減給はどこまで可能?法律の規定や計算方法、注意点、公務員の場合は?

減給はどこまで可能?法律の規定や計算方法、注意点、公務員の場合は?

記事更新日: 2021/04/14

執筆: 川崎かおり

減給とは、多くの場合懲戒処分の制裁の一つです。

会社は問題行動や規律違反が目立つ社員に対して、給与の月額を減額して責任を問うことができます。

ただし労働者の権利については労働基準法で保護されているため、減給はこの範囲内で行われなければなりません。

この記事では減給に関する法律や具体的な計算方法、さらには懲戒処分以外の減給や公務員の減給についても紹介します。

懲戒処分としての減給

社員が重大な過失を犯した場合、懲戒処分として「減給」を言い渡すケースがあります。

ただしこのとき注意したいのが、減給の額や期間についてです。懲戒処分の減給について詳しく見てみましょう。

1. 懲戒処分の減給は「制裁」

「懲戒処分」とは、社員が会社に不利益を生じさせたり公序良俗に違反する行為を行ったりした際に科せられる制裁です。

制裁内容は違反内容により異なり、口頭での注意に留まる「戒告」から労働契約の解消となる「懲戒解雇」までさまざまです。

このうち「減給」は、「戒告」「譴責(けんせき)」に次ぐ軽度な制裁とされます。

ただし、「どのような行為が処分対象となるか」は会社により異なります。

2. 減給には上限がある

労働基準法第91条では、減給の上限について以下のように定めています。

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

つまり就業規則に従って従業員を減給処分にする際は、

  • 違反行為1回につき半日分の賃金まで
  • 違反行為が複数回あったとしても賃金総額の10%が上限

であるということです。

ただし、「1時間遅刻をしたから1時間分の賃金を減額する」などの場合はこの限りではありません。従業員は実質1時間勤務をしていないのですから、会社に賃金支払義務は無いと考えられるためです。

3. 減給の期間

懲戒処分による減給は、1回の問題行動につき1回までしか認められません。つまり1ヵ月分の給料を減額したら、翌月はまたそれ以前と同様の額に戻さねばならないということです。

「TVの不祥事会見で『3ヵ月の減給』と聞いたことがあるけれど…?」と疑問を抱く人もいるかもしれません。

しかしこうしたケースのほとんどは、労働基準法が適用されない役員や公務員と考えられます。

労働基準法が適用される労働者については、懲戒によって長期間減給することは認められていません。

減給の具体的な計算方法

1回の減給処分による限度額は、次の式で計算できます。

「減給限度額=平均賃金 ×1/2」

計算自体は非常にシンプルなものですが、平均賃金についてはよく分からない人も多いのではないでしょうか。

そこでここでは、平均賃金の求め方と減給の具体的な計算方法を紹介します。

1. 遡って3ヵ月間の賃金総額が対象となる

平均賃金の計算方法については、労働基準法第12条に次のように記されています。

この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。

つまりこれを式にあらわすと

となります。

ただし賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日を起算日とせねばなりません(労働基準法第12条2項)

例えば、賃金締切日が月末・支払日16日の会社で6月14日に懲戒減給処分を言い渡された場合は、5月末が直前の賃金総額締切日です。

減給は3~5月末までの賃金をもとに計算されます。

2. 賃金総額と総日数とは

ここで言う「賃金総額」は源泉所得税や社会保険料を差し引かれる前の金額です。また家族手当や通勤手当などある場合は、それらも含めねばなりません。

ただし、以下は除外して計算するので注意しましょう。(第12条4項)

  • 臨時に支払われたもの:退職金、見舞金など
  • 3ヵ月以上の期間ごとに支払われるもの:賞与
  • 通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの

一方、「総日数」については、休日や欠勤日も含めた「歴日数」で考えます。

ただし、こちらも以下のケースは例外と定められています。(第12条2項03)

  • 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
  • 産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業した期間
  • 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
  • 試みの使用期間(試用期間)

また、入社後3ヵ月に満たないケースでは、入社後の期間で計算されます(第12条2項06)

3. 具体的な減給限度額の計算例

それでは、

賃金締切日が月末・支払日16日の会社で、6月14日に懲戒減給処分を言い渡されたケース

について実際に計算してみましょう。

まずは平均賃金を算出します。

銭未満の端数が出た場合は、切り捨てることが認められています。つまり、この場合の平均賃金は「1万1,304円34銭」ということになります。

また、懲戒処分の減給の計算式は前述のとおり

減給限度額=平均賃金 ×1/2

ですから、金額を当てはめると

11,304円×1/2=5,652円17銭

となります。円未満は四捨五入されるため「5,652円」が減給の限度額です。

ただし違反事項が複数あった場合は、5,652円に違反数を掛けた数が限度額となります。

例えば会社の規定に3項目違反していた場合は、

5,652円×3=16,956

すなわち、16,956円が減給額となります。

4. 「賃金総額の10%が上限」であることに注意

前述したとおり、懲戒による減給処分では事由の発生した月の「賃金総額の10%が上限」と法律により定められています。

例えば先ほどのケースでは、6月の賃金「32万円」の10%に当たる「3万2,000円」を越える減給は認められません。

万が一複数の違反事由がある場合、3万円2,000円を越える部分については翌月の給与から減額する必要があります。

懲戒処分以外の減給

懲戒処分以外にも、社員が減給となるケースはあります。

減給が「懲戒処分の減給」によるものでない場合、会社は労働基準法の定めるさまざまな規定に従う必要はありません。つまり減額の上限なく、継続的に給料を減額できるということです。

会社は各自治体で定められた最低賃金さえ上回っていれば、自社の裁量を効かせられます。

懲戒処分以外で減給されるケースについて詳細を見てみましょう。

1. 出勤停止に伴う減給

「減給」と同じ懲戒処分ですが「出勤停止」となった場合は、その期間中、賃金の支払義務はありません。

出勤停止中の社員は、実質労働を提供していないことになります。この場合「ノーワーク・ノーペイの原則(労働基準法24条)」が優先されるため、社員に賃金の請求権はありません。

会社は社員の出勤停止日数に応じた金額を上限なく減額できます。

2. 降格・降職等による減給

降格・降職によって賃金が下がった場合も、労働基準法は適用されません。ただし、法に抵触しないようにするには以下のポイントがクリアされている必要があります。

  • 会社の規約で役職ごとの賃金基準が定められている
  • 就業規則に降職・降格の区分が定められている

降格・降職等による減給では、手当や基本給が下がることによって総賃金額が減少します。

このとき賃金基準や役職区分が明確に定められていなければ「降格による減給」を正当化できません。減給を「制裁」と見なされれば、法律違反を問われる恐れもあるでしょう。

降格・降職等を理由に減給するときは、「就業規則にどのような規定があるか」がネックです。

3. 賞与の減給

基本的に賞与は、会社が社員の勤怠や業績を査定して金額を決定します。会社の裁量による部分が大きいため、賞与をカットしても労働基準法違反とは見なされません。

ただし、あまりに軽微な事由で賞与を減額したり全てカットしたりするのは「会社の裁量権の範囲を超える」と見なされる恐れがあります。

賞与をカットする場合は、客観的な考査のもと行われる必要があるでしょう。

また、注意したいのが会社と雇用者で「最低2ヵ月分の賞与を支給する」などといった契約を結んでいる場合です。

この場合、会社は賞与査定の権利がありません。賞与カットあるいはナシとした場合は、「制裁」に該当する可能性があります。

減給について会社・社員が気をつけたいポイント

社員が減給処分を受けた場合、あるいは会社が社員に減給処分を科す場合、その減給が適切かどうかきちんと見極める必要があります。

減給について双方が気をつけたい注意点を紹介します。

1. 懲戒による減給の場合

懲戒による減給で確認したいのは「就業規則にその根拠があるか」という点です。

社員にどのような問題があろうと、就業規則に定められていない事由については、会社が責任を問うことはできないためです。

また、減給という処分が下された場合、その妥当性も検討すべきです。客観的に見て些細な違反であれば、いきなりの減給処分は不当かもしれません。

万が一相当性がない場合は、懲戒処分は無効となりえます。

ただしこちらは自身で判断をするのが難しい問題です。減給された社員が「おかしい」「不公平である」などと感じたときは、弁護士に相談するのがベターでしょう。

さらに注意したいのが、「懲戒処分としての減給が終業規則上の手続きに基づいているか」という点です。

一般に就業規則には、懲戒処分執行の手続きについても記されています。例えば就業規則で「懲戒委員会を開いて処分を決定する」などある場合は、減給の前に懲戒委員会を開くことが必須です。

万が一この手順が無視されるようなことがあれば、社員は懲戒処分について「無効である」と申立てることが可能です。

2. 懲戒処分ではない減給の場合

減給が「制裁」ではなく「経営が悪化した」等の理由でも、会社が一方的に減給することはできません。

会社が減額を実施する際は労働者の合意を得るか就業規則の変更や労働協約の締結が必要となります。

このとき減給が「適正な手続きが行われていない」あるいは「合理的理由がない」なら、減額は認められません。

社員は減額を不当として訴えることができます。

公務員の減給

公僕たる公務員には労働基準法が適用されません。国家公務員なら「国家公務員法」、地方公務員なら「地方公務員法」が適用されます。

公務員の減給について具体的に見てみましょう。

1. 公務員の懲戒処分

公務員の懲戒処分は、より重大なものから「免職」「降任」「停職」「減給」「戒告」です。減給は「戒告」の次に軽微な懲戒処分となります。

ただし公務員の場合、どんなものであれ懲戒処分を受けると、その後の待遇に大きく影響するといわれます。

昇任・昇格が遅れたり手当の支給率が引き下げられたりするのはもちろん、退職手当についてもマイナスとなることがあるでしょう。

2. 減給規定は民間よりも厳しい

民間企業なら懲戒処分による減給は上限がある上、「1回限り」と定められています。

しかし国家公務員の場合は、最大1年間・毎月、月給の5分の1(20%)まで減額が可能とされています。(地方公務員は各地方公共団体の条例により規定)

「給与の○%を△ヵ月間減給」というのは民間の一般社員ではありえません。しかし、公務員の場合は十分にあり得る話なのです。

まとめ

減給は社員のモチベーションを下げる上、なにかとトラブルになりやすい事案です。

会社としてはできれば避けたいところですが、放置すると他の社員への示しがつきません。必要とあれば適切な手続きを踏んだ上で処分を下す必要があるでしょう。

ただし「制裁としての懲戒処分」には労働基準法による規定があります。減給に踏み切る際は減額の上限を正しく把握し、法の定めに基づいて行いましょう。

「懲戒処分」としての減給を望まない場合は、出勤停止・降格・賞与のカット等で賃金を減額する方法もあります。

ただしいずれの場合も就業規則を根拠とするため、規則をきちんと確認しておく必要があります。

画像出典元:Unsplash、Pixabay

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