近年よく耳にするようになった「コンプライアンス」や「ガバナンス」。
分かったような気がしても、実際に尋ねられると答えに窮することはありませんか?
コンプライアンスとガバナンスは、特に意味を混同されがちなビジネス用語です。ビジネスにかかわる人なら、それぞれの意味を正しく把握しておくべきでしょう。
本記事では、コンプライアンスとガバナンスの意味や違い、それぞれの背景やメリット・注意点を紹介します。
コンプライアンスとガバナンスが曖昧な人は、ぜひここで確認してください。
このページの目次
企業倫理や経営管理体制について問題が発生した際、よく聞かれるのが「コンプライアンス」「ガバナンス」という言葉です。
それぞれ同じような意味合いにとられがちですが、実際にはどうなのでしょうか。
コンプライアンスとガバナンス、それぞれの意味を紹介します。
コンプライアンスとは、日本語で「命令や規則に従う」こと。ビジネス用語として使われる場合は、「法令遵守」と訳されることがほとんどです。
この言葉だけですと「法令を守ることがコンプライアンス」と捉えられますが、実際のところ法令を守ることだけがコンプライアンスではありません。
通常「コンプライアンス」という場合は、社内規範、さらには明文化されていない社会倫理や道徳も含めて言うのが一般的です。
ガバナンスは、「コーポレートガバナンス」というのが正式な呼び名です。日本語では「企業統治」と訳されます。
ただし統治といっても、企業が統治するという意味ではありません。あくまでも企業は統治される側。
実際にビジネスの場で使われる際は、「企業経営を適切に管理監督するためのシステム」を指すことがほとんどです。
そもそも企業は、ステークホルダー(企業と利害関係にある人:株主、顧客、地域社会など)に対し、企業の存在に見合った責任を持つことが求められます。
そして、企業がこの役割をきちんと果たしているかどうかを監視・監督する仕組みがガバナンスです。
具体的な取り組みとしては、取締役と執行役を分離したり社外取締役を設置したりなどが考えられます。
企業の監視・管理が適切に行われているなら、それは企業の「ガバナンスが保たれている」状態です。
コンプライアンスとは、法律はもちろん、社外のさまざまな倫理や道徳観に従うこと。一方、ガバナンスとは、企業が自身で仕組みを作り、適切な管理体制を構築することです。
企業が適切な管理運営体制を構築する上で、法律や社外のさまざまな倫理・道徳観に従うことは欠かせません。
一方、企業として正しく法律や社会倫理、道徳観を遵守するには適切な管理体制が不可欠です。
つまり両者は「明確に別物である」というよりは、お互いに関係しあっているもの。
「法律や倫理、道徳観に従うことは適切な経営の維持・確保に必要」と考えれば、コンプライアンスはガバナンスの一部に含まれると考えられます。
コンプライアンスとガバナンスの違いを知るには、それぞれの背景や概要を知ることが有益です。ここではまず、コンプライアンスについてみてみましょう。
企業のコンプライアンスが注目されるようになったのは、2000年代に入ってから。日本の景気が低迷し企業の力が低下する中、次々と発覚した不祥事や不正が原因です。
自動車会社のリコール隠しや産地偽装問題を記憶している人は多いのではないでしょうか。
こうした事件により一般社会や投資家から企業に対する不満や批判が噴出。行政による企業管理体制の取り締まりが強化され、企業コンプライアンスが重視されるようになったのです。
またこのほかの背景として、世界的にコンプライアンスの重要性が認知されてきたこともコンプライアンス周知のきっかけの1つです。
コンプライアンス違反によるダメージは、企業のイメージを一気に悪化させるかもしれない危険なもの。
コンプライアンスに真摯に取り組むことは、優良企業として生き残る上で不可欠と考えられます。
「コンプライアンスを守りましょう」と宣言しただけでは、企業内のコンプライアンス意識を高めることは困難です。
社員一人一人にコンプライアンスを意識させるためには、枠組み作りや体制強化が必要となるでしょう。
具体的には、次のような取り組みが必要と考えられます。
上記はあくまでも一例ですが、「コンプライアンスをきちんと実施している」という事実が重要。対外的にコンプライアンスへの取り組みが周知されれば、ブランドイメージのアップや顧客からの信頼確保にもつながります。
コンプライアンスを包括するのが、ガバナンスです。ガバナンスが重視されるに至った背景やガバナンスに関する政府の取り組みを紹介します。
かつての日本の企業では、主体はあくまでも経営者と社員。ステークホルダーの利益や損失について考慮されることはあまりなく、企業をチェックする体制が整っているとは言い難い状況でした。
そしてバブルが弾けた頃、企業の不正や不祥事が次々と発覚。社会的信用を失った企業は著しく企業価値を下げ、ステークホルダーに多大な損失を与えました。
こうした事例をきっかけに、それまでの企業の管理・監督体制に疑問が持たれるようになります。
やがて、不正や不祥事を厳格に取り締まるシステム、すなわちガバナンス導入の需要が高まったのです。
コーポレート・ガバナンスコードとは、2015年に金融庁と東京証券取引所が公表した、コーポレートガバナンスのガイドライン。上場企業のコーポレートガバナンスの指標として提示されました。
コーポレートガバナンスコードは、2014年に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2014-未来への挑戦-」の中で、策定を明示されたもの。
政府は「日本の稼ぐ力」を底上げするための有益な手段として、コーポレートガバナンスの強化を打ち出したのです。
コーポレートガバナンスコードでは、以下の5つがガバナンスの原則としてあげられています。
ただし、これらが適用されるのは上場企業のみ。中小企業には該当しません。また、これらには法的な拘束力は無く、各原則を実施しない企業には説明責任が課せられるのみです。
今や政府からの強い後押しもある、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの強化。実践して取り組むことで、どんな利益があるのでしょうか。
コンプライアンスやコーポレートガバナンスを強化するメリットや注意点を紹介します。
まず大きなメリットといえるのが、企業の社会的信用度が高まることです。
コンプライアンスを徹底し適切なコーポレートガバナンスに取り組んでいる企業は、「優良企業」と認識されます。
競合他社が多い場合、ブランド力は重要なポイント。「安心できる」「不安無く使える」と顧客に感じてもらえれば、自社の商品を選択してもらえる可能性は高まるでしょう。
ブランド力がアップすれば、企業としての競争力もアップ。グローバル企業として強い収益力を得ることも不可能ではありません。
整った管理体制とコンプライアンス組織を持つことは、企業価値を高めるのに有益です。しかし一方で、強固な体制が臨機応変な企業活動を阻害する可能性もあります。
大胆な改革や戦略には、リスクがつきもの。コンプライアンスやコーポレートガバナンスを意識しすぎると、企業として成長するチャンスを逃してしまうかもしれません。
また、整ったコンプライアンス組織や管理体制を確立したつもりでも、適切に機能していないケースもあります。
「組織を作った」「管理体制を整えた」ということで満足しているのは、とても危険です。
不正や不祥事は、いつ発生するか分からないもの。組織や体制の体裁が整っているからと油断せず、逐次監査や調査を行いましょう。
コンプライアンスとガバナンスは、密接に関わり合うもの。企業の価値を高め競争力を付けるには、これらを強化して外部からの「信頼度」を高めることが大切です。
どんなに収益力の高い企業でも、コンプライアンスやコーポレートガバナンスを意識しなければ、高いリスクがつきまといます。
コンプライアンスやコーポレートガバナンスの意味・意義を正しく理解し、適切な経営体制の構築に生かしてください。
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