インターネットやSNSが盛んになった昨今、「炎上」という言葉を目や耳にすることが多くなりました。
一般的に「炎上」と聞くと悪い印象を抱くことが少なくありません。
しかし、マーケティングの観点から見ると、一概に悪いことばかりではなく、良質な「炎上」もあることはご存知でしょうか。
「炎上」で得られるメリットがデメリットを上回ることもあるのです。
単なる「炎上」ではなく、れっきとした「マーケティング」へと進化させるにはどのような手法があるのでしょうか。
この記事ではメリットが上回った「成功」と言われる事例と、反対にデメリットが上回った「失敗」と言われる事例を紹介しながら詳しく解説していきます。
このページの目次
炎上商法とは、不特定多数の人々が目にする場において、過激・不適切な言動をして、多くの人の注目や個人の認知度・知名度を上げるためのマーケティング手法の一つです。
悪い噂は良い噂よりも広まりやすいという性質を利用することで、今まで商品や個人について知らなかった層にも広告費をかけずに認知してもらうことが可能になります。
しかし、炎上を目にした人々の感情は、嫌悪・反感・非難・憤慨 といった負の感情から始まることは避けては通れません。
そのような危ない橋をあえて渡り、マーケティングとして大成功を収めた例も存在しています。
企業イメージは長い時間をかけて作り上げていくものです。
企業価値を落としてしまう可能性のある炎上商法をあえて積極的に使用する企業はまずいないでしょう。
2017年に東大で行われた『メディアと表現について考えるシンポジウム』の中で、「企業のCMでわざと炎上を狙っているものは99.9%ないと思います」と発言した方もいます。
一方、芸能人やYouTuber、ブロガーはあえて炎上させて認知度をあげたいと思っている人が一定数存在しています。
これは即効性のあるプロモーションによる知名度の向上、爆発的な儲けがマイナスイメージよりも上回ると想定しているからです。
以上をふまえ、ここからは炎上商法の成功例と失敗例を具体的にみていきましょう。
画像出展元:「The American Rom - Campaign Presentation」YouTubeより
ルーマニアのチョコ菓子メーカー「ROM」はパッケージにルーマニア国旗をデザインし、長年国民に愛されてきました。
しかし、近年では若者を中心に「ダサい」「時代遅れ」というイメージが強くなり、人気が低迷していました。
そこで、パッケージのデザインをルーマニア国旗からアメリカ国旗へと変更する、というプロモーションを行いました。
その結果、ルーマニア国民の愛国心に火をつけ、非難や批判が続出しました。
各メディアで取り上げられ、多くの人の反感を買い大盛り上がりを見せたようです。
ところが、一夜にしてパッケージデザインをルーマニア国旗に戻し、注目を集めるための「ジョークであった」ことをメディアで発表しました。
それを受け、多くの人が再度「ROM」に興味を持ち、爆発的に売れることとなりました。
アメリカ国旗のパッケージ商品も「二度と手に入れることができない」として買い集める人が続出し、完売に至りました。
YouTuberのヒカルさんはある中堅芸人に対し「お前が俺に勝てるところ一つもない」「本当に面白くない」など過激な発言を繰り返し、注目を浴びることとなりました。その動画の再生回数は70万回にものぼりました。
さらには、「その芸人は俺だ」と名乗りを上げる中堅芸人が続出し、ネタ合戦のようになっていきました。
その後、その騒動を受け、ヒカルさんは改めて「当該中堅芸人と和解した」という内容の動画を配信し、再生回数は250万回以上にもなっています。
しかし、その中堅芸人が誰であったのかはわからないまま騒動は終焉しています。
実際にその中堅芸人が存在していたのか?という疑問が残り、炎上商法だったのではないかと囁かれることになったのです。
画像出展元:「のんピース」公式ブログより
ママタレの代表的な存在である、辻ちゃんこと辻希美さんは、過去に何度も炎上していることで有名です。
「いちごに練乳をかけたら炎上」「肉じゃがを作ったら炎上」と辻さんがブログを発信するとここぞとばかりにアンチが反応して炎上を巻き起こすのです。
これには、辻希美さんは19歳で結婚したこともあり、当時は“ままごと婚”と世間から批判の声もあったため、そのイメージが尾を引いて一部の人から些細なことでも執拗に叩かれてしまうといったことが背景にあります。
とはいえ、そんなイメージがあるからこそ、ブログで子育てに奮闘する姿に賞賛する声も多く上がりました。
また、アンチも炎上見たさに辻さんのブログを覗きにくる人が多いのが現状です。
辻さんは2021年11月16日の『セブンルール』(関西テレビ・フジテレビ系)に出演した際、「冷静に思えば強いコメントとかもアンチの人と思えばアンチかもしれなけど、アドバイスと思えばアドバイスなので」とコメントしています。
バッシングされたからといってブログの更新を諦めなかった辻さんは、今では尊敬・憧れのママとしての地位も獲得しています。
むしろ、結果的に元々あったマイナスのイメージを逆手にとって、ファンを獲得しながら活動を続けている姿は成功と言えるのではないでしょうか。
画像出展元:「ゆず」公式HPより
人気アーティストのゆずは2018年12月に「今後の活動について重大なお知らせがあります」と公式サイトで告知をしました。
それを目にした人々は「活動休止か?」「解散か?」と不安を煽られ、大騒ぎとなりました。
しかし、その二日後に「弾き語りドームツアーを開催をします」と発表されました。
その発表を受け、「ツアーだと聞いてホッとした」「弾き語りドームツアーすごく嬉しい」などプラスのコメントがあった裏で、「初めてファンやめようと思った」「ツアーごときで意味深な発言するな」といったマイナスのコメントが多く噴出しました。
ファンを安心させた反面、多くの人の反感をかうことにもなりました。
ゆずほどの人気アーティストであれば、ファンを不安に陥れるような告知の仕方をせずとも、集客は容易であったのではないかと考えられます。
あえて話題を集めたことでアンチを増やしてしまったのでは、炎上が成功したとは言い難いのではないでしょうか。
画像出典元:「AlphaDrive CEO 麻生氏」ツイッターより
2021年10月4日(月)の朝、突如として「今日の仕事は、楽しみですか」というメッセージが発信されました。
これは、品川駅の改札から港南口へと続く自由通路にある44面ものデジタルサイネージ用ディスプレイに映し出されたものです。
これを見た人々は「仕事は楽しくなきゃいけないのか」「辛くてもなんとか仕事を頑張ってる人を傷つける言葉だ」「ディストピア感満載」などと批判が殺到し、わずか1日で広告を取り下げることになったのです。
しかし、この広告が炎上したのには訳があります。「今日の仕事は、楽しみですか」という文面が44面のディスプレイに映し出された瞬間だけを切りとってTwitterに投稿されたため、インパクトが大きく炎上に発展してしまったのです。
しかもその投稿主は広告を出稿した会社(AlphaDrive)のCEOでした。
広告には続きがあり、「今日の仕事が楽しみだと思える仕事がふえたら この社会はもっと豊かになるはず だから、AlphaDrive/NewsPicksが新規事業の生まれる組織づくりをサポートします」というBtoBのメッセージであったことがわかります。
「今日の仕事は、楽しみですか」という文面が映し出されていた時間は約1秒ほどでした。実際に自由通路を歩いていた人たちが目にして気に留めるほどの物ではなかったのではないかと思います。
出稿した企業が大きな広告キャンペーンを打ち出したため、「多くの人に知ってもらいたい」という強い思いが逆に批判へとつながってしまったのだと推測できます。
画像出展元:「宮迫博之」公式HPより
元「雨上がり決死隊」の宮迫博之さんがプロデュースする焼肉店「牛宮城」が先日ついにオープンにこぎつけました。
しかし、オープンまでに何度か炎上を繰り返していたことは有名です。
YouTuberのヒカルさんと共同出資でスタートしたビジネスでしたが、試食会でヒカルさんが「こんな焼肉ありえない」と発言し、ビジネスから完全撤退することを決めました。
一度は暗礁に乗りかけたものの、宮迫さんはビジネスを続け開店に至るまで事業を推し進めてきました。
そしてオープン直前に再び試食をしたヒカルさんが焼肉を絶賛した上、コラボを復活したことにより話題を集めました。
現在は1ヶ月後まで予約がいっぱいの状況のようですが、この「話題性」がいつまで続くのかが成功の肝になるのではないでしょうか。
先日「牛宮城」を訪れたホリエモンこと堀江貴文さんも焼き肉の味は評価していたものの、「問題は半年後とかにリピートで埋められるかどうか。80席を最低でも7〜8割毎日埋めていくのは大変です。半年後撤退がベストかも」というような警鐘をならしています。
渋谷のセンター街の一等地にオープンした「牛宮城」の店舗家賃は280万円程度。今までの「話題性」だけでなく何か他にも策を打ち出さないことには、生き残るのは難しいかもしれません。
こうした炎上をはねのけ、人気店として大成功に至るのか、一時的な話題で終わるのか、今後に注目したい実例です。
「ROM」の大成功例のように莫大な時間と費用をかけずとも、人々の関心を即時に集めることが可能であることがわかります。
「ROM」はブランド指数が124%もアップし、チョコレート菓子市場で20%ものシェアを獲得することができたのです。
炎上から火消しまでのプロセスを明確に計画していたことが功を奏したのでしょう。
YouTuberのヒカルさんの例のように、動画再生回数250万回という数字を叩き出すことができれば、1再生あたり0.5円と少なく見積もっても軽く100万円以上の広告収入を得ることができます。
辻さんの例のように、批判や罵倒に屈することなくブログを更新し続けた結果、1日あたり1000万PVを獲得するまでになりました。
アンチの一部や興味本位で炎上を覗きにきた人が、「頑張っている」「尊敬できる」と新たなファンになっていったのです。
ゆずや宮迫さんの例のように、とにかく世間の注目を集めて、自分の活動を広く知らしめたい、という場合にも手っ取り早い方法です。
正攻法では短期間のうちに多くの人の目に止まらなくても、人々の感情を逆手にとることで短期間で注目を浴びることが可能になります。
宮迫さんの例のように、ビジネスが軌道に乗った後でも、「あの炎上していた焼肉店」などと言いうイメージは簡単に消えるものではありません。
例えうまく火消しに成功したとしても、炎上した時のイメージがずっとついて回ることは覚悟しなくてはなりません。
炎上でアクセス数が増え、爆発的な収入を得たとしても、長続きするとは考えにくいです。
さらに、大きな炎上であればあるほどイメージも悪化するため、お金儲けのために安易に炎上させようと考えるのは危険です。
自分が予想していた以上の誹謗中傷を受けることで、精神的に耐えられなくなることも少なくありません。
批判や罵倒に耐えられないと思うのであればやるべきではありません。時には辻さんのような、鈍感力も必要になってくるでしょう。
人々の注目を集めるためにやったことが原因で、活動休止やビジネス自体が立ち行かなくなっては本末転倒です。
品川駅の広告のように1日で広告を取り下げることになってしまては、広告費の無駄になってしまいかねません。
実際に品川駅の該当広告費は1週間で1,000,000円(税別)であり、変更や差しどめには別途料金がかかってくるようです。
万が一過激なプロモーションで注目を集めたいと思うのであれば、人々の注目を集めた後どう振る舞うのか、綿密なプランを練る必要があります。
ここまで、炎上商法の成功例と失敗例をもとに見てきましたが、仕掛ける側の企業や個人によって成功の定義が違うのではないでしょうか。
即効性のあるプロモーション 知名度の向上 爆発的な儲け など目的はそれぞれでしょう。
しかし、受け手である大多数の人が持つであろう負の感情をいかに払拭していけるのかが、真の成功と言えるのではないでしょうか。
もし一か八か、炎上商法を仕掛けてみたいと思うのであれば、「悪」イメージだけで終わってしまうことは避け、ぜひ「良」イメージで締めくくれるように緻密で綿密なプランを考えてみてはいかがでしょうか。
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