日本では少子高齢化による人口減少が将来に向けた課題のひとつに挙がっているが、一方で世界に目を向けると世界の総人口は増加の一途を辿り、それに伴い食糧需要も増加。食糧危機という課題に直面しようとしている。
こうしたなか、ICTやサイエンスを活用して食に関する課題を解決したり、食の可能性を広げようと「フードテック」というビジネスが拡大しつつある。
グローバルで700兆円市場と言われるフードテックはどのようなものなのか。
このセッションでは、Next Meats HDのCEOである白井良氏、ユーグレナ代表の出雲 充氏、タレントの古坂大魔王氏が語り合った。
まずは、フードテックはどのような課題と向き合っているのかについて白井氏がまとめた。
白井良氏
冒頭に挙げた人口増加による食糧不足だけでなく、世界には貧困国の飢餓問題、先進国のフードロス問題、菜食主義者のための食品開発、食の安全、農業や酪農などにおける生産者不足といった様々な課題を抱えている。
2025年には世界で市場規模が700兆円に達するという試算もあり「フードテックは人類の課題に挑戦するものとして注目されている」と白井氏は語る。
ではその解決策=フードテックにはどのようなものが挙げられるのか。
白井氏が代表を務めるNext Meats HDは植物由来の成分で生産した「代替肉」を販売しており、そのほかにも生産技術の変革ロボティクスなど様々な手法がある。
出雲氏は「フードテックの定義は非常に幅広い」とした上で、フードテックを語る前提として「食品を作るメーカー、生産者だけでなく、消費者も必ずこの課題に関与することになる。消費者もフードロスなどの課題に向き合いスマートになっていかなければならない」と指摘した。
古坂大魔王氏
フードテックが誕生した経緯について、古坂大魔王氏はかつて世界を大きく動かしたエネルギー問題になぞらえた。
火力発電に必要な化石燃料の枯渇が今後の地球の持続可能性に大きな影響を与えると指摘された際には、その代替手段として再生可能エネルギーに関する技術が大きく進化したほか、化石燃料の消費を抑える手段として自動車の進化などの変革が生まれた。
「フードテックの誕生は、エネルギー問題と同じように新しい変革の始まりなのではないか」(古坂大魔王氏)。
加えて、古坂大魔王氏が挙げたのはネパールの貧困地域を訪問した際のエピソードだ。
「日本人にとって食は楽しみかもしれないが、彼らにとって食は命。日本人の思っていることと、貧困地域で感じていることは違う。食糧が気軽に手に入らない彼らにとって必要なのは、手軽に豊富な栄養が摂れる食品なのではないか」と古坂大魔王氏。
これに対して白井氏は「これからは食を真剣に考える時代になっていく。今の当たり前は30年後維持できないかもしれない。この課題手段としてフードテックが存在している」と語った。
白井氏によると北米市場などでは既に多くのフードテック企業が登場し、市場を形成しているのだそうだが、それに対して日本ではスタートアップ企業の登場も少なく、フードテック市場に対する動きは世界と比較して遅れているのだという。
「日本の場合ビーガンなどのトレンドから代替肉に触れる機会が多いと思うが、まだ食に対する危機意識が薄いのではないか」と白井氏は語る。
この点については出雲氏も「日本にはフードテックに挑戦するベンチャー企業が圧倒的に少ない。私たちもベンチャー企業と一緒に食の課題に取り組んで世界に発信していきたい」と同調した。
様々なフードテックがあるなかで世界的に成長を続けているもののひとつが、人工肉(代替肉)というものだ。
矢野経済研究所の試算によると、グローバルの市場規模は2020年で2,572億円。
今後年22%で成長し、2030年には1兆8,723億円規模まで拡大するという。
白井氏によると同社に対する投資家からの注目度も高く「フードテックに対する期待の高さを感じている」と白井氏は語る。
「いま世界で大手、ベンチャー問わず多くのメーカーがチャレンジしている。こうした代替食品は肉だけでなく乳製品などにも拡大しており、美味しさと栄養を兼ね備えた製品が登場している」(白井氏)
出雲 充氏
こうした市場の動きについて、出雲氏は
「消費者のなかには“なぜ代替肉市場がこんなに盛り上がっているのか”と首を傾げる人もいるのかもしれない。一方で、投資家は代替肉市場“しか”みていない。なぜなら、家畜(特に牛)を育てるために必要な穀物、家畜を育てる過程で生じるゲップなどの温室効果ガスは看過できない状態で、持続可能な社会を実現するために投資家は従来の生肉に変わる代替肉を拡大させたいと考えている」
と指摘し、食糧問題だけでなく環境問題の観点でも代替肉に対する注目が高まっている潮流を指摘した。
このように、世界的に注目が高まっている代替肉だが、企業の動向は現在どうなっているのか。
白井氏は「ここ1年ほどで“代替肉”という言葉の認知度が高まってきたが、10人中7人は知らない状態。これからますます普及させなければならない」とした上で、大手企業などの参入が市場全体のプレゼンスを高めていく可能性を指摘する。
Next Meats HDは代替肉を専業に開発、製造、流通まで一気通貫で手掛けている日本で唯一(記事執筆時点)の企業だが、市場の盛り上がりには知名度の向上と成長の加速が急務なのだという。
これに対して、出雲氏は「全く新しい産業、全く新しいマーケットをゼロから1にするのは非常に大変だが、大手企業にはできない。スピード感をもって市場を開拓することは、ベンチャー企業にしかできないこと。フードテックの市場規模は700兆円になると言われているが、まだGAFAのような市場を独占的に支配するプレイヤーも現れていない」と指摘。
その上で、日本のベンチャー企業にも世界の市場シェアに食い込める可能性を秘めていると期待を寄せた。
「フードテック市場はチャンスに溢れているし、日本のベンチャー企業も期待されている。世界中の投資家は、良い社会を作るために環境に配慮した製品・サービスに取り組んでいるベンチャー企業であるか否かを非常に厳しく見ている。その期待に応えるビジネスを創出できれば、世界から資金が投資に参加してくれるはずだ。あらゆるチャンスにみんなで挑戦していきたい」(出雲氏)。
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