コンプライアンス違反事例から学ぶ|遵守の重要性・対策と対処法とは

コンプライアンス違反事例から学ぶ|遵守の重要性・対策と対処法とは

記事更新日: 2022/01/06

執筆: 高浪健司

近年、企業における様々な不祥事が相次いでいることからコンプライアンスの遵守が重要視されています。

コンプライアンス違反は企業にとって大きなマイナス影響を与え、結果的に倒産してしまうといったケースも少なくありません。

そこで今回は、実際に起きたコンプライアンス違反の事例を紹介していくとともに違反しないための対策法など、コンプライアンスについて詳しく解説していきます。

コンプライアンスとは

コンプライアンス(compliance)とは、命令や要求に従うといった意味となり、日本では「法令遵守」として用いられることが多いです。

そのため、コンプライアンスと聞くとただ単に法を守ることだと捉えがちですが、ビジネスにおけるコンプライアンスは法律を守るということだけではありません。

企業倫理や社会良識、法律では明文化されていない社会的ルールなども含まれます。

要は、「社会的良識を逸脱せず、悪いことをすることなく企業活動を行いなさい」ということです。

近年ではコンプライアンスに対する意識が非常に重要視されており、コンプライアンスを遵守する行為は社会からの信用を失うばかりか、営業利益の低下、場合によっては社会的制裁(損害賠償請求)を受けることさえあり、最後は倒産といったケースも多いです。

そうした事態を避けるためにも、企業はコンプライアンスを重視すべき事項です。

 

実際に起きたコンプライアンス違反の事例

近年では企業におけるコンプライアンス遵守が強く求められています。

しかしながら、なかにはコンプライアンスを遵守しない企業もあり、コンプライアンス違反だとして度々ニュースで報道されているのを目にします。

そこで、どのようなコンプライアンス違反が起きたのか、実際に問題となった具体的な事例をいくつか紹介していきます。

過労死事件「株式会社電通」

2015年12月25日、大手広告代理店である「株式会社電通」で起きた女性従業員過労自殺事件。

この事件は同社に入社したばかりの女性従業員が長時間労働を原因に自ら命を絶ってしまったという事件で、判明しているだけでも月100時間を超える残業時間だったという。

この事件に関して労働基準法違反として罪に問われ、同社は東京簡易裁判所より求刑どおり、罰金50万円の判決を言い渡されました。

また、同社は過去にも月140時間を超える残業を強いられていた従業員が自殺するといった同様な事件を起こしているほか、2014年度には従業員1400人前後が労使間協定(36協定)の上限を超える違法残業をしていたと指摘され、企業に対する体質が問われています。

なお、時間外労働に関しては、企業で2019年4から、中小企業で2020年4月から、あらたに上限規制が導入されます。

この改正によって、原則として時間外労働は月に45時間、年間360時間が上限となります。違反した場合は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されるおそれがあります。

粉飾決算事件「ライブドア」

粉飾決算とは、不正な会計処理によって決済書を操作し、現状の経営状態をよく見せるもので、要は赤字を黒字にするようなことです。赤字を黒字に見せかけるような粉飾決算は、重大なコンプライアンス違反となります。

インターネット事業を展開するベンチャー企業「ライブドア」は、2009年9月期の連結決算時にて、実際の経営損失が3億円発生していたにもかかわらず、売上高経常が認められていない自社株売却益など違法な計上により53億円という大幅な経常黒字として有価証券報告書を提出しました。

もちろん赤字を黒字として偽る行為は粉飾決済であり立派な犯罪行為であり、2006年1月、同社の社長をはじめ、事件に関わったとされる役員3名が東京地検特捜部に逮捕されました。

製品データ偽装事件「東洋ゴム工業」

2015年3月に起きた東洋ゴム工業の免震ゴム性能偽装事件。

同社は自動車用タイヤの製造・販売を主力とする企業であるが、事業拡大の一環として建物を地震から守る「免震ゴム」の製造・販売をおこないました。

その際、同社は国土交通省からの認定を取得するため性能データを偽装して書類を提出。その結果、2015年3月にデータを偽装していたことが判明し、会長・社長をはじめとする経営陣が辞任しました。

同社の不祥事はこれだけにとどまらず、2007年11月に断熱パネルの耐火性能偽装が発覚し当時の社長が辞任。

免震ゴム性能偽装事件が発覚した年の10月には、鉄道車両などに使用される防振ゴムでも不正が発覚。

さらには2017年2月、産業ゴム製品(シートリング)について、必要検査をおこなわずに出荷するなど不正行為が発覚。

こうした相次ぐ不正行為の発覚により、同社は社会的信用の毀損は著しいものとなりました。

個人情報流出事件「ベネッセコーポレーション」

通信教育最大手企業である「株式会社ベネッセコーポレーション」が2014年7月に起こした個人情報の流失事件。

同社では3,504万件にのぼる顧客情報が流出したことを受け、その原因を調査した結果、流失した原因は同社がシステム保守を委託していた業者の派遣従業員がデータを持ち出したことによるものでした。

ベネッセは、今回の顧客情報の漏えいに関してのお詫びの支払い費用として260億円の特別損失を計上。同社の業績に与える影響は非常に大きいものとされました。

なお、こうした事件をきっかけに企業における個人情報の管理体制がさらに厳しくなり、2015年9月に改正個人情報保護法が公布され、2017年5月に全面施行となりました。

事業者が情報漏えいを犯した場合、社会的信頼を失墜させるだけでなく、損害賠償や個人情報保護法により刑事罰が科せられる可能性があります。

個人情報の漏えいは、たとえ一度でも起こしてしまうと企業にとって致命的な損失を招くため、事業継続が困難になるケースも十分に考えられます。

補助金不正受給事件「株式会社ルキオ」

大型インクジェットプリンターの製造・販売を主力としている株式会社ルキオ。

同社は東日本大震災後の2016年(平成28年)、「ふくしま産業復興企業立地補助金」を利用して福島県南相馬市に工場を新設。

しかし、南相馬市内の工場新設をめぐっては機械代などの購入費を水増し請求させ、ふくしま産業復興企業立地補助金を不当受給したことが発覚しました。

なお、水増し請求は社長自ら指示したものでした。

福島県と南相馬市は同社に対し、不当に補助金を受給したとして合計6億2700万円の返還命令を出しました。

不正受給事件が明るみになって以降、同社の信用は急速に失墜、事業の一部を他社へ譲渡して事業縮小を試みるも資金繰りが限界に達し、事業継続は困難とし自己破産という流れになりました。

なお、平成28年5月期決算時点で同社の負債額は20億4756万円だったとのことです。

こうしてコンプライアンス違反で代表的な事例をいくつか紹介しましたが、あくまでごく一部です。

セクハラやパワハラなど、コンプライアンス違反においては、未だ多く発生しているのが現状です。

コンプライアンス違反を防止するための対策法

コンプライアンス違反を起こしてしまうと企業が被るダメージも非常に大きなものとなり、前項の事例で紹介したように事業縮小や倒産に追い込まれるケースも少なくありません。

たとえ存続することができたとしても企業に対するイメージや信頼は著しく損なわれ、失われた信頼を回復するには非常に長い年月がかかることでしょう。

コンプライアンス違反は企業に対して大きな損失を与えます。

こうしたコンプライアンス違反を発生させないためにも、企業は常日頃からコンプライアンスに関しての取り組みが非常に重要です。

1. 経営トップ陣の強い意思表示

コンプライアンス体制を維持していくうえでもっとも重要なのが経営トップ陣のコンプライアンス違反を起こさないといった強い意思表示です。

いくらコンプライアンス体制を構築しても、それがカタチだけなら全く意味がありません。

経営トップ陣が自ら先陣を切ってコンプライアンス対策に取り組み、そして行動していくことこそがコンプライアンス維持に繋がり、法令違反が起こりにくい企業体制をつくりあげるのです。

2. コンプライアンスの専門部署を構築する

コンプライアンスを維持していくためには、経営トップの下に「コンプライアンス責任者」、もしくは「コンプライアンス統括部門」を設置するなど、コンプライアンスを適正に維持していくための組織体制の構築が非常に重要です。

コンプライアンスは個々の判断に任せても、適正に保持していくことは極めて難しく、企業規模が大きければ大きいほどコンプライアンス保持を専門とするチームが必要です。

3. コンプライアンスの教育と定期的な見直し

コンプライアンスの責任者や統括部門を設置したとしても、やはり従業員一人ひとりのコンプライアンスに関する意識が足りていないと意味がありません。

そのため、コンプライアンス保持のための研修および教育を、役員や経営幹部を含め社内全体を通して実施することが重要です。

また、コンプライアンスに関する社内ルールに対しても常に見直しておくことも重要です。その際、専門家の意見を取り入れたり他社など外部の事例を参考にしたりすると良いでしょう。

4. ヘルプライン(相談窓口)の設置

コンプライアンスを適正に保持していくには、コンプライアンスに関する相談や通報を受け付けるヘルプラインの設置が効果的です。

ヘルプラインを設置することにより、パワハラやセクハラなど内部で起きている問題に対して早期に対処することでき、ことが大きくなるのを防ぐことができます。

ただし、ヘルプラインを運営する際、特に通報者が不利益な扱いを受けることがないよう、通報者の保護を徹底しなければなりません。

通報者が違反行為を報告しやすい環境を整備することが、コンプライアンス違反の減少に繋がります。

コンプライアンス違反への対処法

どのような理由であれ、コンプライアンス違反は絶対に避けなければなりません。

しかし、万が一コンプライアンス違反が発覚してしまった場合、会社としてどのような対応を取れば良いのでしょうか。

1. 事実確認を早急に確認する

社内で何らかのコンプライアンス違反が発生してしまった場合、その発生原因や被害状況など迅速に特定し、まずは事実を正確に把握する必要があります。

事実関係を把握したうえで、もし被害者がいるようであればいち早く謝罪をするなど真摯な対応を行います。

コンプライアンス違反が発生した際の対応は「迅速かつ的確」がカギです。違反が発生してから「どう対応すればよいのか分からない」では、被害を大きくしてしまう可能性があります。

そのため、万が一に備えてコンプライアンス違反に対応するチームを編成しておくと良いでしょう。

2. とにかく謝罪をする

コンプライアンス違反が発生した場合、とにかく謝罪をすること重要です。

これはコンプライアンス違反に限らず、何らかの不祥事などが起きた場合でも、とにかくまずは謝罪。深々と頭を下げる姿勢が何よりも求められるのです。

もしコンプライアンス違反の内容が社会的に大きく影響するような場合は、社内の担当者を通じてマスコミ等に連絡して記者発表を行い、ことの経緯を細かく説明したうえで深々と頭を下げ、誠心誠意をもって謝罪することが重要です。

当たり前ですが、事実関係を隠ぺいしたり、不用意に責任回避したりしてはいけません。

コンプライアンス違反に対して情報収集を行い、真摯に対応していくのが基本姿勢です。

なお、コンプライアンス違反に対しての対応で、法的対応の有無を確認する必要があります。法的なことに関しては、必ず弁護士に相談するようにしましょう。

3. 当事者・関係者への処分検討

コンプライアンス違反に関係した者に対しての処分を検討する必要がありますが、処分内容に関しては公平になるよう慎重に検討しなくてはなりません。

処分に対して情が入り、不公正な処分内容になると社内全体の士気が下がりますし、企業イメージも低下します。

処分を公平に行うには、速やかに調査委員会を立ち上げ、弁護士など利害関係を持たない中立的な立場である第三者を招き入れ、慎重に判断してもらうことが最も良い方法です。

4. 会社全体での再教育

内容の大小に関わらず、コンプライアンス違反は一度たりとも発生させてはなりません。

しかし、万が一コンプライアンス違反を発生させてしまった場合、真摯に反省をし、今後二度と同じ過ちを犯さないため、会社一丸となって今一度コンプライアンス保持について再度教育を行はなければなりません。

また、コンプライアンスの教育は一度だけではなく、定期的に行うことが重要です。

なお、コンプライアンスの再教育を行う場合は、コンプライアンス問題に詳しい専門家の助言を仰ぎながら行うことをおすすめします。

まとめ

コンプライアンスは「法令遵守」という意味を持ちますが、法令を守れば良いというわけではなく、企業が活動していくうえで重要な職場環境や道徳的な考え方など、企業倫理や社会的規範の遵守も含まれます。 

近年では、企業に対するコンプライアンスの在り方に関し非常に厳しくなっており、コンプライアンス違反が公になると、企業業績に大きな損失を与え、存続さえ危うくなります。

また、たとえ存続できたとしても一度失った信用を取り戻すのは極めて難しく、結局のところは経営危機に陥るケースが多いです。

「法律に触れていなければ大丈夫」「バレなきゃいいだろう」。その安易な考えがコンプライアンス違反を誘発させ、企業に多大なるダメージを与える結果となります。

コンプライアンス遵守は企業にとって非常に重要なものであり、決してないがしろにしてはいけない取り組みです。

企業は内部制度の構築や管理体制、社員一人ひとりの行動規範などを徹底し、コンプライアンス違反を許さない公正な事業活動を遂行していきましょう。

画像出典元:O-DAN/PhotoAC

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