近年、目覚ましい発展を遂げているのが、現実世界と仮想世界を融合した「XR」の領域だ。
XRとは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などをつかったサービスの総称で、ゲームやエンターテイメントの世界で一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。
XRの進化には5Gの登場が大きく関わっている。
通信環境が整ったことで解像度の高い画像データを高速で送信できるようになり、臨場感のあるXR空間が実現したのだ。
このXR・5Gの最新技術をつかったサービスの実例やこれからの課題について、小田急電鉄株式会社の岡本享大氏と株式会社GATARIの竹下俊一氏、株式会社シナスタジアの有年亮博氏に語っていただいた。
小田急電鉄株式会社 新宿プロジェクト推進部 岡本享大氏農業、不動産、観光分野での新規事業企画に従事した後に、社内でXRのプロジェクトチームを立ち上げ。XRに特化した国際映画祭の開催など約10件のXRを活用したプロジェクトを推進 |
株式会社GATARI 代表取締役 竹下俊一氏1993年生まれ。2013年東京大学理科一類入学、2019年東京大学教養学部・教養学科・超域文化科学分科・文化人類学コース卒業。Virtual Realityの概念に魅せられ、東京大学を拠点とした全国最大規模のVR学生団体「UT-virtual」を創設。2016年、在学中に株式会社GATARIを創業。2020年にMixed Realityプラットフォーム「Auris」をリリース。フィジカルな世界とデジタルな世界が融け合うMixed Reality社会の実現を目指す。 |
株式会社シナスタジアCEO有年亮博氏東京大学 情報科学科 卒業。高精度3次元地図処理の研究を通して自動運転の技術開発を行う。仮想世界での生活を目指しシナスタジアを設立。 |
このページの目次
岡本享大氏
このイベントは、岡本氏による「小田急電鉄の取り組み紹介」からスタートした。
小田急電鉄がXRに力を入れている理由は、サービスを時代に合わせて変化させる必要があったからである。
小田急電鉄が行っているのは、今後やってくる”デジタル空間と現実世界が一体化する時代”に適応するための準備なのだ。
実際のサービス例として、小田急百貨店で行われた「ARによる伝統工芸品の拡張」が紹介された。
これは、AR体験会場を設置し、この場所でARグラスをかけると郷土玩具が拡張されるという取り組みだ。
「参加者の88%の人が総合的に満足したという結果だった。しかし、まだ技術が発展途上で個人向けサービスとしてマネタイズしにくく、継続して行うことは難しいという課題が残った。」と岡本氏は語る。
その課題の解決策として小田急電鉄が考えたのは、XRの社会実装を加速させるためのプロジェクトだ。
たとえば、今回のディスカッションが行われた会場『NEUU』の設置である。
小田急電鉄の代表的な取り組みは、以下の3つである。
(1) XR体験施設『NEUU』の設置
(2) XRに特化した国際映画祭『Beyond the Frame Festival』の開催
(3) XRクリエイターコミュニティ『Beyond the Frame Studio』の運営
(1)『NEUU(新宿駅徒歩2分)』にある”ワークスペース”は、クリエイターが最新のXRデバイスをレンタルしたり、クリエイター同士が交流できる場所だ。
他にも、一般のお客さまが世界最先端のXR技術を体験でき、世界中の様々なコンテンツに触れることもできる”体験スペース”も用意されている。
「現在はNEUUの建物内だけだが、いずれは西新宿地区全域でのサービス提供を目指している。」と岡本氏は今後の展望を述べた。
(2) 『Beyond the Frame Festival』はXRに特化した国際映画祭(年に1回)で、クリエイター達の発表の場である。
(3) 『Beyond the Frame Studio』はXRクリエイターコミュニティだ。
XRに興味がある人や作ってみたい人、パートナーを探している人、物語を伝えたい人たちの交流の場として準備された。
小田急電鉄は(1)(2)(3)の三本の柱で、クリエイターを核としたXRの社会実装を目指している。
竹下俊一氏
2つ目のプレゼンテーションでは、株式会社GATARIの代表取締役である竹下俊一氏が登壇した。
GATARIの活動のキャッチコピーは「今までにないエンターテイメントから未来のインフラを創る」である。
GATARIが提供しているサービスのひとつ『Auris』はラテン語で「耳」という意味。
『Auris』は聴覚に特化したサービスで、特徴は”現実に没入する新しい音声体験”ができることだ。
まるで自分がゲームの主人公になったような初めての体験ができると好評で、幅広い分野の施設で利用されている。
観光・宿泊施設、観戦施設、商業・公共施設、鑑賞・教育施設、テーマパーク・アトラクション、スマートシティなど、企業だけでなく自治体でも導入されているサービスだ。
『Auris』の魅力は、これまでWebでしかできなかったことが現実世界でもできることである。
たとえば、デジタルツイン技術などを活用し、現実空間上に”音声コンテンツ”を乗せることで現実体験にさらなる深みをもたらすことができる点だ。
しかも、操作はデジタル空間上で行うので、コンテンツを手軽に入れ替えることが可能、物理的な施工も不要なので、既存の文化財や重要建物などでも利用できる。さらに、ユーザーの行動データを入手することもできるので、導入後も様々な用途に活かすことが可能だ。
時間的・工数的・金額的な導入コストを抑えつつ、体験機会を屋内でも屋外でも実施できるのが強みだといえるだろう。
小田急電鉄の事例で「マネタイズが難しい」という課題が挙げられたが、GATARIではどうなのだろうか。
竹下氏によると「A:受け皿となるスキャンデータのストック型ライセンス収益」 と「B:各レイヤーのフロー型の制作収益」の2本柱で運営しているとのこと。
「A⇒ライセンス契約を結ぶ施設数を増やす」「B⇒体験できるサービスを増やす」このAとBを組み合わせることで立体的なストック収益を得ることが可能になる。
施設に常設されるMixed Reality空間をアップデートし続ける方法なら、マネタイズに関する問題はクリアできそうだ。
また、竹下氏は「Virtual Realityはテクノロジー感を強く感じて自分から遠いところにあるように見えるが、自分が世界をどう捉えているのかに関係する誰にとっても自分ごとになり得るものだ」とも語る。
テレビや動画は実際には静止画が高速で入れ替わり動いて見えることからもわかるよう、人は世界のありのままを見れているわけではない。
この人間の知覚の限界を応用したものが、XRの世界である。
「つまり、バーチャルリアリティ学はテクノロジーの側面が目立つが、その中心にあるのは人間理解である」と竹下氏は説明した。
XRを社会実装することで現実そのものを変えなくても人々の現実の見え方が変わり、より豊かに生きられるということだ。
GATARIは「デジタル空間の開拓+リアル空間の価値を引き出す」を行うデジタル空間の総合デベロッパー企業だと竹下氏が述べた通り、新しい価値を生めるのがXRの魅力だといえるだろう。
有年亮博氏
3つ目のプレゼンテーションは、株式会社シナスタジアCEO有年亮博氏によるXRサービスの紹介だ。
シナスタジアは、観光地やテーマパークなどの屋外で体験できるXRサービスを提供している。
強みは、リアルタイムクラウドレンダリング技術を開発したことだ。
リアルタイムクラウドレンダリングとは、通常はPC内で行うレンダリング処理(CG映像を描画処理すること)をクラウドに移管すること。
これまではハイスペックな機器を必要とする“高品質なXR体験”をスマホでも行えるようにしたのが「リアルタイムクラウドレンダリング技術」だ。
5Gの高速通信と相性が良いことも特徴の1つであり、「ブルーオーシャンのビジネス領域だ」と有年氏は語る。
サービスの実例としては、クラウドARサービス『Walk Vision』が挙げられた。
『Walk Vision』は、3D都市モデルを読み込んで既存の街並みを再現したり、建設予定の建物を可視化して閲覧できるシステムだ。
他にも、謎解きに奥行きを与える「AR謎解きゲーム」など集客に役立つXRサービスも紹介された。
シナスタジアの独自性が光るのは”新感覚XR観光サービス”である。
たとえば、あらゆる乗り物に後付け可能なXRシステム『Ride Vision』は、最短半日で乗り物を“走るテーマパークアトラクション”にすることができる。
これにより、移動しながら新感覚のXR観光体験ができるのだ。
京急電鉄で『Ride Vision』をつかったXRバスツアーを販売した実績があり、税込4,000円のチケットは即日完売したとのこと。
TBSテレビの番組「王様のブランチ」で約10分間放送され、話題性も抜群だ。
『広範囲XR』による「歴史体験」は京都市での取り組みで、歴史的建造物を舞台に、メタバースのバーチャル世界とリアル世界がクロスオーバーする次世代プロジェクトである。
観光・教育体験の提供だけでなく、購買促進効果も期待できるのがメリットだと有年氏は述べる。
もう1つの注目サービスは、「メタバースアンテナショップ」だ。
人気のエリアに出店しなくても成功できる可能性があるのは従来のネットショップと同じだが、以下の違いがある。
「移動体験を拡張するXRテクノロジーで 息をのむほどの新感覚体験を」というシナスタジアのキャッチコピーを紹介して、有年氏はプレゼンテーションを締めくくった。
XRというとエンタメ業界で利用されるイメージが強く、「XR技術の推進に意味があるのか?」「XRで社会は良くなるのか?」と考える人もいるだろう。
その点について、岡本氏から竹下氏と有年氏に質問が投げかけられた。
竹下氏は「MRは公共空間の中に様々なプライベートな空間を作ることができ、インクルーシブな社会を実現していくために欠かすことのできないピースです。
例えば、同じスキャンデータを活かしながら、楽しみたいという方だけではなく、視覚障害のある方や外国人などいろいろな人が居心地が良いと感じる空間を提供することができます。
ひとつの施設に100人が居合わせた場合、個々人に合わせた100通りの体験を届けることができるので、現実の制限にとらわれず空間価値を高めることができるという意味で価値があるといえるのではないでしょうか。」との見解を示した。
さらに「今の事業を始めて認識した点として、視覚障害の方向けのサービスは目的地にいかに早く正確に着くかを中心に考えられているサービスが多いことだ。
それにより視覚障害のある人はいわば省略された世界を生きていて、そのことに対する諦めがあるし、諦めていることに気づいてすらいないのではないかと感じた。
自分と同じ年代の方が「新しい店なんて行かない」と当たり前に言ったことが印象的でした。」と自身の体験談を語った。
竹下氏の推測は「便利さや正確さだけでなく、XRをつかってプラスアルファの価値を街中に実装していくことで、人々の潜在的なニーズが満たされる」である。
有年氏は、「何年か後にウェアラブルグラスやARコンタクトをつかったら、スマホがいかに不便なデバイスだとわかるでしょう。
観光でいうと、スマホで調べないとわからなかったことが、XR空間なら調べなくても体験できます。だから、XRには意義があると思います。」と述べた。
XRの良さを生かすためには「スマホに変わるデバイス(ARグラスやコンタクトなど)」の発展が条件になるだろう。
続いて、「XRの社会実装に向けての課題」について、それぞれの考えを述べた。
竹下氏が重要視するのは“リアルな空間と協力すること”だ。
「XR技術はまだ不完全なので正確な位置認識をするために、ソフトウエアに優しい街づくりが求められています。」と竹下氏が語り、「デジタルに優しくすることでリアルが良くなるということですね。」と岡本氏がまとめた。
有年氏は「自動運転車やドローンを使う社会になるなら、それに合わせた街づくりが必要です。また、いろいろな企業や国が協力して、スマホMRでもドローンでも使える共通のスキャンデータを集めることも必要ですね。」と別の視点での課題を挙げた。
岡本氏がXR技術の今後の課題はこの2点だとまとめて、イベントは終了した。
XR技術はエンターテイメントとしてだけでなく、人々の生活をより良くするために役立つものだ。
今後はXRの活用を前提とした街づくりをすることが新たな課題だといえるだろう。
XRにより新しい価値が生まれ、さらに豊かな社会になることを期待させるディスカッションであった。
XRに興味がある方やXRの可能性を感じた方は、新宿駅徒歩2分の場所にある『NEUU』をぜひ訪れてみてほしい。
『NEUU』公式HP:https://neuu.jp/
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