退職した後は、もらった退職金を生活費などに充てようと考えている方は、案外少なくありません。しかし退職金は、誰しもが必ずもらえるとは限らないものです。
そこで今回は、退職金がもらえる条件や退職金規定の確認方法、退職金が未払いの場合の対処法まで徹底解説していきます。
退職金がもらえるか不安な方はもちろん、転職に失敗したくない方にもヒントとなる内容です。ぜひ参考にしてみてください。
このページの目次
退職した後に、勤務していた企業から支給される退職金ですが、その支払いについて法律上では規定がありません。法の定めがないため、企業が退職金を支払う義務もないのです。
では、どのような場合であれば、退職金をもらえるのでしょうか。
ここでは、退職金の位置づけから、もらえる条件やもらえないケースなどを解説していきます。
退職金は、従業員が退職した後の所得補償として位置付けられています。
長期で勤務した人ほど、退職金の支給率は高くなる傾向にあり、長期勤続を促す目的で退職金制度を設ける企業もあります。
厚生労働省が実施した「平成30年就労条件総合調査」によると、退職金制度を導入している企業の割合は約8割。
ほとんどの企業が退職金を支給しているのがわかります。
退職金がもらえる条件は、企業で退職金制度を設けており、支給条件に該当する場合です。
退職金制度は必ず設けなければならないものではありませんが、退職金規定を明記している場合は、必ず対象者に退職金を支給しなければなりません。
支給条件は企業によって異なり、「勤続年数〇年以上」といったような条件が設けられています。
他にも、正社員のみなのか、契約社員やアルバイトなどの有期雇用者も含むのか、などの条件があります。
仮に退職金規定がない場合であっても、退職金の請求をできるケースもあります。具体的には、以下の2つのケースです。
企業側がほとんどの退職者に退職金を支給していた場合は、定着した支給慣行として請求が通る可能性があります。
ただし、退職金を支給してもらうには、過去の退職者が「確かに退職金を受け取っていた」という証拠が必要です。
入社案内のパンフレットや求人票などに、退職金支給の旨が記載してあれば、証拠の一つとなります。
証拠となるものがない場合では、ダメもとで退職金の請求をするのに問題はありません。
退職金の請求権には時効があり、以下の労働基準法第115条により「5年間」と定められています。
(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
出典:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
この時効を過ぎてしまえば、退職金の請求権はなくなり支給もされません。
退職金は、所定の支給日から5年以内に請求するようにしましょう。
参考:
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/index.html
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000118971.pdf
退職金の有無やいくら支給されるのかは、就業規則の「退職金規定」で基本的には確認できます。
ここでは、退職金規定で確認すべき点や確認方法を解説していきます。
退職金規定は、企業によって名称や規定箇所が若干異なります。
就業規則内で規定化している場合もあれば、賃金規定のように独立して規定化している場合もあります。
記載箇所は、就業規則や賃金規則の1項目に定めているケースもありますが、その限りではありません。
就業規則などの社内規定は、従業員であれば誰でも確認できるようになっています。
また、給与明細に以下のような項目がある場合、社員負担ではありますが退職金制度があることを意味しています。
退職金規定で確認すべき点は、主に以下の4点です。
退職金規定には、先述した退職金をもらえる条件以外に、支給時期や支給方法、支給額の計算方法なども明記されています。
企業は、支給期日の記載があれば明記した期日以内に、特に記載がなければ退職後7日以内に支給しなくてはいけません。
これは、労働基準法第23条1項に定められています。
支給方法も企業によって異なりますが、概ね以下のいずれかの方法となります。
計算方法ももちろん異なりますが、学歴や勤続年数などによって変動するのが一般的です。
自身がいくらもらえるのか、事前に計算しておくことをおすすめします。
入社前に就業規則を確認することは原則できません。ただし、求人票で退職金制度について記載があるかの確認は自身でもできます。
転職エージェントを活用する方なら、担当者に退職金制度がある企業を紹介してもらうのも一つの手でしょう。
入社前に退職金制度の確認ができたとしても、それで安心してはいけません。
退職金規定は、社会情勢や企業の財務状態によっても内容が変わるためです。
規定に変更が加えられた場合は、その度に確認するようにしましょう。
就業規則は、従業員に見やすい場所に掲示したり書面で交付したりと、いつでも閲覧可能な状態にしなくてはなりません。
そうした義務があるにも関わらず、就業規則を見せてくれない企業には、どういった対処をすればいいのでしょうか?
ここでは、就業規則を見せてくれない企業への対処法はもちろん、法律にも踏み込んで解説をしていきます。
就業規則を見せてくれない企業の中には、就業規則自体が存在しないケースもあります。
そもそも就業規則の作成は、全ての企業に義務付けられているものではありません。
法律上では、アルバイトやパートも含み従業員が10名未満であれば、就業規則の作成義務がないとされています。
ただし10名未満というのは、あくまでも事業場単位。
たとえば複数の支店があり企業全体で10名以上の従業員がいても、支店が10名未満ならば、就業規則を作る必要はありません。
一方で事業場に10名以上の従業員がいる場合は、就業規則を事業場ごとに作成し、労働基準監督署に届け出る義務が発生します。
これまで紹介したことも踏まえ、就業規則にまつわる法律をまとめると、以下のようになります。
法律名 | 項目 | 内容 |
労働基準法 | 第89条 | 常時10名以上の従業員がいる事業場では、就業規則を作成・届け出なければならない |
第90条 | 就業規則の作成・変更の際は、組合や従業員の過半数を代表する者の意見書を就業規則に添付し、届け出なくてはならない | |
第106条 | 各事業場の就業規則は従業員の見やすい場所へ掲示・備え付け・書面交付をし、周知をしなくてはならない | |
第120条 | 常時10名以上の事業場にもかかわらず、就業規則の届け出をしていない場合は30万円以下の罰金対象とする | |
労働契約法 | 第7条 | 就業規則を周知し、規則とは異なる内容で雇用主と従業員が合意していた場合は個別合意が優先される |
出典:
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-4.pdf
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128
上表からもわかる通り、就業規則の作成義務があるにもかかわらず、従業員に周知しないのは違法であり罰金対象となります。
退職金制度を把握するためにも、就業規則を開示するよう催促をしましょう。
就業規則を見せてくれない企業には、以下のような対処をしてみましょう。
人事部の方に、労働基準法で就業規則の周知義務があることを伝え、開示を促しましょう。
このとき、メモやボイスレコーダーに会話を残しておくと、万が一の際に備えられます。
ただし、口頭だけでは対応してもらえず、無視されることもあります。
その場合は、先ほどと同様の内容を書面にし、特定記録郵便で企業へ送付してみるのも一つの手です。
書面にすることで、後々裁判になった際に客観的な証拠となります。
それでも見せてもらえない場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
これまで集めた証拠をもとに、労働基準監督署から指導をしてもらえます。
退職金規定があるにもかかわらず、退職金の支給に応じない企業は少なくありません。
支給条件にも該当し、もらえるはずの退職金が未払いの場合はどうすればいいのでしょうか?
ここでは、退職金が未払いの場合に注意すべき点や、やるべきことを紹介していきます。
労働基準監督署は、労働基準法や最低賃金法など、労働基準に関わる法律を遵守しているかを監督している機関です。
これら法律に問題がある企業については指導や勧告、送検できる権限もあります。
ただし、企業が労働基準に関わる法律に反していない場合、相談しても対応まではしてもらえない可能性があるのです。
先述したとおり、退職金の支払いについては法律上の規定がないためです。
退職金を支給してもらうために必要となる証拠は、大きく以下の2つです。
退職金の支給義務の有無については、退職金規定が明記されている就業規則や労働契約書などが証拠となります。
支給条件に該当しているかは、勤続年数を把握できる雇用契約書や給与明細、健康保険証などが証拠となるでしょう。
これら証拠は、未払いを立証するために重要な役割を持ちます。
万が一に備えて、大切に保管しておくようにしましょう。
労働局では弁護士や社会保険労務士、大学教授といった労働問題の有識者が集まる「紛争調整委員会」が設置されています。
委員会では、各労働問題の解決に向け、あっせん委員が指定されます。
労働者と企業の意見を整理しつつ、話し合いを促し円滑な解決を目指してくれるのです。
個別の労働問題が対象となり、退職金未払いについて相談するのに適しています。
退職金がもらえないケースもある中、自分自身で退職金を作るにはどうしたらいいのでしょうか?
ここでは、老後に備えた資金作りでおすすめな方法を3つ紹介していきます。
退職金を自分自身で作るには、掛け捨てにならない保険に加入しておく方法があります。
積み立てた資金は、退職した時期に満期となるように設定しておくことで、満期金を退職金のように受け取れます。
積み立ての保険に加入するメリットやデメリットは、以下のとおりです。
メリット | デメリット |
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積み立て保険では、保険手数料が高いこともあり、解約返戻金が払込保険料を上回るまでには時間がかかります。途中解約する際は、元本割れしないよう注意しましょう。
つみたてNISA(少額投資非課税制度)とは、積み立て形式で少額投資できる制度です。対象の金融商品は、金融庁で届け出済みの上場投資信託(ETF)と株式投資信託の2つとなります。
そんなつみたてNISAのメリットやデメリットは、以下のとおりです。
メリット | デメリット |
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つみたてNISAでは、最大で800万円(40万円×20年間)の利益が非課税となります。
ただし、つみたてNISAでは一般的な投資にあるような「繰り越し」や「損益通算」がない点には注意が必要です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、自身で老後の資金を積み立てていき、60歳を過ぎた際に年金形式でお金を受け取れる制度です。
積み立てた資金を運用するスタイルで、どの商品で運用するかは自身で選択できます。
そんなiDeCoのメリットやデメリットは、以下のとおりです。
メリット | デメリット |
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投資であるため、選ぶ商品によっては元金を割ってしまうこともあります。
ただし、元金保証型の商品も選択できるため、着実に積み立てていける一面もあります。
これまで見てきた通り、退職金は必ずしももらえるわけではありません。
そもそも法律で退職金の支払いについての規定がないため、企業によって退職金制度の条件や内容も異なります。
企業に退職金制度があるか確認したい方は、まず就業規則に明記された退職金規定を確認しましょう。
事業場で10名以上の従業員がいるにもかかわらず、就業規則を見せてもらえない場合は違法となります。
書面で催促したり、労働基準監督署に相談し指導してもらったりなどの策が有効です。
退職金規定がない場合や支給条件に該当しない場合では、退職金を自身で貯めるしかありません。
ここで紹介した内容を参考に積み立てをし、不安のない老後に向けて、今から対策をしていきましょう。
画像出典元:o-dan