるようにすることが多く、社長等の立場ではそのような形にすることがベストです。

しかし、契約締結直後に辞めても、長期間会社で働いても株式を全て手放さなければならないのは酷であると思う方もいるでしょう。

そのため、在籍期間に応じて一定割合の株式を保有できる仕組み、いわゆるべスティング(リバースべスティング)を設定することがあります。べスティングの詳細は「べスティングやドラッグアロング等について」をご確認下さい。

④いくらで買い取れるようにおくべきか

買取価額については、

① 当初取得時の価額
② 買取時に協議し決定した価額
③ 買取時の時価

とすることが考えられますが、結論からすると、①の当初取得時の価額にしておいた方がよく、そのような形にすることが一般的です。

紛争になった時に備えて、契約上は買取時の価額については一義的に決められていることが重要となります。

その意味で、金額が明確に定まる、①当初取得時の価額にしておいた方がよいでしょう。

一方で、②買取時に協議し、決定した価額とすると、辞任等する創業株主と買取価額について折り合わなければ、価額が決定されないので、買い取れないということになりかねません。幸いにも会社として成長し、ベンチャーキャピタルから出資を受けたり、少なくとも受けることができるような状態になっていたり、企業価値が向上している状況においては、当初取得時の価額での買取りに応じてくれないといった事態が生じることは想像に難くないと思います。

③買取時の時価は、一見フェアな条件であり、望ましいように思われますが、非上場企業の場合、「時価」がいくらか決することが難しいケースも多いため、時価が定まらず買い取れないということにもなりかねません。また、仮に時価が定まったとしても買取価額が高額になり、買取が現実的に困難となるということも問題点として挙げられます。

以上のとおり、買取価額は当初取得時の価額とするのがよいです。

なお、企業価値が向上している場合には、本来の価額より廉価で買い取ったものとして税負担が発生する可能性がありますので、買取りの際には税理士等の専門家に相談した方がよいでしょう。

べスティングやドラッグアロング等について

業種や状況によって創業株主にコミットして欲しい期間は異なるため、べスティング(在籍期間に応じて一定割合の株式を保有できる仕組み)の期間もそれに伴って変わってきます。

例えば、研究開発型のスタートアップであれば、事業が成長するまでに時間がかかることが多く、コミットして欲しい期間は長くなるため、べスティングの期間は長くなる傾向にあると考えますが、SaaS事業を運営するスタートアップではグロースに要する期間が短いため、べスティングの期間も短いことも多いでしょう。

一例としては、以下のような設定が考えられます。

契約締結後から1年まで 0%(=辞めても株式を保有できない)
1年経過後から2年まで 20%
2年経過後から3年まで 40%
3年経過後から4年まで 60%
4年経過後から5年まで 80%
5年経過後 100%

 

上記の例では契約締結後1年間は株式を全て手放さなければならないので、クリフ(崖)と表現したりします。上の例では、「1年のクリフ、4年のべスティング」と言われることがあります。

べスティングは海外のスタートアップでは設定しているケースが多く、最近日本でも増えてきた印象ですが、べスティングを設定する場合には慎重に検討した方がよいです。

なぜなら、前述の100%子会社化によるM&Aの弊害となるリスクが顕在化してしまう可能性があるからです。

また、辞任等した創業株主と音信不通となった場合にはIPOに支障が出てしまうこともあります。株式を手放したくないという思いからべスティングの条件が達成するまで会社を辞めてくれない創業株主もいるでしょう。

このようにべスティングの設定による弊害もあるので、その設定にあたっては慎重に検討する必要があると考えます。

仮にべスティングを設定する場合でも、M&A等に支障が生じることを避ける観点から、M&Aの際に、残る創業株主は辞任等した創業株主に対して残る創業株主と同条件で買収先に株式譲渡等することを請求することができるような手当て(いわゆるドラッグアロング)を行った方がよいでしょう。

まとめ

今回は、起業した方または起業予定の方で一度は聞いたことがある創業株主間契約について解説しました。

起業家として事業の成長に目が行き、法務面が疎かになりがちではありますが、株主構成はスタートアップにとっては非常に重要であるため、「気付いた時には手遅れだった」ということにならないためにも、メンバーに株式譲渡等を行う際には創業株主間契約を締結するようにしましょう。

画像出典元:Unsplash

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