ワークライフバランスを重視する働き方改革の推進で様々な雇用形態が生み出されるようになりました。雇用契約を結ぶときに雇用側と労働者側の双方が、どの雇用形態がふさわしいのか判断に迷うことがあります。
この記事ではあらためて雇用形態の種類、それぞれの特徴、メリット・デメリットを紹介します。
人事担当者も労働者側も雇用形態について正しく理解すれば問題なく雇用契約を結べるようになるでしょう。
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雇用形態とは企業と労働者が締結する雇用契約のなかの採用種別のことを指します。
一般的な雇用形態には、正社員、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトが挙げられます。これまでの日本社会では正社員という雇用形態で雇用契約を結ぶというのが一般的でした。
しかし、ワークライフバランスを重視した生活スタイルの浸透、政府が推進する働き方改革などの影響で雇用形態の種類も増えてきたのが現状です。
雇用形態は、企業と労働者との間で交わされる契約内容や契約期間、勤務日数や時間によって種類分けされます。
たとえば、企業と無期労働契約を結んで働くのが正社員です。企業と有期労働契約(雇用期間が定められた契約)を結ぶのが契約社員です。基本的に正社員は退職するまで働くことになりますが、契約社員は3年・5年など決まった期間内だけ働きます。
現在一般的な雇用形態には以下のものがあります。
それぞれの雇用形態の意味や特徴、メリット・デメリットを紹介します。
正社員は企業と無期労働契約を結んで働く労働者です。一般的に正社員は次の3つの条件を満たした雇用形態です。
企業では、この3つの条件に該当する労働者を「正社員」、それ以外の労働者を「非正規社員」に分けています。
さらに非正規社員は、契約社員・パート・アルバイトなどに細かく分けられています。
正社員は会社の将来を担う有望な人材として期待されています。ですから契約社員などの他の雇用形態の労働者とは違い、裁量の大きい仕事に携われる可能性が高いです。
それらは仕事へのやりがい、達成感や満足感につながるのでひとつのメリットといえます。
正社員は責任ある仕事を任されるので、それに伴い同じ会社で働く他の雇用形態の労働者より給与が高くなります。
また賞与(ボーナス)やノルマ達成のインセンティブなど特別な手当が支給されます。
昇進の機会もあるので、それにともない給与や賞与の額がアップします。
正社員は厚生年金に加入します。厚生年金の保険料は企業と正社員との間で折半することになります。つまり経済的な負担が比較的軽い状態で、老後のための蓄えをすることが可能です。
雇用保険にも加入します。他の労働形態では条件を満たしていなければ雇用保険の対象外となる場合があるので、正社員の特権です。これにより万が一失業した場合の保障が確保されます。
「正社員=安定」というイメージがありますから社会的信用を獲得しやすいというメリットもあります。
会社の名前を出すだけで一目置かれることもあれば、安定した収入があるということでローンを組んで大きな買い物をするときでも審査に通りやすいというメリットもあります。
転職したいというときにも、すでに一定のスキルを身に着けていると判断されるので即戦力として採用される可能性が高まります。
正社員ならば社内での部署の異動、転勤などの辞令があれば基本的にはそれに従わなければなりません。
異動や転勤に伴う環境の変化はときにストレスになる場合があります。
正社員は仕事の責任が大きいので、契約社員やパート・アルバイトよりも残業や休日出勤をする機会が増えます。
これらがときに、健康やワークライフバランスを崩す原因となる場合があります。
他の雇用形態とは違いひとつの会社に長くいることになるので、特定の人間と長く付き合うことになります。
こうした人間関係がときに重荷やストレスとなる場合があります。
契約社員は企業との間で有期労働契約を締結して働く社員のことです。契約社員は雇用期間が満了すると、契約更新を行わない限り退職します。
企業によっては契約社員のことを、嘱託社員、非常勤社員、準社員と呼ぶことがあり、工場勤務の契約社員は期間工と呼ばれることがあります。
契約社員は契約時の交渉により勤務時間に融通が利く可能性があります。そうなれば自分の趣味の時間、子育てや介護の時間、家族と過ごす時間を確保しやすくなるのでワークライフバランスの維持がしやすいです。
また時間に融通が利くなら、就業規定に反しない限り副業を始めることもできます。
企業は特定のスキルを持つ人を特定の期間契約社員として雇用する場合があります。企業と自分のスキルがうまくマッチングすれば、自分のスキルを活かしてやりがいのある仕事につくことができます。
契約社員が雇用契約を結ぶときには、勤務地が決まっていることがほとんどなので転勤の辞令を受けることはありません。
契約社員は3年・5年と雇用期間が決められているので、特定の会社に長く留まることはありません。ですから社内の複雑な人間関係に起因するトラブルに巻き込まれる心配がいりません。
3年・5年などの雇用期間が決まっているので、「3年後には別の会社でスキルアップしよう」「この仕事で貯金して3年後には海外留学しよう」「この会社でスキルアップして5年後には別の会社に転職しよう」などのライフプランの設計がしやすいというメリットがあります。
契約社員は基本雇用期間満了とともに退職となります。継続して同じ会社で働く場合には契約更新をしなければなりません。
しかし会社にその意思がなければ終了となります。
同一労働同一賃金の制度が導入されたとはいえ、現状としては契約社員と正社員では任される仕事や責任に違いがあります。
それゆえ給与や賞与が結果的に正社員より少ないという状況も生じます。
正社員は責任や裁量権のある仕事を任されますが、契約社員は契約期間が限定されており、それゆえに定型業務を任されることが多いです。
ですから正社員のように結果を残せば出世する、昇進するといったことは期待できません。
派遣社員は派遣会社と労働者の間で労働契約を結びます。契約社員は企業と労働者の間で雇用契約を結びますが、派遣会社と労働者の間で雇用契約を結ぶという違いがあります。
派遣会社が労働者派遣契約を結んでいる企業に対し労働者を派遣し、労働者は派遣先の指揮命令を受けて働くというのがこの労働形態です。
派遣社員には自分の希望する条件や時間で働けるというメリットがあります。さらに派遣社員の仕事内容は派遣契約により定められているので、それ以外の仕事をすることは基本的にありません。
ですからプライベートを充実させたい、子育てや介護などの理由で自宅の近くで働きたいなどの希望をかなえることができ、ワークライフバランスを保ちやすい雇用形態であるといえます。
派遣会社に登録することで、これまでの自分のキャリアやスキルを活かせる職場を紹介してもらうことができます。
派遣会社に登録することで仕事探しをサポートしてもらえます。
派遣中に派遣先でトラブルに見舞われた場合、派遣先には言いにくい内容でも、派遣会社に相談することができます。
そして派遣終了後も次の仕事探しのサポートを受けることも可能です。派遣会社のなかにはキャリアアップやスキルアップのための教育・研修サポートを備えているところもあるため、きちんとした派遣会社を選ぶことでより充実したサポートをうけることも可能です。
契約社員と同じで派遣社員も有期雇用契約です。
同じ職場には最大3年間しか勤務できません。契約期間満了後にその職場で継続して勤務したいと願っても、契約が更新されない限り続けて働くことはできません。
もちろん退職となっても派遣会社が次の仕事先を探してくれますが、次の仕事がすぐ見つかる、希望条件が完璧に満たされた職場に就職できるという保証はどこにもありません。
派遣社員は派遣先までの交通費は自己負担となる場合が多く、給与形態も一般的には時給制です。
ですから給与面では正社員や契約社員よりも待遇面は不利になります。
有期雇用契約なので裁量の大きな仕事を任せてもらうことはほぼありません。一般的には事務やテレアポのような定型業務を任されることが多いです。
短時間正社員とはフルタイムの正社員と比較すると、その所定労働時間や労働日数が短い正社員のことを指します。
そして以下の条件を満たしていると短時間正社員という雇用形態に分類されます。
従来のフルタイム正社員という雇用形態だけでは、少子高齢化に伴う労働人口減少と人材確保の問題に対処できません。
政府も企業に短時間正社員制度を導入して人材の確保・活用をするようにすすめています。
時間に余裕を持って働くことができるので、趣味や娯楽のための時間を確保する、家族と過ごす時間を大切にするなど、自分のライフスタイルを重視した働き方ができるようになります。
また企業が短時間正社員制度を導入すれば、高齢者でも働く意欲のある人は再就職が可能となります。
これまで契約者社員や派遣社員として有期雇用契約のもと働いてきた人たちが、短時間正社員として無期労働契約に転換して働けるようになります。
正社員といて働いたというキャリアが蓄積されるので、それらは転職するときに有利に働いたり、社会的信用の向上につながったりします。
勤務時間が少ないとは言え、正社員であることに変わりはないため、給与・福利厚生面などでは正社員と同等の待遇を受けることができます。
1日8時間勤務するフルタイムの正社員と、たとえば1日6時間勤務する短時間正社員では、給与面で差が生じるのは当然のことと言えます。
フルタイムの正社員からすれば同じ仕事をしているのに、短時間正社員のほうが早く帰れるということで、社員間に温度差が生じる可能性も大いにあります。
こうした問題を避けるためには、短時間正社員であつてもきちんと仕事をこなすことが必要です。さらに場合によっては、自分が短時間正社員という選択肢を選んだ理由について同僚や上司に説明し、理解を得る必要もでてくるでしょう。
パートタイム労働者は1週間の所定労働時間が、同じ職場に雇用されている正社員と比較すると短い労働者を指します。
パートタイム労働者という雇用形態には、上記の条件を同じように満たしているアルバイトやパートタイマーが含まれます。
労働力を確保するために企業や店舗は積極的にパート・アルバイトを募集します。さらに正社員を採用する場合と比較すると、採用基準もそれほど厳しくありません。
労働者側もある程度基準を満たしていれば採用してもらえるというメリットがあります。
週3日・週4日などのシフトで働くことができるので、勤務日数や時間に融通が利くというメリットがあります。」
時間に融通が利くのでパートやアルバイトを掛け持ちする、副業ビジネスを行うということも可能です。
未経験でもOKというパートやアルバイトの求人も多いので、これまでに経験したことがない職種でも働く機会があります。
様々な職種を体験して自分にあった仕事を見つけるということもできるでしょう。
パート労働者は基本的に時給で働くので、働く日数や時間が少なければ給与は減ります。他のパートやアルバイトとの兼ね合いで希望する時間にはシフトに入れないということもあります。
こうした理由で給与が安定しないというデメリットがあります。
パートタイム労働者には基本的に賞与や退職金、交通費や家賃補助など、正社員に与えられる特別手当は支給されません。
雇用と給与面で安定していないパートタイム労働者は社会的信用度を得るのが難しいというデメリットがあります。
ローンを組んで家や車を購入する、クレジットカードの審査に通過するといった面では不利になる場合があります。
業務委託契約や請負契約を結び、注文主から受けた仕事に完成して報酬を受け取る形で働く場合は、注文主から指揮命令を受けて働く労働者ではなく、「事業者」として扱われます。
これまで紹介した正社員・契約社員・派遣社員・短時間労働者・パートタイム労働者は労働法の保護を受けることができる「労働者」とみなされます。しかし「事業者」とみなされる場合にはこの保護を受けることはできません。
しかし、業務委託や請負契約をしても、その働き方の実態が「労働者」とみなせるものであれば労働法による保護を受けることができます。
自分が専門的に扱える分野での仕事を依頼されるので、必要とされているということからくるやりがいや満足感を味わうことができます。
会社が独自では行えない分野での業務委託や請負契約をすることになるので、クオリティの高い仕事を提供できればそれがそのまま高評価・高収入につながります。
業務委託契約をしながら、使用従属関係が認められるゆえに労働者とみなされる場合、労働法の適用を受けることができます。
事業者の立場ならば、労働法が適用されないので、労働時間規制・賃金規制・解雇規制・労働保険がない状態で働かなければなりません。
会社と業務委託契約を結ぶ場合は、働き方の実態を把握し、自分が事業者の立場になるのか、それともその働く方ゆえに労働者の立場になるのか確認することが大切です。
業務委託契約を締結していても労働者とみなされる場合、労働法が適用されるので、企業側としては残業代を請求されるなどのコスト面での不安が増える可能性があります。
事実上の雇用契約となるので、受託側の仕事の質や業務の遂行に問題があったとしても、通常の受託契約ならそれを理由に契約を解除できますが、それができないという問題が生じる可能性があります。
家内労働者とは自宅を作業場として、メーカーや問屋などの委託者から部品や原材料の提供を受け、一人もしくは同居の親族と一緒に物品の製造や加工などを行い工賃を受け取る人を指します。
家内労働者は「事業主」扱いになりますが、委託者との関係が使用者と労働者の関係に似ているので家内労働法が適用されます。
家内労働法により工賃の最低ライン、安全面が保証された労働環境で働くことができます。
基本的には自宅で仕事を行い、働く時間も自分で調整できるので時間の融通が利きます。子供や親の世話をしながら働くことも可能です。
家内労働者は必要経費として65万円まで(令和2年以降は55万円)が認められます。
一般的に家内労働者の報酬は時給や日給ではなく、仕事量に基づく歩合制です。
たとえば内職の場合、精密な仕事ならばその内容ゆえに報酬は高くなります。逆に簡単な作業でもこなすのに時間がかかれば時給に換算したときに報酬は少なくなります。
家内労働者は税法上の優遇措置を受けることができますが、そのために必要な税金の申告は自分で行わなければなりません。
自営型テレワーカーとは注文者から委託を受け、情報通信機器を活用して主として自宅もしくは自宅に準じた自ら選択した場所において、成果物の作成および役務の提供を行う就労を指します。
法人形態によりこれらを行っている場合や、他の労働者を使用してそれを行っている場合は自営型テレワーカーには該当しません。
自営型テレワーカーには、IT関連、事務関連、デザイン、映像関連、翻訳やCADなどの専門サービス関連など様々な種類の仕事があります。
自営型テレワーカーは、会社に雇用されている労働者が自宅に仕事を持ち帰ってそれを行う在宅勤務とも違います。
自営型テレワーカーは注文者からの依頼を受けてパソコンなどの情報機器を使い、インターネットを通じて成果物の作成や役務をやりとりします。自営型テレワーカーは情報通信機器を使用するのが前提です。
上記の定義を踏まえると、在宅で部品の提供をメーカーから受けて製造・加工を行う家内労働者とも違うことがわかります。
デバイスとネット環境が整っていれば時間や場所を問わずに仕事ができるというメリットがあります。
時間と場所を問わずに仕事ができるのでライフワークバランスを維持しやすいというメリットも生まれます。
たとえばパソコンとネットさえあれば海外でも仕事をすることが可能です。国内外の旅行を楽しみことを趣味にしながら仕事をすることができます。
自営型テレワーカーは個人事業主になるので、労働基準法などの労働保護法令の適用がされません。会社を通じて個人事業主本人が雇用保険や労災保険に加入することもありません。
仕事がなくなった場合でも失業保険は給付されません。
会社に勤務する労働者は、会社を通じて厚生年金や健康保険などの社会保険に加入します。
しかし自営型テレワーカーは個人事業主なので、自分で国民年金や国民健康保険に加入しなければなりません。
個人事業主は確定申告の義務があります。確定申告の時期になると確定申告書の書類を準備しなければなりません。
8種類の雇用形態を紹介しました。それぞれの雇用形態にメリット・デメリットがありました。
人事担当者が雇用形態の違いを理解すれば、自社の事業内容に沿った労働者を見つけやすくなります。また雇用契約を結んだ後に労働者との間でトラブルが起こるのを防ぐことができます。
労働者側は雇用形態の違いを理解することで、自分のライフスタイルや人生設計に応じた働き方を選ぶことができるでしょう。
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